2017年3月11日、株式会社サイバーエージェントの主催により、東京都港区にあるTABLOIDにおいて「Battle Conference U30」が開催されました。
本イベントは登壇者、参加者ともに30歳未満としたのが特徴です。内容は大きく2つに分かれ、「 Talk Battle」では各講演で最も良いと思ったものに投票し、最も人気のあった講演を決定します。「 Programming Battle」はチーム戦のプログラミングコンテストです。以下では「Talk Battle」の、「 ネイティブ&Webフロント」「 データサイエンス」というグループで行われた講演の模様を中心にレポートします。
なお、イベント開始時に開場挨拶として株式会社サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏、基調講演として株式会社Gunosy新規事業開発室執行役員松本勇気氏の発表がありましたが、残念ながら時間の都合上取材ができませんでした。
講演で使われた資料は公式ページ からリンクされており、映像配信プラットフォーム「FRESH! 」でも講演を配信予定ですので、詳しく知りたい方はそちらを参照してください。
毎週リリースを支える技術
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ 金子直人氏
発表者は株式会社リクルートマーケティングパートナーズの金子直人氏。「 ゼクシィキッチン 」というレシピサイトのiPhoneアプリを開発しています。毎週リリースを行うためにレイヤアーキテクチャを採用し、依存関係を一方向にすることで変更のコストを抑えているそうです。また、開発スピードと品質を両立するために、ユニットテストでカバーする範囲を限定するなどの工夫をしているとのことでした。
HTTP Live Streaming in iOS
株式会社サイバーエージェント 青山遼氏
発表者は株式会社サイバーエージェントの青山遼氏。FRESH!をはじめ多くの動画サービスで使われているHLS(HTTP Live Streaming)というプロトコルについての講演です。デモとしてiPhoneで撮影した動画をその場に配信するなど、HLSが非常にシンプルで使いやすいプロトコルであること、回線速度に応じて画質を変化させることで安定した配信が実現できることなどがよくわかる内容でした。
小さく作って大きくアピール!~プロトタイプのすゝめ~
サイボウズ株式会社 刈川陽平氏
発表者はサイボウズ株式会社の刈川陽平氏。プロトタイプ作成のメリットとして「早期にフィードバックを受けることで修正コストを低くできる」「 作成しているプロダクトに価値があるのかを知ることができる」を挙げていました。良い意味で使い捨てができるようにするためあまり時間をかけないほうがよく、目安としては3日~2週間くらいで作ることができる規模にするのが良いとのことでした。
アクセシビリティはじめました
サイボウズ株式会社 杉山祐一氏
発表者はサイボウズ株式会社の杉山祐一氏。自社のプロダクトをアクセシビリティ対応しようとしたとき、最初はうまく進まなかったそうです。その理由として、以下の3つがあると分析していました。
時間が取れない
メンバー間に温度差がある
どこから手を付けてよいかわからない
1の対策として、2週間に一度アクセシビリティデーを設定して定期的に行うようにしたそうです。そのときは「少人数、事前準備必要なし」とし、できるだけ負荷にならないように工夫しました。
2の対策としては実際に障害を持つ方に操作していただき、自社のプロダクトを使うのに苦労していること、アクセシビリティが重要であることをメンバーに実感してもらったそうです。
3の対策としては、障害者の方と同じ状態にして使ってみて、使いにくいところから修正していく、という方法を取ったとのことです。
最初から完璧に行うのは難しいので、できるところから進めていくのがうまく回るようになった秘訣だそうです。
Webでできるマルチメディア表現
株式会社サイバーエージェント 折原レオナルド賢氏
