コードの前にボディをハックせよ! ヘルスハックカンファレンス開催レポート

ヘルスハックカンファレンスとは?

「仕事はとても楽しいしやりがいがある。だけど体調があまりよくない……」
⁠よく頭痛や腰痛に悩まされている……」
⁠最近、気がつくと、ベルトの上にお肉が乗っているのに気づいた……」

プログラマーはとてもやりがいのある仕事ですが、座り仕事であり、不確実性との戦いです。その結果として、体調を崩したり、生活が乱れがちになる人が多いです。

20代の若いうちはそれでもなんとかやっていけますが、30歳を越えてからは、徐々に身体に無理がきかなくなり、多かれ少なかれ身体にガタが来てしまいます。

そんなプログラマーに対して、レガシーコード改善の前に、まずは自分のレガシーボディ・レガシー生活習慣の改善を!というライフスタイルを提案することを考えました。そして筆者(懸田)の住んでいる愛媛県松山市で2016年3月に開催したのが、ヘルスハックカンファレンスです。

ヘルスハックカンファレンス公式サイト
ヘルスハックカンファレンス公式サイト

きっかけはヘルシープログラマー

ヘルシープログラマ
ヘルシープログラマ

きっかけは、昨年夏に出版されたヘルシープログラマでした。本書は、プログラマーが自分の仕事の流儀(=アジャイル、ハッキング)で自身の身体・健康を改善するための書籍です。

実は筆者自身が数年前から、走ることで身体や生活習慣の改善に目覚め、生活がガラッと変わった経験がありました。そのため、この書籍に書かれていることは概ね理解できたし、とても共感しました。

特に本文中に出てくる事例の登場人物が、情熱プログラマの著者であるチャド・ファウラー氏だったことにも驚きました。彼は自身の体の不調をなんとか改善しようとアジャイルの流儀で取り組んでいたことを知り、とても親近感を覚えました。

東京で話題に。……地方でも!

東京で昨年8月に開催された出版記念イベントでは、100人以上の人が集まったそうです。今やネットの時代で世界中の情報がどこにいても入手可能になっている反面、こういったイベントやリアルでの交流という点では、どうしても地方は東京よりも遅れてしまうものです。待っていても来ないので、ならば自分でやってしまえ!という勢いで開催しようと決意したのが昨年8月でした。

早速Twitterで東京の出版記念公演に登壇した、玉川さん、井原さんに連絡を取りました。最初は2015年内に開催しようとしていたのですが、準備不足のため開催を断念し、2016年の3月にターゲットを合わせて開催することになりました。

頭と身体で体験するコンセプト

最初は、愛媛県近隣のエンジニアを対象に、登壇者を含むヘルスハックの情報共有というコンセプトでイベントを開催しようとしました。しかし、いろいろ準備を進めていく中で、少し欲が出てきました。それは県外から松山に人が来てほしいということです。そんな中で考えたのが頭と身体の両方で楽しむ・体験するというコンセプトでした。

そのため、ヘルスハックカンファレンスは2日間に渡って開催することにしました。 初日の会場をゲストハウス松山のイベント会場で行うことで、松山城のすぐ近くという立地と、講演・懇親会・宿泊が同一会場という、参加者の利便性を高めました。2日目には自然の中でのアクティビティ体験や松山の郷土料理を楽しむという2部構成にしました。

カンファレンスへの参加申し込みは主にFacebook、TwitterのSNSで告知をし、ランディングページ経由のDookeeperで申込みを行いました。限られた労力で告知を行ったため、イベント自体を知らない方も多かったと思いますが、登壇者含め16名が松山に集まりました。大半は愛媛県外からの参加者で、関西や山陰方面からはるばる参加していただいた方もいました。

ヘルシープログラマに影響を受けた翻訳者のヘルスハックは?

