「WACATE2010 夏」レポート─自分の実力を「見える化」してみよう!

読者の皆様はじめまして、小田部と申します。今回「WACATE2010 夏」⁠2010年6月12日~13日、於:マホロバ・マインズ)にてベストポジションペーパー賞に選ばれ、この場でWACATEを紹介する機会を得ました。

私自身はこれまで6回開催されたWACATE全てに参加し、大げさでなく自分の人生に対して大きな影響を受けてきました。一体どのような影響を受けてきたのか、これから「WACATE2010 夏」の紹介を通して説明していきますので、よろしければお付き合いください。

図1 ベストポジションペーパー(BPP)賞受賞の様子
図1 ベストポジションペーパー(BPP)賞受賞の様子

WACATEの概要

WACATE(Workshop for Accelerating CApable Testing Engineers)は2日間かけて行われる合宿形式のワークショップで、その大きな特色は名前の通り若手のテスト技術者が中心となってイベントの企画と運営を行い、参加者も20~30代のテスト技術者が多数を占めることです。

今回のテーマは「WACATE2010 夏 ~見たい!見せたい!!伝えたい!!!~⁠⁠。職場に限らず相手に対して伝えたい情報をどのように見せていくか、そこに重点を置いたワークショップとなりました。

セッション1「ポジションペーパーセッション」

WACATEには実行委員に講師および参加者を含めて50名以上の方達が参加されます。また参加者は常連に初参加、ベテランに若手、多種多様な業種に加えて北は北海道、南は九州から参加と実にバラエティに富んだメンバー構成になります。

WACATEではこれらのメンバーがチーム単位に分かれてワークショップを行うのですが、そのためにはさまざまな壁を越えて、迅速にチームのメンバーと意思の疎通ができるようにならなければなりません。その意思の疎通を成立させる上でとても重要なセッションが、このポジションペーパーセッションです。

ポジションペーパーとは簡単に言うと立場表明です。ふだんの仕事についての説明や悩み、ここに集まったメンバーと議論したいことなど、書きたいことをA4用紙1枚で自由にまとめてチームのメンバーに紹介していきます。中には紙芝居やiPadなども併用して自己紹介する方もいて非常に賑やかになり、セッションが終わるころには不思議なくらいあっさりとコミュニケーションが取れるようになります。

また特に優秀なポジションペーパーは2日間のワークショップの最後で表彰されますが、今回は幸いにも私はベストポジションペーパー賞を受賞することができました。ベストポジションペーパー賞は参加者全員の投票で決まるのですが、この賞を獲得するには参加者にとって「読みやすく⁠⁠、⁠ニーズに合致」し、⁠テーマに沿った」内容でなければ難しいでしょう。そう、WACATEではポジションペーパーを作成する時点から顧客(参加者)の要求を分析し、デザインを工夫し、自分の知識や経験にスキルを総動員して最高のポジションペーパーを作成する楽しみがあるのです。

セッション2「報告書は○○○へのXXX」

この後のワークショップと関連の深い、報告書を作成する上でのポイントについての発表でした。

「報告書は特定の相手への見える化」です。ユーザあるいは上司など報告する相手を特定し、なぜ報告するのかその目的を明確にし、相手が必要とする定量的あるいは定性的な情報を揃え、図表など理解しやすいように見せ方を工夫する。最後に相手が必要とするタイミングで報告書を提出し、情報の伝達が滞りなく進むように配慮します。

このセッションの講師役を務める近江さんは元WACATE参加者で、最近になってWACATE実行委員に手を挙げました。

このようにWACATEにはいろんな関わり方ができます。大きくWACATE実行委員、WACATEファン主催のイベントであるWACATE ShortShortのお世話役、そしてWebマガジンであるWACATE Magazineの編集部員です。その時々の自分の実力に応じてさまざまな活躍の場がWACATEには用意されています。

私自身はWACATE ShortShortのお世話役とWACATE Magazineに編集部員として関わっていますが、その活動ではWACATEで培った人脈を利用してイベントの企画提案と運営をおこなったり、趣味の写真撮影を記事作成に利用したり、シンポジウム関連の記事を書く上で何度も資料を読み返して勉強したりと、自分の特技を発揮して磨いていく場ができて日々の生活にも張り合いがグンと増してきました。

ワークショップ「テストにおける報告ワークショップ」

モデレータである村上さん(WACATE実行委員会)によるワークショップの開始です。WACATEで最も時間をかけて行われるワークショップで、1チーム約6名に分かれて課題をクリアしていきます。

