世界最大のオープンナレッジイベント「OKFestival 2012」参加レポート

2012年9月17日から22日までの6日間、北欧フィンランドの首都ヘルシンキにおいて、1,000名以上の参加者を集めた世界最大のオープンナレッジに関するイベントOKFestival 2012が開催されました。

オープンナレッジとは、簡単に説明すると、オープンなデータ、アイデア、テクノロジーをつないだ知識の共有といった意味となるでしょう。その具体的な事例は、みなさんがご存じのオープンソースソフトウェアとなります。

本稿では、OKFestival 2012に参加した筆者によるレポートをお届けします。

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主催側のRufus Pollock氏へのインタビュー

このフェスティバルは、Open Knowledge Foundation、Aalto Media FactoryとFinnish Institute in Londonがオーガナイザーとなり開催したものです。その中でも中心となっているOpen Knowledge Foundation(OKF)は、2004年にRufus Pollock氏によって設立された英国のNPO法人です。

今回は特別に、Pollock氏にインタビューすることができました。彼によれば、90年代のオープンソース運動に触発されて、OKFを設立したそうです。それは、OKFのサイトにある「オープンの定義」にも表れています。この定義は、オープンソースイニシアティブが定義する「オープンソース」をベースに決められたそうです。

Rufus Pollock氏
Rufus Pollock氏

「オープンな知識とはテクノロジーがなくても、今まで存在していたのではないか」ということを聞いたところ、Pollock氏は「デジタルになることで、非常に安価に情報を保存し、共有できるようになったことが大きな違いだ」と言います。話をしていて本当に熱く伝わってくることは、彼が「オープンの持つ力」を本当に信じているということです。

OKFには、ストリームと呼ばれる大きなトピックを扱った活動と、各国のチャプターと呼ばれる支部活動があります。Pollock氏によれば日本のチャプターも、最近正式に承認されたよ」ということで、⁠非常に大きな期待をしている」とのことでした。

OKFestivalとは?

それでは実際に、OKFestivalの内容を紹介しましょう。

OKFestivalは、2004年から開催されているフェスティバルです。今回の開催都市は、ヘルシンキです。ヘルシンキといえば、Linuxの父「リーナス・トーバルズ」の出身地です。まさにオープンソースの聖地の1つといっていい場所かもしれません。

フェスティバル会場として、使用されたのは、アアルト大学です。大学の名称であるアアルトとは、世界的建築家であったフィンランド出身アルヴァ・アアルトにちなんだ名前です。そのためか、ビジネス・経済・工学部だけでなく、芸術学部を持つ総合大学です。メイン会場は、芸術学部があるキャンパスのため、建物のデザインはいうまでもなく、教室も非常にクリエティブな感覚があふれていました。それは、フェスティバルの参加者を示す名前が刻印されたネームプレートを見ても、感じていただけるでしょう。かなりシャレています。

アアルト大学
アアルト大学
メイン会場外観
メイン会場外観
フェスティバル参加者の名前が刻印されたネームプレート
フェスティバル参加者の名前が刻印されたネームプレート
当日のランチ風景
当日のランチ風景

フェスティバルは6日間、13の主要テーマに沿って行われました。オープンソースは、その主要テーマの1つです。それ以外に、ジャーナリズム、ダイバーシティなどさまざまなテーマがあり、多岐にわたったものでした。今回のレポートでは、主に3つの分野に分類して紹介します。

  1. オープンソースソフトウェアへの取り組み
  2. オープンソースを活用した事例
  3. 女性を中心にしたジェンダーやダイバーシティに関わる課題

1.オープンソースソフトウェアへの取り組み

「Open procurement - by the rules or bend the rules」と題されたセッションでは、主に政府や自治体の調達についてのディスカッションが行われました。スピーカーは、ヘルシンキ市ITディレクターMarkku Raitioさん、Free Software Foundation(FSF)ヨーロッパ代表Karsten Gerloffさん、Open Source Consortium議長Gerry Gaviganさんです。リレー形式で、公共団体においてのITシステム調達の課題についてプレゼンテーションを実施しました。

