慶応義塾大学の日吉キャンパスで6月28日と29日、IVS(Infinity Ventures Summit)サマーワークショップ2013が開催されました。IT業界の経営者向け招待制イベントであるInfinity Ventures Summit(IVS)から派生した学生向けのイベントです。起業家などが中心となって、大学生に対して起業や働き方についてのセッションが行われました。
ミクシィ朝倉氏がCEO就任後初登壇
初日のセッションで6月25日にミクシィのCEOに就任したばかりの朝倉祐介氏が登壇しました。CEO就任後初となる公のイベントへの登場で朝倉氏は自らの生い立ちや仕事への考え方を学生に語りました。
東大卒で起業経験や戦略コンサルティング会社のマッキンゼーでの勤務経験がある朝倉氏の経歴は華々しく見えますが、実は大きな挫折も経験しています。中学卒業後、騎手になることを目指していた朝倉氏は騎手育成学校に入るためにオーストラリアへ。しかし成長期となり思いのほか体が大きくなりだし、体重を抑えなければいけない騎手を目指すのが困難となり帰国。その後、競走馬育成のための調教をする道を選びますが、足の骨折によりそれも閉ざされてしまいます。そこで専門学校へ通って大学受験資格を得て、通常の学生の2年遅れで東大に入学したそうです。
朝倉氏はイベントに参加している大学生に向けて「自己研鑽して、見たことない世界を見るためにチャレンジするのも自由、堕落して生活するのも自由。自分の幅を広げられるように努力していくことが大切」と語り締めくくりました。
起業原理主義 vs 起業家なんて頭がおかしい人がやるもの
「新規気鋭の起業家が語る20代の生き方」と題したセッションでは、学生はすぐに起業するべき!という意見と、大企業やベンチャーで働いて経験を積んでからで良いという意見がぶつかる白熱したものとなりました。
学生は「明日すぐに起業しろ!」と参加者に発破をかけたのがノボット社長の小林清剛氏。大企業と経営者の筋肉の鍛え方は違うため、大企業に入らないほうがいいとバッサリ切り捨て、「一日でも早く起業したほうが良い、今そこで話を聴いているのを悔しいと思ったほうがいい。来年登壇する側に座ってやるというくらい積極的になったほうがいい」と学生を鼓舞しました。
これに対してトライフォートCEOの大竹慎太郎氏は「20代のころは起業するやつは頭がおかしいと思ってた」と率直に語りました。サイバーエージェントへ新卒で入社したころは起業について考えたこともなかったという大竹氏ですが、実際に起業した人に接していくうちに「この人よりも自分のほうが優秀なんじゃないか?起業ってそんなにたいしたものじゃないんじゃないかと絵が描けた」そうで、30代になって起業するに至ります。
一方nanapi社長の古川健介氏も「リクルートで出世している人は超すごい人で、そんな人にはなれないと思ったが、大企業で出世するよりも、起業するほうが成功する確率が高いんじゃないか? 」と考え起業したそうです。
また起業するほうが大企業よりも精神的なリスクが小さくストレスが溜まりにくいと大竹氏は言います。「大企業だと自分のコントロールできないところで人生が変わるので言い訳しちゃう。言い訳しているとストレスがたまる」そうで、経営者のほうが責任とやることなどが大きくなるものの自分でコントロールできないことのほうがストレスを感じると語りました。
けれどもやりたいことが見つからない大多数の学生
こうした2日間のワークショップを通し、参加者である学生が登壇者からの熱気を感じながらも「やりたいことが何か見つからないのでそれをどう見つけたらいいかわからない」という質問が多く見受けられました。起業に対する関心はありつつも、何をやることを選択して動き出せばいいのか分からない。そうした状態である以上、就職など現実的な選択をしながらどう生きていくのが良いのだろうか、といった問いでした。
上記を学生らしい悩み、とバッサリ切ってしまうこともできますが、社会人であってもこの「やりたいことが何か?」がわからないという人は多いのではないかと思います。仕事として続けているものはあれど、それがやりたいことかと問われれば回答に窮する人も多いでしょう。また金銭的な要因が動機として大きく作用している場合もあり、この問いかけは学生に限らず多くの社会人も共通して抱えているものかもしれません。
2日間のワークショップを通して度々出てきたこの問いに、登壇者がどのように答えていたかを紹介したいと思います。
3年先の自分を見れなかった。他の人のやりたいことを実現する生き方
パタゴニア日本支社支社長の辻井隆行氏は20代のころ、冬はスキー場に住み込み、夏はシーカヤックをするという生活でパタゴニアでパートタイマーとして働き始める前は無職だったと言います。そんな一見自由奔放な「3年先の自分を見れなかった」生き方をしてきたように見える辻井氏は、今は支社長という立場で「自分ではない誰かがつくった組織で自己実現をする」生き方をしています。
外から見ているとセレンディピティに導かれて辿り着いたようにも見えますが、登壇者用に用意されたペットボトルの水には手を出さず持参の水筒の飲み物を口にする辻井氏の姿から日ごろから自然体でパタゴニアの精神を体現してきたことが今の地位へと導いたようにも思えます。
グーグル株式会社の製品開発本部長の徳生健太郎氏は「アイデアを情熱的にやりたい人は少ない。自分がそういう人でないのであれば、そういう人を見つけて一緒にやる、他の人のアイデアにのっかるのもいいんじゃないかな?」と学生にアドバイスしました。「人が思っていることを具現化するのも立派な仕事」と語り、いろいろな人がやりたいことを助ける生き方を実践しています。
ほとんどの人がまだこの人生でこれをやりたいということを見つけていないのでは?
サイバーエージェント取締役を経て起業準備中の西條晋一氏は「まだこの人生でこれをやりたいというのがない。ほとんどの人がそうでは?」と話し、やりたいことではなく逆にやりたくないことを書き出し、消去法でやりたいことを見つけてきたと言います。また学生に対しては「人生欲張ったほうがいい。1個にしか絞るのではなく、全部やってみたらいい。就職やりつつも起業すればいい」と学生時代だからこそ平行してできることをいろいろとやってみれば良いとアドバイスしました。
また「迷うときは暇なとき。忙しくなるとこれは自分がやるべきじゃないということが見えてくる」と話しました。西條氏も学生時代は暇だったので、何もアクションしていなかったと言います。時間が無いというときに見えてくるものがあるので、もっともっと欲張ったほうがいいと参加者を激励しました。
高給であった金融業界で働き続けることをやめ、楽天の球団創設に携わりビズリーチを起業した南壮一郎氏は「カナダ、日本、アメリカという3つの国で教育を受けて本当に世界は広いと感じている。やりたいことが見つからないのなら絶対に留学したほうがいい。留学して損したと思ったら、僕が自腹でその人に留学費用を払います。でもお礼しか言われたことがない」と語って会場を湧かせ「たくさんの価値観の中でいろいろなものを体験してみる。そうしたら自然発生的に自分がやりたいことが見つかるのでは?」と話しました。
最後に、南氏は「僕も本当は、こっち(登壇側)じゃなくて、そっち(話を聴いている学生側)に座りたいんだよ」と、こうしたイベントで多くの刺激を学生時代に得られている学生こそが羨ましいと本音を語りました。