アートとテクノロジーのカンファレンス FITC Tokyo 2015 詳細レポート(1日目)

2015年2月7日、8日の2日間にわたり日本科学未来館で開催された、FITC Tokyo 2015をレポートします。

FITCとはFuture, Innovation, Technology, Creativityを指し、トロント発のアートとテクノロジーのカンファレンスです。世界22都市で開催されており、東京では今年で6回目の開催となりました。

本レポートでは、2日間のイベントの全セッションについて触れていきます(作品のメイキングムービーも載せています。アートはプロセス自体も楽しいものなので、是非あわせてご覧ください⁠⁠。

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最先端クリエイティブワークフロー

Tsuyoshi Nakao(仲尾毅)

初日トップは、Adobe Creative Cloudエバンジェリストの仲尾毅氏が登壇。モバイルを活用したクリエイティブワークフローについて紹介しました。

モバイルを活用したクリエイティブワークフローは、Adobeが近年最も投資している分野だそうです。Adobe Creative Cloudは、クリエイティブプロファイルという形で、個人に紐付いたデータをシームレスにデスクトップとモバイル間のアプリとで連携できるため、モバイルをクリエイティブワークフローに活用できると、仲尾氏は勧めます。

今回はキャプチャーシリーズである3つのモバイルアプリと、ドロー系のアプリを使って、デスクトップアプリであるIllustrator等と連携するデモを披露しました。

Adobe Color CC

Adobe Color CCは、iPhoneのカメラに映るものから色を抽出してカラーテーマを作成できます。パレットはCreative Cloudへ保存されるため、Illustratorのライブラリパネルへすぐに反映されます。デモでは会場内を映し、色をキャプチャして、Illustratorにパレットが反映されていました。

会場内から5色キャプチャされ、自動で程よいパレットが生成される
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Adobe Shape CC

Adobe Shape CCは、iPhoneのカメラから取り込んだ画像をトレースし、パスをつくることができるアプリです。自動でトレースされたもののうち、不要な部分は指でなぞって簡単に取り除くことができます。デモでは、手元にあったFITCのロゴを取り込みました。次の写真において、パス化されているのが黄色い部分で、不要なものを指でなぞってパス化しないように指定したのが白い部分です。

iPhoneのカメラから取り込んだ画像でパスをつくる
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Adobe Brush CC

Adobe Brush CCは、iPhoneのカメラを使って、身の回りにあるものからブラシを作成できます。Bitmap系のドローイングツールであるAdobe Photoshop Sketchで、そのブラシを使うことができます。デモでは舞台のフローリングから木目調のブラシを作成し、強弱の調整までをiPhoneで行いました。次の写真は、枝豆から作ったブラシだそうです。

Photoshop Sketchへ取り込まれた枝豆のブラシ
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Adobe Photoshop Sketch、デスクトップアプリとの連携

取り込んだブラシを使ってAdobe Photoshop Sketchで作成されたスケッチ画は、Creative Cloudを介しPhotoshopへ送信できます。Illustratorへ取り込んで、⁠オブジェクト⁠⁠→⁠Sketch and Line Art⁠⁠→⁠パスまで変換」を選ぶと、パスとして編集を足していくことができます。

このようなモバイルとデスクトップアプリの連携は、カフェや電車内など外出先で、インスピレーションを得たタイミングでいつでも気軽に作業し、事務所に戻って本格的な制作に取り掛かることを簡単にします。

これらはAdobe IDがあれば、無料で利用できるとのことでした。またAdobe Creative Cloudのライブラリは、共有することで複数人でのコラボレーションも可能にします。

未来のクリエイティブ環境

最後に、仲尾氏が注目してほしいと紹介したムービーは、AdobeとMicrosoft Surfaceが共に目指す近い未来のワークフローを描いたものでした。

そこには、指先で絵のタッチを調整したり、手のジェスチャーでオブジェクトを回転させたりと、人の直感的な動きで作品を思い描いたとおりに編集していく未来がありました。ソフトウェア側が人の直感に近寄ることで、ツールを使いこなせることのウェイトは軽くなり、クリエイティビティそのものが作品の質に直結していく印象を受けました。

VR 2.0 宣言

Nobumichi Asai(浅井宣通)

"AKIRA"や「マトリックス」の世界はいつまでも映画の中だけのお話なのでしょうか。バーチャルリアリティ(VR)が概念から実在化へと進み行く今を"VR 2.0"と題したP.I.C.S.浅井宣通氏のセッションは、昨年大きな話題となった"OMOTE"の紹介からはじまりました。

"OMOTE"はもともとクライアントの無い作品でしたが、Vimeoへアップロードした翌日から1日100万Viewsペースで一気に世界へと広まり、世界150カ国からのオファー、様々なアワードでの受賞へと至りました。それはSMAPへも届き、フジテレビ「SMAP×SMAP」番組内での"FACE HACKING"というパフォーマンスへつながりました。

これらの2つの作品は「コンテンツの力によって世界に伝わっていった。以前はCMの本数が媒体力だったが、今は違う。面白いモノをつくれば、世界中の人々とつながれるというのは素晴らしい」と浅井氏は述べました。

以前のVRと、現在のVR

続いて、本題の「VR 2.0」へ。VRとは新しいものではなく、1968年にIvan Edward Sutherlandが提唱したもの。当時は現在スマホでできるようなトラッキングも、騒々しい規模の装置が必要だったと言います。

浅井氏は現在バーチャルリアリティと聞いて古臭く感じてしまうのは何故だろうと考えた時、それは当時概念であったバーチャルリアリティが今は実在するものになったからではないかと思う。概念の頃を1.0とするなら、実体へとフェーズが変わった今は2.0と言えるのではないかと言及し、このことを『VR 2.0』と宣言しました。

そして、⁠テクノロジーの進化が早すぎてあっという間に未来が来てしまった。アートにもエンターテイメントにも、それが現れた」とし、事例をいくつか紹介しました。

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VRのためのデバイス

まずは各種VRデバイスとして、Oculus Riftからはじまり、スマホをケースに入れるだけでVRビューワーになるものとして、OculusとSamsungが共同開発したGear VRGoogle Cardboard日本製のハコスコ指先のジェスチャーで操作できるPinch VRを挙げ、またAppleもVRデバイスを作ろうとしていると紹介しました。

