「オラクルがベンダロックイン? ありえないね」ラリー・エリソンのキャラ立ちっぷりに感動!Oracle OpenWorld Tokyo 2012基調講演レポート

4月4日から6日までの3日間、東京・六本木を文字通り真っ赤に染めて開催された「Oracle OpenWorld Tokyo 2012⁠⁠。2日目(4月5日)の基調講演にはOracle CEOのラリー・エリソン(Larry Ellison)氏が登場しました。同氏といえばIT業界きってのdisりキャラ…もとい、ストレートな物言いがその魅力でもあります。ライバル企業への批判を、なんのためらいもなく口にできる舌鋒の鋭さは、親友の故スティーブ・ジョブズを彷彿とさせるところも。メディアにとっても見出しになりやすい発言をいつもしてくれるので、非常にありがたい存在です。

今回の基調講演も、短い時間ながらそんな同氏の魅力を最大限に感じられるものでした。本稿では基調講演でのエリソンCEOの"キャラ立ちぶり"を発言を中心にまとめてみました。なお、文中ではあえて同氏の愛称である"ラリー"を使わせていただきました。

エリソン氏の講演はなぜか? 京都のサテライトからのライブ中継
エリソン氏の講演はなぜか? 京都のサテライトからのライブ中継

OracleはエンタープライズのAppleを目指す

ジョブズとは25年来の親友だったというラリー。昨年10月、サンフランシスコで開催されたOracle OpenWorld 2011のさなか、自身のキーノートスピーチ後にジョブズの死を知らされたラリーはしばらく放心状態だったと伝えられています。

今回の基調講演でもジョブズやAppleを称える発言が随所に見られました。冒頭の「iPhoneという次世代のシステムを作ったことでAppleは世界で最も価値のある企業になった」に始まり、

「スティーブのアイデアはいつもシンプル。PCの世界でIntelやHP、Microsoftが三者三様の動きを取り、そのしくみはどんどん複雑化していった。彼は、Appleにはハードもソフトもサービスも自社で開発する力があるのだから、PCのマネをする必要はない、重要なのはフィット感だとして、1社ですべてを提供した。それが奏功した」

「ハード、ソフト、サービスをまとめてエンジニアリングしたことで、少ない研究費で最大の利益を生む製品を作り上げた」

「トヨタのレクサスにはすばらしいレインシールドがある。わざわざポルシェのものに置き換える必要はない。ITの世界も同じ。独自のインテグレーションのほうがフィット感ある製品を作り出せる」

「AppleがHPやIntelを目指さなかったように、OracleもIBMと同じである必要はない」などなど…。

そしてOracleもまた、Appleと同じようにエンタープライズの世界で⁠ハード、ソフト、サービスをまとめてエンジニアリング⁠する方向性を強く打ち出しています。⁠Engineered Work Together」とはSun買収以来、Oracleが掲げているポリシーですが、それを具現化した最初の製品が2008年リリースの高速データベースマシン「Oracle Exadata」です。

すべてを並列化することで超高速を実現したExadata

Exadataおよびその他のExaシリーズについての詳細はここでは割愛しますが、Exaシリーズの最大の売りはそのパフォーマンスです。基調講演中、ラリーが何度も強調したのは「すべてを並列化した」ということ。メモリやディスクなどハードウェアまわりだけでなく、ミドルウェアもソフトウェアもネットワークすべてを並列に扱うアーキテクチャにこだわって生まれたのがExaシリーズです。

Intel Core168個!フラッシュストレージ5.3T!を誇るExadata
Intel Core168個!/フラッシュストレージ5.3T!を誇るExadata

「世界最安値のDBマシンがExadata。同じ事をIBM製品で実現しようとすればいくらかかることか」

「何千台ものIntelマシンと1台のExalogic、どちらにメリットがあるかははっきりしている」

「Exadataのラック1台で実現しているI/OをEMCで実現しようとするならこの壁いっぱいのラックが必要になる」⁠いままでにない速さを求めるなら、ハードとソフトを一緒に開発しなければ無理」

