PyCon China 2013 上海 参加レポート

こんにちは、田原悠西です。Python大好きのPythonプログラマーです。2013年12月8日(日)に中国の上海でPyCon China 2013 上海が開催されました。私はこのイベントに参加して発表もしてきました。どうやら日本からの参加者は私だけだったようです。そこで日本では知られていないこのイベントの参加レポートをお届けします。

PyCon Chinaとは

PyConはプログラミング言語Pythonのコミュニティーが主催して行われるカンファレンスで毎年世界各国で開催されています。今年の9月には日本でPyCon APAC 2013が開催されました。

PyCon Chinaは中国で行われるPyConで今回は第3回目とのことです。そして中国のPyConはなんと4都市で別々に開催され、今回は12月8日に上海、珠海、杭州の3箇所同時開催、14日は北京で開催ということでした。一つの国でPyConが複数都市に分かれて実施されるというのは珍しいと思います。さすが国土が広くて人口も多い中国です。

PyCon China 2013 上海の概要
公式サイトhttp://cn.pycon.org/2013
上海会場http://cn.pycon.org/2013/shanghai
開催日2013年12月8日(日)
構成1トラックで基本は中国語セッション
参加費用無料
会場浦软大厦
参加人数約250~350名

PyCon Chinaに行くきっかけ

私は仕事でPythonを10年くらい使っていて過去にアメリカと日本のPyConに参加したことがあり、このイベントには馴染みがありましたが、これまで中国のPyConに行くことを考えたことはありませんでした。今回、私の勤務先が欧州企業の日本支社ということで、欧州のほうから「中国のPyConに行ってみなよ」という声がかかりました。それでは行ってみるかということで思い立ったのが開催の一週間くらい前で、親会社で働いている中国人スタッフも参加するということで2名で参加することになりました。

参加登録する

PyConは有料のことが多いのですが、今回のPyCon Chinaは無料でした。しかし事前の参加登録が必要です。公式サイトをチェックして参加登録のページを発見、上海のPyConではheadin.cn海丁网というサイトのサービスを利用して参加者の管理をしているということが分かりました。ここで上手く登録することができず、主催者にEメールでイベントに参加したいとの旨を伝えました。するとすぐに返事が来て、さらに何かPyConで披露したいトピックがあるかと聞いてくれました。そのとき私は2ヶ月前の日本のPyConで発表の申し込みをしたものの落選していたので、これは良いチャンスと思い、発表をさせてもらうことになりました。この時点で既に開催まで1週間しかないのですが、上海のPyConは開催直前までスケジュールの調整が可能なようです。その後主催者からリハーサルを開催前日に行うと連絡がありましたので、土曜日の午後に上海で行われるリハーサルに参加することにしました。

上海へ向かう

土曜日のリハーサルから参加するために金曜日に日本を発つことにしました。中国に行くのははじめてでこの旅行自体が直前に決めたため、中国や上海のことはほとんど何も事前に調べられませんでした。出発ゲートで搭乗時間を待っていると出発時間が遅れるという連絡がありました。上海の空港が濃霧で飛行機が現在着陸できないとのことです。噂のPM2.5かと思いつつ、結局出発は2時間遅れました。上海到着後、市内に向う磁浮と呼ばれるリニアモーターカーに乗り、地下鉄に乗り継いでホテルに着いた頃には霧は薄くなり、空気も気にならない感じになっていました。

土曜日のリハーサル

リハーサルは13時30分から18時まで翌日のカンファレンス会場とは別の浦東にあるAutoDesk社の会議室で行われました。なんでもスポンサーのGoogleがこの場所を提供してくれたそうです。リハーサルは翌日の本番での発表の品質向上のため、ほとんどの発表者とPyCon主催者グループのメンバー13名が集まって、みんなの前でプロジェクターでスクリーンに発表資料を投影して本番のように発表を行い、かかる時間の計測をしたり、お互いに発表内容に対するアドバイスをし合いました。私は、資料のページ数を増やしていいから1ページ当たりの情報量を減らすべき、最後に見せる技術デモは聴衆がすぐに理解できるようにもっと単純にするべき、といったアドバイスをもらって、発表内容を改善することができました。