初日はまず最初に筆者からイベント開催の挨拶をしました。その後講演のトップバッターは『ヘルシープログラマ』の翻訳者である玉川さんです。技術書の翻訳を手がける玉川さんとしては今回の翻訳は変化球だったとのことですが、思ったよりも周囲から評判がよく、ご自身もその影響を受けて取り組まれている工夫があるとのこと。今回の発表は、本書の紹介と思いきや、ご自身のヘルスハックの事例を話していただきました。

玉川さん
玉川さん

現在、玉川さんは毎日オフィスの17階の階段を歩いて上り下りするというハックをしているそうです。お金を払い、時間を作ってジムに通うのも自分を追い込む一つの工夫ですが、日常生活の中で自然と運動習慣を組み込むのは継続しやすいのではないかと感じました。

100マイルレースの先にプログラマは何をみたか?

次に、出版記念イベントで基調講演を務めた株式会社ビットジャーニー井原さんが「走ってよかった10のこと」というタイトルで講演しました。井原さんが走ることに目覚めてどう変わったのかについて話していただきました。出版記念イベントでは、SNS上でガチ過ぎると話題になっていたので個人的にとても楽しみでした。

井原さん
井原さん

井原さんの走ることにハマったきっかけが筆者と似ていて、共感するところが非常に多くニヤニヤしながら話を聞いていました。そのきっかけとなったのがBORN TO RUNです。読んだことがない方は是非オススメします! この書籍では、人体の構造は生物学的にみて、他の動物と比べても長距離を走ることに最適化されているということが、様々なストーリーを絡めて描かれています。本書を読むと、きっとあなたも走りたくなることでしょう。

井原さんは走ることにハマりすぎて、海外の100マイル(約160km)の山岳レースにも参加しました。筆者も井原さんほどではありませんが、フルマラソン以上の距離のウルトラマラソンやトレイルランニングにもチャレンジしています。人はいくつになっても(少なくとも40歳過ぎても)肉体的にも成長できるのです。

井原さんの言葉の中では、100マイルレースに出たことで、顧客から信頼されるようになった(=仕事よりも、100マイル走ることのほうが辛いので、逃げないでやってくれるという信頼)という話が印象的でした。

街のど真ん中で山をトレッキングする

お二人の講演の後は、一旦休憩がてら屋外に飛び出ました。イベント会場は松山城のすぐ近くということもあり、普段はロープウェイなどで登る城山を歩いて登りました。3月初旬でお天気ということもあり、心地よい気候の中トレッキングを楽しみました。

階段を登り松山城へ
階段を登り松山城へ

更に地元の人間にもあまり知られていない未舗装の山道もトレッキングしました。松山城は街の中心部にあるのですが、街の中心部でも自然の中で山歩きができるのが、地方都市である松山の魅力の一つです。

山中をトレッキング
山中をトレッキング

一時間ほどの松山城トレッキングを終えた後は、再び会場に戻りました。やってみてわかったのですが、さすがに一時間ほど歩いてから室内に戻ると、皆まったりしてしまったのです。

そんなまったりした会場の空気感の中、3人目のゲストである、ソニックガーデン倉貫さんの講演が始まりました。

リモートワーク・経営と健康の関係は?

倉貫さんはプログラマ出身ですが、現在は株式会社ソニックガーデンの代表として会社経営をしています。昨年末に出版されたリモートチームでうまくいくのイベントで松山に訪れる倉貫さんに声を掛け登壇していただくことになりました。

倉貫さん
倉貫さん

実は倉貫さんは、知る人ぞ知る健康志向の方で、全国の出張の際には、出張ランの写真をSNSでアップしているのをよく見かけます。そんな倉貫さんに、今回はプログラマー出身者の経営者として「健康を考える」というテーマの講演を依頼しました。倉貫さん曰く、はじめての講演テーマということで内容についてご苦労されたそうです。

