iPadファーストインプレッション――想像以上の高レスポンスがもたらす「新たな世界」

はじめに

いきなりだが、この記事と前回の記事はほとんどiPad上のEverrnoteアプリで執筆した。iPadはそれがまったく苦にならない端末である。画面が大きいためにタッチタイピングが簡単にできるということもあるが、何よりもiPadのレスポンスの良さによるところが大きい。このレスポンスの良さはまったく予想していなかったが、このことがiPadを驚くほど魅力ある商品にすることに成功している。

Evernoteで執筆中の画面
Evernoteで執筆中の画面

iPadのサイズが持つ意味

まずiPadを手にとってみると素直にその大きさに感動させられる。⁠デカいiPhone⁠という言葉どおり。ホームボタンの大きさだけが全く同じだ。

iPadの大きさをiPhone、MacBook Airと比較
iPadの大きさをiPhone、MacBook Airと比較

画像やWebのブラウジングがiPhoneとは比べられないほどに快適でストレスがない。パソコンのディスプレイと同じように表示領域が広がる気持ち良さと、後述するタッチデバイスをより快適にするという2つのメリットが、この大きさには秘められている。

Webの閲覧や動画の鑑賞がこのことによって遥かに楽になるのはもちろん、電子書籍を堪能するにはもってこい大きさだ。部屋の中に置いておくことが前提の大型本が主流だった時代、文庫本はポケットに入れて持ち歩けるという点で革命的だった。しかし文庫本は本を読むための最適なサイズではない。文庫本は携帯性が優れており軽量だから、読みやすく感じたり体が慣れたりしてしまっているのだ。

iPadでマーベルのスパイダーマンのコミックを読んでいると、その画面の大きさから得られる快適さに衝撃を受ける。相当な数のコンテンツを厚みを増すことなく収納できるiPadは、快適さを保ったまま大きな画面を堪能できる。

マーベルのコミック『スパイダーマン』をiPadで読んでいるところ。
マーベルのコミック『スパイダーマン』をiPadで読んでいるところ。

コミック本が週刊誌と同じ大きさではないのは、それが読みやすいからではなく、保管のしやすさと読みやすさとの兼ね合いから生まれたということに気付かされる。文庫本サイズの週刊漫画誌を読みたいという人はいないだろう。逆にiPadなら好きな漫画全巻を大きな画面で堪能することが可能なのだ。

iPadが開くタッチデバイスの新次元

このiPadの画面の大きさは、視覚的な快適性だけでなく、タッチデバイスとしての扱いやすさにもそのままつながっている。

一時期ネットブックがかなり人気を博していたが、その理由としてあげられるのがキーボードの打ちやすさだったという人も多いのではないだろうか。PanasonicのLet's noteが売れているのも、あのキーボードで軽量さ、性能を維持しているからという点が大きい。ではiPhoneの大きさは、タッチデバイスとして最適な大きさなのだろうか? ─おそらく答えはNOだろう。

iPhoneが登場したばかりのころ、文字入力のしづらさがよく指摘されていた。その指摘は正しかったのだけれど、僕らはiPhoneの利便性に惹かれ、その打ちづらさには慣れてしまったのだ。それでも意識しない中でタッチしづらいことによるストレス、使いにくさがあるはずである。

iPhoneは携帯性を前提にした商品なので、タッチデバイスとして最適なサイズではない。またiPhone以外の多くのタッチデバイスとして普及した商品でも、コストパフォーマンスの制約などから、必ずしもタッチデバイスとして使い易いサイズではなかった。ストレスなく使えるキーボード、自分の手にしっくりとくるマウスと同じように、iPadの大きさは、ストレスなくタッチデバイスを操作するのに本来求められるべきサイズなのだと感じてくる。

iPadを縦に持ったときに表示されるアイコンは縦4列。iPhoneと同じだ。アイコンとアイコンの間にはかなり間隔がある。これだけ大きな画面なのだから、もっと表示させるアイコンが多くても良いのではと考えてしまう。しかしiPadを手にすると、この間隔に意味があることがわかる。

アイコンにタッチするときに、⁠押し間違わないようにしなくては」というストレスを感じることがまったくない。そしてiPadを両手に持って親指だけでアイコンをタッチする操作も軽々とできるし、どのアイコンを押さなければいけないのかを視線を微妙に動かして確認する必要もまったくない。

iPadを横に持った時のホーム画面
iPadを横に持った時のホーム画面

キーボードの大きさだけではなく、こんなところにもタッチデバイスとしての使いやすさが追求されている。

あるアメリカ人によるiPadのレビュー記事の中で「Appleがマウスを利用するGUIを初めて搭載したApple Lisaコンピュータの登場以来、30年近く続いてきたマウスによるユーザインターフェースが、iPadの登場によって本格的にタッチデバイスを前提としたものとなるかもしれない」と述べられているが、その可能性を強く体感することができる。

