11月の16日から19日までマンハッタンのジャビッツ・センターで開催されたWeb2.0 Expo New York 2009 。ティム・オライリー氏が基調講演で『Webを巡る戦争(The War for the Web) 』というタイトルでWeb 2.0に続く今後のWebの行方を語った。
ジャビッツ・センター外観
Webの世界の新たな戦争
ブラウザ分野での争い
「インターネットが世界に広がり始めて間もない1995年から1996年にかけてNetscapeとMicrosoftの間で熾烈なブラウザのシェア争いが行われた。そして今またブラウザ戦争の時代が訪れるかもしれない。GoogleがChromeをリリースし、ブラウザの世界にまたブラウザ戦争が起きるかもしれない」とオライリー氏は語る。
またこの競争はブラウザだけでなく「検索エンジンや携帯端末などでも起こり、これがWebのオープン性に影響を与えていくかもしれない」とオライリー氏は指摘する。
携帯端末でのプラットフォームの座を巡る競争は、iPhoneやAndroidの登場で目立った動きとなってきている。iPhoneは確かに便利で、Webの世界と繋がっている。しかしどのようなアプリがiPhone上で認められうるかはアップルが完全にコントロールしており、「 Webと同じようなオープンなシステムではない」 。
検索エンジンの位置付けと関係
この他、検索エンジンもネットのオープン性に影を落とすかもしれない。ネット上の情報にアクセスするための検索エンジン抜きでインターネットへのアクセスを考えることは難しい。しかしメディア王として知られるNews Corp.会長兼CEOのルパート・マードック氏は、ネット上のウォールストリートジャーナルの記事を有料化し、Googleからのアクセスは禁止してインデックスから外すという考えを表明している。
こうしたGoogleからのアクセスを遮断するのは自殺行為だと考えられている。しかしTechCrunchの記事 で、TechCrunch50の共催者であるMahaloのCEOカラカニス氏の提案として報じられたように、『 The Wall Street Journal』は、GoogleではなくMicrosoftのBingにのみサーチ結果に独占的に情報を提供するようになるのかもしれない。
こうした競争の中でネットというオープンなプラットフォームの中にクローズドな部分が増えていってしまう可能性があるとオライリー氏は指摘する。
過去の歴史と今の動向を見ながら、Webの未来について語るオライリー氏
Web 2.0後にクラウドがもたらしたもの
クラウド化するインターネットではなく、クラウドを提供するベンダの確立へ
Web 2.0というインターネットをプラットフォームとして利用する動きがうまれてきた後、最近はクラウドサービスが注目を集めている。AmazoneのEC2、MicrosoftのWindows Azure、GoogleのGoogle Appsというようにネットでの大手各社がクラウドサービスを展開している。
しかしこうしたクラウドにおいては「インターネットがクラウド化しているのではなく、Amazonなど、クラウドを提供している会社がプラットフォームとなっている。」とオライリー氏は述べた。クラウドは新たなプラットフォーム戦争となっている。そしてクラウドデータベースに依存したサービスが増えていくと、クラウドを持つ会社でないとサービスを提供できなくなるのかもしれない。
企業間のアプリ提供の動き
AppleのiPhone向けアプリとして、GoogleがGoogle Voiceアプリを提供しようとしたところ、Appleがこれを受け入れなかったという問題が今年の夏に持ち上がったが、逆にGoogleが他社にGoogle Mapsのサービスを提供しないということも起こりえる。
その結果、インターネットはファンタジー小説『指輪物語』に出てくる指輪のように、1つの指輪が世界をすべて支配するようになるのか、それとも緩やかに繋がった小さなサービスの集合体になるのだろうかとオライリー氏は質問を投げかけた。
今後Webのサービスが生き残るには?
大切なのはユーザにとって利益となるもの
この質問への答えとしてオライリー氏は、Googleとその他のWeb大手各社にあるアドバイスを行った。
それは「Webで成功するためには何よりもユーザにとって利益となっていなければいけない」ということである。
Google docs & Spreadsheetはユーザにとって大きな利便性となっている。Google MapsのナビサービスはGPS製品を提供している会社にとっては頭が痛いだろうが、多くのユーザにとって利益となっている。
一方で、Googleが失敗したサービスを見てみると、どれもユーザにとって利益になっていないことがわかる。PayPalに対抗したGoogle Checkoutはユーザに求められていたものではなかったし、Amazonに対抗したShopping searchや、Wikipediaに対抗したKnolもうまくはいっていない。こうしたサービスはGoogleによるイノベーションから生まれたものではないのである。
ここでオライリー氏はジェフ・ジャービス氏の次の言葉をWebサービスが生き残っていくうえで大切なものとして紹介した。
『Do what you do best. Link to the rest.
( 自分たちが一番うまくできることだけを行い、その他は他のサービスへとつなげる) 』 。
この一例として、ブログサービスのTypePadでOpenIDによるユーザ認証を導入したところ、直近の1ヵ月でログイン登録したユーザのうち、60%以上がOpenIDを利用しているという。ユーザ認証の分野ではOpenID、Facebook Connect、そしてTwitterがスタンダードとなってきている。
しかしこのようにオープンに他サービスと連携していくのは負け犬だからではない。GoogleがFacebookに勝てないからOpen Socialを推進するのも、Googleに対抗してMicrosoftがWebサービスを展開するのも、負け犬だからというのが正しい理由ではないという。
TCPの実装に見る「正しいこと」
その理由とは、正しいことを行うということであり、それはインターネットのDNAであるTCPについてジョン・ポステル氏が1980年にRFCに記述した構造安定性の原則であるとオライリー氏は語る。
その内容は「TCPの実装は構造安定性の原則に従うべきであり、自分が行うことについては保守的であり、他の人から受け入れることについては進歩主義(リベラル)であれ」というものだ。
これがインターネットを1つの指輪が支配するのではなく、ゆるやかなにつながった小さなサービスの集まりにしていく考え方であるとオライリー氏は述べ、最後に「オープンに考えて、自分たちのサービスの強みに特化し、その他の部分は他サービスと連携していくことを考えていってほしい」と結んだ。
満員となった会場