ひとりでは得られない、仲間と経験を共有して成長を体感しよう!「WACATE2012 冬」レポート

はじめまして、しんすくと申します。⁠WACATE2012 冬」にて、参加者が投票で選ぶ!ベストポジションペーパー賞という栄誉ある賞をいただき、この若手による若手のためのワークショップの魅力を余すこと無くお伝えできる機会までいただいてしまいました。

ベストポジションペーパー賞 受賞時の筆者
ベストポジションペーパー賞 受賞時の筆者

WACATEとは、Workshop for Accelerating CApable Testing Engineers の頭文字をとった、その名の通り、内に秘めた可能性をもつテストエンジニアを加速させるワークショップという確固としたビジョンを持つ催しで、年に2回、夏はひとつのテーマを深く掘り下げ、冬はアラカルトでさまざまなテーマを扱う、といった形でそれぞれ異なる指向性をもって開催されています。

なんと、今回の2012冬で5周年を迎えられたとのことで、ひとりのWACATEファンとして心よりお祝い申し上げます。巷間にワークショップは数あれど、ここまで信念を持ってキチンと継続と達成を続けてきた催しは数少ないと思います。この実績と信頼感を土壌にして生まれる交流が新たな価値を生み、それがまたオリジンのワークショップに還元されるという、奇跡のようなポジティブループを今回のWACATEでは実例を持って目にすることができました。それでは、2012年12月15、16日の2日間、マホロバ・マインズ三浦にて開催された、⁠WACATE2012 冬」の模様を順番にレポートしていきたいと思います。

ボジションペーパーセッション/BPPセッション

WACATEのスタートはポジペセッションから。WACATEにおけるポジションペーパーとは、この2日間のワークショップに臨むにあたって自分がどんなことを普段考えているか、どんな議論をしたいかを自由なフォーマットで書き表したものです。まずはじめに参加者同士でこのポジションペーパーを使って自己紹介をしあい、相手の考えや課題を知ることで今後の議論やグループワークを円滑かつ有意義なものにすることができます。これも、他のワークショップではあまり見かけない手法ですが、⁠いま、なぜあなたはここにいるのか?⁠を知るという目的に対してとても効果的だと感じます。会社の重要な会議の場などでも活用できるのではないでしょうか。

ポジペセッション
ポジペセッション

このポジションペーパーを用いた参加者同士の自己紹介の次はいよいよ、前回WACATEでのベストポジションペーパー賞受賞者、畠山さつきさん による単独セッションこと「BPPセッション」です。

「かえる井の中ふりかえる」と題した講演では、これまでのキャリアのほとんどをテストの自動化に費やしてきたが、会社の中にいたときはそれが価値とは思っていなかった。WACATEやテスト自動化研究会等の社外のコミュニティに触れて、はじめてその経験に価値があると気付かされた。研究会で議論を重ねることで、自分の経験の整理と課題の発見ができた。などなど、WACATEの狙いに完璧にマッチした加速のありさまとその背景をきちんと整理して発表されている様子が印象的でした。自動化研究会では私もご一緒させていただいているのですが、この半年の彼女の成長ぶりと堂々たる講演に強く胸を打たれると同時に、自分も頑張らないとすぐに置いて行かれるな、という焦りも覚えました。

BPPセッション中の畠山さつきさん
BPPセッション中の畠山さつきさん

テストアプローチにデータ分析を使おう

続いてのセッションはWACATE実行委員、中野さやかさんによる、データ分析を用いてテストアプローチを考える、という普段わかってはいるもののなかなか手がでない分野を取り扱ったセッションです。製品に対する初回のテストならいざ知らず、二度三度とテストを繰り返すプロジェクトでは、前回のテストの活動におけるデータは次回の活動の方針を決定する重要な入力となるはずですが、実際どこから取り掛かれば良いのか、わからない方も多いと思います。

「テストアプローチにデータ分析を」セッションの模様
「テストアプローチにデータ分析を」セッションの模様

セッションでは、バグ曲線や修正速度、重要度などさまざまな要素がマップされた資料が配布され、まず個人でその分析を行い、その後グループワークにて次のテストフェーズへの改善提案を検討するという流れで進みました。さまざまなドメインの人が集まっているからこそ導かれる斬新な視点や分析に関する議論は、とても刺激的でした。

かいてみようCFD

お昼をはさんで、こちらもWACATE実行委員、近江久美子さんによる、テスト設計技法の実践セッションがはじまります。テストの技法はどれだけ関連書籍を読んでも効果を実感しづらく、自分で実際にやってみることによってのみ、日ごろの業務のツールとして使いこなせる道が拓けます。ただ、えてして初心者は題材を選ぶのに苦労するものです。WACATEの真価はこのよく検討された題材を用いたワークショップの質の高さにもあると感じます。

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CFD技法もそんな「理屈を知るだけではまったく使いこなせない」技法のひとつで、説明だけであれば「同値図を書き、原因と結果を線でつなぎその線に沿ってデシジョンテーブルを起こす」というものですが、セッションではよく目にする新規会員登録フォームを例に用いて実際にCFDを書き、デシジョンテーブルに起こすところまでを実際に体験、そして結果を皆で共有することで、CFDの活用における勘所をつかみやすくする工夫がなされていました。正直なところ、私も本セッションで数回書いてみてようやく「使いこなせる」実感が沸きました。

PFDの真価 ~あの遅れはどこに消えた?

