Flickrの共同創業者のカタリーナ・フェイクは Web2.0 Expo NYC にて今年新に始めたソーシャルサービスHunch.comについて語った。Hunchはイベントの開催場所であるニューヨークで立ち上げたスタートアップ。講演ではその他のニューヨークのITベンチャーや、スタートアップに対する彼女の考えをを聞くことができた。
スタートアップは小さい規模で
Flickrを始めたとき、会社にはお金がなく社員は半年以上給料がない状態だったという。Flickrの90%の機能は当初の6人でつくり、Yahoo!がFlickrを買収したときも10人ほどの規模だったという。彼女が新しく立ち上げたhunch(hunch.com)もスタッフ10名という小さなチームを保っている。
図1 hunch.com
Yahoo!に買収された後、彼女は同社でFlickrみたいな製品を新につくってほしいと言われたそうだが、Yahoo!みたいな大企業では無理だと答えたという。その理由として、スタートアップが手がけるサービスはアジャイルでなければいけず、リスクを取ることができなければならず、実験に失敗することができなければいけないからだと述べた。またスタートアップが成功するまでにはときには5年以上の長い時間がかかることもあり、大企業ではそれを受け入れるのは難しいという。Flickrも2002年にスタートして買収されたのは2005年のことでであった。
より少ないことがより素晴らしい
Flickrはデザインをするお金がなかったこともあり、極力デザインの労力を最低限にする必要があった。そのため機能は多彩でも極力シンブルなデザインに落ち着くことになったがこれが良かったとカタリーナは話す。より少ないことからより素晴らしいものが生まれ(less became more) 、 そのデザインコンセプトはhunchにも受け継がれているという。またより少ないことでより多くのものを生み出せるのはスタッフの人数でも同じことだと語った。
hunch : 質問に答えていくことで答えが得られるソーシャルアドバイスサイト
hunchは、サイトで尋ねられるいくつかの質問に答えていくと、あるトピックに関する答えをだしてくれるソーシャルサービスだ。たとえばどのMacの機種を買えば良いか?という質問を選択すると、デスクトップか、ノートかを尋ねる質問がでてくる。それに答えると予算を尋ねる質問がでてきて次々と答えていくことで最後にアドバイスとしての答えがいくつか表示されるといった具合だ。
図2 hunch.comのイメージ。いろいろな質問に対して答えが得られる
今のサービスで比較すると、さまざまなノウハウをコンパクトにまとめて紹介する日本のソーシャルサービス、 ナナピ と少し似ているかもしれない。ナナピが人生におけるさまざまな課題への解決策を集めたサイトであるのに対して、hunchではそのような課題への答えが質問に答えていくと出てくる。質問に答えていくことで、より自分にあった回答が得られるようになる。回答結果を評価することで、自分と同じような選択をしている他のユーザーの回答などを分析し、より精度が高い回答が出されるようになる。サービス開始当初500だったhunchの質問数が半年で6,000を超えているという。
ユニークなスタートアップたち
このhunchの他にもニューヨークを拠点とする他のユニークな5つのITスタートアップを紹介したい。
図3 Etsy
Etsyはカタリーナも投資しているECサイトで、ハンドメイドの商品が売買できる。アートが盛んなニューヨークならではともいえるサービスだ。
図4 20x200
20x200はアート作品のECサイト。Etsyが手作りの一点ものを中心とした売買サイトだが、こちらは写真やシルクスクリーンなどある程度数量が作成できるアート作品が販売されている。同じ作品でも小さいサイズのプリントは20ドル程度と手頃だが、大きいサイズになるにつれて値段が高くなり、購入できる人の数も限られてくるという仕組みになっている。
図5 foursquare
forusquareはロケーションを軸としたtwitterのようなソーシャルサービス。特定の場所を既定の回数訪れることでバッチが獲得できたりとゲーム的な要素が盛り込まれているのが特徴。今年の夏からユニークユーザが急増している。Compete.comによるfoursquare.comの ユニークユーザ数の推移グラフ 。
図6 meetup
meetupはコミュニティーを軸としたソーシャルネットワークサービス。オンライン上のコミュニティーよりもオフラインでのミーティングや、イベント、勉強会と連動する形でコミュニティーが作られており、ユーザー登録した都市とトピックを軸にコミュニティーに参加していくサービスとなっている。ユーザーは無料だが、コミュニティーの主催者に課金するというビジネスモデル。
図7 Boxee
BoxeeはWeb上の動画コンテンツや音楽コンテンツを簡単に扱えるようにするWindowsのメディアセンターのようなサービス。パソコンをテレビに繋げれば、ネット上のコンテンツをリモコンだけで簡単に扱えるようになる。12/7にBoxee Boxという独自のTV用セットトップボックスをアナウンスした。
NYの今
ニューヨークではリーマンショックによって金融系の会社に務めていたコンピュータ・サイエンスの才能を持った人たちがITベンチャーにも流れてきており、今後は上記のようなスタートアップがさらに生まれてくることになるかもしれない。
クリエイティビティは異なった考えの集まっている場所から生まれてくる
「異なった場所からの異なったアイディアが集まって創造性が生まれる。ニューヨーク以上の場所はない」とカタリーナは語る。「 シリコンバレーでは一時期誰もが同じようなサービスを立ち上げていて、イノベーションが生まれていないように感じていた。その時期はバブルのような状況でお金がありあまっており、スタートアップにとってはあまり良い時期ではなかったかも」と言う。でもそうした時期は終わり、お金がなく、創造性が求められるこの時期はスタートアップに良いかもしれない。「 Flickrを始めた2002年もネットバブルがはじけた後のことだった。2010年は会社を始めるのに素晴らしい時期かもしれない」 。Web 2.0によって情報が爆発的に増えた。今後はユーザーから情報を集め、ユーザに価値がある形で情報を返すサービスが成功するだろうと彼女は考える。「 さまざまな人々が集まってコラボレーションをすることが、インターネットが出現したことによって始めて可能になったのだから」 。