リハーサルの後には発表者のためのウェルカムディナーを主催者が開いてくれました。リハーサルには参加できなかった発表者も合流して素敵な中華レストランで食事を楽しみました。このウェルカムパーティーの費用もスポンサー企業が出してくれたそうです。

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イベント当日

イベント当日は朝8時30分開場、9時15分開演で、結構朝早いです。天気はものすごい濃霧で、会場の建物の正面まで来ても霞んでよく見えないくらいです。

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会場の中に入るとスタッフの方々が忙しそうに準備をしていました。このPyConは1トラックなので発表はすべて大ホール(約200席)で行われます。発表者はホールの一番前の席に通されました。ノベルティグッズはPyConキャップでPythonの蛇が龍になっていて格好いいです。スタッフと発表者のキャップは紺色、参加者のキャップは茜色でした。

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いよいよスタート

定刻になり主催者のリーダーであるSting Chenさんの掛け声でPyConが始まりました。発表のほとんどは中国語での発表で、私は中国語ができないため理解できたことはかなり少ないのですが、どのような話があったのかを紹介します。

Leoの作者からのビデオレター

はじめに外国のゲストからのビデオレターとして、非常に独特な世界観を持つPython製エディターとして知られるLeoの作者であるEdward K. Reamさんからのビデオレターが上映されました。LeoはEmacsのような自己拡張型のソフトウェアで約13年前からPythonで開発されているものです。私はLeoを使ったことはないのですが、Leoの独特な考え方に触れるために試してみるのは面白そうだなと感じました。

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基調講演 DAEのシステム設計

キーノートは中国の大手SNSであるDouban(豆瓣)でCTOをされているHung Qiangningさんによる自社のシステム基盤であるDAEの紹介でした。DAEは自社製のPython用プライベートPaaSとのことで、この基盤を427つのアプリケーションで利用しているそうです。この基盤では様々なオープンソースソフトウェアを利用しており、将来的にはDAEをオープンソースにするかもしれないということも話していました。

基調講演 Celery分散設計

次のキーノートはGlow IncのCTOである叶剑烨さんのCeleryの紹介でした。CeleryはPythonで書かれたオープンソースの非同期タスクキューで仕事を複数のスレッドやマシンに割り振るために使われます。Glowは健康管理用のスマートフォンアプリケーションを作っている企業でユーザーへのプッシュ通知のためにCeleryを使っているそうです。

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お昼休み

ここで午前の部は終了。お昼には参加者全員に無料でミネラルウォーターとサブウェイのサンドイッチが配られました。発表者には休憩室が用意されましたので、私はそこで他の発表者の方々と少しだけ話しをしたりしました。大ホール入口ではたくさんの参加者たちが立ち話をしたりして盛り上がっていました。

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午後にも大ホールで発表は続くのですが、同時に別室ではCodelabという名前でOpenERPとOpenStackのチュートリアルが開かれ、参加者が自分のパソコンを持ち込んで講師と一緒に実際にコードを書いてアプリケーションを書いたり、ソフトウェアを動かすことを体験できました。

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午後のセッション

Pythonコミュニティー最新報告、私とオープンソース

午後の最初の発表は主催者グループの主要メンバーで司会のKJさんのPythonコミュニテーの最新の話題、続いてHsiaoming Yangさんによる中国のPythonコミュニティーに対する意見の表明でした。Hsiaomingさんは中国で一番アクティブなGithubユーザーだそうです。彼はコミュニティーに参加する人たちにもっと社交的になろう、質の高い中国語のコンテンツを増やそうと呼びかけていました。

ファイルシステム無しのPython

私の発表でした。ファイルシステム上でPythonのコードを書かない代わりにそのコードをデータベースに保存して自動的にクラスター全体で最新のコードを共有して動かす仕組みを紹介しました。この仕組みは、私自身が開発に携わっているPython製のオープンソースERPであるERP5で最近開発したものです。これによって最新のコードのデプロイが楽になるという趣旨です。