初日の締めくくりは派生開発、XDDP等の開発で知られる システムクリエイツ 清水吉男氏によるイブニング・セッション。氏の40年にわたるシステム開発の経験によって磨かれた手法を、ご自身の口から惜しみなく伝承していただける機会を得られるだけでも十分にお釣りがくると思われます。

PFDはモノづくりの過程をいくつかのルールに則って⁠プロセス⁠と⁠成果物⁠の連鎖で表現する、という「プロセスを定義する」モデリングツールのひとつです。前々回のWACATEで参加者のひとりがグループワークにおいて使いこなしているのを見て自分も使いこなしたいと考え、ウェブの資料やPFD単独の勉強会に参加し、ほんの基礎の部分だけを習得してさっそく業務で利用してみたところ、なんと非IT業界のお客様にもばっちり通用して驚きました。

清水吉男氏によるセッション
清水吉男氏によるセッション

セッションではそんな表現技術としてのPFDの真価として、順番を敢えてプロットしないことで、モノづくりの過程において遅れや問題が発生した時に作り方自体の変更を検討することができる。さらに、プロセスを容易に固定できれば、逆に変化させることが可能になる。といった、普段「プロセスを定義する」ことに慣れていない人にとってはにわかに信じがたい効能が、清水氏ご本人の確固たる経験から力強く語られました。私個人としても「本当にできるのではないか」との実感を更に強固なものにし、普段のツールにさらに磨きが掛かったように感じられる、素晴らしいセッションでした。

ディナーセッション/夜の分科会

さて、初日の夜のお楽しみといえばこのディナーセッションです。三浦の新鮮な魚に舌鼓を打ちながら、実行委員によるさまざまな出し物を通じて参加者同士の交流を深めます。特に冬のディナーセッションは全国各地から集まるWACATE参加者=全国ソフトウェアテストコミュニティの忘年会という趣きもあり、その年のお互いの健闘を讃えながら楽しい宴の時間が過ぎていきます。

ディナーセッションという名の忘年会?
ディナーセッションという名の忘年会?

ディナーセッションに引き続いては、マホロバマインズ三浦のVIPルームを借りきっての夜の分科会。一応公式にいくつかのテーマが設けられるのですが、参加者はひとつのテーマを語り尽くすもよし、いくつかのテーマを渡り歩くもよし、突発でおこる小規模なその名も⁠野良分科会⁠に首を突っ込むもよし、と技術やキャリアのバックグラウンドを共有する仲間たちと心ゆくまで語り合うことのできる、こちらもWACATEならではの濃密な時間を満喫することができます。セッションが完成度の高い公式レビューとするならば、こちらは徹底的なピアレビューとでも申しましょうか。個人的にとても楽しみにしている時間でもあります。今年もある参加者と「社内外での出力の割合とその方法」についてとても深い議論の時間を持つことができ、次回のBPPセッションの貴重なヒントをいただきました。

「キャリアプラン」はじめの一歩

2日目最初のプログラムはNHN 村上くにお氏によるキャリアプランに関するセッション。予稿集がすべてハングルで書かれており、なおかつセッション冒頭も韓国語ではじまるという、常に参加者の予想の斜め上を行く、氏への期待を裏切らない出だしとなりました。

ETSS、ITSS等既に世にあるITエンジニアのスキル標準を例にとり、それぞれのキャリアマップの中で自分がどの位置にいるのか把握しておくことの重要性や、⁠プロフェッショナル⁠であり続けるということを、飲食の老舗の格言から「⁠⁠同じ味』とはゆるやかに進歩し続ける味」との喩えを用いて解説。これは私も含め多くの参加者の心に響いたようでした。

村上くにお氏によるセッション
村上くにお氏によるセッション

村上氏は初期のWACATEを支えた実行委員のひとりでもあり、現在はLINEでお馴染みのNHN Japanにて品質保証室 室長という要職に就かれておられます。これはある意味WACATEのビジョンである「加速」をみずから体現されている稀有な事例であり、まだその可能性を開花させる手前にある、本当の若手のエンジニアに向けて自分の辿った軌跡をコミュニティに還元してくださるというのは、冒頭で述べた「奇跡のようなポジティブループ」が実現されているのではないかと思います。

