LPI-Japan、『エグゼクティブセミナー「HTML5/OSS ビジネスサミット 2014」~新たなビジネスを切り開くHTML5とオープンソース~』レポート

『エグゼクティブセミナー「HTML5/OSS ビジネスサミット 2014」~新たなビジネスを切り開くHTML5とオープンソース~』開催

特定非営利活動法人エルピーアイジャパンは2014年3月12日(水⁠⁠、⁠エグゼクティブセミナー「HTML5/OSS ビジネスサミット 2014⁠⁠~新たなビジネスを切り開くHTML5とオープンソース~』を東京都港区のコンラッド東京で行った。

登壇者は以下。

  • LPI-Japan理事長 成井弦氏
  • 楽天(株⁠⁠ 森正弥氏
  • ⁠株⁠ディー・エヌ・エー 坊野博典氏
  • ⁠株⁠オージス総研 山口健氏
  • ⁠株⁠オープンウェブ・テクノロジー 白石俊平氏

以下に各講演について簡単に紹介する。

開会挨拶

まずLPI-Japan理事長の成井弦氏より開会の挨拶があった。

LPI-Japan理事長 成井弦氏
LPI-Japan理事長 成井弦氏

HTML5の優位性

HTML5は、エンタープライズ系にも、クリエイティブ系にも有用な言語である。また「ワンソース・マルチユース・マルチデバイス」の言語でもある。

ワンソース・マルチユース・マルチデバイス

HTML5で作成されたアプリケーションプログラムは、ソフトウェアの変更なく多くの端末で使用可能である。これを「ワンソース・マルチユース・マルチデバイス」と呼んでいる。現在HTML5をサポートしている端末はPC、タブレット、スマートフォン、Kindleなどの電子書籍端末、現在のTVの一部にもブラウザが入っている。それら以外にもカーナビ、ゲーム機、その他もろもろにもHTML5対応のブラウザが搭載されている。

エンタープライズの分野においてHTML5が使用されるため、最近のJavaはHTML5に対応している。ERPの最大手SAPも、HTML5対応のソフトウェアを提供している。

NHKはソチオリンピックのTV中継で、ハイブリッドキャストという形式で放送していた。今販売されている大手家電メーカの一部のTVは、HTML5対応のブラウザを搭載していて、新たに追加された情報を見られるようにできている。フジテレビもハイブリッドキャストを行うと発表している。

エンジニアはITの世界からクリエイティブの世界に入ることによって、これまでと違った世界を築ける。クリエイティブ系の仕事は海外に流れにくく、オフショアになりにくい。クリエイティブ系の世界は1人月の世界ではなく、バリュープライシングの世界である。クリエイティブ系の世界は年齢制限がない。クリエイターもITの世界に入ることによって、差別化を付けることが可能だと思う。HTML5はエンジニアやクリエイターを、IT+クリエイティブの世界に導くのに非常に優れた言語である。

3つの融合が差別化を生む

エンジニアやクリエイターにとってLPIC、OSS-DB、HTML5の3つの融合が差別化を生む。融合の範囲が広ければ広いほどこれまでよりもさらに強い差別化を築けると思う。LPI-Japanはサーバ系、クライアント系の認定を中立の立場で提供する唯一の団体である。ぜひとも3つの認定を利用して、皆さま方にさらなる優位性を得ていただきたい。LPI-Japanのメンバーは全員、それに貢献したいと考えている。

基調講演:『楽天における「変化に対応していくOSSとHTML5の活用」の実際』

基調講演として、楽天(株⁠⁠ 森正弥氏が登壇した。

楽天(株⁠⁠ 森正弥氏
楽天(株) 森正弥氏

はじめに

楽天市場のビジネスは現在にいたるまで重要な知見がある。それはロングテールである。ロングテールはAmazonのビジネスに対しての分析の仮説から出てきた概念である。しかしロングテールという言葉自体は昔からあった。とてもマニアックな商品を1人や2人が少しだけ購入している。売上総和的に見たときに、その少しだけ購入しているものが全体の8割を占めている。ロングテールには売上の非常に大きな部分の可能性があり、そこをいかに制圧するかが問題である。商品はジャンルによらず、すべてはロングテールである。

