デル株式会社と、EMCジャパン株式会社は、2016年11月16日(水)に、ANAインターコンチネンタルホテル東京で、「 LET THE TRANSFORMATION BEGIN――テクノロジーによる変革の開始」をテーマとした「Dell EMC Forum 2016」を開催しました。
本イベントは両社が、9月7日(現地時間)にデルテクノロジーズとして統合後、初の大型イベントになります。同社は、EMC、Pivotal、RSA、SecureWorks、Virtustream、VMwareを傘下にまとめた世界最大の非上場ハイテク企業になりました。これによりストレージからソフトウェア開発、仮想化、クラウドまで一気通貫のサービス展開が可能になりました(写真1 ) 。
写真1 デルテクノジーグループ(Dell、EMC、Pivotal、RSA、SecureWorks、Virtustream、VMware)
デルテクノロジーズはどういう会社か?
デル株式会社代表取締役社長平手智行氏とEMCジャパン株式会社代表取締役社長大塚俊彦氏による開会の挨拶から始まりました。平手社長は、現在はさまざまな要素でデジタルトランスフォーメーションが起きており、その不連続性の振れ幅はかつて経験したことがないほどで、まさにパラダイムシフトになっていると日本の状況を表現しました。そしてこれはすべての企業にとって成長するための千載一遇のチャンスであること、この変革をどう活用するかが日本における課題であると強調しました。またデルテクノロジーズは7つのブランドが集まったファミリー企業であり、短期的な株式配当を重視するのではなく、顧客のために非上場化し、顧客への利益還元こそがミッションであると今回の統合の理由を説明しました。そして大塚社長は、デル・EMCの統合によるシナジー効果でさらなる成長をしていくこと、各社のそれぞれの製品ラインナップによりITのフルスタックが実現できたこと、それが顧客に対して良い効果をもたらすことをアピールしました(写真2 ) 。
写真2 デル株式会社代表取締役社長平手智行氏(右) EMCジャパン株式会社代表取締役社長大塚俊彦氏(左)
デルテクノロジーズによるデジタルトランスフォーメーションとは何か?
基調講演はさらに続きます。Dell EMCクラウドプラットフォーム部門シニアバイスプレジデントを務めるブライアン・ギャラガー氏が来日し、登壇しました。EMCコーポレーションで30年以上ストレージ製品開発に携わってきた経歴の方です。ギャラガー氏は、今回の合併を「テクノロジストとしてワクワクするモーメント」であるとし、その理由は人類の進化に貢献できること、それによってテクノロジーが大きく進化し、人間の生活が働き方が変わっていくであろうと語りました。講演の内容は次のようなものでした。
大きなチャンスを生み出すムーアの法則
デジタルトランスフォーメーションは大きなチャンスをもたらします。たとえば、Netflixは映像鑑賞というユーザ体験を変えました。自動車ではコネクテッドカー、つまりテスラやフォルクスワーゲンの試みがこれまでの状況を変えています。交通業界ではUberが、宿泊業界ではAirbnbが変えています。こうした企業が業界を新しいものにしました。そして、こうした変化の根本には、CPUの性能の向上を示した「ムーアの法則」がまだ効いていることがあります。2011年にはなかったものが、5年後の2016年には10倍の規模になります。これはネットワークもストレージも同じです。これからの15年を考えると、2031年には1,000倍になります。経済性も1,000倍になるということです。そこで当社はネットワークやインフラで起きる問題を解決していきたいと思います(写真3 ) 。
写真3 ブライアン・ギャラガー氏(Dell EMCクラウドプラットフォーム部門シニアバイスプレジデント)
人材の変革を生み、セキュリティの概念を変える
デジタルトランスフォーメーションがすでに始まっています。48%の方が「3年後に自分の業界がどうなっているかわからない」 、53%の方が「重要なシステム停止を経験した」 、92%の方が「デジタルビジネスの取り組みは成功に不可欠であると思う」としています。そうした中、デジタルトランスフォーメーションの3つの変革があります。
まずは人材の変革、そしてセキュリティ、ITです。人材の変革については、2000年代に育った人たちが社会に出ています。彼らは常にネットにつながっていることに価値を認め、どこからでもアクセスして仕事ができることを期待しています。これを実現することでビジネスの生産性が向上します。モバイル環境、この世界は決して止まることはありません。そこでのユーザ体験も非常に大事です。さまざまなデバイスでリモート環境で仕事をするには、シンプルに仕事ができることが大事です。そのためには、ビジネスで判断が必要なときの権限をエッジに与えなくてはなりません。これまでのヒエラルキー型の組織からpeer-to-peer型の関係への変化です。自分で考える組織への変化です。これによってビジネスのスピードが上がりますが、今度はセキュリティや安定性の変革が必要になります。その結果こうしたリモートワークが可能な環境は何百万のエンドポイントを管理することになります。データセンターからオンプレミスまで管理するにあたり、ファイアウォールを中心としたセキュリティでは時代遅れになりました。つまりビジネス主導型の戦略に変わってきているのです。セキュリティ戦略はビジネスの価値を促進しなければなません。そしてインテリジェンス主導型ならば、セキュリティをリアルタイムで対応可能にします。従来と違ったパターンの攻撃に対応できます。リスク主導型はリスクポリシーを決めることから始まります(写真4 ) 。
