9月27日~29日の3日間、世界のLinux/OSSのトップ開発者/エキスパートが集まり、講演や議論を行うイベント「LinuxCon Japan/ Tokyo」が東京、六本木アカデミーヒルズにて開幕した。北米を中心に開かれていたイベントで、アジアでは初の開催となる。
Linuxが新たなコンピューティングの“ファブリック”となる
初日となった27日朝の挨拶に立ったのは、Linux Foundation エグゼクティブディレクターのJim Zemlin氏。「 Ubiquitous Linux: The New Computing Fabric」と題した講演で、これまで18年のLinuxの歴史と、この10年の変化、そしてLinuxのやオープンソースの今後を俯瞰つつ、Linuxのアドバンテージを説いた。
Jim Zemlin氏
Zemlin氏は「今年はかつてない特別な年」と切り出し、最初は個人向けのPC OSだったLinuxが、この10年間でエンタープライズ分野で広く使われるようになったことを挙げ、「 今やただのOSではない。未来へ向けたコンピューティングの土台、基礎となるものだ」と説いた。さらにLinuxが使われている目立ったシステムとして、ニューヨークや東京、ロンドンの証券取引所、原子力潜水艦の制御システム、ミュンヘン市のITシステム、各地の飛行機管制システム、フランス議会、CERN(欧州原子核研究機構)の素粒子加速器、ブラジルの油田開発、映画「アバター」グラフィックシステム、電力送信のグリッドシステムなどを次々と紹介した。
Bill Gates氏が10年前に「すべてのデスクトップ、すべての家庭のコンピュータの上でMicrosoftのソフトウェアが動く」と語ったことを引き合いに、「 今ではLinuxがエンタープライズを含むすべてのコンピュータ上で動くようになった」と、Linuxの広がりを紹介。
次に、具体的に各分野でLinuxが利用されるようになった理由について解説を加えた。電力会社の電力利用量集計システムは、当初100万ユーザのメータを1ヵ月に1回人間が読んで入力するシステムで、月に1200万トランザクションといったものだった。それが自動計測データをネットワーク経由で集められるようになり、今や15分に1回計測される。このトランザクションは350億となる。これは、増加する負荷に常に問題意識を持って対応してきたからだ、とZemlin氏は言う。
また、携帯電話マーケットを例に挙げ、単に通話さえできればいい時代からネットやメール、ブラウザ機能などを持ち複雑化するにつれて競争も激化し、製品サイクルも短くなっていく流れを紹介。「 これに対応するにはオープンソースに切り替えるしかない。オープンソース開発のコラボレーションにより、内製の開発コストが下がり、新たな競争のステージに移ることができる、たとえば自前のアップストア、Webサービスなどをからめたシステムを自由に作ることができるのだ。これは経済モデルの変化だ」( Zemlin氏) 。AndroidやLinuxベースの携帯電話、MeeGoなど多くのシステムがオープンソースベースになっているのが何よりの証拠だという。
これからが始まりだ
そしてこうしたLinux利用の広がりが、パーソナルコンピューティングの再定義をもたらした、と語り、汎用機、スーパーコンピュータの時代からモバイルコンピューティング、クラウドコンピューティングの時代となり、「 あらゆる機器が接続されるようになった今、Linuxの強みが最も発揮される時代となった」と続けた。
その上で、こうした「FREE」の流れはハードウェアにも及ぶと予想。「 誰も信じないかも知れないが、ソフトだけでなくハードも無料の時代が来る」と大胆に提言した。AmazonのKindleが発売当初より現在では70%も価格が下がっていることや、携帯電話キャリアのT-Mobileが無料のラップトップを提供している例を紹介し、今後はハード、ソフト、サービスの一体化の中から利益を得る「自由」がより促進されると語った。これをエンタープライズ面から支えているのがクラウドコンピューティングだが、「 クラウド上で使われているのはすべてLinuxだ」( Zemlin氏) 。
Google、Amazon、FacebookがLinuxじゃなくて、もしMicrosoft .NETを使っていたら、彼らは今ごろどうなっていたと思うかい?
