8月30日、韓国・ソウル市内で開催された、PyCon KR 2014 に参加しました。本稿ではイベントの模様をレポートします。
PyCon KRの開催について
「PyCon」というPythonプログラミング言語の開発者・利用者・関係者向けの技術カンファレンスは2003年にアメリカのWashington D.Cからはじまり、世界各地に展開されています。日本でも2011年に「PyCon mini JP」からはじめ、2013年にアジア・パシフィック地区のPyCon APACを開催するなど、毎年PyConのカンファレンス を開催しています。
今回のPyCon KR 2014の開催について、座長であるKwon-Han Baeに伺ったところ、「 韓国では今までPythonユーザというコミュニティーはJavaやその他のエンタープライズ系のユーザと比べるとやはりまだマイノリティという印象だ。アジア・パシフィック地区で開催されている他のPyConと同じように、韓国でも現地のユーザ向けにPyConを開催するべきと考えていたので開催の計画に踏み切った」と述べていました。
このような背景のもと、今回のPyCon KRの開催は主にローカル向けのイベントにするべく、かつ余分な複雑さを取り除いたイベントにする方針になりました。これにより、ほとんどのセッションを韓国語で行うことに、また、できるだけ多くの人を来てもらうために参加料金を10,000KRW(およそ1,000円)という格安に設定しています。
PyCon KR 2014のサイト
事前登録は座長経由
今回私は、記念すべき韓国のPythonユーザ会による第1回のPyCon KRに参加しました。
他のPyConと同様、事前にWeb上で登録する手段があったのですが、開催側が利用した外部チケットシステムは国内参加のみという前提でしたので韓国語のみの対応、その上韓国の電話番号が必要になっていました。そのため、日本在住・韓国語がわからない私は登録できませんでした。
幸い座長のKwon-Hanの連絡先を知っていたため直接連絡したところ、彼が手動で私の名前を登録しくれました。
会場へ向かう
日本からの参加者は私以外、PyCon JPのイアンが夏休みを兼ねて参加していましたが、宿も別々ということもあり会場に集合することにしました。
韓国によく訪れる方はご存知だと思いますが、金浦空港の3階のコンビニに売ってる現地SIMカードはとても便利です。SIM解除済みの携帯電話であれば利用可能ですが、日本円3,000円程度で1GBのデータプランのSIMカードを購入できます。
韓国現地SIMカード
ちなみに私が宿泊したホテルは1泊1万円程度のところで、梨花女子大学の近くで学生町のエリアでした。また、このエリアは江南と違って物価も安く、ランチはスンドゥブセット6千KRWぐらいで済ませることができます。大学の近くにある下町という感じでちょっと汚いかもしれませんが、安い食堂や飲み屋、焼肉のお店がたくさんあるので食べ物には困りませんでした。
今年のPyCon KRの会場はソウル市内に複数存在する女子大学その1つであるSookmyung女子大学 です。今回の会場は、PyCon KRの運営チームのキーメンバーの1人、Ye Jiがこの大学の卒業生ということもあり、ここに決めたそうです(Ye Jiは今年の6月から発足したPyLadies Seoul のファウンダーでもあります) 。
ソウル市内の地下鉄は東京と同様に多くの路線があって複雑ですが、地下鉄会社は1つしかなくて乗り換えはそんなに難しくはありません。私のホテルから会場までタクシーでも行けますが、冒険も兼ねてホテル近くの韓国鉄道の新村駅からソウル駅まで乗り、そこから地下鉄4号線に乗り換え、最寄り駅のSookmyungに向かいました(地図上ではこのルート一番近いのですが、韓国鉄道の新村駅からソウル駅までひと駅だけなのに電車が1時間に1本しかないことに注意する必要があります。それを見逃してしまうと、1時間を待つよりもタクシーでいくか、地下鉄で行ったほうが早いです) 。