写真4 セキュリティはビジネスの価値を促進せねばならない
人事とセキュリティの変革がビジネスにどんな影響を与えるのでしょうか。まずは過去15年を振り返ります。これまでの取り組みはIT中心でした。とにかくビジネスを稼働させることが重要でした。つまりサプライチェーンを中心としたビジネスの運営です。それが今後はビジネス中心に変わるのです。トランザクションベースからSOE(Systems of Engagement)に変わります。それらをクラウドネイティブアプリケーションが支え促進します。
IoTとクラウドへの投資
2010年代が終わるまでに300億の機器がネットにつながると言われています。そんなデジタルトランスフォーメーションに対応するためにどうしたらよいでしょうか。2016年までに2.7兆ドルが従来型のアプリケーションに使われてきました。その投資がなくなることはないと思いますが、これからの数年を見るとその投資額が変わってきます(写真5 ) 。
写真5 今後15年のクラウドネイティブアプリケーションへの投資
従来の環境から、資産・投資の最適化がこらから起こります。まさにデジタル変革していくことになります。それはクラウドネイティブな環境に移すことで可能になります。サービスでも製品でも同様です。そうした状況なので皆さん戦略的なパートナーを必要としています(だから当社もこうしたイベントを開催して、皆さんが知見を得られる環境を作っているのです) 。
クラウド・マイクロサービスへの移行
従来型のクライアントサーバ型を考えましょう。アプリケーションはスケールアップ型です。リレーショナルデータベースがSOR(System of Record)を提供します。耐久性はインフラレイヤーやITIL(Information Technology Infrastructure Library)が担います。つまり、変更が好まれないのが従来型の環境の特徴です。変更に「ノー」という世界です。
クラウドネイティブなアプリケーションならば、それはマイクロサービスベースになります。クラウドをインフラに任せるので、堅牢性はアプリケーションが担います。DevOpsという動きがありますが、これでアプリケーションの継続的な展開が行われるようになります。これは日々新しい機能の追加と変化が起こる世界です。そしてこれらの環境を当社は幅広いポートフォリオの製品群で対応します(写真6 ) 。
写真6 合併により多くのカテゴリでナンバー1のシェアを得る
ゲストスピーカーによる講演とスペシャルセッション
ゲストスピーカーとしてIDCフロンティアと東芝の事例が紹介されました。
( 株) IDCフロンティアプラットフォームエンジニアリング部クラウドグループグループリーダー兼チーフクラウドアーキテクト菊石謙介氏が講演をしました(写真7 ) 。
同社のデータセンターは北九州と白河に25万台のサーバを収容し、全国対応のサービスを展開しています。IaaS型のクラウドサービスを軸に、さまざまな企業へのクラウド移行をサポートもしています。2015年11月からEMC社の協力でオールフラッシュクラウドの提供を開始しました。2016年は新たに導入したすべてのゾーンが対応しています。今回のオールフラッシュ化によって従来よりも最大で40倍の性能向上を果たし、安定性の面でも認められ、サービス事業者として高い評価を得ることができました(写真8 ) 。
写真7 ( 株)IDCフロンティア菊石謙介氏
写真8 オールフラッシュ化で大幅な性能向上を実現
東芝の事例は工場内のIoT化です。同社執行役常務インダストリアルICTソリューション社副社長下辻成佳氏による講演です。NAND半導体の生産において、製品の歩留まりを1%でも向上できれば、数億円単位でコストが違ってきます。そこで注目したのは、ディープラーニング(深層学習)でした。工場内に設置されたセンサーネットワークから膨大な量のデータを吸い上げ分析をします。この際、単なるCPUとGPUだけでは処理できず、EMC社との議論の中で、DSSD を使用することで実現しました。
基調講演の最後は、インテル( 株) インダストリー事業本部クラウド・スペシャリスト土屋建氏とデル( 株) 最高技術責任者CTO黒田晴彦氏によるスペシャルセッションです(写真9 ) 。2000年代育ちの若者世代(ミレニアル)と従来の世代との価値観の違いを踏まえ、それに対応しシステムのセキュリティや仮想化などのテクノロジーをいかに発展させてデジタルトランスフォーメーションに対応していくかなどが議論されました。
写真9 デル( 株) 黒田晴彦氏(写真左)インテル( 株) 土屋建氏(写真右)
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