11月28日~12月2日(現地時間) 、米国ラスベガスにて、Amazon Web Services(AWS)の年次イベント「AWS re:Invent」が、5日間にわたって開催されています。
AWS re:Inventは、Amazon Web Services, Inc.のエグゼクティブらによるキーノート、AWSエキスパートらによる400を超えるセッションに加え、ブートキャンプ、ハンズオン、交流イベントなどが含まれる超大規模のテックイベント。去年は2万人近くの参加があり、今年はそれ以上の来場者数が見込まれると言われています。
本記事では現地から、AWS re:Inventの模様を、James Hamilton(AWS Vice President)やAndy Jassy(AWS CEO)によるキーノートを中心に現地レポートしていきます。また、毎年イベント内で多くの新サービスが発表されるので、そちらもできる限り追っていきたいと思います。
re:Inventのメイン会場となったThe Venetian Hotel & Casino(左上) 、分野別のテックセッションをまとめた「re:Source Mini Con」が行われるThe Mirage Resort and Casino(右上) 、ハンズオンなどが行われるEncore At Wynn Las Vegas(左下) 、右下は会場入り口のにあるLEGOを使って来場者が組み上げていくAmazonロゴ
re:Invent 2016のはじまりを告げるJames Hamiltonキーノート
イベント最初のキーノートはAmazon Web Services, Inc. Vice PresidentのJames Hamilton氏が務めました(現地時間11月29日) 。
キーノート中のJames Hamilton氏
桁違いのハードウェアリソース管理をカスタム化で乗り切るAmazon
Hamilton氏が語ったのは、AWSを支えるデータセンター、そしてサーバハードウェアの最新事情についてです。現在のAWSのデータセンターでは、2005年時点のAmazon.comを運用していたサーバと同じ規模のサーバが「毎日」新しく投入されているそうです。AWSのリージョンは現在14で、2017年には18になる予定ですが、1リージョンに2~5つ存在するアベイラビリティ・ゾーン(AZ)1つ1つで30万台規模のサーバが管理されています。そしてAZを構成する複数のデータセンターごとに5~8万のサーバが動いているのです。
そういった途方もない規模を支えているのは、ケーブル、ルータ、さらにはICチップまで自社で開発・カスタマイズするハードウェアへのこだわりといえます。
AWSでは、世界中に点在するリージョンをすべて100Gbpsの冗長な光ファイバーネットワークでつないでいます。その一例として、オーストラリアとアメリカのオレゴンをつなぐ海底ケーブルが紹介されました。海底3マイル(約4,800m)に敷設された本ケーブルは20年間保守をせずに動く必要があり、そのためにファイバーをカッパー(銅線)で覆ったり3本に冗長したりと、さまざまな技術が使われています。
オーストラリア-アメリカ間の海底ケーブル
次に紹介したのはデータセンターで使用されているルータです。かつてはSoftware-Defined Networkingを採用していましたが、レイテンシの問題などから、自社開発ルータ等の専用ハードウェアにオフロードしていったそうです。AWSで使用しているルータは内部のプロトコルを自社で開発しており、通信の規格としては25Gbイーサネットを2本束ねた50Gbイーサネットをおもに採用しています。ルータに搭載されているICチップについては、数年前はBroadcom社に特注していましたが、最近では半導体のメーカを買収したうえで、なんと自社で開発しているとのこと。
AWS専用カスタムルータ
ルータ用ICチップも自社開発
このほか、1ラックあたり1,110ディスクが収容できるストレージサーバラック、電源効率の良いサーバの開発などが紹介されまた。また、1億ドルもの損失を出した2013年のアメリカン航空の大規模システム障害を例に出し、市販のスイッチギアを堅牢にカスタムした事例の紹介もありました。
ゲストが語るAWS
キーノートの後半では3人のゲストが招かれ、短めのセッションを行いました。
InfosysのSVP、Navin Budhiraja氏のセッションは、メインフレームからクラウドへの移行方法についての紹介です。メインフレームをAWS上でエミュレートする「Rehost」 、メインフレームからAWSのAPIを利用する「Migrate components」 、すべてAWSに置き換える「Re-engineer」という3つの試みについて詳しい説明がありました。
NASAのジェット推進研究所におけるIT Chief Technology OfficerのTom Soderstrom氏は、宇宙開発におけるAWSの利用について語りました。NASAでは火星で探査を行うローパーからの環境データや人工衛星が観測する地球上の水資源の観測データの解析、さらには地球から約4億マイル離れたエウロパへの着陸地点を見つける演算を、AWS上で実行しているそうです。
AWS Product StrategyのGMを務めるMatt Wood氏は、AWS上で動かせるAIのためのプロダクト、とくに深層学習フレームワーク「mxnet」をプッシュしていました。
データセンターの使用電力をすべて再生可能エネルギーに
キーノートの最後にHamilton氏が発表したのはAWSのデータセンターで使用するエネルギーについてです。Amazonはここ数年、風力発電所や太陽光発電所の建設を推進しています。現在はAWSのデータセンターで使用するエネルギーの40%が再生可能エネルギーでまかなわれており、その総量は907MWにも及ぶと言います。将来的にはデータセンターの消費電力を100パーセント再生可能エネルギーに置き換えるのが長期的な目標とのことです。
クラウドサービスとえば、ハードウェアが一切見えないことがむしろ利得とされるプロダクトですが、今回のキーノートではそれが前面にピックアップされ、驚きとともに、そういったハードウェアがあるからこそ、サービスの高可用性とユーザの信頼感につながっているのだと納得できるセッションでした。