2月5日、横浜大さん橋ホールにて 「 エンジニアサポートCROSS2016 」が開催されました。本稿では、B会場で開催されたセッション「日本のIaaS裏トーク~インフラ×ソフトウェア~」についてレポートします。
登壇者は、セッションオーナーの日下部雄也さん(ニフティ) 、スピーカーの井上一清さん(IDCフロンティア) 、中里昌弘さん(GMOインターネット) 、大久保修一さん(さくらインターネット)の4名です。
セッションの事前概要に「SDNの話をお願いされましたが、SDN疲れがひどいのと、メンバーを集めてみたら、VMware、OpenStack、CloudStack、独自などみんな違うアーキテクチャだったので、アーキテクチャの違いや、つらいところなどIaaSについて幅広くお話します」と記載されていたとおり、各社の登壇者が自社クラウドのアーキテクチャ、利用しているソフトウェア、特徴などを解説したのち、パネルディスカッションではクラウド事業者ならではの悩みなどについて深い議論が交わされるセッションとなりました。
各社のクラウドの仕組み
日下部さんより、まず最初に「各クラウドのしくみ」として、OpenStackのアーキテクチャ図をもとにIaaSを構成する要素が解説され、各社がどのようにコンポーネントを構築しているかを比較している表が示されました。
クラウドコントローラについては、ニフティとさくらインターネットが自社開発、IDCフロンティアはCloudStackの商用版であるCloudPlatform、GMOインターネットはOpenStackを使用しているとのことです。また仮想化基盤も、ニフティとIDCフロンティアがVMwareを採用、さくらインターネットとGMOインターネットはKVMを採用と、各社各様といった感じでした。なお、サーバ/ストレージ/ネットワークなどの物理層については各社とも公表していないとのことでした。
その後、登壇者それぞれから自社のクラウドについて説明がありました。
ニフティクラウド
ニフティクラウドは、2010年からクラウド事業開始している国産クラウドの老舗です。日下部さんは、自社開発部分が多いながらも「お客様のDCにニフティクラウド作りますよ」と言えるレベルにパッケージ化が進んでいて、OEMでの提供も多いと紹介しました。
ニフティクラウドではサービス開始から今日に至るまでVMwareを採用していて、VMwareについての運用ノウハウが蓄積されているとのことです。「 安定している」「 性能が良い」「 ニフティとは付き合いが長いのでサポートもしっかりしてくれる」「 VMwareは日本にいるエンジニアも技術力が高い」といった理由で、継続してVMwareを採用されているようです。しかしVMwareありきではなく、常にいろいろな基盤を検証していると説明しました。
IDCFクラウド
井上さんはもともとネットワークエンジニアとしての経歴が長かったとのことですが、現在は開発系業務に従事されているとのことです。
IDCフロンティアはケーブル・アンド・ワイヤレスIDCを起源とするネットワークに強い会社で、日本全国に9つのDCを所有する日本最大のデータセンタ事業者であると言います。クラウドのほかホスティング/ハウジングも提供していて、用途に合わせてサーバリソースを提供しているとのことでした。
ネットワークの中でも最近のトレンドはセキュリティであり、特に近年はDDoS攻撃が多く、「 どうやってお客様のサーバを守るか」という観点で、多様な攻撃に対応したネットワークセキュリティソリューションを入れようとしていると、井上さんは紹介しました。
クラウド自身については「ジャブジャブなインフラを作っていく」と言及していて、ネットワークだけでなくストレージも制限をかけずに、最安値の500円仮想マシンでも最高の性能が出るような構成になっているとのことです。
また、DC事業者であるIDCフロンティアならではのアイデアとして「データ集積地構想」というものがあり、様々なデータを集約していきたいそうです。データ集積地となるためには、セキュアなネットワーク接続が重要であるとし、デバイスとクラウドをいかにセキュアにつなぐかが今後の課題だと述べていました。
GMOアプリクラウド/ConoHa
対象ユーザによって、ゲーム向けの「GMOアプリクラウド」と、OpenStackを採用したIaaSライクなVPS「ConoHa」の2種類のサービスを展開しているGMOインターネット。中里さんは「クラウド基盤は建物のようなものであり、作ったら使い続けなければいけない。作ってから陳腐化して売れなくなるまで5~6年くらいだと思っている」と、クラウドインフラの持つ特徴を述べていました。
OpenStackを採用している理由としては、「 コスト優先」と「( OpenStackには)人・企業・お金が集まっていて、進化やバグフィックスが早い」ことを挙げていました。
また、ネットワークはシンプルなL2で構成していて、パフォーマンス上L3・L4に相当する部分はハードウェアを採用していると説明しました。
さくらのクラウド
大久保さんは、さくらのクラウドについて「何の変哲もないIaaSを高品質低価格で提供する」というコンセプトのIaaSであり、近年はアプライアンスの強化に注力していると説明しました。
さくらのクラウドでは、頻繁にサービスをアップデートしていて、そのためにガンガン開発して8割できたらリリースしてブラッシュアップしていっているとのこと。仮想化基盤についてはオリジナルのKVMを独自のコントローラで制御していて、APIはどこにも似ていない完全独自仕様であるそうです。
APIが独特なため直接API経由の操作を行おうとするとユーザの負担が大きいとの理由で、sacloud-cliというコマンドインタフェースやsaklientという中で動いているクライアントライブラリを提供していることを紹介しました。
パネルディスカッション
その後、パネルディスカッションが行われました。本稿では、質問と回答という形で主な話題をを紹介します。
質問: CloudStackはCitrixが売却してしまったが大丈夫ですか?