さらに、コンテンツ作成のためのカメラとして、3Dで360度撮影できるSamsungのProject Beyond(未発売⁠⁠、Kodakの180度カメラV570RICHOの360度カメラTHETA等を紹介しました。

Tele-presence

テレプレゼンスとは、遠く離れたところにあたかも自分がそこに居るかのような臨場感を再現できる技術を言います。浅井氏は、DroneにステレオカメラをつけてOculusで覗くと自分が空を飛んでいるような体験ができると話します。例として、暴動の中に自分がいるという体験、Droneで花火の中に入って観る体験、ウクライナ紛争の危険な場所にもテレポート可能な体験、ポールマッカートニーのライブを360度カメラですぐ真横から観れるという体験等を動画で紹介しました。

Tele-existence

テレイグジスタンスとは、自分が向こう側に存在できる体験を再現する技術を言います。わかりやすくいうと、映画"AVATAR"で、カプセルに入ると自分の意識が転送されてアバターになる体験です。

事例としては、実在する女性をモデルにつくったロボットが表情を真似て動く「アクトロイド-F⁠⁠、遠隔地で自身の分身として動き回り存在感のある打ち合わせを可能にする"Double"、離れた家族も存在するかのようにコミュニケーションできる"JIBO"、今年の1月に発表されたMicrosoftのAR Glassである"HoloLens"、光ファイバーでできたスコープ"Magic Leap"、ジェスチャーコントローラの"Leap Motion"、ゲーム制作のプラットフォームで、フォトリアルな映像をリアルタイムレンダリングで見せることができるUnreal Engine 4を紹介しました。

コンテンツ

続けて、OculusがVR映画会社をつくり既にショートムービーを作成したこと、SamsungがVR Gear用のコンテンツのため、いくつかのコンテンツホルダーと契約したことを挙げ、コンテンツ産業がVR化していくということを表していると述べました。Samsungは、スマートフォンでVRをするためのSDKもリリースしています。

More Technology

浅井氏は最新のテクノロジーは人間の存在にも大きな問いを投げかけているとも言います。事故で両腕を無くした人へロボットの手を移植した例を挙げ、指先まで自在に動いていることには感動したのこと。これはBMI(Brain Machine Interface)という、脳派を読み取って外部機器と連携してしまう技術を使っています。また、自己増殖し進化もする人工細胞、DNA 3D プリンタ、頭蓋骨や移植後皮膚として機能する人工皮膚の3Dプリント技術等を紹介しました。

また、兵士の荷物を戦場で代わりに運ぶために作られたBoston DynamicsのGalloping、鳥のように飛びたいといったライト兄弟の夢が実現されたJetmanを示しました。

さらに、AIが将棋の対戦をしたり、就活のアドバイスをしたり、裁判の判例をサジェストしたりする例、世界最速の処理能力であるD-WAVEの量子コンピュータを示し、⁠ディープラーニングで古今東西の歴史や文学、政治経済などのあらゆる人間の知性を学ばせたら、感情や欲望に判断が左右される人間よりも、優秀な知性ができるかもしれない」と語りました。

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テクノロジーによる現実表現

振り返ってみて、⁠今までみてきたテクノロジーの根っこにあるのはどういうことなんだろう、僕自身が仕事するときの発想の源みたいなものってなんなんだろう」と考えた時、その一つに「デジタル唯物論」があると言います。それは、分かりやすく言うとLEGOでできたマリオを崩すと全く別なものを作ることができるように、「すべてが0と1でできていると考えると、プログラミングするということは0と1を操作して現実を作り変えるとも言える。テクノロジーには無限の可能性があるということができる」と述べました。

最後に、浅井氏は「テクノロジーを表現に使うことは最高に面白い。楽しんでチャレンジしていきたいと思っている」とし、今年の夏に向けて、ドームシアターで没入型のVR空間を生み出す3D VR DOME THEATER PROJECTに取り組んでいることを告げました。

自撮り(自身を媒体としたエクスペリエンス)の時代

Sougwen Chung(ソウゲン・チュン)

アートとテクノロジーの融合点、複数のアート分野を跨いで活躍しているSougwen Chung氏は、セルフィ(自撮り)現象の捉え方、エクスペリエンスを伝えることについて、自身のアートとの関わりとともに語りました。

油絵や作曲、文字、インスタレーション、プロジェクションマッピングのようなハイテクなことから、紙を折ったりといったローテクなことまで多岐にわたって活躍するSougwen氏。⁠クリエイティブなエネルギーをつなげていくことが、アートの実践での中心」となっていて、インスタレーションや、バイオリンのような楽器を使ってその楽器の動きで照明をコントロールできるもの、絵を描くというクリエイティブなアクトを通して照明が変わっていく手作りの複雑な空間を作ってたりもしています。

様々な媒体を手がけることによって、⁠異なる視点から様々なモードを探索することができ、クリエイティブな体験そのものを感じていると話しました。

セルフィについて

Sougwen氏はインターネットパフォーマンスとして、自身の作業過程をオンラインで記録したりもしています。それは自分自身のメモリーアーカイブであるとも感じています。⁠みなさんも何らかの形跡を残し大衆に晒していると思う。その一番いい例が『セルフィの現象⁠⁠」であるとし、⁠アヒル顔とかの撮り方が感染したり、何度も同じアングルから自撮りする人もいる。セルフィがユビキタスだっていうこと、すごく面白い」と言います。

セルフィのトリビア

セルフィは、世界初は1839年にRobert Cornelius氏が、宇宙初は1966年にBuzz Aldrin氏が撮っており、決して新しいものではありません。

タイムマガジンはセルフィシティランキングを公開しています。1位がフィリピンのマカティ、2位がニューヨーク、3位がマイアミだそうで、⁠これはグローバルな現象でしばらく続くでしょう」と述べました。