OSSの活用と楽天⁠株⁠⁠以下、楽天)の歴史やビジネスは非常に密接に関わっている。

楽天はOSSの技術を積極的に活用するだけではなく、開発メンバーを提供したりパッチを提供したりしている。独自に開発したノウハウも公開している。とくにビッグデータはOSSを120%フルに活用している。商用製品はほとんど使用していない。

インターネットは今のITのアーキテクチャをひっくり返し続けている。その変化を生み出しているのはエンジニアである。インターネットのエンジニアたちがつながりあい、協力しあって新しいOSSのソリューションを出して行く。今の問題に対して応えられるのはOSSであって、そのためにOSSの開発者を提供したりOSSを提供している。

世界的に起きている変化

バチカンで行われるローマ教皇選挙会である「コンクラーベ」の、2005年と2013年の様子を比べてみる。世界的に起きている変化として2013年の様子では、参加者は皆、スマートフォン、タブレット端末、中間のファブレットを使用して写真撮影をしている。

世界中のすべての人が一人一人マシンを手に持っており、かつ常にインターネットに接続されている世界で活動している世の中になった。

ロングテール

かつて, 人々は自分が行けるところで、そこで扱っている物しか買えなかった。企業はあるまとまりをもったクラスタに人々は分類されると考えていたが、そうではなくて、本当はそのようなクラスタに人々を押し込んでいたのだ。インターネットはそれら制約から人々を開放した。とくにモバイルは本人が欲しいものにダイレクトに結びつく。

一般的に通常なにかの集団を考えるときは正規分布を使う。しかしインターネットにはそのような集団は存在しない。グループを分析すると言うことには意味がなく、個人を分析することに意味がある。楽天市場はインターネットの多様性に応じて、ダイレクトにお客様を結びつけて広がって行く、と言うのが創業のコンセプトである。

楽天市場では、1本、1,500万円のロマネコンティが残り1本、とあってもこれが売れてしまう。ヘリコプター1機、4,000万円が売れてしまう。3ヵ月に一度スーパーセールを行っているが車が売れる。これらのほとんどがロングテールである。この商品を欲しい人がもしかしたら地球上に10人いる。この10人に届くかどうかということを考えることが重要である。

情報爆発、ビッグデータとクラウド

世の中では、これまでのアプローチでは追いつかない情報爆発という様相を呈している。一番わかりやすいのはモバイルデータである。楽天が持っている内部のデータも爆発している。一般的にビッグデータ、データサイエンティストと言われている時代である。楽天ではデータを分析して行き、たとえばレコメンドして、広告のサービスを改善して行くとか、データの活用をして行くとか価値の発見を同時に行っている。

とは言え、楽天ではこれまでバッチ処理に非常に長時間かかるとか、またストレージがあふれてサービスを停止しなければならないこともあった。裏側ではこれまでのアーキテクチャではデータ処理できないケースが少なくない。しかし問題が起きると同時にソリューションが現れてきた。2006年から一気に来たのがクラウドである。

これらの関連技術はOSSとして公開されているものが多い。楽天はOSSの技術を積極的に活用するだけではなく、開発メンバーを提供したりパッチを提供している。独自に開発したノウハウも公開している。とくにビッグデータはOSSを120%フルに活用している。商用製品はほとんど使用していない。

アーキテクチャをひっくり返す

楽天は今のアーキテクチャをひっくり返し続けている。それに対してインターネットのエンジニアたちが協力し合って新しいOSSのソリューションを提供して行く。今の問題に対して応えられるのはOSSである。そのため楽天ではOSSの開発者を提供したりOSSを提供している。

