1月17日、東京、青山ダイヤモンドホールにて、( 株)IDCフロンティア主催の特別講演会が開催され、米RightScale, Inc. CEOのMichael Crandell(マイケル・クランデル)氏、および旧Cloud.com CEOで現Citrix Systems, Inc. CTO,のSheng Liang(シェン・リャン)氏による講演がありました。この模様をレポートします。
講演会冒頭の挨拶に立つ( 株) IDCフロンティア代表取締役社長 真藤 豊氏
われわれは“クラウドのAppStore”を目指す─Michael Crandell氏講演
最初に登壇したRightScaleのCrandell氏は、6年前に誕生し、クラウドコンピューティングの拡大とともに成長を遂げてきた同社の歩みについてまず語り始めました。2006年、Amazon Web Service(AWS)が立ち上がった直後は、まだ「クラウド」という言葉も使われていません。このとき同氏は、この新しいインフラを見てITで「革命が起こる」と確信したそうです。
また同時に、クラウドインフラに管理レイヤが存在しないと感じ、これを埋めるための企業としてRightScaleは生まれました。同社の本社は南カリフォルニアですが、東京、ロンドン、シンガポールにも支社を持ち、IDCフロンティアやAWSをはじめ、全世界で7つのクラウドサプライヤに対応したシステムを提供しています。
同社の技術はこうしたクラウドサプライヤとユーザアプリケーションの間に立ち、クラウドの機能を自動的に利用できるものです。たとえば、サーバ負荷が増えると自動的に起動するサーバ(ノード)を増やすオートスケーリングや、OSやクラウドの利用形態をある程度モデル化してサービスの開始や運用を手軽にする“ サーバテンプレート” 機能、あるいはユーザ管理やセキュリティインシデントにともないアクションを起こしたり、利用コストをモニタできるガバナンス機能等々…。
つまり、クラウドを利用したいユーザが手軽に始めることができる「クラウドレディ」なサービスを提供するのが同社のミッションです。「 それはクラウドにおけるAppStoreです」( Crandell氏) 。
Michael Crandell氏
同社がこうしたサービスを提供、維持するためにはクラウドサプライヤとのパートナーシップは非常に重要になります。同社が日本でのパートナーとしてIDCフロンティアを選んだのは次の3つの理由があるからだそうです。
過去の実績から見えるサービスや障害対応の質が高い
国内に3ヵ所のデータセンターを持ち、かつそれぞれが高速に接続されているので、実用的なバックアップを別のセンターに保つことができ、高可用性を提供可能
既存の顧客の質が高い
こうしたインフラに支えられているからこそ、より上位のレイヤのツールなどを高度に統合、運用することが可能になったとCrandell氏は語ります。「 ダッシュボードのメニューなどがすべて日本語化しているところも評価してください」( Crandell氏) 。
また、クラウドインフラの整備は世界的に進んでいる点も指摘し、最近はメジャーなパブリッククラウド、プライベートクラウドとこれらを組み合わせたハイブリッドクラウドといった形態から、クラウドベンダ、地域、パフォーマンスやコンプライアンス、価格などを自由に組み合わせる手法が一般的になっていると述べました。同社のユーザも、現在はその84%が「マルチクラウド」と呼ばれる複数のクラウドサプライヤの利用者となっています。
最後に、同社の顧客事例がいくつか紹介されました。たとえばネットゲームのインフラとしてクラウドを利用しているZyngaは、RightScaleの技術を利用してAWS単一からマルチクラウド環境に移行し、大幅なコスト削減を達成したとのこと。
このほか、おもちゃメーカのマテル(Mattel Inc.)は、同社の「American Girl」という人形シリーズのサイトで、クリスマスシーズンに爆発的に増えるアクセスをクラウドによりスマートに処理できたり、ソニーミュージックのサイトでは、アーティストの逮捕(!)や、コンサートツアーの情報を得るための突発的な大量アクセスによる負荷に、分単位で対応できるシステムを提供できたと言います。よくクラウドのメリットとして挙げられる、平常時とピーク時の利用度の差が激しいサービスでの利用がやはり効果的なようです。
Crandell氏の講演後、IDCフロンティアより2012年2月から開始されるというRightScaleのテンプレートを使ったデモが披露されました。
仮想化、ハイパーバイザがなくてもクラウドは利用できる─Sheng Liang氏講演
続いて登壇したSheng Liang氏は、クラウド基盤構築システムCloudStackを擁するCloud.comを創設、2011年7月にCloud.comがCitrixに買収され、現在は同社のクラウドプラットフォーム担当CTOを務めています。Liang氏も、2008年にCloud.comを立ち上げて以来のクラウドコンピューティングの歩みを振り返りながら、同社の取り組みを紹介するものでした。
2008年といえばわずか3年前ですが、その当時もクラウドコンピューティングをきちんと理解している人は非常に少なかったと同氏は言います。その頃から仮想化の技術はあり、データセンターなどではサーバ用途で利用されていましたが、そのスケーリングには限界があり、オーバーヘッドも大きいものがあります。
さらにディザスタリカバリ(DR)面での不安もあると指摘します。実際に2011年9月に起こったAWSの大規模障害を例に挙げ、クラウドを利用するならその程度の状況をあらかじめ想定しておく必要があると説きます。しかし現実にそこまで備えたバックアップや自動化されたDRのシステムを構築すると非常にコストがかかり、巨大なサービスプロバイダや企業以外では採用できません。
同社はこうした問題を解決すべく、オープンソースベースのクラウド構築ソフトCloudStackを開発、社内でクラウド基盤を開発できないような、一般企業でもクラウド環境を構築、利用できる手伝いを行ってきたと言います。
そして今後はさらにクラウドの利用が爆発的に広がることを示唆します。一例として、IDCフロンティアの主要な顧客であるエンタープライズカスタマーの存在に言及しました。「 3、4年間にクラウドにエンタープライズのワークロードを流すなんてセキュリティ的にもDRの面からも“ とんでもない” と思われていました。それが今では“ クラウドを使わない手はない” に変わっています」( Liang氏) 。
さらにハイパフォーマンスコンピューティング、グリッドコンピューティング、学術系の負荷の高い計算など、クラウドを利用することで大きな成果を挙げることができる分野を挙げ、柔軟性や拡張性に富んだCloudStackはこうした需要によくマッチしている点を強調しました。
Sheng Liang氏
そして、昨年のCitrixによる買収に触れました。Liang氏によると、サーバ分野でのクラウド利用の多くは非常に少ないインスタンス数で実現できてしまうとのこと。「 ZyngaやDeNAといった巨大規模のサーバ群が必要なユーザは一握りしかいません」( Liang氏) 。
これに対してデスクトップベースで仕事することが多い企業は非常に多いといえます。Citrixの売り上げの60%がデスクトップから上がっていることを考えると、これをクラウドに乗せない手はないと考えました。また、デスクトップというのは案外リソースサイズが大きいものです。一人で数ギガのリソースを使います。こうしたインスタンスをクラウドに乗せることで、短時間で新たなデスクトップを構築するなど、非常に柔軟な運用が可能となります。
こうした新たな試みを含め、今年が今後クラウドを普及させるための転換点となり、同社が提供するようなツール、フレームワークがますます充実していくことで、飛躍的にクラウドの普及は進むと語り、講演を終えました。