セルフィが一般に広まって

セルフィスティック、セルフィスキャンダル、セルフィアプリも出て、セルフィシティもどんどん増えています。アーティストが過去何十年もの間、世間の注目を浴びるために、自身のアイデンティティとしてずっと扱ってきたセルフィ。デジタルネットワークを介して大衆と出会ったらどうなるのでしょうか。

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セルフィが流行る以前のインターネットにおけるパーソナルストーリーといえば、まず思い浮かぶのがJonathan Harris氏の"We Feel Fine"。それは当時人々がインターネットを通してどのように自己を表現していのたかをビジュアル化した、とてもパワフルなプロジェクトだったと説明します。

セルフィ以前はこのようにユニークにそれぞれつくられたものでした。それがセルフィが登場、流行したことで、私たちのパーソナルストーリーへどう影響するようになったのか、自己表現がよりリッチ、ディープになったのか。

振り返ってみると、近くの都市が中心となる掲示板からフィードの時代に移り、今はFacebookやMyspaceの時代です。⁠いいね!」やフィードバックの通知がきたりし、生活の一部となってきました。

「⁠⁠いいね!』などで盛り上がると、少し現実から目を逸らすことができるのではないか。オンラインのIDと現実の自分の境界線が曖昧になってきて、私たち自身そのものが分身の役割を果たすようになってきた。今はセルフィの時代。写真や情報をどんどん出していくことで、境界線は曖昧になっていき、例えば自分自身のアイデンティティを選び、編集して打ち出す。特定の時間軸を切り取ったり、体験も選んで表現したりと、あからさまで生々しいもの。セルフィそのものが、各個人のテーマとなっている」とSougwen氏は見ています。

マシンが生み出すものに自分を残せるか

Lev Manovich氏が手がけた"selfiecity"という、5つの都市からセルフィを選んで、調査をしていくというプロジェクトがあります。アルゴリズム等を活用しながらセルフィを撮った時のムード、特定のアングルの撮り方等をパターン化したり、平均値を取ってアイデンティティを見るというものです。

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Sougwen氏は「セルフィをアルゴリズムを使って数値化するとはどういうことなのか。本来は写真を通して異なる都市の人々がつながるはずなのに、むしろ人々がいかに離れ離れなのかということを感じはしないか」と問い、そして次のように語りました。

テクノロジーの善し悪しということではなく、マシンが何を呼び込めるか、アルゴリズムは何が理解可能かというのがはっきりとし、私たちのユニークさがすべて無視されてしまう。私たちが大事に思っていること、どういう個性を持っているのか、どんなふうになりたいのかというのが全部拾えない。
アルゴリズムをイデオロギーとして実現できる方法があるのではないか。アルゴリズムの持つ足枷から解き放たれて異なる視点から世界を見ることが、アートを通してできるのではないか。表現する際にあえてデータを曖昧化して、自分自身を数値化から解き放つことができる。自分が手で残した印、マシンによって生まれた印、それらを融合して動くイメージやインスタレーションを作るとき、数値化なく表現することができる⁠Sougwen氏)

絵を描いたりすること、事実、真実、存在

絵を描くことについて描いているその瞬間を見せるためでもある。テクノロジーからうまれる不安感をとりのぞいてくれるのが絵。基本的で、シンプルで、儚い表現。作っているその瞬間、作品作りの過程は自分が世界に存在しているんだということとイコールで、このような過程によって、より真実をつかむことができると言います。

さらに数値化はファクト(事実)の一つの形状であるけれど、事実では真実は伝わらない。形状には意識が埋め込まれていて、形状を作り上げることによって、自分自身の現実も変えることができる。自分の集中、注意の枠組みを作っていくのだと話しました。

心が満たされるような作品を

展示のために国外へ旅した時、近くに友人はいない、表示できるメッセージがない、接続できない、という通知がたくさんきて落ち込んだそうです。Sougwen氏はこのようなスクリーンショットを集め、"#GOTHSCRINSHOTS"と呼ぶことにしました。これは500枚近く集まり、アパレルラインとなるまで広まりました。HighsnobietyANIMAL New YorkCool Hunting等にも掲載されました。このプロジェクトは「ピクセルを通した新たな真実を掴む瞬間となった」と語りました。

Sougwen氏には「テクノロジーを使うことで自分の心が空っぽになるかもしれない」という想いがあり、次のように続けました。

すべての素晴らしいアートには必ず中心に内省があるはずだ。そういう考えを提唱できるプロジェクトを積極的に手掛けていっている。心を空っぽにするのではなくて満たされるような、その体験を楽しめるようなやり方があると思っている。そのような形でソフトウェアやテクノロジーを活用することができると思っている⁠Sougwen氏)

さらに「私が続けている油絵や#GOTHSCREENSHOTSのように、ロングキューという長期的な視点から色々取り組むということ。人の側面を、ソフトウェア、ハイテクなプロジェクトを結びつけたり、人の要素を、空間や自分の体験を伝えるということに結びつけたり。アートとテクノロジーの交差点において、作品をつくることができるというのは、私自身にとってとても面白いこと」と言及。MIT Media Labでこれから関わることをとても興味深く感じていると語りました。そして「ネットワークやインターネットの今後を見据えた際に、様々な曖昧化をしたデータをたくさん使いながら、自分自身を非数値化した形で探索することをとても興味深く感じている」と述べました。

最後に、Sougwen氏は「このセルフィの時代において、私たちはどうやって自分自身の新しいパーソナルストーリーを描いていくことができるのか。目にしたこと、体験したことをよりクリエイティブに、皆がびっくりするような、同時に内省的な形で伝えていくにはどうしたらよいのか。長期的な視点を見据えた長いキュー、そういったものを享受しながら表現するにはどうしたらよいのか。自分自身が媒体である。セルフィを通して、自身の振る舞い、記憶、伝えたいエクスペリエンスを表現することができる」と締めくくりました。

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「楽しさ」が生み出すクリエイティブ

Sadam Fujioka(藤岡定)

藤岡定氏は、過去に手掛けた作品や代表を務めるanno labでのプロジェクトを紹介しながら、楽しいものを楽しみながらつくること、その制作過程の楽しさを伝えることについて語りました。