図2 グループワークの様子
図2 グループワークの様子

今回のワークショップの目的は、ある会社のテストチームとなり社内プロジェクトで使用しているテストの週間進捗報告書について、必要な情報が伝わるように報告書の改善を行うというものです。

報告書はテストチームとは別の開発(兼テスト業務)部隊が作成しており、その報告書を読む本部長のリクエストは下記のようになります。

  1. テストの進捗が知りたい
  2. バグの状態が知りたい
  3. その他トピックがあれば知りたい

つまり、現状の報告書はとても上記を満たす内容ではないということです。

この課題をクリアするために、大きく下記の内容でワークショップを進めていきます。

  1. チームメンバーの仕事内容やスキルの確認等、チームビルディングを行う
  2. 課題で設定された会社組織の確認および、報告書の問題点と改善点の抽出を行う
  3. チーム全体で、GQM(Goal、Question、Metrics)手法に沿って報告書に載せる情報を挙げていく
  4. 本部長に見せる報告書の内容をまとめる
  5. 改善した報告書を発表する

このワークショップで毎回感心するのが課題資料の臨場感です。どこかの教科書に載っているような無味乾燥なものではなく、報告書ならそれを作成した人物像や現場の様子が透けて見えるくらいの完成度で、たった1枚の報告書から無数の問題とその原因および改善点が湧き上がってきます。

個人ワークで報告書の問題点と改善点を抽出した後、ここからがこのワークショップの真骨頂となります。普段とは全く異なる業種、年代、知識、経験を持ったメンバー同士が遠慮することなく意見を出し合い、ベテランはその意見に対して否定することなく深い知見を加えていきます。

図3 ステップごとに課題をクリアしたら拍手でひとくぎり
図3 ステップごとに課題をクリアしたら拍手でひとくぎり

またこのワークショップでは「挑戦」「失敗」することができます。ワークショップの作業内容は大枠が決まっているだけで、実際の作業は全てチームメンバーの合意の元に行われていきます。また普段の業務では新しい技術や手法を試すのはリスクの高い行為と敬遠されやすいですが、WACATEではむしろ失敗から得られる知見の価値を認め、恐れず挑戦することを良しとする文化に加え、それをサポートするベテランが揃っています。

報告書の改善をリクエストされたテストチームとして、1枚の報告書から開発部署を含めたプロジェクト全体の問題点を推測し、報告書の改善点を議論しながら絞り込んでいきます。プロジェクトの状態と進捗を見える化し、部長へ伝達すべき情報を吟味します。情報が誤って伝われば本部長からの開発部署への要求が厳しくなる場合も考えられますし、情報が多すぎて報告に多くの労力が割かれる事態も避けなければいけません。課題は単純でも、考慮すべき要素は複雑で、唯一絶対の回答は存在しません。ワークショップを進めると一筋縄ではいかない課題であることに気付き、そこから試行錯誤が生まれては消えていきます。

課題のボリューム自体がワークショップの時間内では終わらないボリュームなので、タイムスケジュールも非常に重要になってきます。最後に各チームの発表と講師による講評を聞くと、そんな手があったのか、とこれもとても参考になります。

図4 メイン講師の村上くにおさん(WACATE実行委員会)
図4 メイン講師の村上くにおさん(WACATE実行委員会)

ディナーセッション

1日目のワークショップが終わり、温泉に入ってさっぱりした後はお酒を飲みながら地元の海鮮料理と参加者同士で会話を楽しみます。またディナー中は参加者の一言コメント紹介や各種景品の抽選会がありますが、なんと言っても目玉は実行委員にゲストと参加者で構成された音楽ユニット「3ーPICT」によるバンド演奏です!

このバンドはWACATE関係者で音楽が趣味の人達が集まってできたバンドですが、腕前は全員一流で楽器を直接合宿会場に持ち込んでの演奏と、なんとも凄い気合いの入れようです。しかも特筆すべきはバンドのメンバーが関東、東北、北海道と分散しているにも関わらず本番ではちゃんと音を合わせて演奏してしまう点です。私は演奏は全くの素人ですが、実力者が揃うと距離の壁もクリアしてしまうのかと驚嘆してしまいました。

図5 お酒と海鮮料理と余興がお楽しみ
図5 お酒と海鮮料理と余興がお楽しみ

夜の分科会

WACATEの実行委員に講師と参加者が膝を交えて語り合う夜のお楽しみです。テストの達人同士の会話に耳を傾けるも良し、テスト設計や計画などテストについてとことん話し合うのも良し、WACATEについて実行委員の熱い想いを聞くのも良し、です。

その他にも普段読んでいるソフトウェアテスト関連技術書の著者に直接質問する機会があったり、相談にのってもらったりと時間制限が無ければそのまま朝まで語り明かしてしまいそうなほど楽しい時間です。

図6 夜の分科会では自由に話したいテーマを話そう!
図6 夜の分科会では自由に話したいテーマを話そう!

