2012年10月26日、Linux Foundationが国内では2回目となる「Enterprise User's Meeting」を開催しました。
Linux Foundationは、Linuxの普及、保護、標準化を進めるために2007年に設立されたNPOです。彼らの活動の1つとして実施されているのが、Linux活用企業、エンドユーザの間の協業イベントを主催することです。その中でもEnterprise User's Meetingは、『 OSSのベストプラクティス集』として、Linuxを活用している企業の責任者が登壇し、活用方法やオープンソースコミュニティとの関係を聞くことができるまたとない機会となっています。
今年も、昨年登壇したニューヨーク証券取引所、世界最大の先物市場であるシカゴ・マーカンタイル取引所、Yahoo! に続き、世界最大の金融グループの1つであるCitiグループや、日本でもおなじみのTwitter社などが講演しました。
この中で、午前中のセッションから、いくつか興味深かった内容を紹介したいと思います。
ユーザ企業はどのようにOSSコミュニティと付き合っていけばいいのか?
『富士通のパブリッククラウドサービス基盤を支えるオープンソース』と題して、富士通 クラウドプラットフォーム開発本部 吉田 浩氏が講演しました。
富士通 吉田 浩氏
富士通のクラウドサービスでは、現在ユーザが選択するOSの7割がLinuxとなっているそうです。また、クラウドサービスが稼働する基盤は、Linuxだけでなく、たくさんのオープンソースを活用しているそうです。仮想化基盤は、当初は、Xenを使っていたそうですが、徐々にKVMが増えているということでした。
続いて、『 オープンソースエンタープライズの実現』と題して、Citiグループ Linuxエンジニアリング担当バイスプレジデントBob Mader氏が講演。昨年に引き続き、金融機関でのLinux活用の話となります。昨年は、Linuxをどのように使っているかという金融機関の事例が多かったのですが、今回は、ユーザ企業がどのようにオープンソースコミュニティと付き合っていくか、また、どのようにオープンソースを活用していくかという点を紹介されました。
Citiグループ Bob Mader氏の講演
Mader氏は、オープンソースを採用する理由は、すでに、低コストが一番大きな理由でなくなっており、品質、信頼性、セキュリティが優れているからだという調査結果を紹介しました(採用理由は、それぞれ上位から品質76%、信頼性71%、セキュリティ70%、コスト50%) 。しかし、彼にとって残念なことは、コミュニティへの貢献する意思を持つ企業が、たった23%だけということだそうです。そこで、いくつかのオープンソースコミュニティへの参加する方法についてアドバイスがありました。
1つは、社内でオープンソースコミュニティを学ぶ練習をすべきということです。オープンソースの考えとは異なる縦割り組織で情報を共有しなかったり、縄張り意識を持ったりするような文化に打ち勝っていく必要があるとのことでした。また、オープンソースをうまく活用するには、オープンソースにフォーカスし、成功事例をたくさん持つHPやアクセンチュアなどのようなコンサルティングを利用すること。オープンソースベンダと一緒の立場で、コミュニティに参加すること。さらに、有償サービスだけでなく、コミュニティによるサポートもしっかりと考慮すべきだと語り、最後に、バグを見つけたら、パッチをサブミットしようとのことでした。
パッチのサブミットまで行うかどうかは別にして(昨年のマーカンタイル取引所の方の講演では、パッチまでは作る必要ないという意見でした) 、コミュニティに参加することで、ユーザ企業も得るモノが大きいという意見には、私も賛同することが多かったです。
品質は上がっているのにサポートが楽にならない理由
続いて、『 NECのエンタープライズ向けLinuxサポートのご紹介?トラブルシュートの経験からLinuxの今と今後を考える?』と題して、NEC 菅沼 公夫氏が講演。まず、この数年でNECがサービス提供しているミッションクリティカルシステムの事例を紹介。特に、SolarisやHP-UXなどの商用UNIXからの移行事例が多くリストアップされていました。これらの事例やNECの過去の実績を元にして、Linuxを使用したシステムをサポートしていることで見えてくる傾向を紹介しました。
NEC 第一ITソフトウェア事業部マネージャー 菅沼 公夫氏
まず、基幹系システムで使われることが多いRed Hat Enterprise Linuxの品質がバージョンアップごとに向上していることを、自社の障害履歴から紹介。しかし、品質が上がっているにもかかわらず、いつもLinuxをサポートしている人は忙しいという問題提起がなされました。実際の障害履歴の割合を利用して、いくつかの理由を上げました。
「システム構築やアプリ開発の問い合せが多いこと」「 質問者にスキルの高いUNIXエンジニアが多く、OSの詳しい挙動を含めて説明を求められることが多いこと」 、さらに「ハードウェアの故障ではあるが、OSの観点から障害解析が始まることが多いこと」などがあるそうです。また、サイジングミスなどに起因した性能問題に直面するユーザも多いそうです。そして、実際には、OSの不具合に起因する障害は少ないそうです。
これらの事例は、私が以前勤めていた企業でも、同じ傾向でした。国内ユーザは、障害ではないことに対して、多くの説明を求めるという、あまり国外では見られない要望が多数入ります。この件は、海外の人に話すと、あまりわかってもらえないことです。
「バルス」に耐えた! Twitterを支えるOSS
午前中最後のセッションは、『 Twitterとオープンソース』と題して、Twitter社オープンソースマネージャー Chris Aniszczyk氏が登場。LinuxをはじめとしたオープンソースソフトウェアがTwitterのサービスをどのように支えているか、また、どのようにコミュニティと関わっているかについて説明しました。
Twitterオープンソースマネージャー Chris Aniszczyk氏
世界有数のウェブサービスであるTwitterは、アメリカンフットボールの一大イベント「スーパーボウル」では、秒間1万2223件、日本での「天空の城ラピュタ」がテレビ放映された際には秒間2万5088件というツィートを処理するほどの性能を誇るプラットフォームです。これらを支えているプラットフォームは、Linux(基本的にディストリビューションとしてFedoraを使用)だけでなく、Git、Jenkins、OpenJDK、Apache LuceneやHadoopなどの多くのオープンソースソフトウェアを活用し、構築されているそうです。
「天空の城ラピュタ」放映時の「バルス」については、講演後、 Aniszczykさんと話したところ、「 朝出勤したら、何か大事件があったのだろうかと米国のエンジニアがびっくりしたんだよ。そうしたら日本のエンジニアが理由を紹介してくれたんだ」という裏話も教えてくれました。
“Miyazaki” ツィートが25,088ツィート/秒!
最後に、「 社外向けのサービスでない社内のシステムもオープンソースなのか?」と質問したところ、「 社内システムでは、オープンソースでないクローズドなソフトウェアを使っていることも多い。でも、エンジニアの情報交換には、Drupalを使っている。」ということでした。さすがに、社内の業務システムまでは、オープンソースにはなっていないそうです。
毎年のように 、米国を中心にした最新のLinuxやオープンソースを活用した著名な企業から、責任者が来日して講演する機会は多くありません。また、Linux Foundationが主催するイベントの多くは、講演後に懇親会も実施されます。講演の後に、質問できなかった場合でも、軽くビールを飲みながら、ざっくばらんに交流できるのも、オープンソース文化のいいところだと思います。ぜひ、貴重な講演を聴くことができ、講演者とも交流できるEnterprise User's Meetingに来年、参加してみるのはいかがでしょうか?