「テスト分析」はじめの一歩

2日目のプログラムのうち最も時間を割りあてられたセッションがこちら、今回からWACATE実行委員に参加された上條 飛鳥氏による、テスト分析にフォーカスを当てたセッションです。テスト分析というフェーズは比較的新しい概念で、その方法論もまだまだ整備しきれていない状況のなか、非常にチャレンジングなセッションであったと感じました。

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具体的なテスト分析手法としては比較的取っ掛かりが理解しやすい三色ボールペンによる仕様書の解析を採用し「ついでに買ってきてアプリ@スマホ版」なる本当にありそうなシステムの仕様書を用いて個人、グループそれぞれでどんなテストが考えられるかを検討、発表と質疑応答という流れでした。

所属している会社の規模やドメインがまったく異なる参加者同士のさまざまな観点や重要視するポイントの違いから、活発な議論が繰り広げられました。また、前述のとおりテスト分析というフェーズ自体の捉え方もひとそれぞれであり、仕様書に入る前の段階を指摘する向きもあれば、次のテストを如何に効率的に運用するかという観点からの指摘といった、ワークとして用意された舞台を一段広く捉えた意見も飛び出すなど、参加者自身も主体的にセッションをより良いものにしようという意気込みの感じられる時間となりました。

CFD++~デバッグ工学の夢~

2日間の締めくくりとなるセッションは デバッグ工学研究所 松尾谷 徹氏によるCFD技法誕生の背景と進化の歴史、そしてこれからの⁠デバッグ工学⁠の展望について。品質会計、CFD技法の誕生秘話にはじまり、上流工程のツケをテスト工程で一気に支払うための原因結果グラフの活用、デシジョンテーブルの拡張などなど、⁠ソフトウェアテスト」という言葉がまだ定着していなかった頃からのご経験をご紹介いただきました。

松尾谷 徹氏のセッション
松尾谷 徹氏のセッション

また氏は、エンジニアリングと対比する概念である⁠プリコラージュ⁠⁠、そしてエンジニアとの対比としての⁠ブリコルール⁠というふたつの概念を挙げ、ソフトウェア開発プロセスは本質的にブリコルールの側面を持つ、と語られました。

ブリコラージュ(Bricolage)は、⁠寄せ集めて自分で作る」⁠ものを自分で修繕する」こと。⁠器用仕事」とも訳される。(中略) ブリコラージュする職人などの人物を「ブリコルール」⁠bricoleur)という。

(wikipedia - プリコラージュ)

改めて定義されてみると確かに思い当たるフシが数多あり、氏の主張であるところの改善を繰り返ししていくことの難しさを改めて認識すると共に、⁠器用仕事」に対してテスト技術がどのように向き合っていけば良いのかを考える重要なヒントをいただけたように思えます。

松尾谷氏は清水氏の力強さとはまた異なる、⁠明らかにそうである」を前提とした冷静かつ軽妙な語り口で聞き手に穏やかな衝撃を与える、あまり経験したことのないタイプのご講演でした。機会があればまたぜひお話をお伺いしたいと思います。

クロージング

時間すらも加速しているのではないかと錯覚する濃密な2日間のラストを飾るのがこのクロージングセッションです。ここでは「ポジションペーパー3賞」と呼ばれる参加者への表彰と、2日間を振り返るムービー(なんとオンデマンド制作)を持って大団円となります。

「ポジションペーパー3賞」は経験豊かなクロージングセッションの講師が独断と偏見で選ぶ「Biased Favoriteペーパー賞⁠⁠、WACATE実行委員が⁠もっとも加速している⁠と思われるポジションペーパーを選ぶ「Most Acceleratingペーパー賞⁠⁠、そして参加者自身が投票で選ぶ「Best Positionペーパー賞」の3つから構成されており、今回は3つ目の「Best Positionペーパー賞」をいただきました。

WACATE自体への参加はもう数回にのぼり、ポジションペーパーはわりと奇を衒ったものをずっと投稿し続けていたのですが、今回はふと初心に返って心から伝えたいと思うふたつのこと、これから議論したいひとつのことを書いてみたところ、特に最後のひとつ「軽品質」という概念について、多くの参加者から賛同の言葉を直接いただく事ができたのが、受賞自体もさることながら、最大の収穫となりました。また、私自身もとても光栄だったのですが、ここ1、2年ほど自動化研究会やAndroidテスト部で一緒に頑張ってきた近しい仲間が「Most Acceleratingペーパー賞」を同時に受賞という運びになったことにも、とても感動しました。

ふとしたきっかけでソフトウェアテストという技術に触れ、WACATEを通じて社外にたくさんの仲間を得たことは、人生において第二の、そして永遠に続く学生時代をふたたび得たかのように思えます。幸いまだまだ若い業界で、これを読んでいる未だ一歩を踏み出せていないみなさんが偉大な業績を残せる⁠隙⁠がたくさん残されています。よろしければ、この難問だらけながらも楽しい砂場で一緒に遊んでみませんか?

ぜひ、次回のベストポジションペーパーセッションでお会いしましょう!

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