ドキドキわくわくすること

anno labのメンバーは、新しい体験、ドキドキわくわくするようなものをつくっていきたい、自分たちの都市を世界一楽しい街にしたいという想いを持っているそうです。

学生時代におこなったアート展示「九州好青年科学館」は、展示物を単にすごいでしょう?と観せるより、どういうふうにつくられたのか、どういう仕組みなのか、どういう想いでつくられているのかをいっしょに伝えたいという想いで企画。例えば作成した機材を見せたり、メイキングビデオで伝えたりと、まずは体験としてわくわくしてもらってから、そのセオリーを教えるというアプローチでアート作品を伝えたいと述べました。

社会への応用

ドキドキわくわくするようなものをどう社会へ応用していくのか、3年程かけて体験して、模索したそうです。プロジェクトをいくつか紹介しました。

リハビリのために1日200回立ち座りの訓練をする高齢者に対して「少しでも楽しみながらリハビリを行ってもらいたい」という想いから、九州大学にいた時に"リハビリウム 起立くん"を制作。これは、立ち座りを検知して木が育つという仕組みです。

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"Cubie for kids"は、英語のパネルを並べると、並べ方によって音楽が変わるものです。⁠子ども達が最初にアルファベットに触れる機会を楽しいものにしたかった」とコンセプトを語りました。

東日本大震災を少しでも形骸化させない活動へと繋がればという想いが込められているイベントMONSTER Exhibitionに出展した"SHADOW PLAY - Play with KUMICA"は、組み木でモンスターを作ると影が動き出すというものです。出てきたモンスターが花になるところは復興のイメージとつなげており、作品について「自分が作ったものから影が出てくるというのはクリエイティブを刺激する」と述べています。

森の木琴

次に紹介したのは、NTT DoCoMoの"Xylophone in woods"です。invisible design labとの共同プロジェクトで、44mの木琴をつくり、その上を玉を転がして音楽をつくるという大作です。2mずつのユニットをつくって、森で組み合わせたそうで、試した形のパーツ、揺らぎの微妙な調整の様子を紹介しました。和音にしようかと実験もしたそうです。藤岡氏は完成された本番よりも、実験で1つ成功するたびに、ウォー!となっているほうが好きと語ります。

このプロジェクトではチームをポジティブに進めるやり方の一つとして、ご飯をメイドさんに給仕してもらう工夫も行ったとのこと。⁠チームがネガティブな方向に進まず済み、勉強になった。問題を解決するときにこの方向に行かなきゃいけない、とするのではなく、少し離れたところから俯瞰してみて、全然違ったアプローチから解決するというのは素晴らしい解法だと思ったと振り返りました。

完成したムービー
メイキングムービー

会社を立ててからつくったものは仕事ではなかった

Perfumeのモーションキャプチャデータが公開され話題になったPerfume Glocal Site Project。これに興味を持ち、仕事ではありませんでしたが、会社をつくった時に最初に取り組んだそうです。できあがったのがAnno Perfume Global Site Projectで、制作過程も公開しています。私が他に見てきた作品群とは一風違うコマ撮りした作風でした。

このプロジェクトについて、⁠CG制作会社ではないので、CGで勝負しても敵わないだろう。一工夫してユニークなプロセスをつくりたいと思った」とし、一旦OHPシートにプリントアウトして、グルーをパーティクルにのせたもの1,600枚を使ってCGのコマ撮りに挑戦したそうです。⁠動きはデジタルなのにアナログな質感のものができる。プリンターの解像度みたいなのもまたよい」と言うように、風合いが感じられます。

さらに、疲労の中で自分たちでも踊りたくなってしまった藤岡氏らはAnno Perfume 養成ギプスを制作しました。これは「上手に踊れなくても静止したポーズであればできる」と思いつき、カメラの前でPerfumeと同じポーズがとれたらシャッターを切るというソフト制作からはじめました。つなぎ合わせてみると論理的に正確なポーズのみで構成された歪みないダンス映像が完成し、⁠技術とPerfumeの無駄使い」とも称されました。

これらの作品をいろいろな人に見せたところ、⁠君たち面白いね」⁠何かできる?」と仕事が入ってくるようになったそうです。藤岡氏は売れる商品をつくっても、それより安いものが出るとそちらへ流れてしまう。君たちの作品が好きという人だったら、同じようなものをより安くつくるところが現れても、そちらへは行かないだろう。会社で最初にこのようなプロジェクトをやったことは意味があったと振り返りました。

他にも、神社でのクラブパーティー"Clap for Dream"、インターネッ トの秘密結社IDPWとして開催しているイベント"インターネットヤミ市"、ビデオフィードバックの時間差を伸ばすことによって過去の自分と 共演できる" 時空間のしっぽ"、音と光を食べる食虫花をイメージした"Time Cord"など、作品を紹介しました。"Clap for Dream"は、(やしろ)で会うという日本の文化から「社会」が形成されたように、若い人にも神社に集まって社会をよくしていってほしいというコンセプトと、初詣以外にも神社に行ってほしいという想いから企画されたイベント。柏手を打つと映像が反応するプロジェクションマッピングも制作したそうです。

最後に、藤岡氏は「人のためとか健康のために動くのはなかなか難しいので、損得を考えず遊び心からついつい動いてしまうことが大事。そういうものが世の中を楽しくする。そして日本は楽しいものが普及していく文化だと思う。笑顔のまわりには笑顔が集まり、人に伝わっていくと楽しい社会を作っていける」と、想いを述べました。

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時空を超えた旅へのいざない

Bradley (GMUNK) Munkowitz

2011年に登壇したときはTRON Legacyの制作について話したGMUNKことBradley Munkowitz氏。今年はデザインキャリアと最近の作品を紹介しつつ、⁠多様性と進化」について語りました。

