自動車部品メーカーのデンソーでは、クルマや家とスマートフォン/クラウドを連携するアプリケーションやサービスを表彰する「SmartTechAward 2013」を開催。先般行われた授賞式の模様をお届けします。
技術を追求するものづくり企業デンソーがアプリ開発者に用意した課題は2つ
デンソーが主催するアプリコンテスト「SmartTech Award 2013 」 。2回目となる今回は、カーナビの連携機能を活用した「NaviCon」連携アプリを作成する「Down Side」と、自動車のさまざまなセンサーやコンピュータがCAN(車載LAN)上でやりとりしている車両情報や、HEMS[1] が持つ家に関する情報を活用するアプリを作成する「Up Side」の2部門が用意されました。位置情報を扱うアプリから、「 CAN」や「HEMS」といった最新のテクノロジーに触れる場として、商用アプリを開発する企業から、個人のエンジニアまで多数の応募がありました。難しいテーマであるにもかかわらず、応募総数93件(Up Sideが33件、Down Sideが60件)にもなりました。
デンソー 情報通信事業部 理事 浅井敏保氏
開会に際し、デンソーの情報通信事業部理事である浅井敏保氏は、あいさつの中で「自動車業界とIT、情報通信機器とサービスをうまく結合していくためには、それぞれの業界の専門家による意見交換や交流が必要と考えており、今回のアワードを通じて交流を加速させたい」とアワードの意義を述べました。
ロボット開発の視点から見た、テクノロジーがつながる未来
冒頭の特別講演では、ヴイストン株式会社の代表取締役 大和信夫氏から、「 いまどきのロボット開発(スマホとの連携) 」をテーマに講演がありました。ヴイストンが企画・開発に携わるロボットを実際にデモンストレーションしながら、その開発秘話や、根底に流れる思想、ロボットの企画・開発のプロセスや、トレードオフの考え方、これからのものづくりのあり方などが語られました。集まったITやクルマ、スマホアプリに関わる技術者も、その話に真剣に聞き入っていました。
ヴイストンが企画・開発に関わったロボットをいくつか紹介します。
変形して3分間しゃべり続けるカップヌードル型ロボット「カップヌードルロボタイマー」
同じく日清食品のチキンラーメンのキャラクターをロボット化した「HIYOBO」( 注2 )
デアゴスティーニの定期刊行誌として初号の販売数の記録を更新したという、組み立て家庭用ロボット「Robi」
ニトリのランドセルのテレビコマーシャルに出てくるロボット
国際宇宙ステーション「きぼう」で、宇宙飛行士との会話実験に挑む宇宙飛行士ロボット「KIBO ROBOT PROJECT」
「心を持ったロボット」を家庭のリビングに送り込むべく、ロボットを軸にさまざまな活動に関わる大和氏は、ロボットの開発プロセスや販売プロセスについても言及しました。
「新製品の市場化プロセスは、『 ばく大な広告費』から『ネット配信』 、『 流通網』から『Webショップ』 、『 大量生産』から『小ロット生産』 、『 大規模設備』から『ファブレス』へと変化しています。これは、大企業だけでなくベンチャーがものづくりに参加できる変化であり、新しいチャレンジを貫くことでマーケットを創ることができます。知恵を絞れば、企業の規模は関係ありません」 (大和氏)
ロボットの分野では試作品が提案に有効で、ヴイストンでも3Dプリンタを活用して試作品を短時間で製作し、動くものを見せて提案を行うことで商談にも活かされているとのこと。さらにスマホの登場で、ロボットの操作部分の電源およびソフトウェア開発をロボットと切り離せるため、開発が進めやすくなるだろうと大和氏は言います。
インターネットは、1990年代は「情報」 、2000年代は「人」のものでしたが、2010年代はあらゆるものがインターネットにつながる時代、「 もののインターネット(Internet of Things) 」と言われています。大和氏は、これらを通じてロボットやクルマ、スマホなど、技術がつながる未来を提示し、講演を締めくくりました。
「オープンなテクノロジーとデータ」が促進するモビリティの未来
