5月12日(水)から14日(金)の3日間、東京ビッグサイトにおいて「クラウドコンピューティングEXPO 2010」が開催されている。初の開催となる今回は、国内外のクラウドに関わるベンダ、技術が一同に会し、全体像を把握しにくいクラウドの最新事情を知る絶好の機会と言える。ここでは各社の展示から伺えるトレンドや最新の技術を紹介しよう。
IPv6対応の仮想データセンターサービス――ENTERPRISE-FARM
会場ではAmazon EC2に対抗する日本版のクラウドサービスがいくつも展示されていた。フリービットの提供する「ENTERPRISE-FARM」もそのひとつだ。
フリービットはメディアエクスチェンジとバーチャルデータセンター(VDC)というクラウドサービスのためのインフラについての技術と共同事業を発表しているが、このクラウドプラットフォームを利用したサービスが「ENTERPRISE-FARM」だと、フリービット ソリューション営業部 サービス企画営業 リーダー 国吉健一氏は説明してくれた。
このクラウド型サービスの特徴は、名前のとおりエンタープライズ用途を強く意識したサーバおよびシステム構成になっているという点だ。単純にサーバハードウェアやストレージをクラウド利用するだけでなく、IPv6対応、管理画面、ファイアウォール/IPSなどのセキュリティ機能、VPN、ロードバランサーなど、業務運用に耐える仕様および構成で利用できるという。
そして、このサービスの提供基盤となるVDCは、商用IXであるメディアエクスチェンジの持つバックボーン回線を利用できるというのも特徴のひとつといえるだろう。
ENTERPRISE-FARMの主なターゲットは? との問いに対しては、「ソーシャルサービスやオンラインゲームを提供するサービスプロバイダなど、いわゆる足の早いサービスがメインなるでしょう。」との回答だった。「足が早い」とは、サービスの開始、増強、縮小が負荷の増減にともない頻繁に必要になるようなサービスだ。オンラインゲームなどは、無料期間と有料化の負荷の増減に柔軟にサーバリソースを対応させることができ、キャンペーンや季節要因などのトラフィックにもスケーラブルに対応できる。また、これらのサービスは将来的にIPv6に対応しておくことは、これからIPアドレスを必要とするユーザや新興国でのサービスを考えると重要なポイントになるだろう。
- フリービット(株)MeX営業部
- URL:http://mex.freebit.com/
ブルーの基調でchatterなどの「Cloud2」をアピール――セールスフォース・ドットコム
エンタープライズ分野でのSalesforceというと、イエローのイメージカラーが浮かぶかもしれないが、クラウドプラットフォームをより意識したForce.comではブルーがサービスのイメージカラーとなっている。そのため、クラウドコンピューティングEXPOのセールスフォース・ドットコムのブースはブルーで統一されている。
このブースには各種サービスのデモコーナーのほかに、2ヵ所のプレゼンテーションエリアが設けられている。ここで、サービスの説明などプレゼンが始まると、人だかりができるほどのにぎわいを見せていた。デモコーナーでの人気は「chatter」の機能やサービスを体験しながら説明をしてくれるエリアだろう。
chatterは、Twitter風のインターフェースでメンバーのコミュニケーションや情報共有を行うクラウドサービスだが、業務用のツールなので、グループウェアの機能やCRMとの連携も可能になっている。画面はTwitterのようだが単なるコミュニケーションツールではないので、メンバーどうしでの議論や作業の進行管理など業務プロセスに応じた管理ツールとしても機能する。
デモでは、ある営業案件についてアポ、提案、再提案、見積もり、受注、納品、フォローといったステータスや業務フローをトレースしながら管理していく様子を見せていた。Twitterでいうタイムラインのような流れにフェーズ情報、ワークフローとの連携などさまざまな属性情報を付与して、だれもが進行状況を把握できるようになるというもの。チームで動いていても、それぞれが全体の状況を見ながら必要な作業をしたり、アドバイスやフォローを行うことができる。これまでの業務では定例会議や個別の打ち合わせ、メールで確認していたようなことが、chatter上で管理、共有できるようになっている。
営業活動のスタイルを変えるようなツールだが、SFAやCRMなどのデータベースとも連携できるので、基幹業務と切り離された単なるWeb便利ツールでもない。なお担当者の説明によると、セールスフォースではchatterのサービスをForce.comから切り離して展開するようなサービス形態も考えているようだ。
- (株)セールスフォース・ドットコム
- URL:http://www.salesforce.com/jp/
骨太国産技術による「リアルクラウドソリューション」――ITホールディングス
口うるさい技術者に言わせると、クラウド技術そのものに革新性はなく、すべて20年以上前のテクノロジであり、サーバも中央集中管理となり時代に逆行しているとさえみなされてしまうことがある。サービス指向の時代にあって、それはやむを得ないといえばやむを得ないのだが、「クラウドコンピューティングEXPO 2010」にちょっと骨太なクラウド技術の展示を発見した。
ITホールディングスのブースで「リアルクラウドソリューション」として展示されていた並列分散型のクラウドコンピューティングを実現するテクノロジだ。ITホールディングスという会社は、国内外65に及ぶ独立系IT企業グループを統括する持ち株企業だ。傘下にはTIS、インテックなど有力なIT企業が名を連ねている。ブースは各グループ企業から選りすぐったクラウド技術やサービスが展示されていた。
