Web業界におけ
[コンタクトポイントとしての企業サイト]
「Web2.0」(SNSなどのソーシャルメディア)の登場は、インターネットの利用シーンに大きな変化をもたらしました。単に情報を得るための手段にすぎなかったツールから、情報を共有し人と人とをつなげるサービスへと変化したのです。企業サイトについても広報・宣伝活動やブランディングを目的とした媒体から、直接ユーザとコミュニケーションできる媒体(=コンタクトポイント)として、より重要な役割を担うようになりました。
こうした状況を踏まえ、成功する企業サイト戦略としては、まずは担当者自身が「自社サイトの目的と正しい価値を認識することが重要」と馮氏は指摘します。これは、担当者自身が企業サイトの戦略・制作・運用に正しくコミットすることを意味しています。
加えて、企業全体の取り組みとして、「企業サイトをエンドポイントにするのではなく、他部門と連携しながら、(ビジネスの)入口にも出口にもなるように考えていくことが大切であり、そのためにもWebガバナンスに取り組む必要がある」と説明しました。
まとめとして、「自社サイトのプレゼンスの明確化」「クライアントと制作会社などとの良好な関係構築」「短期的ゴールと長期的ビジョンの設定」といった具体的な手法を紹介し、発表を終えました。
セッション1「大規模Webリニューアルによる全社Web最適化の実現 ~NTTコミュニケーションズの全社Web戦略~」
NTTコミュニケーションズ株式会社 広報室 Web広報担当部長 前川祐賀子氏は、同社のWeb最適化を目指し実施したWebリニューアルプロジェクトの責任者です。今回は、法人向けサイトのリニューアル、CMS導入、グローバル領域への展開について講演を行いました。
[全社Webサイトのリニューアルプロジェクト]
NTTコミュニケーションズは、インターネット事業や国際通信事業を中心とした企業です。現在では、国内17拠点と海外22ヶ国・52都市に拠点を設置しており、サービス提供エリアは150ヶ国を超えています。
同社では、2006年に世界規模でブランドやサービスプロモーションを一元化し、ブランドメッセージの設定やビジュアルの統一を図りました。それまでは組織ごとにプロモーションを展開しており、企業サイトについてもトップページの管轄下に200以上のプロモーションサイトが存在していました。「当時は、事業部ごとに最適化を行ったことで統一したサイトブランディングができておらず、導線のバラつきや各サイト間が適切に連携されていない状態だった」と前川氏は振り返りました。
2007年7月のプロジェクト発足に向けて、まず4つの目標を設定しました。
- ユーザビリティに優れたサイト構築
- Webの機能強化
- ブランディングの強化
- Web経由の受注増支援
この目標を元に約4ヶ月でデザインやナビゲーションなどサイト全体構成の改善、コンテンツの再検討、CMS導入を含むサイト統廃合・ガバナンス見直しなど具体的な実施事項をまとめ、11月から主要サイト統合・導線改善に着手し、2008年2月には傘下サイトのリニューアルとCMS導入、企業情報ページのリニューアルがスタートしました。結果として、2007年7月から2008年5月のおよそ10ヶ月という短い期間で、トータル1万ページを超える200サイトの統合とリニューアルに成功します。成果はすぐに数字として表れ、「法人向け統合トップページ」への訪問数が2.8倍、平均PV数が12%増、各ページへの流入数も200%前後上昇、さらにユーザ満足度もすべてのサイトで上昇するなど劇的な効果をもたらしたのです。
この成功の鍵は、「全社的なガバナンスルールを整備したこと」、「効果的にCMSを導入・運用管理したこと」にあります。全社的なガバナンスルールの整備は、サイトを統一するための指針として重要なポイントとなりますが、整備するだけでは何の意味もありません。実践して初めて効果を発揮するものです。CMS導入は、このガバナンスルールを実践する非常に優良な手段です。
