Infinity Ventures Summit 2013 Springレポートその1:パズドラの次のメガアプリはIT業界と放送業界のキーマンがIVS初参加

毎年恒例で5月ごろ・12月ごろに開催されるIT業界の経営者向け招待制イベントInfinity Ventures Summit(IVS)⁠。が5月23日と5月24日に札幌にて開催されました。IVSはIT業界の経営陣が一同に会するイベントであり、その時期の勢いのある会社や事業が自ずとスポットライトを浴びます。それに加えてIVSでは以前からIT業界、スタートアップの枠にとどまらず、医師や登山家、棋士など精神性にも関わったセッションが設けられていましたが、今回のIVSではクリエイティビティー、社会起業家に関するセッションも設けられ今まで以上に広がりを感じることができたIVSでした。

初日と2日目の2回に分けてIVSの模様を振り返ってみたいと思います。

とにかく創ってみよう、ビジネスモデルに答えはない

IVS最初のセッションはクリエイティブラボPARTYの中村洋基氏が登壇しました。中村氏は電通勤務後、会社を超えた共感できる仲間5名でPARTYを2011年に設立します。⁠クリエイティブの世界では創り続けることで見えてくることがあるので、とにかく試行錯誤を増やしている」という中村氏。逆説的だが創り方を考えるためには創ることが必要なので、⁠面白いことを思いついたらとにかく、創ってみる」という姿勢が大事なようです。

PARTYクリエイティブディレクター中村洋基氏
PARTYクリエイティブディレクター中村洋基氏

その中村氏が今の時代に心がけていることとして3点挙げたのが、1.グローバルインサイト、2.コミュニケーションのスイッチ、3.NOWISMの3つです。

中村氏が今の時代に心がけていること
中村氏が今の時代に心がけていること

世界で通用するものを創り、ユーザが自発的に参加できコミュニケーションが伝播していく仕掛けを盛り込み、いまを共有できるサービスづくり。そうした考え方に基づいて制作された数々の事例の中の1つが、Chrome World Wide Mazeです。自分のお気に入りのWebサイトを立体迷路化してPCのブラウザ上に表示。その迷路の中で転がるボールを手元のスマホを傾けて操作するというChrome用のゲームです。Webならではのインラクティブ性を活かした意欲的な作品です。

Chrome World Wide Mazeの紹介動画

中村氏は「クリエイティブに答えはない。ビジネスアイディアも同じ。そうした答えのない仕事を受注している」と話し講演を締めくくりました。中村氏が話したクリエティブへの考え方はスタートアップや新規サービスを考える上でも共通したヒントとなりそうです。

パズドラに続くメガアプリは?業界キーマンによる注目アプリ

「スマホ・マネタイズの王者たち」と題したセッションでは、グリーインターナショナルCEOの青柳直樹氏、サミーネットワークスCEOの里見治紀氏、DeNA取締役の小林賢治氏、LINE執行役員の舛田淳氏、AppAnnieCEOのBetrand Schmitt氏というソーシャルゲーム業界のキーマンによるディスカッションが行われ、パズドラを代表とする巨大な収益を生み出す大ヒットのネイティブアプリ、いわゆるメガアプリに関する話題が中心となりました。

各自が挙げていた注目しているメガアプリをここで紹介すると、里見氏、枡田氏、Bertrand氏が選んだのは英king.com社のCandy Crush Sagaというパズルゲーム。iOSの課金売上では137カ国で最高1位にランクインしたことがあるお化けアプリです。サミーネットワークスの里見氏は絵のテイストが日本でも伸びないと考えていたそうですが、日本でもトップアプリにランクインしており「課金へ誘導するタイミングが絶妙である」といいます。

King.com社のCandy Crush Saga
King.com社のCandy Crush Saga

グリーインターナショナルの青柳氏が挙げたのはKabam社のFast & Furious 6(日本名:ワイルド・スピード EURO MISSION)です。同名映画を元にしたゲームで本社があるシリコンバレーではなくカナダのバンクーバーで制作されており、青柳氏は「Kabam社は今中国で制作しているタイトルも多い。アメリカ以外の国で制作しアメリカ市場にランクインするゲームを創ってきているのが面白い」と述べました。