GMUNK氏のキャリアは大学でインタラクティブなFlashアニメーションをつくるようになったところからはじまりました。学生時代のアニメーションが目に止まり、ロンドンのVir2L Studioへ入社。ファッションの勉強もするようになりました。そしてWebサイトやFlash、Webエクスペリエンスまでも手掛けるようになり、その後ロサンゼルスに渡ってKyle Cooper氏の会社に入社。モーショングラフィック、様々なデザインのスタイルを学びました。WebやFlashの技術を活かしハイテクなインフォグラフィックスを手掛けるようになり、今度はそれらがJoseph Kosinski氏の目に止まり、彼のTRONの映画"TRON Legacy"でホログラムをやらないかと声がかかったのだそうです(参考: Interview: GMUNK (TRON: Legacy)⁠。

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友人と遊びでつくったものから

友人とキラキラしたものをつくったという、作品の紹介からはじまります。

この作品からオファーにつながり、Adobe Logo Remixというプロジェクトがはじまりました。レーザーや鏡の屈折、反射、アクリルなど、新たなマテリアルを扱うことになりました。

インスピレーションのポイントは「光と各マテリアルの交差点で何がうまれるのか」だったと、GMUNK氏は振り返ります。

「レーザーとガラスが複数の屈折を経て見せるもの、鏡とワット数の高いスポットライトや色の忠実性が高いLEDがどうやりとりするのか、アクリルの裏柄にLEDを置いてどのように光るのか、また、アクリルを通してオパールがどのようなグラフィックのパターンを描くのか等を見るのも面白かった。中でもKinectと赤外線カメラを使ったところが一番面白かった。モレイパターンやレンズのグレアなどを生み出すことができるよう、KinectとUVライトを組み合わせて使った」⁠GMUNK氏)

キラキラしたものはさらに進化しました。⁠これを人に適応したらどうだろう」と思い、Tychoのミュージックビデオができあがりました。

自分を広げてくれる人との仕事

そしてサンフランシスコへ引っ越し、映画ゼログラビティ等、フィーチャーフィルムのロボット関係を担っている天才たちBot & Dollyと仕事をしました。その時の作品として、プロジェクションマッピングによるプロモーションビデオを挙げました。

Bot & Dollyはロボットを駆使しながら座標システムを使って位置を正確に把握することができたので、通常であれば難しい、移動するオブジェクトを追うプロジェクションマッピングをおこなうことが可能でした。このプロジェクトのコンセプトは「5つのマジックの概念を実現したもの」で、1. Transformation(変身)2. Levitation(空中浮揚⁠⁠、3. Intersection(交差⁠⁠、4. Teleportation(瞬間移動⁠⁠、5. Escape(脱出)から成ります。

それぞれのセクションごとにインスピレーションボードを作成し、デザインに関しても詳しく調査を行いました。

「ボックスの中身のコンテンツ部分にシェードをかけることででこぼこ感を出したり、コンテンツそのものを光源としてひっくり返すことも可能だったところが興味深かった。Cinema 4DやMayaを使ってこの変身を実現させた。3台目のロボットにカメラがついて、モーションキャプチャで取得したデータをロボットからカメラへ投げるということをしている」⁠GMUNK氏)

次の動画は、制作過程を撮ったものです。

次のThe Creators Projectで取り上げられた動画はセッションでは触れられていませんが、日本語字幕もあってわかりやすいため、あわせて掲載しておきます。

そして、アーティストとして積極的に活動することの重要性を指摘しました。

作業をするにあたって、誰かに雇ってもらうのを待っていてはいけない。誰かが雇ってくれないかな、こんな仕事やりたいな、とただ座っているだけではなく、アーティストだったらどんどん積極的に自分から仕事をしなさい。友人とばかみたいなものを作っていてもいい。アートをしよう!⁠GMUNK氏)

他にもGMUNK氏は、サイケデリックアートもし、Mayaで幾何学のテクスチャをマッピングしたりしています(このためのアプリの作成にはプログラマーに協力してもらってたとのこと⁠⁠。最近は60~70年代に流行ったキネティックアートにもはまっていて、マテリアルと光、ガラスを使った屈折などをArnoldで再現し、グラフィックデザインをしているそうです。

光やマテリアルの関係とは違って、今度は"Chamber"という映画での人を中心としたストーリーを描いたところについて紹介しました。動画を示せず説明しにくいのですが、⁠テクノロジーにより複数のアイデンティティを所有することで、色々な人とつながることができる」というテーマの映画です。このテーマを光や鏡を使ってペルソナを表現したことについて説明し、違う方向性への応用を示しました。

自分自身を進化させるために

最後にオリジナルのものなんてない、自分のインスピレーションに響くものがあるなら盗んでしまえ、身の周りから得たインスピレーションは自分の言葉に置き換えてしまえばいいのだという文を引用しました。GMUNK氏はプロジェクトをやったり原稿を描いたりするときの参考になるように、何千というイメージを彼のPinterestへ入れています。そしてそれらを見ていると自然と手が動くのだとやり方を説きました(2011年に登壇した際、制作に入る前にたくさんの資料を集め、徹底的に調査すると言っていたことを思い出しました⁠⁠。

Pinterestを見る以外にも、GMUNK氏のやり方があります。彼は手がけた作品を自分のWebサイトへ載せており、自分の作品を見返して評価することはさらに自分を進化させ、いろんなことをやってみようという気持ちにさせる。同じことを2度やるのではなくて、自分のレパートリーを増やしていくこと、自分の限界を超えさせるような人たちと手を組ませるということが進化につながっていくと言います。

GMUNK氏はさらに引用します。好きなことをしなさい。日中の仕事が気に入っていないなら夜とか週末に時間を見つけて好きなことをしなさい。自分が好きなことをやっていれば、1日たりとて仕事が嫌だなんていうことはないと、私たちへメッセージを伝え、⁠いつも最初と最後に表示していると言う)Burning Manの画像で終わりました。

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音からゲーム、そしてインタラクテイブアートへの旅

Baiyon

Baiyon氏は、ミュージシャンからはじまり、アート、ファッション、ゲームと様々な分野へ活動の場を広げてきました。今回は、マルチメディアアーティストになるまでの経緯とキャリア形成について話しました。

はじまり

"moog"というシンセサイザーのドキュメンタリーがBaiyon氏のミュージシャンとしてのデビューで、そこからファッション、他のアーティストのグラフィック、漫画へと活動の幅が広がっていったそうです。

