2011年11月1日、横浜みなとみらいパシフィコ横浜にて「Google Developer Day 2011 Tokyo」が開催されました。Google Developer Day(GDD)は、Googleが開催する開発者向けのテクニカルカンファレンスで、今年は世界で8ヵ国で開催され、ここ日本では5年連続5回目の開催となりました。
Google Developer Day 2011 Tokyo
http://www.google.com/intl/ja/events/developerday/2011/tokyo/
天候に恵まれ、秋晴れの下、開催された
朝9:00から開始した受付には多数の参加者が来場し、10:00スタートの基調講演前には長蛇の列ができていた
日本のGoogleの現状、震災復興に貢献できること
定刻10:00に基調講演が開幕。GDDが多くの開発者たちの注目を集めていることを裏付けるかのように、会場内は満席となりました。
満席となった会場
オープニングに登場したのは、Googleシニアエンジニアリングマネージャーの及川卓也氏。及川氏は「今回で5回目となる日本開催のGDDには、5,000名の方から参加申し込みをいただきました。ここにいる約1,500名の皆さんは、DevQuizを勝ち抜いた方、あるいは、普段から技術貢献をされている皆さんです。今日1日、ぜひ楽しみましょう」と、歓迎メッセージを述べ、開幕しました。
最初に登壇した及川卓也氏
具体的なキーノートに入る前に、これまでの日本のGoogleの取り組みが発表され、現在は、API Expertsが20名、GTUG(Google Technology User Groups)が8つ、GTUGメンバーが1,856名と、技術だけではなく、それを支えるコミュニティが健全に、順調に成長していることが発表されました。
公式ハッシュタグ「#gdd11jp」が用意され、参加者全員による情報共有・情報発信も行われた
また、ここ日本に関しては、2011年3月11日、東日本大震災という大変悲しい出来事が起きてしまったことに改めて触れ、「 私たちエンジニア自身がこの震災からたくさんのことを学び、未来につなげています」と述べられました。とくに、震災直後の情報共有、復興支援に向けた取り組みに対して、
オープンであること
スケールできるアーキテクチャを実装すること
アジリティ、迅速なアプリケーション開発が行えること
企業・団体の枠を越えた結束
という点の大切さです。「 ( エンジニアが)こうしたことを学びながら、日本の再生につなげていけると信じています。そういう思いも感じながら、今日1日のGDDをおすごしください」と、オープニングメッセージを締めくくりました。
次に登壇したのは、Cloud/Socialのプロダクトマネージャーでもあり、Google+ Platformのリードプロダクトマネージャーを務めるBrad Abrams氏。基調講演の内容の前提として、これまでのWebの歴史、そして、その中でのGoogleの位置づけについて紹介しました。
そして、今、Googleが注力しているのが、
Android
Chrome
Google App Engine
の3つのテクノロジーであること、そして、それらの中心となる人こそが最も重要であり、人と人との関係づくりを支援するのがGoogle+であると述べ、各テクノロジーの説明に移りました。
「2012年から先、Webがどうなるのかは誰もわからない。1つわかっていることがあるとすれば、中心には人がいるということだ」と、Brad氏はコメントした
Android―世界最大のスマートフォンOS
まず最初に紹介されたのは、今、スマートフォンに搭載されたOSとして世界最大数を誇るAndroid。プレゼンターはTim Bray氏です。
登壇してすぐに「Android端末を持っている人は?Android開発者はどのぐらい?」と会場内に質問を投げかけたTim氏。Android開発者の挙手を見て「まだまだ足りないよ」と、日本の開発者に奮起を促す一コマも
Tim氏がGoogleに入社した2年ほど前、Android端末は1日に6万台増えていたそうです。ところが、2011年初頭には1日30万台、そして今は1日に50万台増えているとのこと。つまり、2日で100万台増えつづけており、それらが137ヵ国で使われていることがどんなにすごいことか、また、開発者にとって喜ばしいことかという説明からスタートしました。
さらに、現在は世界中のAndroid端末に80億ものアプリケーションがインストールされていると言います。この点について「これだけの数、世界が広がっていることは開発者には大きなチャンスです」とTim氏はコメントしました。
「80億ものアプリケーションがインストールされている土壌があることは、開発者にとってはチャンス。しかし、見方を変えると悪いことでもある。つまり、それだけユニークで、すばらしいアプリケーションを開発しなければユーザには使ってもらえないからだ」( Tim氏)
