PlayStation VRの価格が3月15日のGDCにてついに発表されました。その価格は399ドル。PlayStation 4と専用のPlayStation Cameraが必要になるとはいえ、競合製品と目されるOculus Riftの599ドルやHTC Viveの799ドルと比べ、かなりお手頃な値段ということから、VR市場を広げる起爆剤になるのではないかと考えられています。
VRコンテンツの本格普及が始まるか?
「ソニーはProject MorpheusをPlayStation VRと名前を代えてきたから、結構本気なんだろう。GDCでソニーも思い切った値段を出してくるのではないか?」
B Dash Campのセッションで壇上の水口氏
このGDCでの発表の10日程前の3月3日と4日に福岡にて開催された経営者向けの招待制イベント、B Dash Camp 2016 Springにて、このPlayStation VR向けに初期タイトルを送ろうと動いている数少ない日本発のデベロッパであるEnhance Games社CEOの水口哲也氏によるセッションがありました。
今後のIT業界での新たな成長軸として会場でも注目されいたVRに関するセッション
PlayStation VR向けの初期ゲームタイトルは現在、15タイトルが発表されています。Enhance Gamesはそのうちの1社であり、かつて水口哲也氏がプロデュースしたシューティングゲームに音楽ゲームの要素を合わせ『Rez』をVRタイトルとして新たにリリースする予定です。アメリカで登記されている会社ですが、日本発のタイトルということでいえば、数少い日本勢のうちの1社ということになります。
ゲーム大国だった日本から初期に出るタイトルはわずかに1つ
水口氏は、ソニーがProject MorpheusをPlayStationの名を関する製品名に変えてきたことで、ソニーは本気でカテゴリをつくりにきており、GDCでソニーが思い切った値段をだしてくるのではないかと話しました。その予想どおり、ソニーがGDCで発表した値段は、周囲の期待に応えた価格となっています。
「ちょっと値段がOculusとかVibeとかだと高いかな。699ドルとかだと、ハードコアな人たちにそこそこ売れると思うけれど、値段がどのくらいのタイミングで下がってくれるか。ユーザからするとVRやりたいけど、ちょっと値段たかくない?という人が多い。新しくVRやろうとするとちょっと敷居が高いのが現状」
と水口氏が語っていたように、VRへの注目は日々高まっていましたが、このPlayStation VRの発表により、本格的に世の中に普及していくのではないかという期待が広がっています。
アメリカにいないとわからないVRへの肌感覚
PlayStation VR向けのゲームをリリースするEnhance Gamesが登記されたのは日本ではなく、アメリカ。水口氏はアメリカにいないと、ユーザレベルでもVRに対する肌感覚がわかりにくいと言います。
「アメリカのユーザーは肌感覚では、みんな新しい体験を求めている。日本とはまったく違う風景になっている。日本ではスマホがゲーム市場を席捲していて、コンソールで遊んでいる人が少ない」と語り、グローバルで4,000万台売れているPS4が日本ではそれほど話題になっておらず、逆に海外ではユーザはより新しい体験を求めていてスマホゲームにはあまりエキサイトしていないと市場の違いを紹介しました。
「どんどん絵と音が綺麗になっているが、基本的には今まで四角いモニタで遊んできている。そこに大きなイノベーションがまだない。VRでそこが変わるということにエキサイトしている人たちが(アメリカでは)多いというのが肌感覚だ」と水口氏は語りました。
VRに加えた新たな体験
このように、今までにない新たな体験を求めているユーザに対して、Enhance GamesはVRに加えた体験をもたらそうとPlayStation VR向けの新作、Rez Infiniteで取り組んでいます。水口哲也氏がプロデュースした代表作である『Rez』をVR化しただけではなく、昨年12月のPlayStationの発表会では、26個の振動素子と、振動素子の反応にあわせてLEDが光る特別な体感スーツを着ながらの操作によるゲームデモンストレーションが水口氏により行われました。