Baiyon氏は高校生の時から絵を描いていたり、アカデミックな展示に参加したり、カセットをはさみで切り貼りしての宅録りをしていました。その後、芸大に進み洋画を専攻しましたが、アカデミックな中に自分を見つけられずにいたそうです。その頃、友人がやっていた音楽が波形で見えるソフトに感動し、PCを購入しました。そうして自分のレーベルを立ち上げるに至り、ビジュアルも自然な流れで自分で制作。レコード、CDをリリースして、STUDIO VOICEにも掲載されました。

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ビデオゲームへ

ある日、TOWER RECORDSで働いている友人から「高校生がCDを買ったらその場でCDプレイヤーにセットし、ジャケットをその場で捨ていく」という話を聞きました。トータルで楽しんでほしいのに、結局トータルで楽しんでもらえてない。音楽とジャケット等も含めた楽しみ方をひとセットにして売らなければならないという想いが生まれ、ストーリーも伝えられる、はじまりと終わりがある、ビジュアルとサウンドをいっしょにできる「ビデオゲーム」をつくりたいという気持ちに辿り着いたそうです。

そして作品には、パーソナルな要素を埋め込むことを考えると語りました。

自分のパーソナルなものを商業作品に忍び込ませ、アイデンティティを埋め込んでいくと、作品の強度が強まる。例えば友人の実家に行ったとして、友人が何十年も開け閉めしている音と、そこに初めて行った自分が開け閉めする音は違うものであると思いたい。音の結果ではなく、そこに宿るアウラがあると信じていて、それを商業作品にも入れていくというのは大切なことだと思っている⁠Baiyon氏)

ビデオゲームをつくりたいとは思ったが、つくり方もわからず、ゲーム業界の知り合いもいない。友人に誰か紹介してとお願いする以外なかったそうです。そんな時出会ったのが、STARFOX等をつくっているQ-Gamesの社長です。キャリアはありませんでしたが、アートディレクター、サウンドディレクターを任されることになりました。⁠ラッキーで、今までやってきたことともタイミング良くつながった」と言います。

そうして初めてつくったのが"PixelJunk Eden"でした(セッションでは触れられていませんが、インタビューの動画を見つけ、興味深い内容でしたので、トレーラーの下に掲載しています⁠⁠。

「ゲームのつくり方がわからず、墨汁で描いたものをそれをスキャンして、コンバートしてからゲームにもっていく等していたため、ゲームづくりという感じではなかったが、とても勉強になった」と振り返ります。

また、植物のランダム生成は当時難しかったため、ランダムなものは自分自身でつくってしまったほうが早いと考えました。そこで、バグや偶然から生まれるもの、墨汁でペイントしたものを使うなどし、力技で全部手で描いたそうです。

さらに、⁠アナログ感を残したい、どこを静止画にしてもかっこいいものにしたいといった面で苦労した。レベルデザインなどはできないのでお任せしたが、同じ植物が並んでいるのは嫌だ、こんな不自然な配置はないという気持ちがあり、何回も試行錯誤してつくった」と振り返りました。

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次に作ったのは、PS3のムーブコントローラーを使ったものです。Edenが好評だったため、そのビジュアルを使ってビジュアライザーをつくろう、サウンドも自分でつくれる機能を入れよう、となり、"PixelJunk 4am"が完成しました。

このゲームはライブみたいなものをユーザーに観せることができて、いいね!の ようなフィードバックを送ることもできます。音楽はトラック分けしたものをミックスする形で作成できるようにし、作った音楽を元に映像を出すようにしました。こちらにもパーソナルな要素がトロフィーとして込めてあり、ライブ中にコントローラーへキスをするともらえるものに"The Sun Can't Compare to Your Light"という名前(Larry Heard Presents Mr. Whiteの曲名からとったもの)をつけたそうです。

次に携わったのは、"LittleBigPlanet 2"という、ユーザーが自由にステージを作ることができるPS3のゲームでした。楽器をつくって、それで音楽をつくることもできます。そのシーケンサーのお手本になるようなものを作ってほしいというオファーでした。ここでのパーソナルな要素は、Baiyon GuilfordとBaiyon Kyotoというサウンドです。Guilfordに開発で行った時、ここへ来たことをゲームにフィードバックできないかと考えたそうです。相談したところフィールドレコーディングしてはどうかと提案され、ハイキングに行って動物の声や足音を録ったり、京都へ帰って神社などを巡って録ったりとしたと紹介しました。

最近携わったものは、4amでグラフィックのプログラマーをしていた人から「ロサンゼルスにスタジオをつくったから何か一緒にやろう」と声をかけられ、Leap MotionとOculus対応のアプリ"Collider"でサウンドを担当しました。Leap Motionが指をトラッキングできるようになったのを見せたいとのことで、パーティクルを集めたり、手を叩くと弾けたりといったゲームっぽい要素が散りばめられています。

さらに昨年後半には、Best iOS Games 2014にも選ばれたFOTONICAへ2曲提供しま した。

パーソナルなマテリアルを込めること

最後に、Baiyon氏は次のように話をまとめました。

「プログラムで制御されるものに、より深い印象となる揺らぎ、グルーヴみたいなものを与えるために、パーソナルな要素をいかにフィードバックしていくかということを可能な限りやっていきたい。それによって作品が強度を増していく。それが商業作品のようにたくさんコピーされて売られていくものであれば、よりいっそう強くなると思う。
DJで針が飛んだ時、逆に盛り上がったりとか、それってライブなんだと思える。生きている、今やっている、そのハプニング、すごくいいなと思う。昔はIllustratorでパキパキにパスを切って完璧にしたいと思っていたが、完璧って実は完璧じゃないのかも。余地を残さないとつまらないのではと思うようになり、最近は水彩でやったりとか。アナログなものとデジタルなものを融合して新しいフィーリングを生み出せたらと思っている。技術が進んでも変わらない、新しい技術とどう向き合っていくか、自分なりのアプローチを見つけていきたい⁠Baiyon氏)