Androidアプリのサンプルとして紹介されたセカイフォン 。言語認識および翻訳によるコミュニケーションが行える
さらに、この1年でのAndroid関連のトピックとして、
アプリごとのパーマリンクが用意された
キャリアからの直接課金が行えるようになった
In-App Billing(アプリ内課金)が行えるようになった
ことが紹介され、今まで以上に、ビジネスとしてのAndroidの可能性が広がっている点についても述べられました。
続いて、直近のホットトピックである、Android 4.0(コードネーム:Icecream Sandwich)が紹介されました。Icecream Sandwichでは、さまざまなAPIが用意され、NFCを利用した情報共有や、カメラAPIをアレンジしたFace unlock(顔認識による制御)などが行えるようになったことが、実際のデモを通じて紹介されました。
Icecream Sandwichの機能について、自身が開発したアプリケーションとともに紹介したDeveloper AdvocateのTony Chan氏
最後に、「 詳細はAndroid Developersのサイト から各種ソースコードが入手できる他、APIが解説されているのでぜひご覧ください」とコメントし、Tim氏のプレゼンテーションが終了しました。
Chrome―フロントエンド技術が広げるWebアプリの可能性
次は、再び及川氏が登壇し、Webブラウザ「Google Chrome」の最新動向、Webアプリケーションの可能性に関するプレゼンテーションが行われました。
「今、Webブラウザはの流れはモダンブラウザにシフトしています。世界で利用されているブラウザの67.27%はモダンブラウザで、ここ日本でも60.83%を占めています。ちなみに昨年の同時期、日本の(モダンブラウザの)シェアが40.78%だったことを考えると、モダンブラウザへの流れはゆるぎのないことです」と及川氏は説明しました。
その中で、全世界のChromeのアクティブユーザが2億人おり、その要因の1つは「開発者への情報、開発プラットフォームを充実させていること」とのこと。さらに、「 オープンな技術で実装されていることも非常に重要なことです」と及川氏は続けました。
今回はその中から、
3D Graphics
Device Access
Offline
の3つの技術にフォーカスを当てたデモが行われました。
Chromeを支える技術を紹介するデモを行った、Developer Adovocate北村英志氏
最初に、螺旋型の本棚アプリが紹介されました。フロントエンドにHTML5やJavaScriptを実装し、軽快なUI、豊富な情報量を提供できるものです。
螺旋型の本棚アプリ。自分が見たい本を探し出し、クリックすると書影や概要が表示され、さらにGoogle Booksとリンクしているので詳細まで見ることが可能になる
このアプリに関して及川氏は「これは単純な本棚アプリではなく、Webのフロントエンド技術とバックエンドのクラウドが融合することによってできた、今までにないユーザ体験を提供しています。Webブラウザを通じてあたかも本棚の前にいる状態で、Web上にあるすべての本の情報にアクセスできるからです。このように、Web標準技術を使うことでネイティブアプリでは実現できない世界/体験を表現できるようになりました」と、Webが持つ可能性、フロントエンド技術とバックエンド技術の融合から生まれる優れたユーザ体験を強調しました。
次に、開発者向けの機能として
WebIntents
Native Client
JavaScript and DOM
を紹介し、再び北村氏によるデモが行われました。
今回のGDDのために開発されたColor Picker。ソースコードエディタから直接操作できるパネルになっている
Chrome Developer Tools内のエディタで、ソースコードの変更履歴管理が行えるようになった
Web AudioやWebSocketsなどの入出力、リアルタイムに関するデモも行われた。このような複雑な表現、ユーザ体験の提供も着実に実装できるようになっている
これらの開発者向け機能については、昨年のGDDで上がった要望が反映されているとのこと。この点について、及川氏は「私たちGoogleは、今までにないもの、なかったことを新たに開発しているだけではなく、今までできてはいたが、( 開発者が)苦労していたこと見つけ改善し、開発をサポートし、開発者の生産性を上げることも目指しています」と、開発者の声を大事にしながら、技術を開発する姿勢、開発者への思いとともにプレゼンテーションを締めくくりました。
App Engine―迅速なアプリケーション開発を支えるクラウド