商用製品でもOSSでもインターネットのトランザクションの爆発的増加の中では、とんでもないバグが出てきたりする。世界で初めて出たというバグがよくある。成長していく最前線だと商用製品でもOSSでもバグに対するサイクルの差はあまり出てこない。

楽天は情報爆発に対して、オンメモリでI/Oを処理して行く新しいRDBのような処理をしないNoSQLなどについてのプロダクトを、Rubyのまつもとゆきひろ氏と共同開発した。

楽天市場のスーパーセールでは1時間で60億円売れるような爆発的なトランザクションが来る。データが増えていく時代、ストレージも重要であり、楽天は独自開発してOSS化している。商用の製品と比較しても遜色がない。このOSSの安定性はNo.1である。楽天の20種類を超えるサービスで活用しているが、システム障害を起こしたことは一度もない。

ビッグデータの話としてはキーワードはHadoopである。様々な企業のアーキテクチャとして標準になっている。楽天では2007年から取り組んでいる。

放棄することになりかかったサービスをOSSが救った

一般的に、データの更新頻度が変ると売上が変る。たとえば1年間更新されていないより、1週間で更新されるほうが良い。楽天ではできる限りリアルタイムで更新するようにした。しかし、システム的には非常に大変だった。

一般的に、商品のジャンル分けが細かければ細かいほど全体の売上が伸びる。インターネットにおいては、探すことに対するコストが低い。検索してダイレクトに飛ぶ。カタログの分類が細かくても問題はない。そのため楽天市場では数百種類だったものが8,000種類に一気に増えた。しかし、バッチが死んでしまった。このサービスは放棄することになりかかってしまった。しかし、Haddopを使ってバッチ処理をしROMAを使ってI/Oするというような仕組みを実装していくことで、更新頻度を高め、ジャンルを増やし、売上を伸ばした。

一般的に、インターネット、ロングテール、ビッグデータというものに対応して行くには、OSSの活用が非常に重要であることがわかる。

コンピュータが予測できるものと、人間しか予測できないもの

楽天市場では商品検索されたキーワードの精度を高め、売上につなげて伸ばして行っている。たとえば、検索したかった言葉を間違い訂正する。Eコマースに入って行くともっと踏み込んで、商品名に近付ける、固有名詞に近付けて行く。まだ実装できていない研究テーマだか、在庫があるものに近付けていて行くことも注力している。

楽天ではOSSの活用を一歩進めて、ありったけのOSSをつなげてプラットフォームを構築している。たとえばなにをしているのかと言うと、需要予測の最適化を行っている。ある商品がどれだけ売れるのかを予測して仕入れを最適化して行く。ある事業においてはバイヤーの経験に基づいて仕入れを行っていたが、このシステムをバイヤーと比べて全戦全勝するまで育て上げた。氷川きよしのCDの売上であればピッタリ当たる。

しかしこのシステムには絶対に予測できないこともある。たとえばAKB48の新しいCDの売上は予測できない。レコード会社が毎回新しい売り方などを仕掛けてくるためである。ルールを破壊してくるのでコンピュータには予測ができない。

一般的にトップのほうや爆発的なものは人間に依存するが、しかしロングテールに関してはコンピュータがすべてである。

変化が激しい世の中

世の中の変化が激しくてて楽天は正直ついて行けない。スマートフォン、モバイルの普及、人々はよりロングテールになっていく。楽天はビッグデータと戦っていく。

たとえば一般的にオンラインtoオフラインという用語が小売りを中心に普及しているが、このような概念も出てきている。オンラインの店舗と実店舗でのサービスを融合させるビジネスである。オンラインと実空間をまたぐ購買は購入額が大きいと言うことが分析でわかっている。

さいごに

ファブレットというキーワードが海外ではよく聞かれる。楽天ではHTML5を使用してレスポンシブWebデザインでどの画面でもこちらが意図しているものを提供する。楽天の中ではHTML5は非常に重要である。