マルチタスクはいらないのかもしれない

iPadやiPhoneの欠点として、マルチタスクでない点を挙げることが多い。しかし、iPadの快適なレスポンスを体験すると、マルチタスクでなくともいいのかもしれないと感じてくる。

たとえば、Web上で気になったことをEvernoteにメモしたい。そんな時にはiPadのSafariを閉じ、Evernote for iPadを立ち上げなくてはいけない。しかし、iPadではブラウザを閉じる速度とEvernoteアプリを立ち上げる速度がiPhoneとは比べものにならないほど速いのだ。PCブラウザでタブを切り替えるほどではないにせよ、アプリを終了させて次のアプリを立ち上げるまで時間がかからず、まるでスイッチを切り替えるようにアプリが立ち上がる。そのため、作業の途中でいったんアプリを閉じて別のアプリを使い、また元のアプリに戻って続きの操作をするのがあまり苦にならない。

アプリ単体でもレスポンスが非常に良いので、Webブラウジングをしたりメールを書くのにも、iPadのほうが普段使っているMacBook Airよりも快適に感じる場面が非常に多かった。キーボードのレスポンスがとても速い上に、日本語入力時には変換候補の文字列がタッチしている文字キーの真上に横一列で表示されるので、変換候補をファンクションキーを押す感覚で選択できるからだ。

変換候補がファンクションキーのように表示される
変換候補がファンクションキーのように表示される

マルチタスクでないことによる欠点として、作業中にチャットなどができないということがある。ただ、考えようによっては作業の割り込みが発生せず集中しやすいとも言える。複雑な作業以外はiPadで事足りてしまうので、ノートPCを手放しても良いかもしれないと思えてくるほどだ。

電子書籍端末としてのiPad

バッテリの持ちは非常に良好で、ノートPCとは比較できないほど良い。ただ手軽に使えるためノートPC以上に使用頻度は上がるし、ノートPCとは違って充電ケーブルをつないだままだと手元が非常に煩わしいので、1日1回の充電が必須となる。バッテリ交換までの寿命がどのくらいになるかが気になるところだ。

電子書籍端末としてのiPadは、そのレスポンスの良さから非常に使いやすい。iBooksのコンテンツは、辞書をひくためにアプリを切り替えなくても、文章中の英単語をタップしていると画面上にその単語の意味を英語で表示してくれる英英事典機能がついている。iPad版のKindleには残念ながらこの機能はないが、白背景黒文字表示の背景色の白が、輝度を抑えた色味がかった白となっており、液晶画面でも目が疲れにくいように配慮がされている。iPadで読んだものの続きを、iPhoneのKinleアプリやパソコン上のKindleアプリでも読めるのが強みだ。

iBooks上で表示される辞書機能
iBooks上で表示される辞書機能
Kindleの背景色は輝度が抑えめとなっている。ページ中央のスクリーンショットの白と比較してみるとよくわかる。黒の色もグレーに近い色となっている
Kindleの背景色は輝度が抑えめとなっている。ページ中央のスクリーンショットの白と比較してみるとよくわかる。黒の色もグレーに近い色となっている

ただ、電子書籍を満喫するのにiPadのバッテリは弱すぎるということはないが、十分というわけでもない。バッテリの残り時間はどうしても気になってしまうだろう。電子書籍のヘビーユーザは、iPadとは別にテキストを読むために専用の端末を用意する価値が十分にある。一方、入手できる電子書籍がまだまだ限られている現状では、iPadで電子書籍の利用を始めてみるのは、コストパフォーマンスの観点からは良い選択といえそうだ。

iPhoneが手放せなくなっている人にはiPadは間違いなく「買い」

iPadを利用した後でiPhoneを手にとると、その画面のサイズ、スクリーン上のキーボードの大きさにとても驚かされる。一度iPadを使い出すと、自宅ではiPhoneを利用する機会はほとんどなくなってしまうだろう。iPhoneを利用していなかったのでこの機会にiPhone/iPad向けアプリを堪能したいという人にお薦めなのはもちろん、iPhobeを手放せなくなってしまっている人は買って後悔することはないだろう。

ノートPC代わりのモバイル端末としても非常に魅力的だ。アメリカでは4月末に発売予定の3G機能付きのiPadなら、ノートPCとデータ通信端末の組み合わせよりもスマートに利用できそうだ。ただ、3Gでデータ通信時のバッテリの持ちがどのように変化するのかは気になるところ。また3Gを利用せずに、外部のWiFi通信用端末を利用するという選択肢も残されている。

いずれにしても、iPadが日本でもヒットするのは間違いなさそうだ。

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