ドイツのベルリンで10/5~10/7に開催されたQt World Summit 2015に、今年は株式会社SRAから5名が参加しました。著者は今年度からQt専任の開発者となったことから、SRAの技術者育成のための投資制度を活用してこのイベントに参加してきました。ここではその模様をレポートします。
Qt World Summit は、昨年まで「Qt Developer Days」という名前で開かれていた、マルチプラットフォームGUI開発フレームワーク「Qt」の開発者やユーザが集まるカンファレンスです。主催がこれまでのKDABからThe Qt Companyに代わり、それに伴って名称変更となりました。会場は昨年と同じBerlin Congress Centerという会議施設で、ベルリンのアレクサンダープラッツ駅から至近でとてもアクセスしやすい場所にあります。
Qt World Summitは、初日は初心者でも安心して受講できるトレーニングが、残り2日はキーノートとQtの最新情報や使用上のアドバイス等を聞けるセッションが設けられています。そのため、初心者から熟練者までの幅広い層がQtへの理解を深める場であるのに加え、開発者や他のユーザとの親交を深める場でもあります。今年は世界35ヵ国から約850名(初心者数と経験者数は半々)が参加し、大変活気溢れるイベントとなりました。
Introduction to Testing Qt applications with Squish
トレーニングはQtのパートナーであるKDABの社員が講師を務めます。
この中から私は「Model/View programming in Qt」に参加しました。このコースはスライドを使っての講義形式で行われました。簡単な説明をした後にその場でコーディングする形式で進められ、講師が受講者の理解を深めるために説明の合間で質問し、50人以上の受講者が参加していたにもかかわらず、疑問や質問があれば一人ひとり即座にかつ丁寧に応えてくれました。
10/6の午前にQtの最新情報や今後の方向性を講演するキーノートが行われました。トレーニングは受講せずにこの日から参加する人も多く、会場は初日以上に多くの人で溢れていました。それだけの人が集まる中、The Qt Company の Global Marketing Communication 部門長であるKatherine Barrios氏のウェルカムスピーチが行われ、講演がスタートしました。
講演中に「Automotive」という言葉が何度も出てきましたが、これは今年のQt World Summit のキーワードの1つになっていました。講演の中で、iPhone がタッチパネル市場に参入してからタッチパネル技術には“簡単な操作性”や“使って楽しい”といった要素が必要とされ始めたこと、さらに今ではそれが標準になり今後より一層あらゆる製品にユーザーエクスペリエンスが求められていくこと、ソーシャルメディアなど多くの製品がインターネットにつながり世界中の人々と共有されていくであろうこと、について触れていました。その考えのもと、とても多くの人々に影響を与える自動車産業に注目しているそうです。
Juha Varelius氏が話し終えるとPetteri Holländer氏が壇上に上がり、10月1日に発表した、提携会社のKDABとPelagicoreと共同開発した車載用インフォテインメント(Information“情報”+Entertainment“娯楽”を合わせた造語)システム開発支援用ツールである「Qt Automotive Suite」について述べていました。
車載用インフォテインメントシステムを構築するとき、多くの自動車メーカやプロバイダは技術的ソリューションの管理部分で似た問題に直面しているそうです。Qt Automotive Suite はその問題を解決することを目的とした開発ツールであるため、メーカやプロバイダはエンドユーザに価値を与えることに集中することが可能となるようです。SRAも、Pettriを中心にThe Qt Companyと世界の中でも注目される日本の自動車産業がどう関わっていくかを意見交換しています。
5つ目の講演では音響業界からHoloplotのCEO, Andreas Schmid氏とKDABのグローバル販売部長兼マーケティング&ビジネス開発部長 Till Adam氏の二人がスピーチしました。冒頭では Holoplot 3D Audio Wallと呼ばれる1,000個のスピーカーユニットで構成された壁のようなオーディオから音楽を奏でるパフォーマンスをして観客を沸かせました。Qtはこのオーディオの音響制御を担う組込ボードや、設定用のデスクトップやタブレットのアプリケーションなどに使われているそうです。
The Qt Company が推進しているAutomotiveについても 「Qt in Automotive」として7つのセッションが行われました。技術系のセッションとしてはWindows 10対応や、マルチプラットフォーム対応、ユーザエクスペリエンスデザイン関連、Qt3D関連、去年から引き続きモバイル向けやそれ以外にも多数ありどれも非常に興味深かったです。
私が参加した中で、「The 8 mistakes of Qt Quick newcomers」というセッションは題名もインパクトが強く印象深い内容で、QMLを使用するときにビギナーが行い易い8つの行為を非常に分かりやすく指摘していました。例えばQMLはJavaScriptと異なることを意識させる内容や、ビジネスロジックとGUIは分離すべきといった内容等がありました。講演者は冗談も交えた説明をすることで受講者の心を掴み、加えて議論も活発であったため立ち見がでるほどに大盛況でした。