社内の人材育成については正直、苦しんでいる。様々なトレーニングプログラム、資格認定試験、さらにカバーしなければならないトピックが多い。どんどん新しい技術が出てきている。

楽天では世界中からエンジニアが集まっている。国内の3割が外国勢である。ビッグデータ部では20ヵ国を超えていて、ほとんど日本語を話す人はいない。

社内では知識を共有するテックトークというイベントをほぼ週1で行っている。楽天テクノロジーカンファレンスと言うイベントも行っている。テックトークを行っているエンジニアが中心に運営している。

まだまだ人材が足りない。楽天ではHTML5プロフェッショナル認定試験の認定者を求めている。

講演1:『ゲームにおけるHTML5の活用およびその課題』

講演1として、⁠株)ディー・エヌ・エー 坊野博典氏が登壇した。

⁠株⁠ディー・エヌ・エー 坊野博典氏
(株)ディー・エヌ・エー 坊野博典氏

はじめに

ゲームとHTML5ついて⁠株⁠ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)がHTML5に対して何をしているのか、その取り組みについて説明する。

DeNAがなにを目的になぜHTML5を促進しているのか。DeNAと言えばモバゲー、ブラウザゲームである。ユーザにより良い体験、より楽しんで欲しい、というのが目的である。

HTML5でゲームを開発することについて

HTML5は本当に売り物になるのか使い物になるのか、我々自身として調べないといけないと思った。社内のゲーム開発者から見てHTML5は使い物になる、と説明しないといけないと考えた。これからその過程の一部を、技術者としてどれだけ苦労したかという苦労話をしたい。

ゲームの開発の目的

ゲームの開発の目的は、社内のゲーム開発者にHTML5は使い物になると言うことを説明するためである。ゲーム開発者は試作品では納得しない。スマートフォンで動かしてみてネイティブアプリケーションと同じくらい動くと言うことを見せなければいけない。結果、開発当時に主流だったiPhone 4Sで同じくらいのパフォーマンスが出るものを作った。

3回目にしてやっとゲーム開発者から認められた

まずはiPhone 4Sで動くところまで動くもの、次にiPhone 4SだけでなくIE、Chrome、Firefoxで動くものを開発したが、社内のゲーム開発者からはそれぞれボツにされた。3回目にしてやっと認められた。

個々について簡単に説明する。我々は1回目はとりあえず動くものを目的として開発した。Canvas2Dを使うことにして、HTML5とJavaScriptでコードを書いた。だがiPhone 4Sでは1fpsしか出ず、IEやFirefoxではクラッシュするなどで、社内のゲーム開発者からダメ出しが出てボツにされた。しかし社内のゲーム開発者はHTML5に期待していたので、次の機会をいただいた。

2回目は、描画の高速化、画像をキャッシュしてネットワークの帯域削減、音を鳴らすことを目指した。

描画の高速化は、もともと私はブラウザを作っていたのでそれを手本にすることにした。ブラウザは高速化するためにいろいろなことをやっている。そのためコードは汚い。しかしそういった高速化は残念ながらCanvas2DやHTML5では効かなかった。そこで、我々は同じことをJavaScriptでやれば良いと思い、実行に移した。

開発したゲームでは1画面に250個の画像がある。しかし動いているところは2枚だけである。そのため動いているところだけ再描画することにした。ブラウザでは自動的に行ってくれないので、我々が行った。

これで15fpsまで動いた。しかし、これではまだユーザは納得しないだろうと言うことで、また社内のゲーム開発者からボツにされた。

我々は3回目に、描画を高速化してスマートフォンのネイティブアプリケーションと同等にすることを目標にした。画面の再構成をしてゲーム向けの最適化を行った。これでiPhone 4Sで30fps出るようになった。iPhone 5Sなら60fpsも出る。やっと実用化のめどがつき、社内のゲーム開発者から認められた。