Kabam社のFast & Furious 6: The Game
Kabam社のFas

DeNAの小林氏のオススメアプリはコナミのパワフルプロ野球TOUCH2013。割り切りが良く、ゲームとしての完成度が高いことが選出の理由だそうです。

コナミデジタルエンタテインメントのパワフルプロ野球TOUCH2013
コナミデジタルエンタテインメントのパワフルプロ野球TOUCH2013

その他に各自が定番の注目アプリとして挙げていたのがSpercell社のClash of Clans。Supercell社は他にHay Dayと合わせて2本のタイトルしか出していませんが、2本とも5月のiOSの月間収益ランキングのトップ10にランクインしています。

Cell社のClash of Clans
Cell社のClash of Clans

DeNA小林氏はこうしたメガアプリに続こうと大ヒット作パズル&ドラゴンズのフォロワーが生まれてきているものの死屍累々で、⁠ヒットアプリメーカが3個目めを自分立ちで重ねていくのも難しい」と語り、⁠ストII(ストリートファイターII)がゲーセンで流行ったときに格闘ゲームに感度が高い人がゲーセンに集まり、そこに格闘ゲームを投じればヒットするという状況が生まれた。それと同じことが起きたのが日本のカードパドルゲーム。1社だけでこうした状態をつくるのは難しく、こうした状況をつくることにプラットフォーマーの価値があるのでは?」と語りました。

サイバー藤田社長「まだ社長を辞めるのは無理」

初日3つ目のセッション『起業家』の著者が起業家の本質に迫る」では、サイバーエージェント社長の藤田晋氏がモデレーターとなり、ウィルゲート代表取締役の小島梨揮氏、コーチ・ユナイテッド社長の有安伸宏氏、トライフォートCEOの大竹慎太郎氏、nanapi社長の古川健介氏、HASUNA代表取締役の白木夏子氏の5人の若手起業家に対してディスカッションが行われました。藤田氏が自身の創業時の目線に立って各メンバーへのアドバイスを行なっているのが印象に残る、若手世代とベテラン経営者による経営談義が楽しめるセッションとなりました。

若手起業家に質問をするサイバーエージェント社長の藤田晋氏
若手起業家に質問をするサイバーエージェント社長の藤田晋氏

CROOZのCTO小俣泰明氏とトライフォートを創業した大竹氏は自社サービスではなく受託での事業が中心となっています。これに対し藤田氏は「大きなお世話かもしれないけど、リーマンショックで受託の企業がバタバタと倒れた。発注側の理論でヤマダ電機のような危険な状況がやってくる。いきなり自社タイトルでやっていてもいけるんじゃないか?」と元サイバーエージェントの大竹氏にアドバイス。大竹氏は「⁠⁠自社タイトルで始めるのは)リスクが大きいと考えた。ゲームの会社にしようと考えておらず世界最大の技術会社にしたい」と抱負を語りました。

かつて、したらば掲示板をライブドアに売却したnanapiの古川氏に対して藤田氏が「シリアルアントレプレナーはこつを掴んでいる。もうnanapiは売らないの?」と尋ねると、⁠売却はすごくいいけど、サービスを大きくするために買う側になりたい。また市場に合わせて買いやすいものを創るのは好きじゃないので言葉では表現できないものを創りたい。そういったもののほうが面白いんじゃないか?」と語りました。コストはかかり、手間はかかり、明らかに分が悪いサービスだから他の会社が面倒でやらないのがいいのだそうです。

左側トライフォートCEOの大竹慎太郎氏、右側nanapi社長の古川健介氏
左側トライフォートCEOの大竹慎太郎氏、右側nanapi社長の古川健介氏

最後に大竹氏がかつての職場の社長である藤田氏に「経営者としての引き際についてどう考えているのか?あるならばどういう人物に任せたいか」と切り込むと、⁠正直ずっと辞めよう辞めようと考えながらやってきたけど、何か達成したらまた責任が生まれてくる」と答え、誰がやっても伸びる会社をつくろうと取り組んできたが、Ameba事業では自ら細かいところまで率先して取り組むようになったところ「やればやるほど抜けれない状態になった」と語りました。⁠今、ちょっと(辞めるのは)無理(笑⁠⁠」なのだそうです。

