オープンソース貢献は未来への投資 ─LinuxCon Japan 2016 初日基調講演レポート

2016年7月13日~15日の3日間、ホテル椿山荘東京にて、アジア最大のLinuxイベントである「LinuxCon Japan 2016」が開催されました。今年は日本で初めて現在の最注目テクノロジーの1つであるコンテナーにフォーカスした「ContainerCon Japan 2016」も併催されています。さらに今年も「Automotive Linux Summit」⁠7月13日、14日)が開催されていました。本稿では、LinuxCon Japan 2016の初日となる基調講演をレポートします。

今年も内外から600名以上の参加者を集めたLinuxCon Japan 2016はLinuxカーネル開発者のための技術カンファレンスです。多くのセッションがLinuxカーネル関連の技術・知識に関するセッションですが、基調講演では、エンジニアだけでなく、ビジネスパーソンにも役に立つオープンソース/Linuxの最新動向も紹介されます。

Linuxコミュニティ支援の知見と経験を他のOSSプロジェクトへ展開

そのような「オープンソース/Linuxの最新動向」を知るセッションといえば、恒例のLinux Foundation Executive DirectorであるJim Zemlin氏による基調講演です。Zemlin氏は、⁠Open Source Landscape」と題して、オープンソース/Linuxの最新動向をコンパクトかつ簡潔にプレゼンテーションしました。

Jim Zemlin氏
Jim Zemlin氏

Zemlin氏は、最近のオープンソース/Linuxの動向を数字で示したあと、オープンソースのビジネスについて議論を進めました。Zemlin氏によれば、オープンソースのビジネスには、3つのフェーズがあるといいます。

1つめのフェーズは、コミュニティが中心となったプロジェクト(Project)で開発を行うことです。2つめのフェーズが、製品(Product)で、ニーズを理解してコマーシャル製品を開発すること。そして3つのフェーズがサブスクリプションなどで利益(Profit)を出すことだといいます。彼はこれを⁠3P⁠と説明していました。

また、今までは検証やRFPを準備して時間をかけてオープンソースを採用していたが、今はユーザがオープンソースを理解しているために導入が加速化しているといいます。数あるオープンソースとサービスを提供する企業からユーザが選ぶ時代になってきているとのことです。

オープンソースはビジネスを成功させるための重要ポイントで、次に必要になるのは、プロフェッショナルなオープンソースマネジメントであるといいます。これには、自分たちの事業の目標をドライブする明確な戦略、一貫した実装を行うためのクリアなプロセス、確かな結果を生み出す効率的なプロセス、そしてツールとトレーニングなどが重要であるとしました。

Zemlin氏は続いて、最近のLinux Foundationの活動についても紹介しました。

特に時間を割いたのが、⁠Linuxコミュニティ⁠支援以外の活動です。彼によれば、安定したオープンソースプロジェクトの運営には共通した要求があるといいます。それは、知的財産権の管理、イベントやトレーニングなどのエコシステム構築、ベストプラクティスの共有やセキュリティなどのインフラストラクチャ、リリースプロセスやライフサイクルなどの開発プロセス、そしてどのようにガバナンスとメンバーシップを行っていくかということです。

そこで、Linux Foundationでは長年にわたるLinuxコミュニティ運営の経験をもとにして、さまざまなプロジェクトを支援し、協業プロジェクトとして運営しています。協業プロジェクトには、組込み/IoT、クラウド、SDN、自動車、ビッグデータ、ビッグデータ、セキュリティなどがあります。この数年で急速に協業プロジェクトの数が増えていることから推察できるように、世界中でオープンソースに対する要望や要求が高まってきているということでしょう。

Zemlin氏は最後に「Open source is key to your future: invest a little and get a big return」⁠オープンソースはみなさんの未来にとって重要です。少しの投資で大きなリターンが得られます)とメッセージを送って、講演を締めました。

エンタープライズクラスのブロックチェーン技術に取り組むHyperledger

基調講演の2人目に登壇したのは、Linux Foundationによる最新の協業プロジェクトの1つであるブロックチェーン技術推進に取り組む「Hyperledger」⁠ハイパーロジャー⁠⁠ プロジェクトのエグゼクティブディレクター、Brian Behlendorf氏です。Behlendorf氏は、WebサーバApache Web serverのメイン開発者として活躍し、またApache Software Foundationの創設メンバーでもあります。