続いて、「 ロボットとスマホとクルマの未来の接点」をテーマにトークセッションが行われました。デンソーの情報通信サービス開発室次長 安保正敏氏がモデレーターとなり、パネラーにはロボット業界からヴイストンの大和氏、組込みソフトウェア業界から一般社団法人 Open Embedded Software Foundation(OESF)の代表理事 三浦雅孝氏、スマホアプリ業界からFandroid EAST JAPAN 理事長 原亮氏、位置情報アプリサイト「位置GOGO!」を運営するアイラボの代表取締役 伊藤剛氏の4名が登壇しました。
「自動車とロボット、コンピュータの関わりと進化」「 自動車とFabトレンド、3Dプリンタ」「 スマホOSとオープン化の流れ」などの話題について、事例紹介や活発な意見交換がされたあと、安保氏は、開発に携わる企業や個人に対し、デンソーのカーナビ「Navicon」がNaviCon-API(URLスキーマ)によりNaviCon連携機能を提供していることを1つの事例として挙げました[3] 。現在、240近いアプリが連携し、40機種を超えるカーナビが対応しているとのことです。
また安保氏は、技術をオープン化することで、企業内だけではなく世界中で良い仲間を作り、ソーシャルに開発することが可能になってきていると、業界のトレンドも説明しました。「 便利で豊かなクルマ社会と暮らしの実現」のためには、テクノロジーとデータがオープンで、ソーシャルに共有できることが重要であり、企業どうし、エンジニアどうしのコラボレーションにより新しいモビリティの世界を開いていくと語り、トークセッションを終えました。
個性的なアプリが続々登場──審査結果の発表
そしていよいよ、「 SmartTech Award 2013 」の審査結果の発表です。まずはデンソー技術開発センター理事 本田雅一氏がプレゼンターとなり、8つのジャンル賞が発表、表彰されました。いずれもユニークかつ便利なアプリで、表彰式の参加者からは称賛の声や、笑い声が聞こえました。
続いてデンソーの浅井氏がプレゼンターとなり、3つの大賞が発表されました。大賞は、岐阜県による「FC岐阜アプリ byAICamp」がイノベーション賞、クラウドキャストによる「行列マップ(Queuespot) 」がソーシャル賞、デジタルアドバンテージによる「ロケスマ」がテクノロジー賞をそれぞれ受賞しました。表彰のたびに大きな拍手が沸き起こり、一番の盛り上がりを見せました。受賞者には賞状と副賞が手渡され、そのあと、受賞者によるアプリのPRタイムが設けられました。
ここからは、受賞したアプリのいくつかをご紹介します。
表 受賞アプリ一覧
授賞式の様子
イノベーション賞
FC岐阜アプリ byAICamp」(岐阜県)
イノベーション賞を受賞した本アプリは、岐阜県による作品。岐阜県を本拠とするJリーグチーム「FC岐阜」を応援するためのアプリで、ホームである長良川競技場までのルート案内が行えるほか、遠くにいながらチームを応援したい人のために、岐阜の方向に向けて「応援」や「お祈り」をするといった遊び要素を搭載しています。
岐阜県の大垣市は昔からものづくりの活発な街。2001年には情報科学芸術大学院大学(IAMAS)が設立され、そこを中心に情報やメディアの専門家を育成、企業を誘致するなどの活動を行ってきました。2009年からはスマホアプリに注目、アプリ開発者の育成にも力を入れてきました。
「ぎふ清流国体」のアプリなど、すでにいくつかのアプリをApp Storeに公開する岐阜県。しかし、一番の難関は「自治体がアップルのApp Storeに登録すること」だったと言います。アップルの承認を得るまで、紆余曲折を経て半年がかり。そこで得たノウハウは、ぜひともほかの自治体と共有したいと話してくれました。
岐阜県 情報産業課 課長 中島守氏(左) 、同課 情報産業係 主査 森達哉氏
ソーシャル賞
「行列マップ(Queuespot)」(クラウドキャスト)
カーナビでは渋滞情報を確認できますが、「 人の渋滞」 、つまり行列の情報は見ることができません。本アプリでは行列を可視化します。行列を可視化することによって待ち時間を共有でき、移動や行動を効率化することができます。お店などの情報は「地点」でなく、Foursquareの情報を引用しており、このためメンテナンスの必要がないというメリットがあります。さらには、災害時の交通機関の待ち時間や各種サービスの停滞状況をも可視化できます。
クラウドキャスト 代表取締役 星川高志氏
