NHN JapanのLINEに関するキーノート で幕を開けた2012年春のIVS。その他にも興味深いセッションが数多く設けられていましたが、今後のソーシャルゲーム業界の動向、IT企業の制度や社風についてのセッションを中心に振り返ってみたいと思います。
今年末がグローバルでのモバイルソーシャルゲームサービス勝負の最後のとき
昨年から引き続き、ソーシャルゲーム関連企業の登壇が多かったIVS。「 グローバル・スマートフォンビジネスの「金脈」を探る(ゲーム編) 」と題したセッションではグリー取締役で国際事業本部長の青柳氏がGREE InternationalのSVP、Shanti Bergel氏と今年5月にグリーが買収したFunzio社の社長Anil Dharni氏と共に登壇し、海外のソーシャルゲーム市場について語りました。
グリー取締役国際事業本部長青柳氏
左側:Gree InternationalのSVP Shanti Bergel氏。右側:Funzio社 社長Anil Dharni氏
サンフランシスコに拠点があるグリーのアメリカオフィスの従業員はすでに400名に達しており、Zombie Jombieなど海外向けのタイトルが開発されてリリースされています。青柳氏によるとアメリカではiPhone/iPod touchでアイテム課金市場の50%を占めており、iPadもAndroidマーケットの2倍程の市場があるといいます。iPhone/iPodが54%、iPadが30%、Androidが16%という内訳です。iPad市場が米国では非常に大きく、iPhone/iPodとiPadを加えたiOS全体では84%にも達しています。
iPadの市場がAndroidの二倍もある米国のアイテム課金市場
青柳氏は「グローバル市場においても日本で起こったようなカードバトル型の高ARPU(Average Revenue Per User)の市場へと米国でも移行している段階である」と見ており、「 日本では2010年から2012年にかけてサンシャイン牧場から、ドラコレを代表するカードバトル系のゲームへと移行してきた。米国でもFarmvilleやカジュアル系ゲームからRPGやカードバトル系の高ARPUゲームに市場が移行してくるのではないか」と語りました。こうした高ARPUゲームは有力プレイヤーによる寡占化が進むと青柳氏は考えており、上位プレイヤーによる中位プレイヤーのM&Aが今後活発してくるといいます。グリーがFunzio社を買収したのもまさにその一例といえるでしょう。
牧場系ソーシャルゲームからRPB、カードバトル系ソーシャルゲームに移行が進むと思われる米国市場
寡占化が進む米国のゲーム市場
青柳氏はこうしたソーシャルゲーム市場におけるトレンドの移行、そして寡占化が進む中、次の6ヵ月が大きな変化の節目となるといいます。「 今年のグローバルソーシャルゲーム市場は日本勢のソーシャルゲーム海外展開とFacebookのソーシャルゲームがスマホ向けに年末商戦でぶつかる。ここがソーシャルゲームでグローバル市場を攻める最後の時期になる」と述べ、ソーシャルゲーム業界の人は今すぐ動くべきと会場の参加者に呼びかけました。
また別の「ソーシャルゲーム業界 本音トーク」と題したセッションにおいてはgumi代表取締役の国光氏が「ニッポンは全体的に暗い。だから日本のベンチャーは足の引っ張りあいをしないで皆で協力して外に出て大きくなって日本を明るくしないと。僕の会社もそのためにもう一回赤字にするかも(笑) 」と語り、今後のグローバル展開に向けて強い意欲を見せていました。
仕事へのモチベーションを妨げないためのフリーランチ
「成長企業の組織・チームマネジメント」と題したセッションでは、ヤフー、サイバーエージェント、グーグル、リクルート、チームラボ各社の制度や社風についてマネジメント層によるパネル・ディスッカッションが行われました。
左側からモデレーターのKLab社長真田氏、グーグル製品開発本部長徳生氏、リクルート執行役員出木場氏、サイバーエージェント取締役人事本部長曽山氏、ヤフーCEO川邊氏、チームラボ社長猪子氏
グーグルは社員数が全世界で32,000人、日本では1,000人ほど。エンジニア職では男性が圧倒的に多いもののそのほかの職種では女性が4割ほど。リクルートは社員数が6,000人で男女比は4対6と女性のほうが多いのが特徴となっています。サイバーエージェントは社員数2,400人、男女比が6対4、ヤフーは社員数が5,000人で男女比が7対3。チームラボは社員数が300人弱で「男女比についてはよくわからない」と個性豊かな社長として知られる猪子さんらしい回答。
グーグルは自己主張が強い人が多く、昇進するのは「どういった難しいことを可能にしたか」が指標になるそうです。また上司が部下の商品を決めることができず、上司だけでなく周りや同僚など総合的なレビューによって昇進が決められるという仕組みになっています。ページランクのアルゴリズムを思わせるようなグーグルらしい評価制度です。
グーグルの製品開発本部長の徳生氏によれば、「 やりたいことがあってグーグルにきている人がきている。モチベーションはもともとあり、給料を下げてでもくる人も多い。だから一回グーグルに入ったらそのモチベーションを妨げない工夫をしている」ということで、フリーランチや無料のお菓子も仕事に集中してもらうための工夫といえるそうです。グーグル社内にはロッククライミングの壁やカラオケルームが用意されており、昼間に歌っていても怒られないそうですが、実際にはあまり利用する人はいないということ。
