INBOUND MKTG 2013 TOKYOレポート(その1)~インバウンドマーケティングの心構えと実践

2013年2月25日に恵比寿でインバウンドマーケティングのカンファレンスINBOUND MKTG 2013 TOKYOが開催されました。

インバウンドマーケティングとは、という問いに答えることは本カンファレンスの内容の一部にあたることでもあり、主催であるマーケティングエンジン社のWebサイトから引用させていただきます。

INBOUND MKTG 2013 TOKYO

「インバウンドマーケティング Inbound Marketing」とは、見込客に有益なコンテンツをネット上で提供することで、検索結果やソーシャルメディア上で自社を「見つけられ」やすくし、自社のサイトへ来てもらいやすくする、というマーケティングコンセプトです。米国 HubSpot,Inc.の創業者、ブライアン・ハリガン Brian Halligan とダーメッシュ・シャー Dharmesh Shar によって2005年に提唱されました。

本稿をご覧いただく皆さんもインバウンドマーケティングの理解を深め、考えていくために、レポート部分ではあまりまとめることをせずレポーティングを重視してお届けし、最後に筆者が感じられたコメントという構成でお届けしたいと思います。

オープニングノート(株式会社スケダチ代表取締役/株式会社マーケティングエンジン代表取締役社長CEO/共同創業者)

インバウンドマーケティングに取り組むにはマインドセットが大切

オープニングノートを務めた高広氏
オープニングノートを務めた高広氏

冒頭ではインバウンドマーケティングという言葉を提唱した、米HubSpot社の創業者、ブライアン・ハリガン氏からのビデオメッセージが流されました。ブライアン氏は、従来のマスマーケティングでは人々にリーチすることが難しくなってきており、人が変わったのであれば、マーケティングのやり方も変えなければと、インバウンドマーケティングを提唱した背景と日本でインバウンドマーケティングのムーブメントが広がっていく期待のメッセージを寄せました。

これを受けて高広氏は、私たちは情報の洪水の中にいることをカクテルパーティにたとえ、ガヤガヤした雑踏の中でも自分に興味、関心があることであれば注意を払うことがある。これをセレクティブアトラクション(選択的注意)といい、このように情報が選択される時代において、マーケターはどのようにすべきなのか、ここにインバウンドマーケティングの本質があると語りました。

インバウンドマーケティングは自分たちがどこかに出て行くというマーケティングではなく、こちら側に来てくれる人に対してマーケティングを行っていこうという考え方であり、非常にシンプルです。ただし、シンプルであるがゆえに誤解が生まれるとのこと。

たとえば、インバウンドマーケティングに使われるツールには、SEO、メールマーケティング、パーソナライゼーションなどすでにあるものばかりですが、大事なのはマインドセット、考え方を変えること。本カンファレンスでは、このマインドセット、考え方を変えることを話して行きたいと趣旨を語りました。

Old EconomyからNew Economyへの変化

Old EconomyからNew Economyへの変化したと高広氏は語ります。例として、ソフトウェアを買うという行為は、以前(Old Economy)では店頭でパッケージを買うという行為だったが、(New Economy)では、30日トライアル版、機能限定の無料版を使ってアップグレードといったようなことがあたりまえになっています。

New Economyの時代はツールを提供するのではなく、自分たちの考え方を知ってもらう、自分たちの会社やサービスをトライアルしてもらうということが今よりももっと大切になってくると語りました。

検索で見つけられる、そして、作ることはつながること(Making is Connecting)

New Economy時代には「検索」が重要な購買行動のフックになっており、そこにはコンテンツがないと当然検索結果にはHITせず、それは、存在しないことと一緒だと言います。

高広氏は、イギリスの社会学者David Gauntlett氏の言葉を借り、作ることはつながること(Making is Connecting⁠⁠。つまり、⁠現代は)ブログやソーシャルメディアで書き、コンテンツを作ることが顧客とつながること、つながるために作る時代。こういった時代のマーケターはコンテンツの提供者、パブリッシャーであると語りました。

マーケティングは狩猟型(ハンター型)から農耕型(ハーベスター)

従来のマーケティングは、ターゲットというように自分たちが狙う獲物を狙うハンター型でした。ここもマインドセットを変える必要があり、これからのマーケティングは、コンテンツを作ることで種をまき、自分たちで顧客を生み出していくということであると、高広氏は主張します。

大切なことはAuthentic=嘘をつかないこと

よくある誤解でコンテンツの数を増やせばインバウンドマーケティングであるという話がありますが、そのコンテンツがスパム的なものであったり、役に立たないものであればそれはインバウンドマーケティングではありません。大事なのはAutentic、正当で嘘をつかないことが大事であるとも述べました。

そして、そこに向こうからやってきてくれるような状況をいろんなツールを使って作ること、これをあわせて、Be Inboundy、インバウンド的であることと語り、本カンファレンスではBe Inboundyを考えていくためにセッションを続けていくとオープニングノートを締めくくりました。

パネルディスカッション1:Inbound Content Strategy & Tactics『インバウンドなコンテンツづくり。ブログ、ソーシャル、SEOの活用と課題』

続いて、インバウンドなコンテンツづくり、ブログ、ソーシャル、SEOの活用課題と題して、シックス・アパート株式会社 関 信浩氏、Ginzamarkets株式会社 清水 昌浩氏、株式会社ガイアックス 栗原 康太氏によるパネルディスカッションが行われました。