デビッド・オライリー講演 The David OReilly lecture

David OReilly

1日目のラストは3DCGのアーティストであるDavid OReilly氏が登壇。アーティストはどう在るべきかを語りました。

まず先に伝えておきたいのは、David氏は背面にあるスクリーンにスライドや自身の作品を投影することはしませんでした。⁠自分の作品はWebサイト等で取り上げているため、あえてここで紹介に時間を割かず、アーティストとして在り続けることについて語りたい。皆さんと考え方を共有して、少しでも有益な時間にしたい」とはじめました(もしDavid氏のことを知らなければ、独創的なキャラクターが登場する作品群も是非ご覧ください⁠⁠。

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肩書きという制限から抜ける

プログラマ、グラフィックデザイナー、コンセプトアーティストなど、クリエイティブ業界には様々な肩書きがあり、自分のことをアーティストと呼んでいない人も多いと思います。しかしこのレッテルというものに満足できているでしょうか。

David氏は肩書きのもつ制限から抜けることを勧めます。

「肩書きは、私たちはいったい何をする人間なのか、することの範囲を制限し、むしろ私たちは何でないのか、という否定の側面を突きつけてくる。私たちは現在、WebサイトやTwitterのアカウント等、バイオグラフィーを強制される時代に生きていて、自分が何者なのかを言い続けなければならない。私たちは環境に従って常に変化をしていく存在だから、自分自身が何者かを言えるのは、死後になってしまう。
こういうレッテルというものとアートは大体において正反対だ。現在進行形のプロジェクトへタイトルをつけようとすると難しかったり、ジャンルやカテゴリがあらかじめ決まっている仕事をするのにフラストレーションが溜まったりするのに近い。自分の深いところからアイディアを取り出した作品と、定められたジャンル内の仕事として作成したものと、表面上は似ていても一緒にされてしまうのは残念だ。
クリエイティブな人のやることは常に複雑で、インスピレーションが湧いたり、自分のアイディアに興奮させられたり、自身や世界に葛藤を抱えるということは皆同じ。だからこそ、それぞれに異なる道を歩んできている皆さんにとって、このように自分たちがしていることはいったい何なのか話し合う場が成立するのだ」⁠David氏)

キャリアをはじめる人へ

David氏は、アーティストを作り出すための理想的な条件というのは無いと言います。貧乏な人は自分の技巧を磨くために中々時間を割けなかったり、非常にお金持ちの人はあるアイディアを最後までやり通す根気が持てなかったりと、貧乏でもお金持ちでもそれぞれ欠点があるものだと見ています。

普通の人にとっての豊かさが、アーティストにとってもそうとは限りません。⁠貧困、病気といったものや、嫉妬、孤独といった人生における困難こそが、どんな先生や本よりもアーティストとしての私たちを作り上げていく。かといってこのような困難がアーティストとしての成功の決定的な要因になるというわけではない、というのが大切」と言います。

受け入れられなくても、不安の中を突き進む

まず、自身のアイディアが受け入れられないことに対しての考え方を示しました。

「アーティストとしてキャリアをはじめるというのは、自分自身の挑んでいる領域を再発明し、作り変えていくこと。皆さんに先行する世代は異なる理想、考え方を持っていて、そういった理想は、古びることによりルール、教義になっていく。不安な気持ちがあるからこそルール化する。過去の時代の人々は次の世代の人々が起こす変化に対して抵抗しようとするのだ。
だから、もしあなたがアーティストでい続けようとするのであれば、誰からも権威を受けてはいけない。皆さんは不安のあるところに入っていくことになる。だから新しいアイディアを提唱するとき、葛藤や戦いが起こる。本当に新しいアイディアなら、たくさんの人に、すぐには受け入れられないだろう。たくさんの観客や人気を獲得するのは、あなたのアイディアを理解し、評価する、あなた以外のアーティストだ。その人たちは、あなたがしたことを真似しているから、うまくやれるのだ⁠David氏)

自由は貴重なもの

David氏は「アーティストとしての人生をスタートさせるのであれば、自分一人で孤独に、いかなる外的プレッシャーも受けずに仕事や創作を行うこと、それが絶対的なパワーを生み出すのだということを認識すべき。評価が確立したアーティストが羨ましいと思うかもしれないが、彼らの多くは、何をするのかを決定する自由、どんな自分になるのかを決める自由、実験し遊んでみる自由を羨ましく思うものだ」と話します。

そして、⁠多くの学生がよりはやく業界に入ろうとする。その時に考えなければならないのが、世の中の99%のデザイナーよりクレヨンを持った子供のほうが自由があるということ。プロとなった人でもヒエラルキーの端っこにいると認識しているものだ。だから、自分で創作を行うことのポテンシャルを決して過小評価しないでほしい。周囲の人は、あなたの考えに反対するかもしれないし、長いこと誤解し続けるかもしれないが、それでいい。今日の世界は、あなたがもはや学生でもなく勤めてもいない場合、何か問題があるのではないかという考えを植えつけるが、しかしあなたに問題は ないのだ。商業の世界に入るのを急いではいけない」と告げました。

自分で学べるということ

またDavid氏は、高等教育は必要無い、私たちは自分自身で学べるということを認識すべきと考えています。

「美術学校には可能な限り多くのテクニックを扱ってみることを勧めたい。美術学校はたくさんのテクニックを学ばせるとき、なぜ学ぶのかは言わない。⁠このテクニックはこういう理由であなたに向いていて、あの媒体は違う理由で別な人に向いていて』というのを伝えるべき。こうして使いものにならない知識を詰め込まれた学生達は、コンテンポラリーアートとやらの歪んだバナーのもとテクニックをただ単に創造性もなく再生産していくだけという結果を生み出してしまう。自分自身で孤独に作品をつくったりすることを美術学校は教えてくれないし、プロセスを楽しんでもそれで単位がもらえることはない。しかしそのようにプロセスを楽しむことこそ、私たちができることのうち、私たちに最も活力を活力を与えてくれる⁠David氏)