Brian Behlendorf氏
Brian Behlendorf氏

Behlendorf氏は、既存のブロックチェーンテクノロジーにはスループットに制限があったりトランザクション処理速度が遅い、仮想通貨向けに設計されている、プライバシーに弱いなどの問題があるといいます。

その解決のため、Hyperledgerプロジェクトとして、業界をまたがったオープンなスタンダートを提供する高度なブロックチェーンテクノロジーを推進しています。テクニカル委員会には、IBMや富士通、日立のようなベンダー以外に、JPモルガンやCMEグループなどのユーザサイドの金融企業も入っているのが特徴です。

すでに30社以上の企業や団体が参加して、開発参加希望者は2300人を超えていると言います。ハッカソンなどの活動もスタートしているそうですので、興味のあるかたは、ウェブサイトを覗いてみるのはいかがでしょうか?

OSSのベネフィットを得るOSSプログラムオフィスを設立

休憩を挟んだあとの基調講演では、Yahoo!のGil Yehuda氏が「The Rise of the Open Source Program Office」と題して、オープンソースプログラムオフィスの必要性や活動の概要を紹介しました。

Gil Yehuda氏
Gil Yehuda氏

多くの企業ではまだまだオープンソースのベネフィットを得るための明確な戦略がないといいます。これは、テクノロジーの問題ではないとも指摘します。またオープンソースは、技術的負債を減らしたいり、コストを削減したり、ソフトウェアをもっとセキュアにしたり、才能ある人材を引きつけたり、世界をもっとよい場所にするなどの可能性があると説きました。

それらをより確かなものとするために、オープンソースプログラムオフィスを立ち上げ、戦略、ガバナナス、運用の仕組み作りをすることがよいだろうと主張します。Yehuda氏によれば、オープンソースプログラムオフィスのナレッジについては、 Linux Foundationの協業プロジェクトTODOとして活動がスタートしているそうです。

GoogleやYahoo!といったネットサービス企業だけでなく、IBMやヒューレット・パッカードなどのベンダーも参加して、さまざまなツールやベストプラクティスが紹介されています。

日本企業でオープンソースプログラムオフィスを設立している企業は多くないと思います。オープンソースのベネフィットを最大限受けるため、オープンソースプログラムオフィスの設立を検討するのも一つかもしれません。

基調講演では、その他にJan Kiszka氏(Siemens⁠⁠、Yoshitake Kobayashi氏(東芝⁠⁠、Hiroshi Mine氏(Hitachi)が登壇し、⁠Embedded Linux in Industry and Civil Infrastructure Systems」と題して社会インフラとしての組込みLinuxを、Linuxニュースサイト「LWN.net」エグゼクティブエディター Jonathan Corbet氏による恒例の最近のカーネル開発動向を解説する「The Kernel Report」を、そして、富士通のKenji Kaneshige氏が、⁠Fujitsu with Open Source Communities」と題して同社によるLinuxとOSSへのこれまで10年間の取り組みを紹介しました。

左からJan Kiszka氏(Siemens⁠⁠、Yoshitake Kobayashi氏(東芝⁠⁠、Hiroshi Mine氏(Hitachi)のセッション
左からJan Kiszka氏(Siemens)、Yoshitake Kobayashi氏(東芝)、Hiroshi Mine氏(Hitachi)のセッション
Jonathan Corbet氏
Jonathan Corbet氏
Kenji Kaneshige氏
Kenji Kaneshige氏

今年もボランティアの活躍に感謝

すべてのセッションがすべて英語で実施されるアジア最大のLinux/オープンソースのイベントということもあり、今年も、内外から多くの人が来日して、参加していました。そんな彼らをサポートするスタッフとして、Linux Foundationメンバーだけでなく、多くのボランティアが活躍していることに、今回も触れたいと思います。毎年、開催前日からの準備を含めて多くの時間を使って、イベントを盛り上げてくれるボランティアの皆さんには感謝したいと思います。

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