ヘルシンキ市のRatioさんは、市ではオープンソースの採用だけなく、APIを公開することで、ヘルシンキ市の持つデータを公開していると言います。政府や自治体が持つ統計データなどを公開し、自由に活用するオープンデータという動きが世界的に注目を浴びています。IT先進国であるフィンランドの首都であるヘルシンキにおいても、そのトレンドに遅れずに取り組んでいるようでした。

Gerloffさんが代表を務めるFSFヨーロッパは、GNUプロジェクトで有名なリチャード・ストールマンが設立したFree Software Foundationの公式の姉妹団体にあたります(FSFとFSFヨーロッパは法律面、財政面から別の団体⁠⁠。フリーソフトウェアの大切さを紹介するとともに、それを阻害するいろいろな動きを紹介しました。

英国に拠点を置くOpen Source Consortium議長であるGerry Gaviganさんは、公共団体は、オープンな標準(Open Standard)に基づくテクノロジーを採用することにより、独占的な技術に基づいたテクノロジーの採用に比べて、低コストかつ、イノベーティブなシステムを構築できるという趣旨を話しました。しかし実際には、日本と同様に過去の実績に基づいて、オープンな標準でないテクノロジーが調達されることも多いそうです。Gaviganさんの口の端々から、非常に説得に苦労している状況が垣間見えました。

しかし、⁠オープンな標準」とは、何かということを定義がはっきりしないところもあったので、質問したところ、ヨーロッパにおいても議論があるようでした。そのため、Open Source Consortiumでは、⁠オープンな標準」を定義し、今年の4月に次のPDFを公開したそうです。

「How NOT to do open source - community manager's view」と題されたセッションでは、地元のWant3D社CEOで、フィンランドのMeeGoコミュニティのリーダーでもあるJarkko Moilanen氏が、経営者とコミュニティリーダーの2つの視点から、どのようにオープンソースコミュニティとつきあっていくとよいかということをプレゼンテーションしました。

企業としては「すべてをオープンソースにする必要はない」が、⁠スタッフを教育する必要がある」こと。また、オープンソース開発者を採用すること。標準時間だけ勤務する開発者もいれば、24時間開発を続ける開発者もどちらも、企業にとっては必要であること。コミュニティを定期的に評価し、場合に応じては外部からコミュニティマネージャーを採用することなどが、オープンソースとのつきあい方であると紹介しました。

このセッションでも、今まで商用ソフトウェアを中心にビジネスを行っている企業が、オープンソースの時代となり、どのように対応していったらいいかということを、まだまだ模索している模様が見て取れました。

2.オープンソースやオープンデータを活用した事例

今回のフェスティバルでは、たくさんの事例が発表されています。オープンソースを使っていることは基本です。また、データがオープンになっていることも基本です。IT系のイベントでは、事例といえばその採用したアーキテクチャーが中心となったセッションが多くなります。しかし本フェスティバルでは、どのようにして、それらのソフトウェアやデータを使って、ナレッジを活用しているかということがポイントです。そのため、実際のユーザーが出てきて、どのような活動をしているかという紹介がほとんどでした。ただし、いくつか、通常のIT系イベントのような事例紹介セッションもありました。その中から、1つ紹介します。

「The National Digital Library of Finland - Public Interface FINNA」と題されたフィンランド国立デジタル図書館の事例です。フィンランドでは、デジタル図書館を構築するだけなく、外部APIを含むパブリックなインターフェースを備えることで、外部から、さまざまなデータへのアクセスを実現しています。

活用されているオープンソースは、VuFindとApache Solrが中核となっています。VuFindとは、次世代OPACに対応したオープンソースです。OPAC(Open Public Access Catalog)とは、図書館において、オンラインで利用できる蔵書目録ことです。このOPACをインターネット時代(Web2.0に触発されたとされています)に合わせて作られるものが次世代OPACと呼ばれるもので、それの代表的なソフトウェアが、米ヴィラノヴァ大学図書館が開発しているVuFindです。Apache Solr(以下、Solr)は、Java言語で書かれたオープンソースの検索エンジンです。国内外の大規模検索サービスで利用実績を持ちます。これらを組み合わせて、外部APIも持てるようにしたシステムが、フィンランド国立デジタル図書館のシステムです。このように、オープンソースを単に使うだけではなく、外部インターフェースを持つこと、そして、持っているデータを誰でも活用できるようにすることが、ポイントとなっています。