最後に「これからが始まりだ」と切り出したZemlin氏は、この10年で小さなユーザグループから数十億ドルの投資が行われるような経済規模を扱うまでに成長したLinuxが新たなステージを迎え、今後10年の新たな成長を促すため、今回のこの数日間を有効に使って新たな情報や技術に触れ、また議論して欲しいと強調し、挨拶を結んだ。
MeeGoを使ってこれまでにない「ハイエンドなモバイル」が構築できる─Dirk Hohndel氏
Zemlin氏の紹介を受け、続いて壇上に現れたのはDirk Hohndel氏。IntelでLinuxをはじめとするOSSプロジェクトを多数手がけている人物だ。同氏は「Got MeeGo?」と題した、モバイルLinuxのMeeGoに関するキーノートを行った。
Dirk Hohndel氏。「 この会場(六本木ヒルズの40階)は非常にすばらしいロケーションですね。でも天気が残念。( 当日東京は雨) 。今朝この近所をジョギングしたらずぶ濡れになりました(笑) 」
MeeGoはLinux Foudationの運営の元、開発が進められているモバイルLinux。母体となっているのはIntelの進めていたMobin、そしてNokiaのMaemoというプロジェクトだ。同氏は「たしかに最初は大企業のプロジェクトから始まり、いまでも開発にIntel、Nokiaを始めとする大企業が入り、当然その利害関係も無いとは言えない」としながらも、「 本質的には開発の進め方、実装の仕方のいずれもオープンソースプロジェクトそのものだ」と強調。MeeGoのプロジェクトを進めるにあたって、Intel側が最初に条件としたのはLinux Founfdationの指揮下でハンドリングを行う点だったと明かした。「 この点は非常にうまく行っている」( Hohndel氏) 。
同氏はさらに、コミュニティによってオープンに開発が進められることで、カーネルの中身について企業のエンジニア同士がオープンなMLを使って、その企業の外で会話ができる、「 プロジェクトの文化」が作られている点に注目してほしいと訴えた。
またMeeGoの技術的なキーポイントとして、コアからUIライブラリまでオープンソースである点を強調した。デバイスによってPDAと大画面TVなどのUIの違いはあるにせよ、基本的には1セットのAPIでクライアントデバイスをまたいで使用でき、あとはImput Methodなどを考えるだけでさまざまなデバイスに対応したソフトウェアが開発できるという。開発環境も、統合SDKとUIの開発にQt Creatorが提供され、大きな抵抗なく開発が進められる環境であることを強調した。
さらに、MeeGoを中心としたさまざまなレイヤに対して、多くのベンダが参加可能だと紹介。アプリベンダ、テクノロジベンダ、デバイスベンダ、チップセットベンダなどが自由に参加でき、さらに自前のAppStoreなども展開できる「大きなエコシステムができている」( Hohndel氏) 。
そして、MeeGoプロジェクト最大の特徴である、Linuxアップストリームへのコミットについて言及した。「 通常のプロジェクトはオープンソースを使って何かを開発するだけ。でもMeeGoならはソースを使ってさまざまなシステムを開発後、その成果をアップストリームに提供できる。このシステムも完全ではないが、うまく機能している」とのこと。パッチファイルレベルでも、それを提供することでコミュニティのメンバーとテクノロジーを享受できる。これによって、よりハイエンドのモバイルシステムやユーザエクスペリエンスを提供でき、企業が参加するにしてもより高いレベルで関わることができると強調した。
「普通のプロジェクトとはアップストリームとの関係が逆になっているところが興味深いでしょう?」( Hohndel氏)
最後に再びZemlin氏が登壇し、「 来年のこの場でMeeGoが載った52インチテレビ、タブレット、携帯電話が紹介できることを期待したい」と結び、初日のキーノートは終了した。