実際に前川氏は、サイト制作者時代に「リニューアルごとのガバナンスチェックや修正作業に大変苦労した」という経験もあり、CMSの導入は必須であると感じていました。そこで、コンサルティングで協力を依頼していたアンダーワークスと、CMSの導入に向けて各部署の求める機能要件や現状のシステム・インフラの確認、自社のWeb戦略を元に目的を定めるための検証作業を進めることにしました。その過程で、CMSに導入に積極的ではない事業部もありましたが、導入するメリットをまとめた資料を手に説得活動を行うなど細かなフォローを行い、その甲斐あって全社的にCMSの導入するに到ったのです。
[プロジェクトを成功に導くために]
今回のプロジェクトの成功には、全社横断のプロジェクトとして進められたことも大きかったと前川氏は語ります。
リニューアルを行う際、関係する経営層・事業部・運用部門など各セクションから理解を得るべく、広報室に「オフィシャルサイト運営戦略委員会」を設置しました。この委員会を通して、経営層には毎月の経営会議で進捗情報を発表し、事業部レベルにはプロジェクトの目的とメリットの説明を行い、運用部門では負荷軽減やコスト削減といった明確な数字を提示するなど、それぞれに具体的な要素を説明する機会を設けました。
しっかりしたガバナンスルールの整備やCMSの活用など、成功するための環境作りも重要ですが、こうしたきめ細かなフォロー、目には見えない組織における意識の改善も重要な要素です。前川氏は、当時の状況を振り返りながら「このプロジェクトを率いることは大変な面もあったが、メンバー全員で考えることは楽しくもあった。そうしたメンバーの熱意や強い意志が成功へ導いてくれたのだと考えている」と語り、セッションの最後を締めました。
[グローバルWeb最適化プロジェクトの取り組み]
「グローバルWeb最適化プロジェクト」は、前川氏が法人向けサイトでの成功を受け、2008年3月より取り組んでいるプロジェクトです。日本語版グローバルサイト・英語版グローバルサイトに対して、サーバなどインフラ面も含めた最適化を行うべく着手しました。
海外現地法人の企業サイトは、これまでサーバ管理・デザイン・運用すべてが各国で独自に行われていましたが、同プロジェクトにより全サイトが最適化され、10月にはインフラを統合し、新たなサーバが稼働する予定となっています。Webマーケティングプラットフォームを活用したグローバル収益拡大への貢献や、Web運用におけるオペレーション効率化とノウハウ共有、サイトの品質向上といった目的が達成されたのです。また、現地法人と本社を連携させたSEO対策による潜在ニーズへの対応が強化され、アクセス解析ツール「Visionalist」を用いたグローバルマーケティングもスタートしています。
セッション2「これからの企業ウェブサイト運営における重要なテーマ:WebガバナンスとCMS」
続いて、企業Webサイトのコンサルティングにおける豊富な実績を持つアンダーワークス株式会社の代表取締役、田島学氏が、WebガバナンスのトレンドとCMS導入のポイントについて解説しました。同社は、前述のNTTコミュニケーションズのCMS導入プロジェクトにも参画しています。
[WebガバナンスとCMS]
企業のWebサイトの運営に様々な部門が携わるようになって久しくなっています。各部門がWebサイトの企画・制作・運用に携わることのメリットは、商品ブランドの訴求やリアルのマーケティングとの連動が進めやすいというメリットがある一方で、さまざまなコストやリスクを生み出す一因にもなっています。費用面で見ても、年間1億円以上のコストをWebサイトにかけている企業も少なくありません。
それらのコストを削減するために、CMSの導入を考える企業も多いといいます。「アンダーワークスでは、これを単なるCMSの導入としてではなく、Webガバナンスの最適化として捉えている」と田島氏は語ります。Webガバナンスには、コストの最適化も含まれますが、コンバージョンや顧客満足など、攻めの部分も含めて考えるということが昨今のトレンドです。つまり、Webガバナンスという言葉とCRMという言葉には密接な関係があるということです。現に、最近よく導入されるCMSパッケージには、承認フローや履歴管理という守りの機能だけでなく、LPOや顧客管理といった攻めの機能を売りにしているものが多くあります。CMSの導入には、コストの削減だけでなく、収益に与えるインパクトも考慮する必要が出てきています。
[CMSを選定するポイント]