楽天三木谷社長初参加「大企業は人材が死んでいる」フジ亀山常務、横で苦笑

IVS初日最後のセッションは楽天CEO三木谷浩史氏がIVSに初参加・初登壇し、LINE株式会社CEO森川亮氏、GMOインターネットグループCEO熊谷正寿氏、フジテレビ常務の亀山千広氏らが登壇する豪華なセッションとなりました。新興勢力であるIT業界、旧勢力としてのマスメディアという対比で描かれることが多かったネットとテレビですが、TBS買収報道で注目を集めた楽天の三木谷氏と、フジテレビの次期新社長に内定している亀山氏が一緒に語るという業界の転換を感じさせるような場となりました。

フジテレビ常務亀山千広氏
フジテレビ常務亀山千広氏

亀山氏は自己紹介から「登壇者の中でネクタイしめているのは僕だけ(笑⁠⁠」と自虐的に切り出し、⁠テレビ局が方向性に悩んでいるのは皆さんたち(IVS参加のIT関係者)があるから(笑⁠⁠」と率直にテレビ局が抱えている課題を語りました。⁠誰でもニュースを伝えることができるようになったことでマスメディアの意義が問われるようになり、マスコミはちょっと迷いに入っているのではないか」というのが亀山氏が長く現場をやってきて感じている印象だそうです。

LINEの森川氏も以前テレビ業界に勤めていたことがあると語り、辞めるときに役員会が開かれたとのエピソードを披露しました。⁠日本は本当に変わる気があるのだろうか?守ることに力を入れている。ネット業界では壊すこともしていなかくてはいけない。本当に守らなければいけないものは何かを考えるべき」と語りました。

亀山氏も「テレビ局って実はかなり受け身。ハイビジョン、4Kなどの技術革新はメーカから起こっている」とそれを認め、⁠マスメディアはすべて受け身なのでメディアとは何かを考え、何を発信するかを考える人を育てなくてはいけない。与えられたものを間違いなく伝えるのではなく、考える人を」と抱負を述べました。さらに「テレビ局をつくることに意味があるのか、コンテンツを創ることに意味があるのか」と自ら問いかけ、⁠SNSやLINEはすごいメディア。創ったコンテンツで人を集めてそこで何かを売る。それを観ることでみんなが語り合うときにテレビじゃなく、そっちでやるというのはコンテンツを創っている側からみてものすごいチャンスを感じる」と話し、テレビという枠を超えて事業に取り組んでいく意欲を覗かせました。

三木谷氏は「日本は田植え文化。百姓は他の人と同じことをしないといけない。違うことをやったら村八分となりスタンドアウトしてはいけない。アジアでも遅れてきてしまっている。多少失敗しても前に出る。日本はもう一回海洋国家にならないといけない」と語りました。続けて「大企業は人材が死んでいる」と話すと、横でそれを聞いている亀山氏がすごく苦笑しているが目に止まり非常に印象に残りました。

楽天CEO三木谷浩史氏
楽天CEO三木谷浩史氏

余談ですが、楽天の社員数は単体で3,000人、連結で9,000人を超えています。対してフジテレビの社員数は1,400人ほど。今回のIVS参加者の会社でいえばGMOインターネットグループ、サイバーエージェント、グリーがそれぞれ約2,500人、DeNAが2,100人です。数字の上では、楽天はかなりの大企業です。業界として成長し成熟した起業が現れ、新経済連盟を立ち上げるに至る一方で新たな世代によるスタートアップが数多く参加するという場でIT業界のひとつの節目を感じました。

LINE森川氏「10年後は自分はLINEにいないと思う。3年後にインターネットの歴史を変えたい」

最後に10年後どこまで会社を大きくしたいか?と問われると、楽天の三木谷氏は「アメリカ行くとAmazonに対抗するなんてバカなこというのはお前くらいだ、とよく言われる。これからさらに大きくなる電子書籍のマーケットの中で勝負できると思っている。日本人でもグローバルな組織作れると証明したい」と語り、GMOインターネットグループの熊谷氏は「来期は売上が1,000億にいくと思う。10年後には一桁兆が見える規模感に。グループ社員は3,000人から3万人に。利益も100億から1,000億に。それくらいやってなかったら命かけている意味がない」と成長への貪欲さを見せました。

フジテレビの亀山氏は「ファンドの会社も遅ればせながらつくった。フジスタートアップファンドから三木谷さん越せる社長出したい」と話すと、LINE森川氏は「自分は創業者ではないので10年後は(LINEに)いないと思う」と話して会場の笑いをとり、⁠インターネットの歴史を変える会社にしたい。それを3年後に達成したい」と自信を覗かせました。

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