最寄り駅から大学正門までは徒歩10分程度の緩い登る坂道になっており、女子大学の近くにあることからなのか、道沿いにはカフェやスイーツのお店が目立ちました。
最寄り駅降りて会場へ向かった通る道
PyCon KR 2014 の会場
会場では電源を取ることは割と簡単でしたが、無線LANがないことが不便でした。私は空港で調達した現地SIMカードでテザリングしていましたが。
Sookmyung女子大学正門にあった、PyCon KR 2014の看板
PyCon KR 2014のポスター
正門の階段上がったら会場の外の光景
参加登録はストレスフリー
会場到着後まずは参加者登録を行いましたが、はじめてPyConを運営している割にとてもスムーズに登録できました。
他の参加者は、事前にWebで登録や支払いを行っており、Webイベント管理システムが発行する参加用のQRコードを受付で掲示します。そのQRコードを受付スタッフにスキャンしてもらい、その場でプリントアウトされた自分の名札を受け取ります。トータルで2分程度で登録を完了していました。そして別のカウンターで、Tシャツやイベントグッズが入った手提げ袋を受け取っていました。
PyCon KR 2014の会場にて登録
他のPyConでは手持ちのリストを参照しながらアナログで受付を行っていることが多いため、そのやり方と比べると、受付カウンターが5台あって次々と受付を済ませていたのが印象的でした。
参加者数について
Kwan-Hanは1年前ほどから参加規模について調べており、PyCon KRを開催したら100人ぐらいは参加者したい人がいるという感触を得ていました。しかし実際には、今回参加者だけで400人、スポンサーやスタッフを合わせて430人の参加者になりました。
PyCon KR 2014の座長Kwan Hanと
プログラムにについて
PyCon KR 2014をはじめて開催することもあり、プログラム内容を限定的に考えていると話していた座長のKwon-Han Baeですが、トークセッションの他、積極的に参加者同士の交流も考えてBoFのイベントも企画していて、1回目としてはとても良くできていたと思います。
でもやはりいつものPyConと同じようにスピーカーの変更などで印刷されている紙のタイムスケジュールが使えず、Web上のスケジュールを見ながらどの部屋か、どのセッションを見にいくか、と確認しつつ、皆さん参加していました。
トークセッションの内訳は、キーノート:1人、通常トークセッション:17人、LT:3人です。今回の基調講演を行ったのはPythonコアのコミッターであるHyeshik Chang でした。韓国語で行われたので細かい話はわかりませんでしたが、エンコーディングについての話だったそうです。
トークセッション
今回のPyCon KR 2014はメインとして国内ユーザ向けのイベントということで基調講演含めてスピーカー人数は12人でしたが、1人以外すべて韓国のPythonのデベロッパーの方々でした。
残念ながら17セッションのうち英語のセッションは1つだけでした。この英語のセッションは、日本のRyusuke Kajiyamaさん でした。かじやまさんは以前PyCon SG 2014にも登壇 しています。
その他のセッションはずべて韓国語でしたのであまりフォローはできなかったですが、スライドを見ていても内容としては様々で、高度な内容があったり、とても基本的の内容でもあったりな印象を受けました。
トラックの数は3つで、トピックに分けられていました。
一般 Python
Pythonとクラウドでスケーラブルなインフラ
dictをもっと理解して使おう
制限から脱出:Geventについて
Python 3.4: AsyncIO
Pythonでクッキーを扱う
Geofront開発レビュー:Python 2からPython 3へ
データ処理・バイオテック Python
ビッグデータ用の統合キューリ言語:SociaLite
NetworkXを使ってのネットワーク分析
金融データの分析と理解
DNAデータで自分の家族を探せ!
Java, ごめんね!Pythonで韓国語の自然言語処理
0%Javaでビッグデータを!