それでは、実際にCMSの導入を行なう際に、何が重要となるのでしょうか。アンダーワークスでは、数々のCMS導入コンサルティングの実績から、パッケージ選定前に行なう要件定義の重要性を指摘します。「CMS導入の失敗原因を分析すると、その多くが導入前の要件定義を適切に行なっていれば避けられたリスクだと考えている」と田島氏は語ります。
CMS導入に際して、多くの方から以下のような質問が出るといいます。
- どのようなCMSパッケージを選べば良いのか
- CMS導入にいくらかかるのか
- CMS導入をリニューアルと同時に行なうべきか、否か
これらは、初めてCMSを導入する担当者の多くが直面する疑問です。しかしながら、これらを事前によく検討されることなく、主要なCMSパッケージを担ぐベンダのコンペを行い、機能の多さや費用の安さで選んでしまっている例が少なくないのではないでしょうか。
「機能が非常に多いパッケージだからできないことはないだろう、と思ったが、カスタマイズが必要で追加費用が発生した」「ページの移行作業を正確に見積もっていなかったので、結局すべてのページを移行させることができなかった」など、当初の目的が達成できなかったという話もよく耳にするということです。
「これらは、事前に十分な要件定義を行うことで避けられる場合がある」と田島氏は説明します。「誰がCMSを利用するのか」「どう利用したいのか」「そのためにどんな機能が必要なのか」「それによって何が解決できるのか」こうした事前の要件定義を行うことで、リスクの少ないプロジェクトとすることができ、結果として少ない費用で行うことも可能なのです。また、その際に重要なのは、導入後利用するユーザ(=各部署のウェブ管理者/制作者)からのヒアリングです。CMSはシステムであり、初期導入よりも、導入後に便利に使えることが問われるからです。
[要件定義とは]
CMS導入の要件定義というと多くの方が複雑なコンサルティングをイメージするかもしれません。しかしながら、田島氏は、「CMS導入要件定義の基本は、非常に単純な現状把握の作業が基本になる」と語ります。
- 要件定義の基本作業
①サイト全体のページを全て把握し、どのページに何をしたいのか
②現状の運用をすべて把握し、どの部分をどう改善したいのか
③現状のインフラを把握し、どんなシステムが存在しているのか
一見単純な現状把握作業ですが、果たしてどれだけのCMS導入プロジェクトでこれらの作業を事前に行っているでしょうか。これらの把握状況によって、CMS導入の費用が大きく異なったり、必要な機能や工数・期間が見えてくることがあります。そのため、アンダーワークスでは「まずCMSパッケージを横軸で比較する前に、自社サイトの現状を改めて網羅的に把握することを勧めている」といいます。
[費用対効果:いつまでに導入費用を回収すべきか]
CMS導入における費用対効果を考える上で、ヘッダやフッタ、ロゴが揃うことやアクセシビリティが向上することなども導入の効果と言えますが、それだけでは数百万、数千万という導入費用を正当化することは難しいのが現状です。外注費用や社内での制作・承認工数の削減など、社内コスト面での効果はもちろんのこと、CMSで巻き取ることのできる余計なシステム(実際、すべてのシステムを把握してみると様々なASPや小さなアプリケーションが入っていることが少なくない)の統合メリットなど外部コストの削減も大きな効果と言えます。また、SEO向上や回遊率向上によるアクセス向上効果、LPOや会員化によるコンバージョンやCS向上メリットなども考慮できれば、攻めの意味での効果も期待できます。「様々な新しい技術が開発されるWebという特性を考えると、2年~3年の期間で導入費用が回収できるような費用対効果を目指すことが、一つのベンチマークになってきている」と田島氏は説明します。
アンダーワークスでは、CMS導入を単なるシステム導入/サイトリニューアルとしてではなく、Webガバナンス=コストとリターンを全社最適化することと捉えているといいます。また、最近では、顧客ニーズ調査やユーザビリティ調査、戦略立案、CRM推進など、Webサイトに関するさまざまなコンサルティングも行っているということです。
- アンダーワークス株式会社
- URL:http://www.underworks.co.jp/
- NTTコミュニケーションズ株式会社
- URL:http://www.ntt.com/