発表者は株式会社サイバーエージェントの折原レオナルド賢氏。近年のWebでは文章の配信以外にも映像などのリッチなコンテンツを配信する重要性が高まっています。Web Audio APIなどを使い、音を可視化したりエフェクトをかけたりするなどをデモしていました。ゲームのデモもありとてもリッチな表現をしていましたが、注意点として大容量のファイルを利用するので、通信速度や費用を考えるとネイティブでインストールしてもらう形を取ったほうがよいかもしれないとのことでした。別の方法として、Service Workerを使ってファイルをキャッシュする方法を解説していました。
DQNトレーディング
ヤフー株式会社 金政実氏
ここからは「データサイエンス」グループです。発表者はヤフー株式会社の金政実氏。自分は働かずにAIに働いてもらえばよいのでは──そんな考えのもと、AIの技術を利用して株の運用に挑戦しているそうです。シミュレーション上においては株を手放さない限り、AIは損失を計上しない設定だったため株価が暴落しても手放さなかったりと、実際に適用した際の失敗や試行錯誤が解説されました。
秋葉原ラボと私
株式会社サイバーエージェント 藤坂祐介氏
発表者は株式会社サイバーエージェントの藤坂祐介氏。秋葉原ラボ というデータ解析やデータマイニングなどを専門とする研究開発組織での活動が紹介されました。最初は興味から作っていたプロダクトが今でもサービス基盤として活用されているなど、かなり自由に開発を行えているそうです。
データ分析専業会社のデータサイエンティストの仕事
株式会社ブレインパッド 仲田圭佑氏
発表者は株式会社ブレインパッドの仲田圭佑氏。ブレインパッドはデータの分析を専門としており、ほかの会社の分析の請負をしています。さまざまな分野の分析を多く行っていることから多くの知見を身に付けられたのですが、深層学習などを使った分析には今までの知見は通用しなくなっているそうです。今後は、見たことのないデータにも対応できるよう汎化性能を高めるのがよく、そのためにいろいろなデータを見て、いろいろなアルゴリズムを組み合わせるのがよいのではないかと考えているとのことでした。
エンジニアに知ってほしい機械学習のこと
株式会社サイバーエージェント 谷口和輝氏
発表者は株式会社サイバーエージェントの谷口和輝氏。現在の機械学習ブームで、機械学習を使えば何でもできると誤解している人が多いそうです。また、機械学習の技術的負債として、以下の4つを挙げていました。
品質と開発速度のジレンマ
CACE(Changing Anything Changes Everything)定理
フィードバックループ
Glue code
1は特に説明の必要はないと思います。
2は「何かを変えると全部変わる」という意味で、機械学習の「環境→データ→モデル」という流れのうち環境やデータに変化があると結果が変わってしまう現象のことです。広告配信を例にすると、広告主の配信開始や停止などにより影響を受けてしまいます。対策としては、過去のモデルを使って予測値を計算したり、結果をモニタリングしたり、モデルをすぐにロールバックするしくみを作ったりするなどを挙げていました。
3はモデルの影響が次のデータに移っていってしまうことで、たとえばCTR(Click Through Rate)が高い広告はたくさん配信されるのでデータが取れる一方、低いものは配信される機会も減っていくためデータに偏りができてしまいます。対策としては、CTRが低くても選択するようにしたり、未知のデータは積極的に選択したりしているそうです。
4は処理どうしが別の言語で開発されているために発生するものです。これらは言語を同じに統一したほうがモジュールが統一できるなどのメリットがありますが、一方で機械学習の分野では個別的に特化したほうがよい処理も多く、難しい側面もあるとのことです。
わかった気になりたい人のためのHadoop入門(2017年度版)
ヤフー株式会社 鈴木周一氏
発表者はヤフー株式会社の鈴木周一氏。Hadoopのjobは基本的にネットワークを含むI/Oバウンドであり、データのリード時には列指向のファイルフォーマットはメリットが大きいそうです。しかし近年のHadoopではstreamの入力を受け付けることも増えており、streamな入力データを重複欠損なく列指向に書くのは技術的に困難な課題であることなどが解説されました。
表彰式・懇親会
最後には表彰式・懇親会が行われ、アンケートの結果上位入賞者が表彰されました。20代の方々ばかりだからか、会場は非常に活気があり、登壇者、参加者含め積極的に交流を行っていました。