倉貫さんは、現在日本全国で先の書籍に絡めてリモートワークを啓蒙していますが、実はそのリモートワークが健康増進と密接な関わりがあることに言及していました。

リモートワークだと、場所を含めて制約が減ります。時間を自分でコントロールできる範囲が広がるため、通勤時間を運動時間にあてたり、自宅で規則正しい食生活を送ることができ、その結果としてストレスが激減すると主張していました。

また、企業経営と健康の関係について、決断には体力が必要前向きな判断に必要なものはよい健康状態という主張も示唆に富んでいました。

倉貫さんは「前半のエクストリームな話と比べて普通なんで」と謙遜していましたが、ランニング、スイミング、登山、筋トレ、スタンディングデスク、ウォーキング、ドローイングというバラエティに富んだ運動習慣はまったく普通ではないですね。

プログラマの流儀で健康をハックするとどうなる?

最後の講演となる4人目のゲストの宿里さんには、エンジニア的な健康ハックをテーマに話していただきました。筆者は宿里さんと面識がなかったのですが、玉川さんに「是非面白い人がいるので登壇してもらったほうがいい」と紹介があり、登壇をお願いしました。

宿里さん
宿里さん

宿里さんの発表は、これまでの発表のなかで最もヘルシープログラマ的でした。エンジニアらしく食事の栄養素や体内の化学反応といったメカニズムに目を向け、いかに効率よく身体をハックし健康的になるかという工夫について話がありました。

例えば、シリコンバレー式 自分を変える最強の食事という書籍に掲載されているバターコーヒーを実践中とのこと。一日一回飲むとお腹が空かないそうで、実際に試している話も出て、聴衆の興味は釘付けでした。必要な食材集めに一苦労するそうですが、筆者も一度試してみたいところです。

懇親会は、地元食材の料理をその場で調理

懇親会は、講演会場でそのまま行いました。東京から松山に移住してきた三津浜サンジャックのシェフに来ていただき、会場のキッチンを利用して料理を出していくというスタイルで行いました。地元の魚、野菜などをふんだんに使った料理を楽しみました。

懇親会料理
懇親会料理

また、⁠ヘルシープログラマ』の出版社であるオライリー・ジャパンからは書籍やグッズなどを提供いただき、参加者にプレゼントすることができました。

2日目は瀬戸内海の島で登山から

2日目は、希望者のみで、松山の北東の瀬戸内海に浮かぶ興居島(ごごしま)に移動してのアクティビティを楽しみました。

興居島は松山市の中心部から約30分、港からはフェリーで10分で渡れる、瀬戸内海に浮かぶ島です。興居島はみかん・いよかんの産地として有名で、小富士山(こふじさん)という正岡子規の歌にも何度も登場する美しい山があります。

鶏なくや 小富士の麓 桃の花

—⁠—⁠正岡)子規

興居島上陸後に、まず小富士山に登りました。標高は282mと高くはないのですが、島にあるということもあり周囲が開けているため、非常に見晴らしがよい山です。民家やミカン畑を抜けて登山道に向かい、更にその上の頂上を目指します。所要時間は30分ほどでしたが、直登(蛇行せずに真っ直ぐに登ること)のため、傾斜は思った以上に急で後半は汗だくになりました。

小富士山
小富士山
登山道入り口
登山道入り口

頂上からは松山側の景色と、瀬戸内海側の景色の両方が楽しめます。瀬戸内海側には、DASH島で有名な由利島や、本州側の山口県周防大島も望むことができます。

小富士山登山中
小富士山登山中
松山側の景色
松山側の景色
瀬戸内海側
(遠くに見えるはダッシュ島)の景色
瀬戸内海側(遠くに見えるはダッシュ島)の景色

下山後は、恋人峠という絶景ポイントや、海岸を散策しました。街中とは違い、とてもゆったりとした時間の流れです。その後、島の廃校を利用したカフェであるしまのテーブルごごしまで休憩をとり、松山側に戻りました。