インバウンドマーケティングの実践について語られたパネルディスカッション
インバウンドマーケティングの実践について語られたパネルディスカッション

高広氏は、なぜこのメンバーのパネルディスカッションを設定したのかについて、このメンバーは自分たちの会社がインバウンドマーケティングの実践者、かつ、インバウンドマーケティングを実現するサービスを提供する会社であると紹介し、インバウンドマーケティングを実践していくうえで、コンテンツをどのようにしていけばいいのかの話を伺うと説明しました。

ブログに個人の属人性を持って魅力的に。そこに会社のブランド、Authorityをかぶせる

関氏は、シックス・アパートで、Six Apart ブログを始めとして、計8つのブログと計17個のソーシャルメディアアカウントを運営しており、インバウンドマーケティングの取り組み例として、Six Apartブログを例にして紹介しました。

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Six Apartブログは2012年から運営しており、きっかけはオウンドメディアとして公式にリリースする情報だけでは「限界」を感じてきたことによると関氏は語ります。公式ブログには「型」があり、そこにはまらないものを出すところがなく、個人のブログやソーシャルメディアで発信する状況になっていったそう。これはもったいないということでSix Apartブログを立ち上げたとのことです。

高広氏が、個人が属人的な部分と公的な部分をどう切り分けているのかを質問したことに対し、関氏は属人性がないと魅力的にはならないと考えていて、そこには、個人の発言ではありながら、会社がAuthorityを与えているということに今はなっていると答えました。

Six Apartブログのコンテンツは、他社動向も含んだ業界動向の紹介から英語情報で調べた和訳的なもの、社会人としてのライフハック的なものまで多岐にわたります。会社や自分たちの自己表現の場としても機能させており、エバンジェリストたる気持ちをこの取組みで増幅させている役割もあると語りました。

Six Apartブログでは「継続性」「楽しさ」を重視

最も重視したのは「継続性」としたと関氏は語る。業務を少し超えたところもあるため、継続を実現させるために楽しさを重視したと言います。このブログではコンバージョンは意識していないそうです。KPIの話ばかりしてもモチベーションが下がります。社長賞という形でKPIはいくつか設定しているものの、それは目的ではなく、モチベーションのための手段であり、KPI自体も毎回変更していっていると語りました。

自分たちも楽しみ、好かれるのがインバウンドマーケティング

ガイアックスでは、以前はオープニングノートで話されていたハンター型と呼ばれるようなテレアポで営業活動をやっていたのですが、営業効率であったり、お客さんと信頼関係が築きにくい状況であったことから、全社的にインバウンドマーケティングの取り組みを始めたそうです。ブログは清水氏とインターン生の2、3人という体制で運営していますが、直近では月に190件ほどのリード(具体的な相談になる前の状態の問い合わせを含む)を獲得できるまでになったと紹介しました。

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同氏はアウトバウンド型の営業活動をやっていたときを振り返り、お客さんも売りに来たな、という姿勢からだとなかなか動かせない状況であったことや、営業活動を行う側もだんだん気持ちが沈んできていた状態だったと述べました。

これはシックス・アパート関氏が話された自分たちが楽しい、ということにもつながります。これがひとつのポイントであると高広氏は語り、本日のテーマであるLOVABLEにも通ずるとしました。

清水氏は実体験として、ダウンロードコンテンツを閲覧してくれたユーザに実際コンタクトした際に、こういった考え方を持っている会社なんだな、と聞く準備ができていることが大きいと、インバンドマーケティングに対する印象を述べました。

コンテンツを書く上でSEOで気をつけること

清水氏は、キーワードとしては比較的にニッチなものを狙い、コンテンツを書く前には該当するキーワードを調べ、これくらいの記事を書けばいいな、という目星を考えているそうです。ビッグキーワードとロングテールキーワードでは、ビッグキーワードは継続的に記事を書かなければならず、現状の体制を考慮すると、資産価値が低くなる可能性が高く、ロングテールキーワードを意識していると語りました。

シックス・アパートでは、少し先取りをしたキーワード、たとえば、来月にこういったイベントがあるので、こういったキーワードが検索されるだろうなということを意識していると言います。一般的に検索ボリュームを意識するSEOですが、先取りしたキーワードではソーシャルメディアからの反応から始まり、徐々に検索からの流入になっていくと解説しました。

同社の取り組みはある意味ボランタリーベースのような形なので、当初からSEOを意識してこのキーワードを取りに行くというのではなく、この記事のパターンならこのようなSEOを意識できるといったような編集をあとから考えるようにして、継続性の中で割り切っているとも語りました。

どれくらいの時間で売上貢献を考えるか

高広氏は、本パネルに登壇したメンバーのコンテンツの作り方として、具体的なセールスに紐付いたのはあくまで結果であることが特徴的である指摘しました。各社への質問でどれくらいの期間で売上を考えるかという質問に対して、関氏、栗原氏は半年から1年という期間で捉えているとコメントし、清水氏は直接的な売上というのを意識するとアウトバウンドと変わらなくなるため、意識していないとコメントしました。

高広氏は最後に、Old Economyマインドセットでは企業側のタイミングでマーケティングを行っていたが、New Economyマインドセットでは人々のスケジュールに合わせてマーケティングを行うことが特徴であるとまとめ、パネルディスカッションを締めくくりました。

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