「日本OSS貢献者賞」は、“ OSS開発の振興を図ることを目的に、影響力のある開発プロジェクトを創造・運営した開発者や、グローバルプロジェクトにおいて活躍する卓越した開発者、OSS普及への貢献者を表彰する賞” です。2005年度に創設され、今回が第10回目となります。また「日本OSS奨励賞」は、“ 過去1年間にOSSの開発や普及に顕著な活躍をした個人ないしグループを表彰する賞“ です。この賞は2009年度に新設され、今年度が第6回目となります。          
以上2賞の授賞式が、10月24日の「OSC 2015 Tokyo/Fall」( 明星大学)で開催されました。賞の授与は、審査委員会委員長の早稲田大学 筧 捷彦氏が行い、司会はOSC実行委員会のNTTデータ 三浦 広志氏が務めました。      
「AUFS」「H2O」「cgroups」「fluentd」の開発者が受賞─日本OSS貢献者賞     
今年の日本OSS貢献者賞は次の4名でした。
奥 一穂さん 
亀澤 寛之さん 
古橋 貞之さん 
岡島 順治郎さん 
 
奥さん、亀澤さんが、自身のOSS活動などについてそれぞれプレゼンを行いました(岡島さんは今回は所用のため参加できず、古橋さんはビデオメッセージによる参加でした) 。    
世界最速のHTTP/2サーバ「H2O」を開発─奥 一穂さん    
受賞盾を受け取る奥 一穂さん 
 
 
奥さんは、世界最速とされるHTTP/2対応のサーバ「H2O」の開発者で、現在はディー・エヌ・エーに所属しています。H2Oは、ゲームエンジンのWebSocket開発から派生したサーバソフトウェアで、Nginxと比べても1.5~2倍の速度を誇る、まさに世界最速のWebサーバです。HTTP/2はサーバ側がレスポンスの順番を制御できるプロトコルですが、H2Oはそのスケジューリングに強みがあり、ブラウザのキャッシュ状況を予測した投機的配信も実装できます。プレゼンの中では、Webページの表示速度は企業の売り上げに直結する要素で、H2Oの開発は非常に重要な仕事だと強調されました。                
OSSは奥さんにとって、“ 知見と技術を共有するための箱” で、Webサーバのような1人では開発できない巨大なプロダクトを、企業の垣根を越えて作り上げるために必要なものだと話されました。   
プレゼン中の奥 一穂さん 
 
 
仮想コンテナ技術の核「cgroups」を開発─亀澤 寛之さん   
亀澤さんは富士通所属、Linuxカーネルの開発に大きく貢献した1人です。メモリホットプラグ機能を実装し、cgroupsの開発ではメンテナとして活動しました。cgroupsは、CPU、メモリ、ディスクI/Oといったリソースの使用を隔離するLinuxカーネルの機能で、Dockerにも応用されています。       
筧審査委員長と並んで亀澤 寛之さん 
 
 
OSSに関わるということについて亀澤さんは、自分の開発したメモリ関連の技術が大勢の人が利用するサーバで使われ、さらにもっと大勢の人が使うスマートフォンへと内臓されていることを挙げ、ベースとなる技術に関わるおもしろさが大きいと語りました。亀澤さんは、OSCといったイベントでコミュニティ参加を呼びかけたり、学生トレーニングプログラムにおけるLinuxコースの講師を務めるなど、OSSを盛り上げるための幅広い活動をしています。      
プレゼン中の亀澤 寛之さん 
 
 
「fluentd」を開発したトレジャーデータの創業者─古橋 貞之さん  
受賞式当日はアメリカのシリコンバレーにいた古橋 貞之さん。ビデオメッセージでプレゼンを行いました。
古橋さんはトレジャーデータ創業者、学生時代から現在に至るまでさまざまなOSSの開発を主導してきました。2010年度の日本OSS奨励賞を受賞した1人でもあります。学生時代最初に作ったのは、ディスクレスネットワーク基盤システム「VIVER」 、そのあと、分散オブジェクトストレージシステム「LS4」 、分散key-Valueストレージ「kumonfs」と開発を続けました。         
古橋さんが開発した多くのソフトの中でとくに有名なものが「MessagePack」 、そして「fluentd」です。非同期のメッセージングライブラリMessagePackは、世界中にいる各言語のエキスパートがそのAPIを実装し、「 ドラゴンクエストX」といったオンラインゲームでも使われています。「 fluentd」は、syslog-ngやrsyylogなどと比べ、柔軟な使い方ができる新しいログ収集ツールとして注目され、非常に多くのプラグインが作り続けられています。          
メッセージの最後で古橋さんは、「 自分が得意なのは最初の大枠の設計、そしてその次の実装。ですが、OSSはそれだけでは成り立たず、メンテナンス、ドキュメントの整理、ユーザサポートなどにさまざまな人が関わっている。その人たちへの謝辞でこのメッセージを締めたい」と述べました。      
ビデオメッセージでfluentdについて話す古橋 貞之さん 
 
 
レイヤファイルシステム「aufs」の開発─岡島 順治郎さん   
岡島さんは、LinuxライブCDや、Dockerの普及に重要な役割を果たしたaufs(advanced multi layered unification filesystem)の開発者。aufsは多くのライブCDディストリビューションに採用されるほか、HPCや大学の学内システム、さらにはDockeなど多岐に渡る分野で利用されています。      
aufsは、Linuxにおいてunion mount[1] を実現させる技術で、同系技術に「UnionFS」にがあります。FHSM(File-based Hierarchical Storage Management ※2 )が新たに追加されるなど、機能改善が続けられています。        
「Serverspec」の開発者から国土地理院まで─日本OSS奨励賞  
続いて、「 日本OSS奨励賞」の受賞式が行われました。今回の日本OSS奨励賞を受賞したのは次の9名、1団体でした。  
鯵坂 明さん 
「Apache Hadoop」のコミッタとして、ソフトウェア品質の向上やドキュメント整備に貢献   
江木 聡志さん 
パターンマッチ指向プログラミング言語「Egison」を設計・開発    
榎 真治さん 
「LibreOffice」日本語チームのメンバとして、全国のOSCへの出展や勉強会の企画開催など啓蒙活動を行い、LibreOfficeの普及に貢献    
奥村 隆一さん 
「YUI」「 YUIDoc」「 FormatJS」など、おもに米Yahoo!社が公開するOSSの開発に寄与   
猿田 浩輔さん 
「Apache Spark」のバグ修正や機能改善などの品質向上に加え、タスクの実行状態を可視化するタイムラインビューアの実装を主導   
末永 恭正さん 
Javaのヒープオブジェクトプロファイラ・障害解析ツール「HeapStats」のメイン開発者として、新しい解析用GUI実装やスレッド状態記録機能など、多くの機能を開発      
細田 真道さん 
GNUプロジェクトの1つである楽譜作成プログラム「LilyPond」のコミッタとして活躍   
宮下 剛輔さん 
サーバの状態を自動的にテストするツール「Serverspec」を開発   
吉田 真也さん 
OpenJDKにおいてJavaをインタラクティブに扱えるようにする「REPLツール」 、OpenJDK公認プロジェクト「Kulla」のコミッタとして活躍。現役大学生     
国土地理院 情報普及課 
国土地理院が提供する地理空間情報について、オープンデータ化・オープンソース化を推進。「 地理院タイル」「 地理院地図」をそれぞれオープンソースで公開している    
 
受賞者、審査委員会の皆さんが集合した記念撮影