続いて、どのようにオープンデータが活用されているかという事例を紹介します。2012年10月9日より、年次総会が日本で開催されたことで耳にした方も多い世界銀行の事例です。登壇者はCarlos Rossel氏で、後述するサイトをマネジメントされている方です。

世界銀行は、貧困のない世界を目指して、開発途上国の経済・社会の発展、生活水準の向上、持続的成長を支援するため、資金協力、知的支援などを提供する国際開発金融機関です。開発のためのインフラや、保健・教育、気候変動などの地球規模課題などの幅広い分野をカバーしています。

世界銀行では、そのミッションを実現するために、その開発プロセスに渡る情報が透明性を持たなければならないと認識しているそうです。そのため、2010年4月に実施されたOpen Data Initiativeにより、世界銀行の約2,000件の指標から成るデータを公開しました。日ごろ、私たちが、メディアでよく見かける世界各国GDP値やビジネス環境など非常に幅が広いデータが公開されています。そして、もちろん、これらのデータは、ダウンロードも可能ですし、外部APIを使ってのアクセスも可能です。日本国内においては、このような公共団体によるオープンデータへの取り組みが始まったばかりです。ぜひ、世界銀行に負けないような情報公開を期待したいと思います。

3.女性を中心にしたジェンダーやダイバーシティに関わる課題

国内においても、話題に上るのは、IT業界やテクノロジー分野でのダイバーシティへの取り組みです。それは国外においても、変わらないようです。今回、フェスティバルで多く取り上げられていたのが、特に女性の活躍についてです。

例えば、⁠Projects Around the World that Address the Tech Gender Gap」というライトニングトークがあり、ドイツにおける2つの事例が紹介されました。ドイツでも女性にはテクノロジーが向かないといった昔の考えの名残から、テクノロジー分野に進学や就職する女性は多くないそうです。

そのため、女性でも、偏見なくテクノロジーの世界に入っていけるように、Roberta と呼ばれる、生徒・学生向けにロボットを工作する授業を行うプロジェクトを進めています。これにより、多くの女子がテクノロジーに親しみ、進学へとつながっているとのことです。

もう一つの事例は、ドイツでも多数開催されているハッカソンへの女性参加率が低いことに対する取り組みです。国内と同様に、やはりドイツにおいても、ハッカソンに参加する人はほとんど男性だそうです。女性の参加率を上げるために、ハッカソンへ女性のデザイナーを招待し、共同作業をするようにしていることを例に挙げていました。この活動の成果の1つは、できあがったソフトウェアのユーザーインタフェースのデザインが従来開発したものより、向上したことだと言及していました。違う視点を入れることで、新たなイノベーションが生まれる事例かもしれません。

その他のセッションも、興味深いものがたくさんありました。オープンサウナと称して、フィンランドで盛んなサウナに一緒に入りに行くセッションやロックバーを貸し切ってのパネルディスカッション、大学キャンパス内でのビール&ワインパーティ、多数のハッカソンなどのさまざまなイベントが実施された6日間でした。

現在、オープンデータ、オープンデータジャーナリズム、オープンガバメントなどのキーワードで、再び「オープン」という単語が活性化してきました。それらの活動をリードしている1つが、このフェスティバルを主催したOpen Knowledge Foundationです。日本にも支部ができたので、興味のある方は参加されるのもいいと思います。

大勢の人がセミナーに参加
大勢の人がセミナーに参加
ディスカッション風景
ディスカッション風景
多数のハッカソンも実施
多数のハッカソンも実施
パーティーに参加した人々
パーティーに参加した人々

来年度のOKFestivalは、8月にスイスで開催されることが発表されています。IT系のテクノロジーイベントそのものというわけではありません。しかし、1週間にわたって開催される国際的なイベントであり、多くの国からの参加者もあり、非常にバラエティに飛んだものとなっています。興味ある方は、アルプスのハイジゆかりの地スイスへ訪れてみてはいかがでしょうか。

(写真提供:オープンナレッジ財団)

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