フロントエンドにつなぐ技術として続いたのが、Google App Engine―クラウド技術です。こちらも再びBrad氏が登壇し、Google App Engineの最新動向を、実例とともに紹介しました。
「App Engineの良い点は、すでにあるスキルセット(PythonやJava)を利用できる点」とBrad氏は紹介し、すでに20万以上ものアプリケーションが、App Engine上でアクティブに動いていることが紹介されました。
「PythonやJavaなど、開発者の技術をそのまま利用できることはApp Engineの強みの1つ」( Brad氏)
さらに、その実例として、Angry Birds Chrome やPerson Finder が紹介されました。
gihyo.jp読者の皆さんもご存知のAngry Birds。これもバックエンドにApp Engineが利用されている
「99.95%のSLAを実現していることは注目に値する」と、堅牢性についても触れられた
今回のApp Engineのプレゼンテーションの中で、とくに注目したいのが「Google Cloud SQL」です。プレゼンターに、Developer Advocateの松尾貴史氏が登壇し、匿名掲示板およびGoogle+との連携デモを行いながら、Cloud SQLを紹介しました。
「App EngineにようやくSQLが来ました。期待していた人、拍手を」と会場内を煽り、たくさんの拍手が起きると「ヤル気が出てきました!」と、勢い良くCloud SQLを紹介した松尾氏
Google+―中心は「あなた」
Brad氏は、App Engine、Cloud SQLのデモからそのままGoogle+の紹介へ移りました。「 もともと、( Google創業者の)LarryもSergeyもユーザにフォーカスすることを考えていました。その精神は今も変わりません。そして、生まれたのがGoogle+です」と、Google+が、Google創業者の考えを踏襲していることから説明に入りました。
「しかし、当時と今では、ユーザのニーズは変化しています。その変化の1つは、( ユーザの)情報の共有の仕方です。Google+は、中心に“ あなた(You)” を据え置くことが前提となっていて、その上でユーザ自身のささやき(限定されたコミュニケーション)も、叫び(パブリックなメッセージ発信)も実現できる、そういう場の提供を実現しています。それが、Google+の中心機能である“ Circles” です」と、例えを交えながら、Google+の特徴の1つ、Circlesを解説しました。
Google+の最大の特徴は「あなた」が中心にいること
また、「 まだあまり使われていないかもしれませんが、Hangouts(ビデオチャット)はGoogle+の醍醐味の1つ。とくにお酒を片手にしながら使う時の楽しさは格別(笑) 」と、Hangoutsについても紹介しました。
Google+プラグインを利用して開発されたHangoutsアプリ。ロボットが動きながらコミュニケーションが図れる。日本仕様ということで桜吹雪のアレンジも
最後にBrad氏、一般公開後、4,000万のユーザに到達したこと、すでに34億枚もの写真データが公開されていることなどの数字に加えて、今後はプラグインやAPI、各種エクステンションの拡充からGoogle+を発展させていくと約束しました。
そして「Google+を通じ、人と人、技術を組み合わせることで、皆さんの情熱からイノベーションが生まれることを期待します」と、日本の開発者への熱いメッセージを述べ、終了しました。
日本から世界を目指して
以上、Android、Chrome、App Engine、そしてGoogle+と、今のGoogleを象徴する技術紹介が終わった後、最後に、アジア太平洋地域 地図製品開発本部長の徳生健太郎氏が登壇し、Googleの3つの考え方を紹介しました。
1つめは「なにごともエンジニアありき」であること。つまり、エンジニアがいないと何も生まれない、そのカルチャーを日本にも植えつけ、サポートしていくとのこと。
2つめは「百聞は一デモに如かず」 。これは、とにかくまず手を動かす、そこから、次の積極的なステップへ持ち込めるという考え方です。
最後に、「 日本で「イケる!」と思ったら、世界のみんなも同感するかも」 、この考え方を大切にしてもらいたいというもの。これは、日本国内に閉じず、日本ならではの良さ、日本からの発信を積極的に行ってほしい、という思いが込められています。
これからも、どんどん日本から世界へ、と熱いメッセージを送る徳生氏
徳生氏はこの3つを紹介した後、「 GDDというのは、毎年開催する国の組み合わせが変わっています。その中で、日本は5年連続行われています。これは評価されていることでもあり、私たち日本のGoogleとしても光栄であり、誇りです。開発者の皆さん、開発コミュニティの存在があってこそです。ぜひ、この誇りを持って1日をおすごしください」と述べ、2時間にわたる非常に濃密な基調講演の幕が下りました。