Python アプリケーション
スタートアップのためのクラウドとPython
MySQLの拡張と高可用性(HA)のMySQL Fabric
IPythonとPandasでゲームデータの分析
30分での同時Webスクレーパー(多分)
ネットワークエンジニアのためのPython
トークセッション行われた部屋の1つ
トークセッション行われた別の部屋
それ以外、スポンサーによるジョブフェアブースと、本の物販ブースもありました。
スポンサーブース
本物販ブース
ランチ
お昼には別館にある大学の食堂に移動してランチに行きました。
ランチ会場の光景
私達のテーブルにスピーカーと海外から参加者が座っていました。ランチはご飯、プルコギ、キムチなどのセットで一般的に学食で食べるものでしたが、周りに座っていた人達に聞いたところ、美味しくて質も良いほうだと述べていました。
PyCon KR 2014の会場の学食にてランチ。私の右にIPythonとPandasについて発表したJeong Juと、私の前に座っているのは日本から一緒に参加したイアン。イアンの左には唯一の英語セッションで登壇したMySQLのかじやまさん
LT(ライトニング・トーク)
各セッションの終了後にインホールにてLTを行われました。今回PyCon KRのLTは当日の申し込みではなく、事前にスピーカーとトピックを決めている形式でした。
LTの光景
アフターパーティー
クロージングの後、BoF(Birds of a Feather)のセッションがありましたが、海外参加者やスピーカーはアフターパーティーの会場に移動しました。
左から:私、イアン、副座長のYeong-Geun、PyLadies SeoulのファウンダーYe Ji、座長のKwan Han
アフターパーティーの光景
韓国で人気あるフライドチキン
アフターパーティーでは、スピーカーとスタッフの方々と英語で韓国のPythonの情報や、今回のPyConの感想などを聞きました。
皆さんの話によると、Pythonを使っているデベロッパーの人達は割と若い人達で、今までメインのJavaのデベロッパーと対象的だということです。また、スキルレベルの高いPythonデベロッパーも多数いるそうです。実際、会場にはGoogle本社に移動して就職している人、数ヶ月にアメリカのニューヨークに移住して金融関係のPythonの仕事をする人もいました。
スポンサーや資金集め
企業も新しいテクノロジー対応できる若い人達を採用する意欲が増していて、今回のようなイベントにはスポンサーとして積極的に参加しています。そして第1回とはいえ今回のPyConにも、次の大型スポンサーに協賛してもらうことに成功しています。
プラチナスポンサー :Google, IT産業を活発化する韓国政府機関 NIPA, Open Technet(OSS協会)
ゴルドスポンサー :NAVER, GitHub
シルバースポンサー :Smart Study, YoGiYo, InsilicoGen
メディアスポンサー :Hanbit, Insight Book, Open Learning Community (OLC)
副座長のYeong-Geunによれば、これらの企業以外にも多数の企業からスポンサーになりたいという話があったけれども、今回のPyConの開催を小さく管理しやすくするため残念ながら断らなければいけなかったそうです。
収入と費用
Kwan Hanの話によると協賛金として200万程度をいただいたということでした。また参加費としては1人1,000円なので、合計40万円ぐらいのチケット収入になりました。費用としては会場費20万程度、ランチ代は1人800円とTシャツ代1人1,000円でしたので、今回のPyCon KRは黒字にできたそうです。
撮影OKのセッションは録画を撮ってるのですが、その費用と作業はOLCという会社(メディアスポンサーの一社)が完全負担していました。OLC社は教育目的やコミュニティーのイベントであれば、無料で録画をしてくれるそうです。
ノベルティ
今回のノベルティは、PyCon KRの参加Tシャツとスティッカーの他、今年の6月からはじまったPyLadies Seoulのスティッカーももらいました。一番おもしろかったのはPythonのクッキーですが、こちらは3Dプリンターで作られたものだったそうです!
PyCon KR 2014のノベルティ
まとめ
第1回目の国内PyConとしてはとても良くできていました。韓国語以外のトラックがほぼなかったというのは少し残念という気がしないでもないですが、当初の国内向けのみの方針を考えれば良いのではないかと思います。
今考えてみると、1年前にはじめて東京でPyCon APACでKwon-Hanと会ったときに、韓国のPythonユーザの状況まったく知らない状態から、その1年後に国内PyConを開催し、その上400人以上の参加者だったという他、PyLadies Seoulまでできたというのはとても驚いています。
さらに元々最大500人までしか受け入れらないイベントでしたが、チケット販売閉め切った後も250人ぐらいの申し込みがあったということKwon-Hanが明らかにしていました。
企業の積極的な協賛の声が挙がっていることも後押しになるでしょうか、来年1,000人程度の参加者の大きいのPyCon KRを目指すと聞いています。そのときにはもっと国際的なイベントにしたいということなので、英語トラックも取り入れられるでしょう。
また2016年には、なんとPyCon APACの開催も意欲をみせていました! 来年1,000人の大きい規模のPyCon KRを開催できれば、少なくてもアジア・パシフィック地区の最大のPyConイベントになります。そうするとPyCon APACの開催の実現も見えてくるはずです。
韓国のPyConの発展がこれからも楽しみです!