最後のゲストはまつもとゆきひろ氏
2012年11月から3回連続で開催された「エンジニアの未来サミット for students 2012」 。2013年1月19日、メインゲストにMatzことまつもとゆきひろ氏を迎え、第3回エンジニアの未来サミット for students 2012が開催されました。
エンジニアの未来サミットは、学生とトップエンジニアが交流し、エンジニアの未来を考えるイベントです。毎回、多様なエンジニアがゲストとして登場し、座学形式の講演に加えて、質疑応答や懇親会の場でリアルな場でコミュニケーションが図れる特徴があります。
エンジニアの未来サミット for students 2012、第1回開催――ゲストは小飼弾氏、はまちや2氏
http://gihyo.jp/news/report/2012/11/1601
変化の時代を生きるエンジニアの心得とは?─エンジニアの未来サミット for students 2012 第2回開催
http://gihyo.jp/news/report/2012/12/1901
「オープンソースを通じた自己主張」
今回のメインゲスト、まつもとゆきひろ氏は「オープンソースを通じた自己主張」と題し、自身が関わってきたプログラミング言語Rubyの開発経験、その他、多くのオープンソースソフトウェア(以降OSS)に関する活動を通じて、OSSのメリット、これからのエンジニアとしての生き方・働き方について熱く語りました。
いまやたくさんの肩書きを持つまつもとゆきひろ氏。エンジニアの未来サミット for studentsには、最初の年から3回連続の登場となる。「 “ まつもと” というそれほど珍しくない名前を(どこでも)目立たせることを意識して、ひらがな表記にしています」と、自身の名前からも主張がうかがえた
ゆでガエルとストーン・スープ
今回、まつもと氏は、
という2つの寓話を通じて、世界を変える鍵、その中での個人の考え方を説明しました。前者の「ゆでガエル」の寓話とは、カエルをいきなり熱湯に入れてしまうと、カエルは気づいて逃げようという意識を持つが、冷たい水の中に入れてを、じょじょに温度を上げていくとカエルは無意識のうちに死んでしまうというたとえ話です。
この例えのように「現在は“ 緩やかな変化” が起きており、そこに気づけるかどうか、気づかないと(ゆで上がって無意識のうちに死んでしまうカエルのように)ダメになってしまう」とまつもと氏は指摘します。その要因は、世界的規模の景気停滞、また、各種産業の隆盛による労働環境の変化などがあり、高度成長時代の日本と異なり、今は、マージンが縮小し、その中でどう伸ばすか、伸びるかを個人で考えなければならないということです。さらに「過去の経験だけに縛られてしまうと先入観が強くなります。しかし、それはまずいことで、まずいま意識すべきことは“ 思い込みの打破” 」とも言います。
これは、たとえば、ITに分野に関して言えば、( 日本での)客観的なイメージとして「ITはプロの仕事」という概念があったときに、それこそが思い込みで、いまは誰もがITに触れているわけで特別な業務領域になっていないことに気づかなければいけないということです。
この点についてまつもと氏は「不確定な未来だからこそ、周りをやみくもに信じず自分で考えることが大切。結局未来予知は不可能であり、見方を変えれば未来は結果。そこで大事なのは、自分で考えること、そして、新しいことを始めるときにはリスクを下げるために、小さく賭け、何度も賭け、撤退は素早くする意識が大切です。その道程を楽しむぐらいの気持ちが良いでしょう」とコメントしました。
もう1つの、「 ストーン・スープ」の寓話は、周囲の協力を集めるためのきっかけの大切さを紹介しているものです。「 ストーン・スープの寓話からコラボレーションの価値がわかります。その中で大事なのが最初のきっかけであり、そのきっかけを作れるかどうかが鍵となります。これはまさにOSSの考え方に通じます」と説明しました。
軽快な話し方とともに、これからのIT業界に入ってくる学生たちに熱いメッセージを伝えたまつもと氏
最後にまとめると、まつもと氏が考える世界を変える鍵とは、
の3つ。いずれも、今のITやWebにとっては欠かせないものです。まつもと氏は、これらがなぜ必要なのかということに対し、前述の2つの寓話を引用し、道なものに対して不安な学生に向けて熱いメッセージを届けました。
そして、世界が少しずつ変化している中、ルールが変わっている点についても指摘しました。それは、組織と個人の関係性が、一方向ではなく対等になってきていることです。だからこそ、エンジニアとして働いくのであれば、OSSの考え方を意識して、( 事象に対する)自由と責任をふまえ、自分で考え、決めていくことが大切として、講演を締めくくりました。
学生から多数の質問が上がったトークセッション
後半は、まつもと氏に加えて、サイボウズ株式会社代表取締役社長青野慶久氏、サイボウズ・ラボ株式会社竹迫良範、MCを務めた私馮の4名をスピーカーとしたトークセッションが行われました。
トークセッションは、参加した学生からの質問を受け付ける形のフリートークが行われ、皆、それぞれが今考えていたり悩んでいる質問をスピーカーにぶつけました。
右から、青野氏、まつもと氏、竹迫氏、馮
たとえば、すでにOSSコミュニティに参加している学生からは「今、OSSコミュニティには自分と同じような若い学生の数が少ないように感じているが、どうやって増やせばいいか」という質問に対しては、まつもと氏から「継続して続けていくこと、また、年齢にこだわりすぎず、たとえば自分や他の開発者、コミュニティメンバーに気軽に声をかけてほしい」と、まさに最初のきっかけを作るアドバイスが提供されました。
その他、「 すでにスタートアップとして起業している中で、企業としてOSSにコミットしたい意識があるが業務とOSS活動の線引はどうすれば良いか」という質問に対しては、「 サイボウズ・ラボでは業務の一環としてOSSに取り組んでいることもあり、業務で開発した結果、コミュニティへフィードバックすることができた」( 竹迫氏)や、「 経営者としてはたしかに売り上げを考えなければいけないとは思う。しかし、その売上は何のためなのか。起業をした立場からすれば、自分がやりたいことがあったはずなので、やりたいことの実現のために仕事をすると捉えると、業務とOSSの切り分けは見つかるのではないか。OSS活動に取り組みたいという思いが強いのであればそこから業務を考えられるはず」( 青野氏)など、それぞれの経験から大変参考になる回答を聞くことができました。
こうしてあっという間の3時間が終了し、最後は、スピーカーおよび学生による懇親会が行われ、また1つの新しい交流が生まれ、きっかけがスタートしました。
参加者全員による記念撮影
以上、3回にわたって開催されたエンジニアの未来サミット for students 2012が終了しました。3回目の最後に、会場で私からコメントさせていただいたのですが、今回参加してもらった学生の中から、将来のエンジニアの未来サミットスピーカーが生まれることを期待しています。そして、彼ら・彼女らが作り出す次世代のIT/Webの世界を今から楽しみにしています。