発表のあとには何人かの参加者と直接質疑応答などを行いました。主催者からも聞いていたのですが、PyConに来ている中国のプログラマーたちは基本的に英語ができるため、読み書きリスニングは問題ないけど話すのは普段練習していないからちょっと苦手ということでした。私の英語は流暢ではありませんがそこそこ話すことはできるため、参加者の皆さんと英語で話すのは特に問題ありませんでした。

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プログラミング教室のいくつかのストーリー

袁昕さんによるPython学習システムの紹介です。彼はPythonを勉強したい人向けの学習システムcrossin.meをスマートフォン向けにDjango、RestrictedPython、JQueryMobileを使って開発しており、その動機や状況、作ったシステムのデモを行いました。会場ではPythonでプログラミングをはじめて勉強しはじめたばかりの人たちも少なからずおり、質疑応答ではプログラミングを勉強する意義とは何かという話もしていました。

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パブリッククラウドでPythonを使って構築する

PyConスポンサーであるパブリッククラウドプロバイダーのSpeedyCloud郑柯さんによるPythonプログラマー向けのパブリッククラウド上でPythonを使うサービスの紹介が行われました。この発表は人気ビデオゲームStarCraft2のシステムにクラウドを例えて行われました。私は中国語が分からないので一見するとビデオゲームの話をしているのかと思いましたが、そうではありませんでした。

どのように2日以内に高速に学生採用システムを開発するか

中国の有名共同購入クーポンサイトDianPing(大众点评)の吕召刚さんと段华杰さんの発表です。なんでも求人に応募してくる学生が非常に多く大量のdocファイルが使われているそうです。そのため人事の仕事がとても大変になり、Pythonで採用担当者用の自社システムを構築するに至ったそうで、そのプロジェクトについて紹介しました。PythonのウェブフレームワークDjangoを使って構築したそうで、質疑応答ではDjangoユーザーからのDjangoについての技術的な質問も出ていました。

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小さく清新なルネッサンス 堆糖のPython事例

コミュニティーサイトを運営するDuitang(堆糖)の曹文炯さんによるPythonや自社Duitangの歴史、そしてPython製の自社システムを紹介しました。Duitangは2010年にメンバー3人で自宅で始めたサービスで、それが3年後の現在では社員数は40倍になっているそうで、上海のシリコンバレー的な勢いが感じられる話でした。システムはPythonとJavaを使っており、Javaで実装されたPythonであるJythonも使っているそうです。

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DockerとBuildbotとGitを使った継続的インテグレーション

最後は、最近ご自身で企業を興したというAdieuさんによるDockerとBuildbotとGitを使った継続的インテグレーションシステムの構築の発表でした。会場でAdieuさんからDocker、Buildbot、Gitを知っている人がどれくらいいるかという質問があり、Gitはほとんど全員が知っていましたが、DockerとBuildbotはあまり知られていないようでした。継続的インテグレーションは現在注目されている考え方ですが、中国でもまだ広く知られてはいないようでした。また彼の発表は資料がすべて英語でしたので中国語が分からない私には分かりやすかったです。

抽選会、そして閉会

PyConの締め括りに抽選会が行われました。抽選で当たった人にはスポンサーからグッズや書籍のプレゼントがありました。ずいぶんたくさんプレゼントがあったようで、何度も当選番号を決めるスロットマシーンを回すことになり、たくさんの人が書籍をもらいました。

最後に主催者のリーダーであるStingさんと司会のKJさんが閉会の挨拶を行い、6日後の14日には北京でPyConが開催される旨を伝えて18時にPyCon China 2013 上海は終了しました。

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最後に

中国上海で開かれたPyConにはじめて訪れ参加しましたが、主催者の皆さん、参加者の皆さんに仲良くしてもらい、とても楽しく過ごすことができました。中国ではPythonは少しマイナーだそうで発表者も含めて5年以内にPythonを使いはじめた方が多いこと、そしてPythonやオープンソースのソフトウェアが広く使われていることを実感できました。この記事で少しでもその雰囲気が伝えられれば幸いです。

PyCon Chinaでは毎年同じメンバーが発表することが多く、さらに外国からの発表者はほとんどいないことから海外からの新しい発表者はいつでも歓迎しているということなので、Pythonネタで何か発表したいことがある人は来年のPyCon Chinaで発表してみてはいかがでしょうか。

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