オープンであること、それが最大の強みだ─「MeeGo Seminar Summer 2010」開催

7月26日、東京、東京コンファレンスセンター品川において、モバイル機器や組込み機器に最適化されたLinuxベースのOS「MeeGo(ミーゴ⁠⁠」の普及を目的とするセミナー「MeeGo Seminar Summer 2010」が開催された。

MeeGoはLinux Foundationが進めている組込みOSプロジェクト。モバイル用Liunxとして開発が進んでいたIntelの「Moblin(モブリン⁠⁠」とNokiaの「Maemo(マエモ⁠⁠」が統合されたプロジェクトとしても知られている。5月にVer.1.0がリリースされたばかり。

MeeGoセミナーは4月にも開催され、今回は2回目となる。Ver.1.0が正式にリリースされていることもあり、前回よりも踏み込んだ内容のビジネス、テクノロジーに関するセッションや展示が見られた。

MeeGoは「Linux第2の戦略的な転換点」

ジェネラルセッションではLinux FoundationのJim Zemlin氏が壇上に立ち、いよいよ実際に触れることができるようになったMeeGoのアドバンテージと特長、そして今後の展開について語った。

Jim Zemlin氏
Jim Zemlin氏

前回でのセミナーでも同氏が強調した点だが、今や皆が気づかないほどにさまざまな機器やシステムにLinuxが搭載されていることに触れ、高度化する携帯端末や組込みシステムとますます短納期が要求される開発サイクルに対応するには、オープンソースベースのシステムを採用するしかないと説いた。

その上で、PC以外のあらゆる組込みベースのシステムに対応するOSとして登場したのがMeeGoであると紹介。IntelとNokiaの2大企業が戦略的に手を組み、これに1000人規模のLinuxコミュニティの開発者が携わり、特定のビジネス基盤の影響も受けることがなくデファクトスタンダードたり得る「グレートなOSである」と結んだ。

MeeGoは「真にオープン」である

ジェネラルセッションの後半はパネルディスカッションが行われた。登壇者はLinux FoudationでMeeGo開発のコアメンバーを務めるイブラヒム・ハダッド氏、Nokiaの開発者 道勇浩司氏、IntelでMoblinから開発に携わっているマーク・スカープネス氏の3人。モデレータとして参加のLinux Foudationジャパンディレクタ 福安徳晃氏がMeeGoに関してよく尋ねられる質問を挙げ、それに3人が答える形でセッションが進められた。

パネルディスカッション
パネルディスカッション

質問は「MeeGoとは何か?」から始まり、開発の進め方やコミュニティの主体、そして利用のメリット、ビジネスで使う際のライセンス問題、開発したアプリケーションの配布まで多岐に渡った。

MeeGoとは何かに関連して、マーク氏はMeeGoの前身であるMoblinの強みであった安定したコアOSや使いやすいビルドシステムとMaemoの持っていたQtなどのツールキット、豊富なミドルウェアという両方のいい部分が合わさっているのが強みであると紹介。これを承けて道勇氏はMaemoに欠けていたのはソフトウェアスタックの開発継続性だったと指摘。新しいシステム用にソフトウェアを用意するには1からスタックを構築し直す必要があったのが、MeeGoはまったく再構築の必要なく同じスタックを使うことができるとのこと。

またイブラヒム氏は開発がすべてオープンで進んでいることを強調。100%オープンソースなのはもちろんのこと、コミュニティは誰もが参加可能で、利用や配布にも障壁がなく、技術的にもあらゆる組込みシステムに適用可能なOSはMeeGoだけであると説いた。MeeGo開発の舵取りを行っているのはIntelやNokiaの代表者から構成されるTSG(Technical Steering Group)と呼ばれるグループだが、TSGのミーティングの議事録やMLのやりとりなどもすべて公開されており、コア部分の開発体制もすべてオープンになっているという。

ライセンスについてはLinuxなのでもちろんGPL v3が採用されているが、コア部分以外はLGPLを組み合わせて、企業ユースでも出せる情報を絞った開発も可能であると紹介。マーク氏は「まだ意見を募集している面もあるので要望をどんどん送って欲しい」と呼びかけた。

ゼネラルセッションの後、ビジネス、テクノロジーに分かれてより突っ込んだセッションが行われた。

MeeGoのキーマンに聞く「私のイチオシポイント」

パネルディスカッション終了後、MeeGo開発のキーマンに個別に取材する機会を得た。そこで皆さんに、個人的に「MeeGoのどこがすごいのか」について伺ってみた。

キャハタヴァ・ユッシ氏(ノキアジャパン テクノロジーポリシー ディレクター)

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私はNokiaでビジネス部門にいて、ビジネス関係のクライアントにMeeGoの魅力を伝える立場にいます。MeeGoの一番のアドバンテージはその「広さ」だと思います。スマートフォンからネットブック、タブレット、テレビ、そして車載システムと幅広い分野で利用でき、そのどれもが同じアプリケーションを動かすことができるのです。

私が個人的に一番期待しているのはIVI(車載インフォテイメント)です。ちょうど標準化団体であるGENIVI AllianceがMeeGoの採用を発表しましたが、Nokiaも自動車システムをはじめさまざまなデバイスとスマートフォンなど携帯電話をネットワークでつないだシステムをいろいろと考えていて、ビジネス的にも今後大きく発展するのではないでしょうか?