「ネットワークにEthernetではなくInfiniBandを選んだことでモダンな並列ネットワークが実現した」

なぜここまで並列化にこだわったのか。ラリーは「並列化のメリットはシングルポイントフェイリャーがないこと。真の意味でフォルトトレラントな世界」であると強調しています。Exaシリーズのアーキテクチャは特殊なように見えて、汎用的で安価なコンポーネントを数多く使っています。このあたりもAppleのiPhoneに近いアーキテクチャと言えるのかもしれません。

インメモリはOracleが先駆者、SAP HANAは未熟なアーキテクチャ

Exaシリーズに昨年加わったビッグデータ分析アプライアンスOracle Exalytics In-Memory Mashineは、買収したTimesTenのインメモリ技術を搭載しています。現在、エンタープライズの世界でバズワード化しつつあるインメモリですが、この分野で市場をリードしているのがOracleのライバルSAPのSAP HANAです。

このSAP HANAについて、ラリーは「HANAは未熟な技術。本番環境で使用する顧客はわずか」といきなりばっさり。⁠完成度、スケーラビリティ、業務継続性、コスト、リスク管理、どれをとってもExalyticsのほうが上」と断言、続けて「HANAはただのインメモリデータベース。分析ソフトは別に必要で、アプリケーションもイチから書きなおさなくてはならない。既存の資産を活かせるExalyticsとは大きな違い」と、Exalyticsのほうが市場優位性が高いことを強調します。

強気のコメントが並ぶ「Exalytics vs. HANA」比較表
強気のコメントが並ぶ「Exalytics vs. HANA」比較表

個人的な話で恐縮ですが、筆者が国内のエンタープライズ事情を取材している限り、SAP HANAの最近の成長はいちじるしく、どちらかというとExalytifcsがHANAのあとを追いかけている印象をもっていたのですが、どうもラリーの発言を聞くとそうではないようす。ここはぜひ、SAPの反論を聞きたいところです。

Oracleはベンダロックインじゃない! IBMとは違う!!

Q&Aコーナーでは来場者から「IBMのようなベンダロックインがOracleでも起こるのではないかと心配している」という質問が。これに対し、ラリーはまるで待っていましたとばかり「我々は断じてロックインではない。IBMと同じような失敗はしない」ときっぱり。強い語気にサテライト会場の東京の聴衆も思わず息を飲み込みました。

ベンダロックインという言葉は、IBMやOracleのような企業に対してよく使われます。それはラリー自身もよく知っているはず。それに対し全社員の声を代表して「Oracleはベンダロックインではない」と公の場ではっきり言い切れるところに、流れの速いITの世界で30年以上にわたってCEOを務めてきたラリーの強さを感じます。

「我々が顧客に提供するのは選択肢。ほかに良い製品があればもちろん、Oracle製品をずっと使ってもらわなくてもいい。Oracle製品は他社製品やOSSにつながるスタンダードでオープンな仕様であり、ベンダロックインではないことはあきらか。IBMと同じ道は辿らない」

「他の製品を使ってもらって構わないよ。Oracleより優れたものがあるならね」
「他の製品を使ってもらって構わないよ。Oracleより優れたものがあるならね」

また別の質問で、Javaに対しての見解を聞かれたラリーは「ライバルのSAPもIBMも、パートナーの富士通も、そして数多くのオープンソースコミュニティもOracleがJavaを保持していくことに賛成してくれているし、Javaの良いパートナーとして理解を示してくれている。ただ1社だけ違うのはGoogleだ。どうもGoogleは自分がJavaに対しての正当な権利をもっているとでも思っているらしい。近いうちに裁判ではっきりさせるがね」と回答。対Googleでも一歩も引かない構えを見せています。


京都からのサテライト中継という、一風変わったかたちで開催された今回の基調講演。日本文化に深く傾倒しているラリーは京都が大のお気に入りのようで、その点でもスティーブ・ジョブズとよく似ています。歯に衣着せぬ発言が取り上げられがちなラリーですが、それもエンタープライズITの世界を30年以上ドライブしてきた実績と自信があってこそ。日本企業はおろか、グローバルを見渡してもこれほど際立ったトップはごくわずかです。もうしばらくはそのままのキャラで、エンタープライズの世界に煽り…じゃなく話題を提供し続けていただきたいと切に願います。

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