たいていのことはIPv6で可能、ムダのないインフラで日本に力を取り戻せ! ─東京大学 江崎浩教授「IPv6移行セミナー」から

A10ネットワークスは9月15日、東京・品川において「Move Innovation A10 Forum2011 - IPv4枯渇対策/IPv6移行セミナー」を開催した。本稿では、東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授 WIDEプロジェクト代表の江崎浩氏による基調講演のもようをお伝えしたい。

江崎浩氏
江崎浩氏

この4月、JPNICからのIPv4アドレスの通常割り振りが終了し、日本企業はいよいよ本格的なIPv6時代に向きあうことになる。一方で、3月11日に発生した東日本大震災は、日本のICTインフラのあり方に大きな影響を及ぼした。その代表が節電とクラウド化であり、この流れは当面続いていくものと思われる。IPv4枯渇と東日本大震災という2つの大きな転機を迎えた2011年は、まさに日本のインフラの新しい節目として記憶されることになるだろう。

IPv4 PIアドレスを売却するなら今のうち

江崎教授はこの基調講演で訴えたかったこととして以下の3つを挙げている。

  • ①いまはIPv6だけでたいていのサービスを利用できる。不要なPIアドレスはデータセンター事業者などに売却すべし
  • ②デスクトップやノートPCは可能な限り仮想化で集約、持ち歩くならシンクライアントやタブレット/スマホで十分
  • ③仮想化/クラウド化や節電は単に消費電力を減らすだけじゃなく、その先にある本当の効率化、本当のBCPを知ることが重要

①については、先日行われた「IPv6だけでどこまで生活できるか」という実験を行ったWIDEの合宿について紹介、⁠メールやWeb閲覧など、たいていのことはIPv6オンリーで可能。SkypeやDropboxなど、ちょっと"うるさい"アプリはIPv6では無理だったが、あの村井純教授がとくに文句も言わずに過ごした(笑⁠⁠。4年前に同じ実験をしたときはとても仕事にならなかったが、現在は十分に可能なレベル」と評している。IPv4との変換はDNS64、NAT64で対応したという。

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その上で江崎教授は、現在PIアドレス(ISP経由ではなく、会社や組織が自前で取得したIPアドレス)をもっている企業や大学などは「IPv4の価値がなくならいうちに、データセンター事業者などIPv4の枯渇が死活問題になっている事業者に売却してあげてほしい」と訴える。JPNICは来年からPIアドレスに課金する意向を示しており、⁠売却するなら今のうち」とのことだ。

本来の「エコ」とは何かを考えよう

また②については、⁠企業のエライ人のほとんどはiPhoneとiPadで仕事が済む」と発言、オフィスで本当にデスクトップPCでの作業が必要な人はそれほど多くないとする。必要なサーバやデスクトップPCをできるだけ仮想化で集約し、さらにデータセンター事業者に預けるなどすれば、一般の従業員ですら「ノートPCすらいらない。シンクライアントで十分対応可能」だという。情報漏えいを防ぐ観点からも、シンクライアントのほうが断然安全だと強調する。

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震災以降、仮想化/クラウド化は節電にも効果が大きいとして、各ITベンダからもさまざまなソリューションが登場しており、企業の注目度も高い。だが江崎教授は仮想化/クラウド化や節電を進めることの意義を間違えないでほしいと語る。⁠我慢、忍耐、縮小 - これが節電や節約などの"エコ"のもつイメージだが、本来のエコは知恵、創造、成長を生み出すもの。たとえば東京大学では仮想化を一気に進めたことで前年比30%の省電力を実現した。これで余った予算を別のことに投入できる。もっといえば、エアコンの温度設定を25度にしたいという理由でIT機器の節電を図る、という考え方だってかまわない。シンクライアントも同じ。デバイスを手軽に持ち運べることで自宅でも仕事をすることが可能になる。我慢することが目的なのではなく、明るく涼しい部屋でたくさんの仕事量をこなすこと、それで人々が幸せになることが重要⁠⁠ - もたなくていいものはできるだけもたない、身の回りを可能な限りシンクライアント化することで生まれた余裕を、生産性向上に役立てることが、いまの日本には求められているとする。

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3.11では、携帯電話を含む電話回線の復旧に時間がかかったが、TwitterやFacebookなどのSNSは落ちることなく、情報発信をつづけていた。⁠回線自体は世界的にもまれにみる速さで復旧したが、その上で動くサービスである電話はなかなか復旧できなかった。だが、IPを話すバッテリ駆動型の携帯端末は問題なかった。また、会社のインフラがぼろぼろでもデータセンターがしっかりしていたからSNSは発信を続けられた」と語り、クラウド化がもたらす本当のBCPの意義に多くの人が気づくきっかけになったと評する。

なくなったもの、いらないものに執着せず、⁠知恵と勇気とICTで全産業のクオリティをアップする。それが"Japan as No.1"を取り戻す道となる」と最後に語った江崎教授。IPv4枯渇や震災による節電の流れをチャンスとして受けとめ、多くの企業が我慢をせずに知恵を絞ることが復旧につながるということを強く印象づけられた講演だった。

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