もちろん、スマートフォンのOSとしてもMeeGoには期待しています。MeeGoは非常に機能が高いので「モバイル・コンピュータ」という位置づけですね。NokiaはモバイルOSとしてSymbianも採用していますが、こちらは携帯電話用のOSとしてこれまで以上に幅広い層に展開していくことになります。

Nokiaは現在、日本では具体的な製品やサービスを展開していませんが、MeeGo、そしてQtベースの開発は支援しています。MeeGo/Qtアプリケーションを開発すれば、世界中で使われているNokiaの製品、あるいはMeeGoを使ったさまざまなデバイスで動くのです。世界に発信するプラットフォームとして、開発者の皆さんにはどんどんMeeGo利用していただきたいですね。我々はそのための手助けを行っています。

イブラヒム・ハダッド氏(Linux Foudation テクニカル アライアンス ディレクター)

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MeeGoの強みはさまざまな意味で「オープン」であることです。オープンソースであり、開発者コミュニティ、そのMLも議論もオープン、バグ情報の公開もオープンです。何より重要なのは、技術的な決定がオープンであることです。TSGには誰でも参加できるし、何が議論されたかもすべて明らかなのです。

また、MeeGoはIVI、ネットブック、ハンドセット、タブレット、Connnected TVの5つのデバイスタイプで動くように開発されていますが、コンプライアンスプログラムに従ってアプリケーションを開発することで、1つのアプリがこれらのどのデバイスでも動くようになる点も重要です。

そして、アップストリームプロジェクトに密接に結びついているので、MeeGoにコントリビュートしたコードが、Linuxメインストリームに反映されるといったこともありますし、アップストリームのアップデートがそのまま適用でき、トータルでメンテナンスコストが下がるというメリットもあります。

手元に注目!
緊急事態!今すぐMeeGo Phoneを求む
手元に注目! 緊急事態!今すぐMeeGo Phoneを求む

TSGは1社1人参加の小さな集まりで、意志決定は迅速です。TSGで定めたガイドラインにしたがって、その下のワーキンググループによってプロジェクトは進められています。どの議論もオープンですし、2週間ごとに報告が出てフィードバックも細かく行われているます。まだ始まったばかりのプロジェクトで、全員がこのプロジェクトを成功させようとしていますから、意見が大きくぶつかることもなく、方針決定も開発自体も非常にスピーディに進んでいます。

今最も期待しているデバイス? MeeGo Phoneだよ。8時間前にこうなって、電話が使えないんだ(笑⁠⁠。いますぐ実物が欲しいです(笑⁠⁠。

マーク・スカープネス氏(Intel Software and Solutions Group)

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MeeGoのポイントは自由なところです。さまざまなデバイスに適用できるし、開発プロセスへの参加も自由、使い方も自由です。これはオープンであるがゆえのメリットですね。オープンだから、1つの会社の中の狭い発想からプログラムが作られることもありません。参加する開発者もサービス提供者も成功できる可能性があります。たとえばアプリケーションストアも、キャリアさんが作っても良いし、別の人が作ってもいい、あらゆる発想が自由に実現できるのです。

Linuxのアップストリームにつながっているというのも大きなメリットです。Linuxカーネルの最新のテクノロジーをプロジェクトに必要に応じて取り入れることができますし、開発もスピーディに進みます。

iPhoneやAndroidと比べると、MeeGoにはまだ具体的な製品がないという段階ですから、なかなか具体的なイメージは抱けないと思いますが、まずはデバイスやアーキテクチャの自由度を大きくした中で、これからすばらしい製品ができあがってくると思います。ご期待ください(笑⁠⁠。

個人的に期待しているのは、まずはネットブック、そしてタブレットです。携帯電話にも非常に期待しています。欧米の大手キャリアがMeeGoに非常に興味を持って、関わってこようとしています。彼らには通信インフラはもちろん、アプリケーションストアなどのマーケット的な展開も期待しています。

現在Intelが提供しているAtomの次世代チップも、引き続きMeeGoをサポートしていきます。より高性能なネット端末、タブレットが提供されることでしょう。さらにモバイルTVにも期待していきたいですね。Intelではさまざまなプラットフォーム、OSを顧客の要望に応じてサポートしていくスタンスではありますが、その中でもMeeGoはスタートしたばかりのプロジェクトですから、Intelとしても大いにリソースを使ってサポートしているのです。

展示コーナーから

バージョン1.0がリリースされたこともあり、デモ出品でも具体的な展示が見られ、多くの来場者を集めていた。

Intelブースから、GENIVIアライアンス準拠のIVIシステムのデモ
Intelブースから、GENIVIアライアンス準拠のIVIシステムのデモ
展示コーナーの盛況ぶり
展示コーナーの盛況ぶり
Intelの次世代Atomプロセッサ(Moorestown)搭載のタブレットのデモ。ホームネットワーク端末で、電子書籍ビューワアプリもインストールされていた
Intelの次世代Atomプロセッサ(Moorestown)搭載のタブレットのデモ。ホームネットワーク端末で、電子書籍ビューワアプリもインストールされていた
ノキア/Qtのブース。次バージョンのQt 4.7で採用される新技術が早くもデモされていた
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⁠株⁠アイ・エス・ビーのブースでデモされていたQMLで記述されたアプリケーション。QMLはQtを簡単な記述で使用できるスクリプト言語。Qt 4.7で実装される予定
(株)アイ・エス・ビーのブースでデモされていたQMLで記述されたアプリケーション。QMLはQtを簡単な記述で使用できるスクリプト言語。Qt 4.7で実装される予定
WindRiverもMeeGoタブレットを展示
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