2日目早朝

合宿会場には温泉があり早朝から利用できます。また徒歩約10分の距離に浜辺があるので、早起きして日の出を眺めながら浜辺を散歩することもできます。私自身は温泉と散歩に加えて浜辺での投げ釣りにも毎回欠かさずチャレンジしていますが、最近は釣れるポイントがわかって釣果が安定してきました。朝日を眺めながら釣り竿を振り抜いていると、頭がすっきりしてきます。

BPPセッション「この半年で学んだリスクベーステスト」

前回のWACATEでベストポジションペーパー(BPP)賞を受賞した永田さん(ソニー)によるセッションです。職場で推進しているリスクベーステストについて解説していただきました。

リスクベーステストは限定されたリソースと限られた時間において最適の評価効果を出していくテスト手法です。より高いリスクの範囲を優先的かつ網羅的にテストすることで、早い段階からトータルのリスクを減らしていきます。また何が高リスクなのかをステークホルダ同士で分析して合意することで、抜け漏れを防止していきます。

セッション3 「fault-proneモジュール予測の研究動向とテスト戦略」

よく「欠陥の8割は2割のモジュールに偏在する」と言われますが、fault-proneモジュール予測はその2割を予測するための手法のです。セッション中の解説ではfault-proneモジュール予測における分析の方法や手順、各種評価関数と欠陥との相関などについて、野中先生(東洋大学)より最近の研究成果を交えながら紹介していただきました。

クロージングセッション「テストコンサルタントの「見たい」「見せたい」「伝えたい」」

テスト担当者、テストリーダ、テストコンサルタントとキャリアを築いて行った湯本 剛氏がその時々の立場による目的と手段の関係について話を進めていきました。たとえばテスト担当者として目的を「テストでバグを見つける」とした場合、その手段として「テスト設計」「テスト実施」が挙げられますが、テストリーダの立場で見ると「テストでバグを見つける」「納期内にテストを終了させる」ための手段となります。このようにある立場で目的だったものが上の立場では手段となる、階層構造の関係になります。

大事なのは目的とそれを実現するための手段が明確であること。目的がバラバラだと暴走し、手段が無ければ妄想で終ってしまいます。また立場を変えて見ることも必要です。各立場での目的と手段がつながると納得して仕事が進められるようになります。

またこの発表を含め、⁠伝えたい」という気持ちがあって初めて見せる行為へとつながっていきます。

図7 クロージングセッションはテストコンサルの湯本氏
図7 クロージングセッションはテストコンサルの湯本氏

WACATE全体を通して

私は、WACATE全体を通して実現しているのは「自分の見える化」ではないかと考えています。自分の実力や長所に短所などは、実際に使ってみて初めて見えてくるものです。半年に一度のWACATEで全力を尽くすことは、私にとってその間どれだけ成長できたかを測るまたとないチャンスであり、次の半年間の行動指針を決める羅針盤のような存在でもあります。

では行動指針はどのように決まるのか? 実は結構簡単に決まります。何故ならWACATEには最近テスト始めた方からベテランまで、見本にしたい、将来こうなりたいと思わせるさまざまな方達が集まっているからです。

特に一流のプロの話を聞いて感じる共通点は、スキル以前に心の在り方が一流であることです。WACATE実行委員を例に取れば、WACATEの参加費はほとんど実費のみで、実行委員の方達も参加費を出した上でイベントを運営しています。これだけレベルの高いイベントを、無償で半年間かけて準備する。何故そこまで情熱を傾けられるのか、それはWACATEを通して個人や会社の枠組みを超えてテスト業界や日本全体を良い方向へ変えていきたいと考えているからではないでしょうか?

WACATEは「若手が積極的に活躍できる場」として創り出されましたが、若手とは単に参加者を指しているのではなく、運営する側にとっても活躍の場であると言うことです。また現在はWACATEだけでなく、WACATEファンによるイベントの企画運営や勉強会にテストの同人誌の製作など、活躍の場はどんどん広がっています。

WACATEには大げさでなく人生を変えるくらいの影響力があります。自分の力を見える化したい、全力を出したい、活躍したいとちょっとでも考えている方にはWACATEに参加されることをお勧めします。

それと誤解されやすいのですが、⁠心がWACATE」なら年齢は不問ですので、ぜひベテランの方も若手に技術伝承するぐらいの気持ちで参加してみてください。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