井上さん: IDCFではCitrixがCloudStackの商用版として販売していたCloudPlatformというパッケージを使っています。売却されましたが、現時点ではそれほどのインパクトはありません。CloudPlatformは従来から「カスタマイズできない」「 カスタマイズするとサポートが受けられなくなる」という課題があるので、OSSコミュニティで開発されているApache CloudStackのほうがいいのではないかという議論はしています。
質問: 各社の開発/運用体制はどうなっているのですか?
中里さん: GMOではインフラに関わる部分とビジネスロジックに関わる部分が分かれています。
日下部さん: ニフティではインフラエンジニアはクラウドエンジニアと呼ばれて、やりたいことを勝手にやっている感じですが、開発は部署が分かれています。
井上さん: IDCFではクラウドグループという部署がサーバ・ストレージを担当しています。ネットワークは別部署が担当しています。IaaS基盤はできあがっているので構築・運用部隊がいっしょになって増強しています。しかしそれだけではいけないので、新しいサービスを開発しています。そして開発した機能をサービスや運用に落としていくようにしています。組織としてはFace To Faceでやっており、良くも悪くも区別なくやれています。
大久保さん: 開発と運用はだいぶ分かれてきていて、コミュニケーションが難しくなってきています。そのため、テリトリーを分けるようなやり方だとうまくいかないのではないか、かっこよくいうと「仲良くやれるか」ということを考えています。そのために「密ににコミュニケーションとれるか」「 運用だから、開発だから、と言わずにやれるように」していこうとしています。
質問: 採用しているOSSについて
皆さん: 各社自社のサービス・インフラに合わせてOSSに手を入れて使っていて、相互運用性がなくなっているため、なんとかしたいと考えています。
井上さん: IDCFは基盤(CloudPlatform)をいじることができませんが、その上に乗るサービスは開発し続けています。UIは大事なので、コンパネは自社で開発しています。
質問: インフラをいじるコードをどうやってテストしていますか?
井上さん: テストコードを書いてきちんとやりたいが、クラウドの場合開発環境を構築するだけでもお金がかかるため難しい。ステージング環境でテストしてOKでも、本番環境でNGになるので差分が生じています。
大久保さん: クラウドの開発環境は構築するのにお金がかかるし、だんだん壊れていきます。直すのにもお金がかかるので維持するのが大変です。
質問: 苦労した障害は?
日下部さん: ニフティクラウドでは電源障害とストレージ障害です。
井上さん: IDCFクラウドではストレージ障害。しかしデータロストだけはしてはいけないので、そこだけは死守しています。データロストはしないがパフォーマンスが落ちるというのもサービスとしては良くないことなので、データロストしないこととパフォーマンス確保の両立を目指しています。
中里さん: GMOインターネットでもストレージでトラブルが発生しています。コンピュートの部分は大丈夫ですが、ネットワークは障害が多く、物理スイッチのバグが多くあります。メーカにバグを認めてもらい直してもらうのが難しいところです。
大久保さん: さくらのクラウドも(トラブルで苦労しているのは)電源とストレージです。
まとめ
国産クラウドサービスを提供する4社が参加したセッションでしたが、クラウドインフラを運用していくのは物理的なトラブルも多くあり、特に全ての登壇者が「ストレージでトラブルが起きている」としているところが特徴的でした。
また、採用しているプラットフォームは違えど、各社とも「サービスの拡充」や「UIの重要性」をキーポイントとして挙げていて、クラウドサービスのスピードの速さが垣間見えるセッションでした。