カフェの黒板
カフェの黒板
学習机のカフェ内
学習机のカフェ内

ランチは古民家で食べる郷土料理

興居島から港に戻った後は港町(松山市三津)にある、有形文化財にも指定されている古民家で鯛メシ屋を営んでいる鯛やで昼食を食べました。古民家の二階でアンティークに囲まれながら食べる鯛メシはとても美味でした。

鯛や
鯛や
鯛メシ
鯛メシ

また、商店街を歩いている途中で、柑橘の一種であるせとかがキロ単位で売っているのを見つけました。せとかは高いものだと、一つ1,000円ほどで取引されるほどの高級柑橘です。キズものであったため、そんな高級柑橘をキロ単位でしかも数百円で買うことができましたが、このような体験は愛媛ならではです。

せとか 350円/1kg
せとか 350円/1kg

最後に初日会場のゲストハウスまで戻り、解散しました。とても濃い2日間となりました。

プログラマ的アプローチは斬新?

今回、参加者のふりかえりの時間の中では、女性からのフィードバックの中で「健康に気を使う女性やイベントは多くあるが、今回の発表はアプローチがまったく異なった」というものがありました。エンジニアの場合は健康についての情報も、事実とロジックを重視するのでとても新鮮だったようです。

どんなロジックでその結果が生み出されるのか、実際に試してその過程のデータを集めて見える化し、体の内部でどんな化学反応が起きているのかを調べ、フィードバックループを回しながら改善する、というプログラマの仕事の流儀はそのまま健康増進にも生かすことができます。

もっといろんな人の工夫を聞きたい

また、今回のイベントでは講演者が多かったため、あまりライトニングトークの時間を設けることができませんでした。しかし、もっと色々な人の話が聞きたいと思いました。

プログラマが技術やツールの話を嬉々としてライトニングトークで発表するように、⁠ダイエットにこんなアプリ使ってる」⁠トレーニングでこんな工夫している」といった話が聞けると、もっと参加者同士の交流も深まるだろうと感じます。また、プログラマの間でよくありがちな「Emacs vs Vim⁠⁠、⁠Ruby vs PHP」のような主義・主張を議論し合うように、⁠筋トレ vs 有酸素運動⁠⁠、⁠糖質制限 vs 菜食主義⁠⁠、⁠ジム vs 家トレ」のような話題を主張し合う場があっても面白いでしょう。

これまでプログラマは、会社や境界を越えて技術交流をしてきました。健康増進についての工夫についても、そういった場があると面白いのではないか、というのが今回のイベントの元々の発想でした。ヘルスハックの交流を実現するのにプログラマは最適ではないかと勝手に妄想しています。

今回のイベントは実験的に開催しましたが、次はもう少し準備の時間をかけて今年の秋ごろに再び愛媛で開催する予定です。その時にはカンファレンスもアクティビティも更に改善をし、より楽しめる非日常体験を提供できる場にしようと画策しています。また、他の地域でもやって欲しいという希望があれば、是非開催してみたいです。その時には私自身が登壇者として発表できるように、沢山ネタを仕込んでおきたいと思います。

個人のウェルネスは、組織やソフトウェアのウェルネスにつながる

さて、先日筆者のブログにも書いたのですが、⁠健康的な状態」を示す言葉であるウェルネスとは、単に肉体的な状態を示すのではなく、より多次元であり、全体としてよい状態に保ち続けることのできるプロセスや前向きな姿勢を意味することを知りました。

ウェルネスの車輪
ウェルネスの車輪

こう考えてみると、個人のウェルネスは、比喩ではなく実際に組織やソフトウェア自身のウェルネスにも関わってくる話になります。システムを動的によい状態に保ち続けるというアプローチは、アジャイルの考え方やプロセスにも近く、まさにヘルシープログラマの改善アプローチそのものです。

地方発の実験的な試みですが、少しでもプログラマのウェルネスを考えるきっかけとなり、よい仕事・よい人生を送る一助になれば幸いです。

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