その後、DeNAでHTML5のでゲームを作る許可を得た。我々はゲームに関するSDK、ログイン機構なども含めて開発することになった。

正直、HTML5では不利な点も多い

ゲームはユーザが行うものである。我々はユーザが楽しむことができるように、HTML5では不利な点も多いがそれを隠せるように、社内のゲーム開発者の協力を得て開発した。

我々は2つの目的で2つのゲームを開発した。1つは普通のRPGである。もう1つはパズルゲームのような少々複雑なものもHTML5で開発できるということを見せるためのものである。

社内のゲーム開発者には迷惑をかけた。ブラウザによってはできないことがあり仕様を変更していただいたりした。これでようやくユーザに出せる品質の、HTML5のゲームを世に出せた。社内のゲーム開発者には感謝の意を述べたい。

これからDeNAはなにをするのか

HTML5はアプリケーションのようなことができる。DeNAとしては比較対象はスマートフォンゲームである。HTML5は良い面もあれば、良くない面もある。ゲームのプラットフォームとしては正直、不利である。我々技術者はそれを認めてから始めなければいけない。我々は、不利ではあるが、社内でゲーム開発を行うときに包括してHTML5に特化した。これでやっとユーザに届けられるものを開発することができた。今の技術でも何とかなることがわかった。

DeNAはこれからもHTML5でゲームを開発し、ユーザに届けるためにいろいろなことをやって行こうとしている。音が鳴らないゲームについては、技術的に解決しているので音を鳴らすようにしたい。

HTML5でゲームを開発するにはツールやライブラリが未整備なので、まとめたり、OSSとして公開することを考えている。個人的にはGitHubにいろいろとアップしている。

さいごに

DeNAはユーザに楽しんでもらうためにHTML5のゲームを作る。技術者からは、HTML5のゲームというと技術的にすごいと思われるが、ユーザからはスマートフォンゲームと比べられるので、HTML5のゲームはこの程度か、と思われてしまう。今後はそのようなことがないようにして行く。

HTML5をゲームを通して皆さんを喜ばせたい、と言うことを目標に、いろいろとやって行く。自分もHTML5でなにかやりたいと言うことがあれば、ぜひDeNAへのJOINを考えて欲しい。

講演2:『「オープンソース活用のメリット」~大阪ガスグループ事例のご紹介~』

講演2として、⁠株)オージス総研 山口健氏が登壇した。

⁠株⁠オージス総研 山口健氏
(株)オージス総研 山口健氏

はじめに

⁠株⁠オージス総研(以下、オージス総研)は大阪ガスの100%子会社だが、事業会社という位置づけである。会社として利益を上げないといけない。

大阪ガスでは、ユーザ数は増えて行く。そのためライセンスコストが目立つ。また頻繁なソフトウェアのバージョンアップがある。商用製品は本当に品質が高いのかどうかについて疑問に思う。商用製品を使ったからと言って品質面は担保できない。

ベースコストの削減

まずはベースコストの削減を目指した。大阪ガスは品質を維持向上しながらベースコストを下げている。しかし、もっと削減するよう指示が出た。そのうちの取り組みのいくつかを紹介する。

大阪ガスグループ内のプラットフォームは集約している。ハードウェアの台数は集約されて削減されるが、しかし仮想サーバの数は変らない。そのためプロプライエタリのサーバをOSSに切り替えている。Linuxのエンタープライズ領域の定着にともない、OS、アプリケーションサーバ、RDBは商用と品質は変らない。

それでも一般的な会社がOSSに舵を取れないのは、ミドルウェアが商用製品に依存した作りになっているか、それともメンタルな面なのか、もしかしたら後者が一番大きいのではないかと思う。

オージス総研ではこれを工夫して解決している。基盤はOSSを使用し、必ずアプリケーションはこれを使ってやりなさいとガバナンスを徹底している。ミドルウェア以下の変更にともなってアプリケーションライセンスの変更は大きくならないようにしている。

