去る11月14、15日、パシフィコ横浜にて、11年目となるETロボコン、チャンピオンシップが開催されました。当日はもう冬の気配がする寒さの中、各地から集まった選手がこの日のためにチューニングを重ねたロボットを携え、今年最後のレースにチャレンジしました。
意外な結果となった完走率
チャンピオンシップの参加チームは11地区から40チーム。今年は地区大会制になってから6回目のチャンピオンシップとなり、地区を代表した各チームのほとんどが難所を攻略、もしくはパーフェクトな走行という結果で選抜されているので、高い完走率になることが予想されていました。
しかし実際の結果は完走率46%と、昨年を大きく下回りました。その要因として考察されるのは「環境変化への対応」です。
ETロボコンの走行体の特徴として、ロボットの走行は「明るさ」にとても影響されます。今大会の会場では、試走会の会場に比べ明るく、当日にチューニング(「キャリブレーション」といいます)を必要とする各チームは非常に苦労していました。
それに対して、大会をよく知るベテランチームの多くは、この環境差による走行結果の違いをよく把握しており、当日のチューニングが最小限で済むようなプログラムとなるよう設計されていました。たとえば、走行しながらキャリブレーションをし続け、常に最適なライン検知ができるようになっていました。
これらの考察については、翌日に開催されたモデルワークショップでも審査員から解説され、多くのチームに新たな知見として展開されています。
これが今回の完走率という結果に現れています。競技会の結果はETロボコンのホームページをご参照ください。
2012年の特徴
次に、今大会における3つの注目ポイントを紹介します。
1点目は、総合部門において、ETロボコンというコンテストの「総合力重視」という特徴が如実に現れていたことです。
総合部門優勝の「HELIOS」((株)アドヴィックス)は、チャンピオンシップでも常連のチームで、今回の受賞は2年連続で所属企業としては3回目となります。
今回、「HELIOS」は走行部門ではアウトコースの階段攻略を失敗し、難所ゴールまで到達できませんでした。「猪名寺駅前徒歩1分」(三菱電機マイコン機器ソフトウエア(株))は、インコース/アウトコースともにパーフェクトの走行であったにもかかわらず、この「HELIOS」に優勝を譲る結果となっています。これは、「HELIOS」のモデル部門における成績が「みらいまーず」(富士ゼロックス(株))と並び非常に優秀だったことが起因しています。
「HELIOS」もベーシックコースはイン/アウトで完走しており、そこにモデルの成績が大きく加算されたことで総合的に「HELIOS」のシステムが優秀であると判断された結果です。
2点目は、関西地区代表3チームがすべて何かしらの賞に入賞した点です。
- 総合準優勝「Superくろしお」
- (三菱電機メカトロニクスソフトウエア(株))
- 総合第3位「R-GRAY BLACK」
- ((株)ソフトウェアコントロール 西日本事業部)
- 競技部門第1位「猪名寺駅前徒歩1分」
- (三菱電機マイコン機器ソフトウエア(株))
関西地区では毎年、独自勉強会を3回開催しており、地域に密着した技術教育を推進してきた取り組みが今回の結果に結びついたのではないかと思われます。
各地区とも独自の取り組みを続けており、その成果は一朝一夕ではありませんが、特に関西地区が成果を出せたのは地区大会が始まった当初からETロボコンに参加し、長期にわたって取り組み続け、その地区に最適な教育機会になっていることが一因でしょう。
3点目は、競技会修了後、表彰までに行われた軽量Ruby(mruby)への取り組みに関する発表です。
例年、競技終了から表彰式までの間、どうしても選手と観客のみなさんをお待たせしてしまうので、さまざまなエキシビションを運営では考えます。地区大会でも行われた「ゼロヨン」などもその1つでした。今年は九州地区を中心として進められているmrubyについての取り組み状況の発表がありました。
mrubyとは、まつもとゆきひろ氏が開発したプログラミング言語Rubyの派生ではありますが、その実装はRubyとは全く異なります。
mrubyについての詳細な説明はここでは割愛させていただきますが、このmrubyがNXTにも実装できるようになる環境は整いつつあります。
mrubyの例のように、ロボコンを介して得たプログラミング知識を、さらに広く活用できる場として新たな言語環境ができることは、ロボコンというイベントに限らず、組込みソフトウェアの可能性を広げるひとつのきっかけにとなることでしょう。このような業界への働きかけの場、新しい実践の場として、ETロボコンが活用されるようになることの象徴だったように思います。
重要なのは結果よりも壁を乗り越える“過程”
今年は競技会場の環境に翻弄されたチームが多かった大会でしたが、これこそが組込みソフトウェアに必要な技術であり、柔軟なソフトウェアを作ることが如何に大切であるかを選手は痛感したと思います。長期にわたり、プログラミングに取り組んだ選手にとって、この晴れ舞台での結果は重要なことではあると思いますが、本当に大切なことはそれまでの苦労を乗り越える工夫であり、そこからの「学び」です。たとえどんなレース結果であっても、その経験を活かして学校・職場でより良いソフトウェアを作れるようになることが大切であると考えています。
今年の競技会は終わりましたが、選手のみなさんにとってはこの「モノづくり不況下」を生き抜くというレースを続けていかなければなりません。ここからが選手にとって本当のスタートになります。また来年、みなさんの技術者として自信に溢れた表情に会えることを楽しみにして、実行委員一同準備に勤しみます。