NaviConとの連携にあたっては、デンソーは技術レベルがとても高く、ビジネス面でのサポートも充実していたとのこと。今後は海外の行列情報もさらに充実させていくとともに、アプリから得られた行列情報を分析して得られた回転率や混雑する時間帯などの情報も店舗に提供するなど、B2Bへの展開も視野に入れているとのことです。
テクノロジー賞
「ロケスマ」(デジタルアドバンテージ)
自分の現在地を中心に、付近にあるお店や施設などの情報を収集し、地図上にアイコンで表示してくれるアプリです。もともとは社内にカフェラテが大好きなスタッフがいて、最寄りのスターバックスを見つけるために開発したとのこと。このアプリのUIは非常に動きが楽しく、快適で、とくにピンが「降ってくる」描画は秀逸です。また、表示するお店のWebサイト上にボタンを設置し、それをタップすることで「ロケスマ」を起動して場所を確認できるというB2B2Cのビジネスモデルも進めていると言います。
デジタルアドバンテージ 代表取締役 小川誉久氏
エンドユーザには無償でアプリを提供し、店舗に提供するWebボタンの部分を有料とするわけです。お店側でも、チェーン店の認知や集客、競合店の把握などに活用できます。目下の悩みは、いかにしてアプリを入れてもらうかということと、NaviCon対応カーナビを積んだ自動車がもっと増えてほしいことだと話してくれました。
Titanium賞
「InfoBOX」(ネクスティス)
ネクスティス システムエンジニア 大田義和氏
CANのデータを活用する「Up Side」部門でも技術的に目立っていたのがこのアプリです。自動車にはさまざまなセンサーが搭載されていますが、デンソーではその情報をスマホで活用するための「CAN Gateway」という機器を技術開発しています。CAN Gatewayからのデータはビッグデータであり、活用するためにはデータの分析が必須となります。本アプリは、この情報を使いやすくするためのフレームワークで、その部分を気軽に使えるようまとめ、使いやすくしています。データには速度はもちろん、アクセルをどの程度踏んでいるか、ハンドルをどのくらい切っているかなどの情報が含まれています。これを分析することで車の挙動がわかります。本アプリをプラットフォームとすることで、たとえばエコ運転をサポートするアプリや、居眠り運転の兆候を検出するなど、幅広い活用が可能となります。また、データを共有することで、さらなる活用も期待できます。開発元であるネクスティスの大田義和氏は、「 今はとにかくCAN Gateway本体が欲しいです」と話してくれました。
コミュニケーション賞
「CARMAN~車の気持ち~」(神田剛輔 氏)
エンターテイメント賞
「Final.D」(IIC)
同じく「Up Side」のジャンルに果敢に挑戦し、受賞したのがこの2つのアプリです。どちらも難易度の高いCANのデータを活用しながら、遊び心あふれる作品となっています。「 CARMAN~車の気持ち~」は、CANのデータを分析し、特定の挙動が検出されたときに、アプリに表示されたキャラクターが表情を変えてしゃべるというもの。「 Final.D」は、ドライバーが急ブレーキを踏んだときに、その表情を撮影するというアプリです。
「CARMAN~車の気持ち~」では、キャラクターやその表情、しゃべる言葉などのバリエーションを増やすことで、より「車との対話」を楽しめるようにしていきたいと言います。また「Final.D」では、撮影した写真を共有することはもちろん、急ブレーキを踏んだ位置の情報を共有、蓄積していくことで「急ブレーキポイント」をマップ上に表示して注意を促すこともできます。大好きなクルマと、大好きなアプリ開発を通じて、ドライビングをさらに楽しく、安全にしていきたい、そういったことを自分たちができるようになったことがうれしいと語る2人の笑顔が印象的でした。
デンソーは、今後もさまざまな人々とともに、クルマや家とネットをつなぐ活動に取り組んでいくとのことです。
「CARMAN~車の気持ち~」
「Final.D」
SmartTech Award 2013 受賞作品の詳しい内容は、以下のURLのWebサイトで公開しています。
http://sta.denso.co.jp/
SmartTech Award 2013 関連記事
http://gihyo.jp/dev/column/01/prog/2013/denso