オープニング
いま、何かが始まろうとしている。
待ってたぞ、
全人類の絶賛の嵐
と言うテロップが「ツァラトゥストラはかく語りき」と言う楽曲とともにスクリーンに表示されました。いつものオープニングです。
がじぇるねプロジェクトがGR-PEACHの量産に先立ち、ベータ版の検証や改善点を洗い出す協力者を広く一般から募集しました。2014年11月29日に彼らに対する説明会がルネサスソリューションズ軽子坂MNビルにて「GR-PEACHプロデューサーミーティング」が開催されました。東京会場で50名、大阪会場で20名がこのイベントに参加しました。ビデオ会議システムで両会場が結ばれており、大阪会場の参加者はこのビデオ会議システムを通してこのイベントに参加する形です。参加者それぞれにはGR-PEACHのベータ評価版が配られました。
がじぇるねプロジェクトの概要と現在までのあゆみ
最初に松山景洋プロジェクトリーダー(ルネサスエレクトロニクス(株) グローバル・セールス・マーケティング本部 マーケティングコミュニケーション統括部 主席事業主幹)から、がじぇるねプロジェクトの概要と現在までのあゆみの紹介がありました。同プロジェクトは若松通商の小暮氏の呼びかけに呼応したルネサスの有志により2012年に発足しました。現在までにルネサスの国産32ビットアーキテクチャーCPUであるRX-63を搭載したGR-SAKURA発表。続いて低消費電力が売り物の16ビットCPU、RL78を搭載したGR-KURUMIを世に出した経緯があります。これらはオープンハードとオープンソースによるプロトタイピングボードです。
今までにMake Fairや社内のイベントであるデブコンなどに出展しました。2013年にはインドで開発者向けイベントを開催しました。またルネサスナイトというGR-SAKURAやGR-KURUMIを用いた作品のコンペが過去5回行われており、毎回ユニークかつ開発者の思いが伝わる作品が多く出展されています。
「ベータ版評価の意義とプロデューサーの役割」
続いて若松通商の小暮氏より「ベータ版評価の意義とプロデューサーの役割」について説明がありました。今回のベータ版評価の参加者をがじぇるねプロジェクトではプロデューサーと呼びます。プロデューサーとは、たとえば芸能界であれば、タレントの卵を育ててデビューさせ、やがてはスターダムに押し上げる仕事です。今回の参加者にはこれと同様にそれぞれがGR-PEACHのプロデューサーになって欲しいという思いから、このような呼び方をしています。
プロデューサーに対する要望はベータ版の評価と改善点の提案です。それとGR-PEACHを使ってアプリや工作にチャレンジし、プロデューサーとしてやったことをとにかく自慢して欲しいとのことでした。
最初のGR-SAKURAを発表した当初は「国産のエレクトロニクス技術を世界へ」というスローガンでしたが、がじぇるねプロジェクトはARM/mbedを取り込りこみ更なる高見を目指します。
mbedの概要
次にアーム(株)の渡會氏からmbedの概要のお話がありました。
まずmbedは「エンベッド」が正しい読み方で「エムベッド」あるいは「エムベド」は誤りであるそうです。
mbedはIoTデバイス開発プラットフォームであり、ARMマイコンを手軽に始める最短経路を提供します。その特徴としてクラウド開発環境、ドラッグ&ドロップによるターゲットへのプログラムの書き込み、C/C++APIベースの開発をサポートします。
mbed開発が使えるマイコンボードのことをmbed-enabledプラットフォームと呼びます。昨日GR-PEACHが加わって44種類のプラットフォームがります。全世界で10万台以上のmbed-enabledプラットフォームのボードが出荷済みです。
mbed HDKはmbedプラットフォームを活用するためのハードウエアのレシピのようなものです。回路図、ファームウェアの完全なソースコード、ドラッグ&ドロッププログラミングを実現するための様々な情報、シリアル-USB変換およびデバッガとの接続情報などが開示されています。これらを参考にすることでmbed互換ボードやカスタムボードの開発を可能とします。
mbed SDKはmbed-enabledプラットフォームで、ソフトウエア開発を行うユーザにHigh-level APIと標準化した開発環境を提供します。この上で開発したソフトウェアは異なるベンダのデバイス間でのポータビリティが確保されます。これらのソフトウェアコンポーネントはオープンソースであり、商用・非商用で使用可能なApache 2.0ライセンスです。
mbedの特徴として欠かせないのがクラウド開発環境です。これによりWebブラウザさえあれば、開発側のプラットフォームに依存しない開発環境を提供します。
GR-PEACHに搭載されているMPU RZ/A1Hの紹介
続いてルネサスエレクトロニクス(株)の池田氏から、GR-PEACHに搭載されているMPU RZ/A1Hの紹介がありました。
RZ/A1の特徴は、CPUコアにARM Cortex-A9を採用。400MHzで1000DMIPSを実現。MCU/MPUとしては世界No.1の10Mバイトの大容量RAMを内蔵、外付けDRAMを代替します。
