1月27日に東京・大崎で開催されたソラコム初のカンファレンス「SORACOM Conference "Connected."」は500名を超えるユーザ/開発者を集め、サービスローンチからわずか4カ月しか経っていないスタートアップとは思えないほどの活況を呈しながら幕を閉じました。すでに1500以上のユーザ/企業によって利用されているソラコムのサービスラインナップは、SIMカード1枚から使える「SORACOM Air」を中心に「SORACOM Beam」「SORACOM Cannal」「SORACOM Direct」「SORACOM Endorse」「SORACOM Funnel」と順調に拡大しています。
これほど短い期間で急激にソラコムのサービスが使われるようになった理由のひとつに、ソラコムが"MVNOのMVNO"として機能していることが挙げられます。世の中には格安SIMを使ってビジネスをしている企業は数多くありますが、ソラコムほど自由なスタイルでの利用環境、いわゆる「プログラマブルなSIM」を従量課金制で提供している事業者はほとんどありません。ソラコム自身が「NTTとAWSという"二大巨人"の肩の上でビジネスをしている」(ソラコム 代表取締役社長 玉川憲氏)からこそ、自由度の高いIoT環境をプラットフォーマーとして提供するという強い使命感がそこには見えます。
本カンファレンスではソラコムユーザによる多くの事例が発表されましたが、本稿ではまさしくソラコムが"MVNOのMVNO"たる本領を発揮している事例として、eConnect Japanの小山修平CEO兼ファウンダーによるSORACOM Airをベースにした訪日旅行者へのプリペイドSIM提供ビジネスのセッションを紹介します。
「SORACOM AirイベントハンドラとAmazon Lambdaの連携がすべて」
2020年の東京オリンピック開催が決定したこともあり、ここ数年、訪日旅行者の数は急速に増える傾向にあります。にもかかわらず、彼らが日本で使えるインターネット環境は諸外国に比べて非常に貧弱であることは否めません。海外での留学経験が豊富で、自身も旅行を趣味としている小山氏は、「旅行者がどこでも、安価に使えるインターネット環境を提供していきたい」との思いから、2012年1月、訪日外国人向けにSIMカードを販売するMVNO事業者としてeConnect Japanを設立しました。
今年で5期目を迎えるeConnect Japanは、昨年9月のSORACOM Airのローンチにあわせ、同社で提供するSIMのすべてをソラコムのものに変えました。現在、「Japan Prepaid SIM」として全部で6種類の独自プランを訪日旅行者向けに提供していますが、これらのサービスはすべてSORACOM Air上で実装されています。
ではなぜeConnect JapanはすべてのSIMをソラコムに変更したのでしょうか。小山氏はソラコムを導入する前のMVNOビジネスは「はっきり言ってSIM屋のいいなり状態だった」と表現しています。「プリベイドやプランという概念がSIM屋にはなかった。プログラマブルなSIM、APIですべてをコントロールできるソラコムが登場して、はじめて我々が独自のプランをもつことが可能になった」と高く評価しています。
具体的にはSORACOM Airでどんなことが可能になったのでしょうか。JAPAN Prepaid SIMが提供するプランは大きく定量型と日数型の2つに分けられますが、いずれのプランにおいても速度クラスや有効期限を事業者であるeConnect Japanが自由に設定することが可能です。また、自動アクティベート/ターミネートやプランのリチャージ、モバイルアプリからのSIM利用状況のチェックなども容易に行うことができます。「旅行者はSIMを入手したらすぐに端末に挿してインターネットに接続したいのに、たいていのSIMは使用前にアクティベートが必要になる。本末転倒もはなはだしい」と小山氏は指摘しますが、SORACOM Airをサービスのベースにしたことでそうした手間をユーザに強いることもなくなりました。
小山氏は続けて、「当社のサービスはイベントハンドラとAmazon Lambdaの連携がすべて」と説明しています。ユーザが利用可能な最大データ容量まで使い切ったときにLambdaを呼び出すイベントハンドラをSIMに登録した状態でSIMを提供し、実際にその状態に達したとき、SORACOM Airからプラン終了用のLambdaファンクションが呼び出され、さらにLambdaからはプラン終了のためのeConnectが用意しているAPIが呼び出されるというしくみです。たとえば定量型の3GBプラン(最大30日/5480円)の場合、あらかじめ3GBに達したらLambdaファンクションを呼び出すイベントハンドラがSIMに登録されており、実際に超えた場合はSORACOM Air→Lambda→eConnect APIとイベントが駆動し、プラン終了(SIMをディアクティベートし通知を送信)までが自動で実行されることになります。ちなみにSORACOM AirやAmazon LambdaはUTCベースですが、eConnect Japan APIでは訪日旅行者向けにJSTに変換しているそうです。
先に挙げたSIMの自動アクティベートも同様にイベントハンドラとLambdaの連携によって実現しています。ユーザがSIMの使用を開始するとSIMステータスが「使用中」になるイベントハンドラを登録し、アクティベート用のLambdaファンクションを呼び出します。Lambdaファンクションが実行されるとeConnect APIが呼び出され、ユーザのデバイスに通知が届くしくみです。
eConnect Japanでは現在、モバイルアプリケーション(iOS/Android)を利用してプランの延長/変更やリチャージをより便利に行える「カスタムDNS」を開発中だと小山氏は明かしています。現状ではプランが終了してSIMがディアクティベートした状態になってしまった場合、ユーザがリチャージするにはWi-Fiに接続しなければなりません。その手間を省くために、プラン終了時にSIMのグループをカスタムDNS設定済みのグループに変更し、どんなURLを叩いてもリチャージサイトしか返さないDNSに接続させることで、プランの再購入が容易になります。有効なプランを使い果たしたSIMでも、限定的なアクセスを可能にしておけば、「もう少しだけつなぎたい」というユーザのニーズをすくいあげ、ビジネスの拡大にもつながるでしょう。
小山氏がもうひとつ「考案中のプラン」として紹介したのは"Blank SIM"の提供です。その名の通り、何もプランが設定されていないSIMで、ユーザがSIM本体を購入後にプランをチャージするというものです。これが実現すれば、eConnect Japanが卸元となって販売代理店やショッピングモールでSIMを販売することが可能になります。急に現地でSIMが入用になった訪日旅行者にとってもメリットは大きいと思われます。
MVNO事業者側で自由にプランを設定できるソラコムなら、これからもさまざまなサービスの展開や機能拡張が可能になる ─セッションの最後、小山氏はあらためてソラコムの柔軟性を高く評価しています。「日本の市場で売られているSIMの中で、機能も価格もウチが一番だと思っている」(小山氏)という自信もMVNOのMVNOたるソラコムあってのこと。「インバウンドのプラットフォームとして、訪日旅行者に包括的なサービスを展開していきたい」と意欲を見せる小山氏はIoTのあるべきかたち ─多くの人々を幸せにするというIoT本来のゴールに適っているように見えます。ソラコムが掲げる「ヒトとモノが共鳴する社会」は、eConnect Japanのように自由な発想をもつプレイヤーが増えてこそ実現するということをあらためて感じたセッションでした。