「リアルクラウドソリューション」は、グループ企業のひとつインテックシステム研究所が開発しサービス展開しているものだ。この技術は、ありがちな仮想化サーバ群をデータセンターに構築してネットワーク経由でサービス提供する(このようなクラウドを同社では疑似クラウドと呼んでいる)のではなく、ネットワーク上に分散したサーバ、またはサーバ群(データセンターでもよい)を独自技術のプロトコルによって連携させることでクラウド環境を構築する。
各サーバは、自律型のノードとして連携や接続はスケーラブルに展開できる。自律型なので管理サーバや管理ノードを必要とせず、ノードの台数にリニアなスループットでシステムをスケールアウトできるという。
リアルクラウドは、クライアント側からNFSやiSCSIに接続されたファイルシステムやストレージとして見えるようになっている。クライアント端末はアクセスノードを通じてコアノードであるストレージ本体にアクセスするが、アクセスノードはロードバランシングやフォールトトレラント(FT)機能を持っており、また、コアノードのミラーリングや冗長構成も可能で、パフォーマンスと信頼性を確保している。
サーバは、現在ストレージソリューションとしてのサービス提供がメインであり、アプライアンス製品として提供しているが、原理的には汎用IAサーバを任意にクラウド化できる。P2P的に分散したノード(プロトコルはP2P技術ではないそうだ)でも、データセンターとして構成されていても問題ない。将来的には、ストレージだけでなく汎用的なサーバリソースをリアルクラウド化して、サービスを提供することも考えているそうだ。
- ITホールディングス(株)
- URL:http://www.itholdings.co.jp/
自社の業務システムのクラウド化も促進――NEC
クラウドコンピューティングEXPO 2010では、大手ベンダもブースを出展している。その中でNECは、独自の「クラウド指向サービスプラットフォーム」をキーワードに企業システム向けのクラウドソリューションを展開している。
NECではクラウドサービスを「ネットワーク経由提供される標準化されたITリソース」という位置づけで考えており、ITベンダ、ソリューションベンダとしてクラウドサービスを提供する場合、既存の企業システムや業務にクラウドのメリットを導入することを目的としたサービスを考えているという。
とはいうものの、既存の分散されたサイロ型ITシステムを単に、データセンターなどに集約するだけでなく、業務や目的に応じて最適なクラウド環境を構築する必要がある。NECでは、クラウド指向のサービスプラットフォームを「SaaS型」「共同センター型」「個別対応型」の3つに分類している。SaaS型は、あらゆる業種のユーザに対して共通業務やビジネスツールをSaaS、もしくはパブリッククラウドに近い形でサービスとして提供するものだ。共同センター型は、業界で共通な業務やサービス、あるいは共同プロジェクト、コンソーシアムなど業界コミュニティに共通なサービスを集めて、クラウド上でプラットフォームやアプリケーションを共有するような形である。最後の個別対応は、一般にプライベートクラウドと呼ばれているタイプといえる、ユーザごとに業務システムをクラウド上に構築するものだ。
NECでは、このようなコンセプトでクラウドサービスビジネスを展開しているが、これを自社内システムに活用しているそうだ。「NECの経営システム改革」というパネルでは、のNECグループ内で展開中のクラウド指向経営システムを紹介していた。
現在、海外を含むグループ企業において、販売・購買・経理の3部門のERPシステムや業務を標準化し、クラウド指向プラットフォーム上に集約している。これによって、業務プロセスの効率化やコストダウン、国際会計基準(IFRS)対応などを進めているという。このシステム改革は主要グループ企業すべてに展開していきたい考えだが、同時に得られたノウハウや技術はNECのクラウドソリューションやコンサルティングにもフィードバックしていくとのことだ。
- NEC
- URL:http://www.nec.co.jp/
ソーシャルアプリのプラットフォームをめざすニフティクラウド
ISPの老舗であるニフティが展示するクラウドサービスは、ベンチャーやスモールビジネスを意識したオープンなものとなっている。
「ニフティクラウド」は、他社のクラウドサービスがハードウェア構成やミドルウェアなどセットで提供することで差別化を図る中、インフラ提供に特化したものだ。ニフティ IT統括本部 基盤システム部 課長 上野貴也氏に、ニフティクラウドの狙いなどを聞いてみた。上野氏によれば、第一の特徴はサーバの立ち上げも拡張も「5分」で終わるという操作性の良さとのことだ。日本語ベースのわかりやすいコントロールパネルで必要事項を入力するだけでサーバがすぐに使えるようになる。Amazon EC2のユーザの声を分析し、わかりやすさを考えた設計になっているそうだ。
日本語コントロールパネルやダッシュボードはそのひとつだが、細かいサーバの設定が面倒ならば、パターン化されたメニューでサーバ構成を選ぶこともできる。メニューで選んでもサーバ自体の増減、構成変更なども任意でできるそうだ。料金体系は、時間単位の従量制と月額固定が選べるようになっている。
サーバ自体も国内のデータセンターにあるというのもポイントで、サーバの監視体制も国内ISPクオリティが期待できそうだ。OSは、サーバ上のVMwareにインストールされる。プロセッサはXeon5500番台のデータセンター向けのマルチコアCPUとなっている。クロック周波数も2GHz以上で、他社のIaaSのCPUパワーより高性能のはずという。
ニフティクラウドのユーザは主にネット企業だそうで、ソーシャルアプリやソーシャルサービスを展開している、あるいはこれから展開しようとしているサービスプロバイダや独立系のソフトウェアハウスがメインとのこと。大企業のエンタープライズクラウドとは一線を画している。ただし、最近ではITベンダなどのソフトウェア開発などに利用される事例も出てきているそうだ。
なお、ニフティクラウドは、現時点ではIPv6には対応していないが、対応検討中とのことだった。
- ニフティクラウド
- URL:http://cloud.nifty.com/