認証認可ID管理もユーザ数が増えたときにライセンスコストが膨大になる。オージス総研ではこれらもOSSのプロダクトを使用している。グループ社員だけでなく、大阪ガス利用者用のサイトもあるが、商用製品を使うことは難しいので、OSSを使用している。

徹底して標準化する

オージス総研でこれまで徹底的に行ってきたのは標準化である。JavaでWebアプリケーションを開発してきた。フィールド業務も多い。もともとモバイル系の業務が多かったが、爆発的にモバイル系のニーズが増えた。

端末は3万台弱ある。大阪ガスグループの共同購買で価格を抑えた。しかし、端末を選定して、共同購買して、在庫管理をして、標準環境をインストールして、配布して、ライフサイクルごとに回収して、廃棄して、と膨大な手間がかかる。付加価値がかかるところではないが、人件費がかかる。

今後は2つに集約されるであろうと思う。1つはシンクライアントである。もう1つは実行環境としてのHTML5である。

オージス総研がそれに向けてどういうことをしているかを紹介する。ここまでOSSを推している中で、開発環境も商用製品を使用したくない。多くのパートナ会社には開発者がたくさんいる。そのため商用製品はコストがかかる。

世の中ではデファクトスタンダードのOSSの開発環境が出てきている。そこで標準を作って開発部に提供し、HTML5アプリケーションを開発して行く。

アプリケーションの問題

私はこれまではOSSによる基盤のコスト削減のお話をしてきた。しかし、アプリケーションの問題があるので、それだけではコスト削減に限界がある。

OSSのプロダクトはいったん開発してサービスを提供すると急に利用が促進される。

顧客は商用製品だろうがOSSだろうが、きちっとベンダーがサポートしてくれることが重要と考える。

オージス総研にコストの話として顧客からよく言われるのは、一般的な商用製品は購入して保守費用を払うが、ものによってはOSSのほうが、サブスクリプション費用が高くなる。しかし、一般的な商用製品はメジャーバージョンアップがある。それに余計に費用がかかる。OSSはそれも保守費用に含まれるので、余分な費用がかからない。

皆が勝手にいろいろなプロダクトを使用するとノウハウが分散してしまう。標準化して枯れたものを使用したほうが良い。

しかし標準環境と非標準環境がある。システムの特性からプロプライエタリの製品も若干使用している。

新たなビジネス領域ではHadoopなどどんどん新しいものを取り入れないといけない。枯れてきたら徐々に標準化して行く。

ベンダーのスイート製品も入れ替えも少しずつ行っている。サポートの不安はあるが、うまく商用OSSを使う。OSSは最悪の場合でも何とかできるためである。

さいごに

OSSを導入するのは、プロジェクトを立ち上げるとき、ライフサイクルが終わるとき、バージョンアップという節目のときが良い。ユーザ数が多いときは標準化して使うものを少なくして、OSSを導入する。

オージス総研のエンジニアもコミュニティーにコミットして行く。

閉幕講演:『エンタープライズ分野におけるHTML5の重要性』

閉幕講演として、⁠株)オープンウェブ・テクノロジー 白石俊平氏が登壇した。

⁠株⁠オープンウェブ・テクノロジー 白石俊平氏
(株)オープンウェブ・テクノロジー 白石俊平氏

はじめに

私は普段はWeb系の勉強会などで活動している。そこで感じるのは、最近はエンタープライズ分野の方々もHTML5に関心を寄せていることである。

私は以前はエンタープライズ系で仕事をしていて、今はWeb系で仕事をしていて、どちらの立場もわかるという立ち位置で語る。

今、エンタープライズとHTML5が熱い。

エンタープライズ系からHTML5が注目されている

私はこれまでHTML5に関するイベントを行ってきた。参加者の割合を見ると、Web系45%、エンタープライズ系35%くらいである。年々エンタープライズ系の人の割合が上がってきている。

なぜエンタープライズ系に注目が集まっているのか。大きく分けて2つ理由があるのではないかと私は考える。1つは外部要因、もう1つはHTML5そのものの優位性であると思う。