オンライン上の社内名簿で社員一人一人がどんなミッションを持っているか、どんなゴールを持っているかが社内に公開されており、「 横の透明度が高いから仕事をしていないとすぐわかる」ため、仕事への意識が高く正の循環が生まれているようです。
3年で辞めるという人を採用。高いモチベーションは圧倒的な当事者意識から
続いてリクルート執行役員の出来場氏は、3年で辞めますという人を採用していっているというエピソードを披露しました。また優秀な人でも辞めたいですと言った人を引き止めたことは一度もないそうです。
「優秀な人から辞めていって、優秀じゃない人だけが残るというのはないの?」という会場からの質問に対し、「 リクルートの社内制度の元になっている風土は起業家精神。『 もし、あなたが経営者だったら』という当事者意識を持たせるために徹底敵に権限を委譲している。高いモチベーションは圧倒的な当事者意識から生まれる」とリクルートの強さが当事者意識を社員に持たせることにあると答えました。
リクルートの中間マネージメント層の強さは権限をマネージャーに与えて、 マネージャーに決めてもらうことで当事者意識を持たせるということが秘密のようです。「 できるだけ上が決めるということを無くす。もし上の人が下にまかせられないなら、その人を代えなきゃいけない。まかせてミスが発生した場合はまかせたもの同士で責任をとる。来月から自分がいなくなった時を意識して、次を育ててくれと自分も言われて育ってきた」と出来場氏は語りました。
「やりたいことあるならリクルートに、ないならやめればいい。理想はひとりひとりが独立して自分の会社をつくるのがいい。30歳以降は残って格好悪いというカルチャーがある」そうで、これが絶えず自己変革を促していくリクルートの風土の源となっているようです。また辞めていった人との繋がりが切れてしまうわけではなく出戻りも多く、「 かもめという社内報をOBの人にも送っており、社員6,000人にも関わらず2万部を発行している。OBの人のほうが現役の人よりもよく読んでいて愛情があるダメ出しが外部から多い」のだそうです。
リクルートを参考にしたというサイバーエージェント。そのCAとは対照的なチームラボ
そのリクルートの制度を参考にしているというのがサイバーエージェント。 リクルート出身者が創業したインテリジェンス社で働いていたのがサイバーエージェントの社長の藤田氏であり、 サイバーエージェントの取締役人事本部長曽山氏によると社内事業公募制度『じぎょつく』はリクルートの『NEW RING』という制度からヒントを得たものであり、『 ヨミ表』 、『 詰める』といった社内用語もリクルートと共通のものだそうです。
採用にあたっては、人事スタッフも同席し、能力だけでなくサイバーエージェントという社風にあうかを見ていると話したところ、チームラボ社長の猪子氏からは「うちの会社には人事いないっすね。ほかの会社の人事は何をしているんですかね」と、 するどく突っ込み。
チームラボでは、専門職ごとに専門職の人が採用しており、「 データベースの人を採用するんだったら、データベースの人がどこにどう募集すればいいか分かるからデータベースの人が応募したほうがいいし、データベースの人が面接したほうがいい」と持論を展開していました。
ヤフーは頑張らない社風。でもこれからは『爆速』に
今年役員陣が新たに入れ替わり、新CEOに就任したヤフーの川邊氏からは、「 ちょっと前のヤフーと今のヤフーが違う」と、新旧2つのヤフーの社風を紹介しました。今までのヤフーは「いかに敵を作らないようにするか。あんまり頑張る社風じゃなく合理的にやって儲かるようにしようよという感じだった」そうです。「 今まではスピードよりも整合性が取れる人が評価されていた。管理職200人を入れ替え、今後はとにかく速く動くことを重視して『爆速』をキーワードにしている」とキーワードがプリントされたTシャツとともにアピールしていました。
爆速Tシャツを着るヤフーCEO川邊氏
こうした大勢の管理職の入れ替えは社内で反発を生むのでは、と考えてしまいますが「マネージャーは基本的に配役。ヤフーは幸い、 役職給がなかった。降格になっても給与は変わらない」そうで、「 今までは意識決定できる人が育ってなかったんじゃなかったかなという認識。新しい人達にコーチングとフィードバックの手法を教えて、育てられるマネージャーを増やしていきたい」と川邊氏は述べました。
このマネージャーの育成手法は川邊氏がGyaoの事業を任せられていた3年間、「 マネージャーに統一した能力を持ってもらおうと思った」ということによる試みとして大きな成果をあげたものであり、この成功例を今ヤフーで大々的に展開しているようです。
お洒落なプールバーは不要。必要なのはシリコンバレーが田舎だから
こうした社内制度の紹介から、チームラボ社内で行われているというお菓子販売のエピソードに話が広がりました。チームラボでは自動販売機の前にお菓子が売られており、猪子社長によると「制度じゃなくて社員が買ったお菓子を置いて売っているだけ。誰がやっているかわからないけど最近社内競合ができて別の場所でお菓子を売る人も現れた」そうです。
猪子氏の軽快なトークは止まらず「カラオケルームやプールバーがあるオフィス。ああいうのはポーズですよね。オフィスは仕事するためにあるのに。オフィスがお洒落でしょ、っていうため。おぞましい。すぐ隣にもっといいバーがあるのに」と持論を紹介すると、ヤフーCEOの川邊氏は「シリコンバレーは周りに何もないから、オフィスの中に遊び場があると便利だからあるだけだよね」とすかさずフォローするという場面も最後に見られました。