ルネサスはRL78、RX、RH850などのMUPシリーズを展開してきていますが、RZは更に上位に位置しソフトリッチなハイエンドアプリケーションに向いた新ファミリです。特に各フィールドニーズに応える付加価値の高いIPを搭載。特にAudio IPsおよびGraphic IPsおよび通信インターフェースが強力です。
mbed(RZ/A1H搭載)対応ボードGR-PEACH紹介
次に「mbed(RZ/A1H搭載)対応ボードGR-PEACH紹介」と題してGR-PEACH開発元である(株)コアの利根川氏と新野氏より説明がありました。
なお以下のこちらのURLよりプロデューサーミーティング当日の配布資料相当のものが閲覧可能です。基本スペックなどはこの資料を参照してください。
特徴としては「ARM Cortex-Aシリーズ」を内蔵したマイコンとして世界初のmbed対応ボードです。業界比、約4倍のCPU性能と約40倍の内蔵RAMを搭載(CPU 400MHz、RAM 10Mバイト)。そのためCortex-Mシリーズでは実現できなかったソフトウェアリッチな組込みシステム環境を提供できるとのことです。
形状はArduino UNOと同等のサイズで、Arduino互換バスを備えます。そのため3.3V対応のArduinoシールドとの互換性を意識した設計となっています。Arduino互換バスの内側にはRZ/A1H独自の信号線が取り出せるようコネクタが配置されています。Ethernetにも標準で対応しており、基板内にRJ45が搭載されています。量産時にはRJ45が非搭載のボードも用意されるということです。
また無線通信インターフェースコネクタを標準で搭載していることもGR-PEACHの特徴です。RJ45の横にはWiFI-Moduleのコネクタを備えます。またその横にはXBee-Moduleのピンソケットを搭載できるようにランドが用意されている。
Mini-USBが2個搭載されており、外側のコネクタはmbedとのインターフェース専用のUSBです。内側のもう一方がHost Functionを持つUSBコネクタです。また背面にはGR-SAKURA同様、MicroSDカードスロットが備えられている。それと基板の色はもちろんピンクです。
「GR-PEACHソフト開発 はじめの一歩」
次に「GR-PEACHソフト開発 はじめの一歩」と題してルネサスエレクトロニクス(株)の沓間氏と萩本氏から講演とデモが行われました。
講演では開発環境にmbedを採用したこととmbedの特徴などが話されました。
デモでは実際にmbedで生成したバイナリーファイルをダウンロードし、GR-PEACHで実行する手順が実演を交えて紹介されました。サンプルとしてLEDの点滅から始まり、Ethernetを用いたネットワーク環境での動作確認(pingへの反応)などを実演しました。
なお、会場ではファームウェアの書き換え方の手順の説明もありましたが、これはベータ版ならではの作業で製品版ではあまり必要でないと思われるので本稿では割愛します。
2つのデモ
最後に(株)コアよりデモが行われた。1つはRapiroにGR-PEACHとBluetooth Low Energyモジュールを組み込み、タブレット端末からリモートで動かすというものです。もう一方はGR-PEACHそのものを使ったものではないですがRZ/A1を搭載した評価ボードでのデモです。カメラキャプチャー機能とグラフィック機能を組み合わせたデモで、ソフトウェア環境さえ揃えば同等のことがGR-PEACHで実現可能であるとのことです。
GR-PEACH製品版の価格と発売時期
その後、会場では時間まで活発な質問や意見交換が行われました。その中でも最も聞き逃せないのがGR-PEACH製品版の価格と発売時期でしょう。製造・販売元の若松通商の小暮氏によると、価格はGR-SAKURAより「ちょっと」高い程度。発売時期はGR-PEACHにちなんで「桃の花が咲く頃」とやや含みを持たせた回答となりました。
日本マイクロソフト(株)の太田氏によるシュプレヒコールで幕
最後は日本マイクロソフト(株)の太田氏によるシュプレヒコールで、GR-PEACHプロデューサーミーティングを締めくくりました。
おわりに
日本の製造業が潮目を迎えている現在、あまたのメーカが今までの製品開発とそのマーケティング手法に限界を感じはじめています。がじぇるねプロジェクトが主催したプロデューサーミーティングは開発途上の製品を一般公募のユーザに公開し、ベータテスティングの過程そのものをプロモーション手段にしてしまったのです。ベータテストに参加したコアユーザの意見を製品開発の過程で吸い上げ、かつ彼らはネット上で多大な影響力を持つ者も少なくありません。
一方、このイベントの参加者(プロデューサー)の立場からはどうでしょう。もちろんGR-PEACHのベータ版が無料で入手できることも動機の1つになったことも事実でしょう。しかし彼らのモチベーションの源泉は、製品開発に参加しているという当事者意識です。プロデューサーミーティングとネット上の意見交換サイトが彼らの当事者意識を醸成しているのです。
がじぇるねプロジェクトは意識の高いプロデューサーの当事者意識に裏打ちされた製品開発への貢献と、ネットやコミュニティでの彼らの影響力の相乗効果を原動力としている点です。がじぇるねプロジェクトはこれをレバレッジとした新たな製品開発とマーケティング手法の提案に他なりません。