2015年12月のPlayStation ExperienceでのRez Infiniteのデモンストレーション
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『Rez』はプレーヤの操作により、シューティングの結果によってBGMや効果音が音楽化されていくゲームで、その音に合わせて体のさまざまな部分が振動し、その部分が光ることでプレイヤーだけでなく観ている人も楽しめるようになっています。体験をした多くの人が初めての体験で、言葉が出ないようです。この『Rez Infinite』は2月26日から3月21日まで、Media Ambition Tokyoと題したテクノロジーアートのショーケースとして六本木ヒルズの52階で体験展示されました。体験したいという声は、とくに女性からのほうが多かったのだそうです。
女性の体験中の写真
筆者も、展示終了間際の先週末に六本木ヒルズの展示会場にて、このスーツを装着してのゲームプレイを体験してきました。PlayStation VRによる没入感は、違和感がない自然なもので、ゲームの操作によって与えられる体への振動により、体全体がVR空間に一体化しているような感覚を時折感じました。また、操作しているプレーヤだけではなく、周りで観ているギャラリーも楽しそうにゲームプレイを眺めていたのがとても印象に残りました。
六本木ヒルズでの展示での『Rez Infinite』がプレイされる様子
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敷居が下がったゲーム制作
こうした新たな体験を生み出せることができるようになったゲームコンテンツですが、開発の敷居は近年になってきて大きく下がってきたようです。まずゲームの流通がパッケージだけではなく、デジタル配信も成長してきたため、デジタル配信の場合は劇的にパブリッシングコストが下がり、流通させるための人数を抱える必要がなくなりました。
また開発だけのことを考えてみても、以前は100くらいかかっていたのが、現在は70くらいまで下がってきたと言います。技術革新により、Unityなどの開発エンジンが充実してきたこと。またEnhance Gamesでは、人的なネットワークができたことから、優秀なクリエイターを厳選してアライアンスを組むことにより、常時、社員として抱える必要がなくなったことが大きく作用しているようです。
マーケティングに関しても、E3といったゲームの展示会で、メディアによる取材フローが整理され、非常に楽になってきていると言います。
「昔苦労していたことがどんどんと消えていっている。莫大な開発費がVRだから掛かるわけではない」( 水口氏) 。
VRならではの新たな体験を日本から生み出せるか?
このようにゲーム制作への敷居がさがってきた一方でVR市場に対しては、今までになかった工夫が必要となるようです。
「ゲームをVR化したらよいのではなくて、VRで新しい体験を生みださないといけない。今までの目線と同じで入ると苦労するので、そこはジャンプする必要がある」( 水口氏) 。
そして、こうした人材が日本ではそれほどおらず、アメリカには多くの予備軍がいると言います。アメリカでは、ハッリウッドなどの映像系の世界からも多くの人がVRの世界に流れ込み、ゲームのコンソール市場が成長し続けたため3Dゲームのクリエイターが多く存在する一方で、日本ではスマホの市場が大きくなりすぎ、コンソールからスマホ市場に人材が寄りすぎてしまったことが大きく影響しているようです。
「日本にはコンソールを体験したクリエイターが多かったのが武器だった。その人たちもまだいるので、うまくマージしていくことができるのでは。このままだと勿体ない。」と水口氏は語り、こういった状況はとくに若い人にとっては大きなチャンスであるといいます。
「僕がセガに入ったときには誰も先生がいなかった。そんなときにいきなり3Dポリゴンの開発ボードが渡された。レシピもないし、初めてやることだらけで若いメンバーは考えながら名作を産んできた。その人たちがまだゲーム業界に残っている。ここから新しいチャンスがあるし、すごい人が出てくるのでは?」と、VR市場から次の作り手が生まれてくることへの期待を語ってB Dash Ventures Campでのセッションを終えました。
日本発の次の作り手が生まれてくることに期待を寄せる水口氏