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何もしないこと

David氏は、何もしないことも大切であると言います。彼自身の人生で、自分を作ってくれた時間というのは、決してお金を生み出さない行為をしていた時間だったそうです。本を読んだり、作品を見たり、人と会ったり、もしくはただ考えごとをするだけ。そういう活動こそが自分自身を形作ってくれる重要な時間なのだと語りました。

「芸術を学ぶプロセスはものすごく有意義なもので、自分自身の性質、関心を辿っていくことが重要。
他の人の関心を得ようとすると、フラストレーションが溜まるだろう。美術学校はあなたが生涯関わっていこうとするものに対して、愛や関心を失わせてしまう可能性がある。もし、あなたが概念的な思考に興味がないのであれば、自分自身の関心のあるテクニックに集中しなさい。テクニックを磨く努力の過程の中で、アイディアは生まれてくる。アイディアを生み出すことに興味があるのであれば、他人のものに従うのではなく、自分自身でアイディアを作り出そうとすべき。いかに大それたアイディアでも構わずに。テクニックはそういったアイディアの実験の中でついてくる。私たちは皆、自分自身の仕事の仕方、創作の仕方について一定の考え方を持っていると思う。それを大事に育てていってほしい。他人やお金がそれに対してネガティブな影響を与えるようになってはいけない」⁠David氏)

芸術的な仕事で大切なこと

芸術的な仕事が一般的な仕事と違うのは、好きだからこそやるべきことという点です。

「芸術的な仕事は困難なもので、孤独や気晴らしの誘惑があらゆるところで待ち構えていて、そこから逃げ続けなければならない。
自分の仕事のやり方について喋ってばかりいるような人達は、本当の芸術がもたらす困難さを無視している怠慢なアーティストだ。最も創造的な仕事は2つの部分に分けることができる。考えること、そして行動。理論に特化して完璧主義者になってしまって、そのプロジェクトをどんなふうに終わらせるのかわからなくなってしまう人がいる。一方で、いかなる目的も設定せずに行動してしまって、終着点が見えなくなってしまう人もいる。そのバランスが大切だ」⁠David氏)

テクノロジーの民主化でも変わらないこと

今日、歴史上で最も多くの人に創作の手段が与えられている状態です。自分自身の時間をどのテクノロジーに注ぐのか、その時点でまずギャンブルをしなければならず、混乱させらせます。

「テクノロジーはアーティストたちが生きる時代のリアリティを表現し、芸術家自身のリアリティもまた、テクノロジーを通して表現されるとすると、芸術の歴史は、ツールの変化の歴史、テクノロジーの歴史、アイディアの歴史であると言える。だからといって、皆がその時代に生まれた最新のテクノロジーを追う必要がある、ということではない。
何が新しいかということよりも、どのテクノロジーが自分のアイディアを表現してくれるのか、自分を楽しませてくれるのか、が大事。そのテクノロジーを用いなければ表現できないものは、本当にあるのか⁠David氏)

David氏はテクノロジーが民主化されても、創造に必要な努力は大きく減少しえないということを指摘します。

「テクノロジーが民主化されてきて、アーティストになることが以前よりも簡単になった、というのは個人的には神話に過ぎないと思う。以前より創造的になり得るための選択肢は増え、努力も少なくて済むようにはなった。だが一方で、様々な偉大な芸術作品を観るための時間を、テクノロジーを選ぶこと自体に捧げてしまうという状況も生まれてしまっている。YouTube登場以前、自分たちのやり方は非常に難しかったと言う人がいるが、私たちが思い出すべきなのは、ペンだってテクノロジーということ。文学、詩、音楽はペンが無ければ存在しなかったのかといえば、そんなことはない」⁠David氏)

アートとお金

お金が無くてもできる、お金があると持てないものがある

お金はクリエイティブな世界において、大きな影響力を持っています。しかし、お金よりもアイディアを持つ個人のほうがよっぽどパワフルなのだと言います。芸術はお金の無い時代からありました。

「お金はアイディアを形にするのを手助けるかもしれないが、お金がトレンドを生み出すというわけではない。あらゆるトレンドは、お金からはじまっておらず、トレンドが商業化するのにがっかりするのはお馴染みの光景。新しいアイディアが簡単にはお金に恵まれないのは、そのアイディアが機能するかどうかの先行例を必要とするからだ。興味深いことに、どれだけ有名で創造的なアーティストでも、お金を最も生み出すことができるのは、新しい領域を探ることではなくて、過去の成功を繰り返すことによってなのだ」⁠David氏)

そして、商業との関わりについて自身の考えを語りました。

「商業の世界でのみ仕事をする多くの人々が、法律的に守ることのできないインディペンデントなアーティストから盗むことによってその仕事がなりたっていることを、怠慢にも忘れる。創造性について話すとき、ほとんどが自己啓発本から取ってきた知識に基づいたものだと、彼らは語り忘れるのだ。商業的な仕事自体が悪いと言っているのではなく、お金が絡むと創造的なコントロールを失いがちになってしまうことをイメージしておかなければならない。そしてコントロールの欠如は、自分自身の創作にとって毒となり得る可能性がある⁠David氏)

最後に次のメッセージを残し、締めくくりました。

「私たちは一風変わった道を歩んでいると言えるが、だからこそ、自分自身の存在を定義しようと焦ることはない。他人と比べて自分はどうだとか考える必要は無い。アーティストは感じやすく傷つきやすい存在で、キャリアのあらゆる段階において不安定さと向き合っていかなければならない。そういったことを、私たちはむしろ良かったと感じるべきだ。
何よりも重要なことは、自分自身の仕事、作品、自分自身が関わっているテクニックに対する自らの関係性を養い、育てていくこと。自分が寝る間も惜しいくらいに作りたい気持ちになっているのか、確かめてほしい。そういったことのために努力できるか、そもそも努力できることが幸せかどうか。これが才能があるかどうかよりもアーティストになるためにもっと重要なことだ⁠David氏)


以上、FITC Tokyo 2015、1日目の内容でした。改めてレポートとして書きながら、的を得ていてもっともすぎる言葉の数々を噛み締めました。2日目も濃い内容となっておりますので、どうぞお楽しみに。

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