外部要因

外部要因としては、2014年4月9日(水⁠⁠、Windows XPのサポートが終わる。IE 6のサポートも終わる。WebエンジニアはIE 6をサポートしなくても良くなる。IE 8以上がWebエンジニアがサポートする対象となる。IE 8であればある程度は標準に対応している。

もう1つは業務アプリケーションである。モバイル端末は決して無視できない。それにHTML5は良く合う。一般的にモバイル機器は全社で統一するということは難しいと聞いている。HTML5であれば、そこで同じ業務アプリケーションを配布する際、アプリケーションストアを経由しなくともURLを叩けば良い、と言う状況になる。また開発環境は1種類で済む。

HTML5そのものの優位性

HTML5はかなりパワフルなアプリケーションプラットフォームである。そしてマルチデバイス・マルチプラットフォームやUXの向上がある。こう言った優位性がエンタープライズにとっても強みとなる。

パワフルなアプリケーションと言えるのは、HTML5はオフラインでも動作するからである。たとえばGoogleのオンラインのオフィスツールがある。これまではネットワークにつながっていないと使用できなかった。しかし今はオフラインでも使用できる。オフライン時、変更箇所はローカルに保存される。オンラインになるとそれが同期される。

これのなにがすばらしいと言うと、オフラインですべて動作するので、サーバに保存したりリソースを取りに行ったりしなくとも良いので早い。こればWeb系ではあまり重要視されていないが、エンタープライズ系では注目されている。たとえば、営業職の方がタブレット端末を持って客先でプレゼンをしようとするとき、ネットワークの調子が悪いとプレゼンができなくなるが、HTML5ならオフラインでもプレゼンができる。

HTML5は今でも充分使える

現状では、HTML5はあらゆるブラウザで、モバイルでも充分使える。マルチデバイス・マルチプラットフォームは強みである。多くの環境で動く可能性がある。

HTML5は、ハイブリッドキャスト、EPUB、レスポンシブWebデザイン、UXの向上などが特徴的である。UXとしては、HTML5だけでズームなどもできる。業務アプリケーションでドリルダウンメニューなどで結構使えるのではないかと思う。

昔のWebページは静的なものだった。JavaScriptが使われてきたら、だんだんとリッチになってきた。そしてUXの研究が始まった。

標準化が重要

エンタープライズ系ではIE 6が問題であった。IE 6が標準に準拠していなかったためである。業務アプリケーションを使うときだけIEを使用しないといけないことが多かった。標準ということは非常に重要である。IEは今後、標準に完全対応するとしている。

さいごに

このようにHTML5がエンタープライズで使用されるのには合理的な理由がある。

私はこれまでエンタープライズ系とWeb系の両方で仕事をしてきた。エンタープライズ系にいたときはデザインなどはまったくわからず、知り合いもいなかった。HTML5を中心にしてきたらWebデザイナーと知り合いができ、UX系の知り合いもできた。

エンタープライズ系は、アクセシビリティやUXが良くなく、また迅速さがない。Web系は非常に迅速さがある。しかしWeb系の方々は大規模開発などを知らなかった。

私はHTML5がエンタープライズ系とWeb系の両者をつなぐのではないかと思う。両者の強みが融合してより新しい業務アプリケーション、より新しいWeb開発が出てくるのではないかと考える。

閉会挨拶

最後にLPI-Japan理事長の成井弦氏より閉会の挨拶があった。各講演の要旨をまとめ、本セミナーは終了した。その後、交流会が開催された。

セミナーの様子
セミナーの様子
『エグゼクティブセミナー「HTML5/OSS ビジネスサミット 2014」~新たなビジネスを切り開くHTML5とオープンソース~』
URL:http://www.lpi.or.jp/news/event/page/seminar20140312/
特定非営利活動法人エルピーアイジャパン
URL:http://www.lpi.or.jp/

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