エンタープライズからエンドユーザまで取り込む求心力―「Dell EMC Forum 2017 Tokyo」基調講演レポート

デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて

2017年10月26日、ザ・プリンスパークタワー東京にて、⁠Tokyo Dell EMC Forum 2017」が開催された。会場来場者数2,085名と昨年よりも約500名ほど多く、会場規模もそれに合わせ大きなものになった。昨年はDellとEMCの統合がどのような顧客メリットがあるのか、それに「デジタルトランスフォーメーションの必要性」と関連付けてのプレゼンテーションが多かったが、今年はより一段階進めて「デジタルトランスフォーメーションの実現(Realize⁠⁠」がテーマである。

基調講演は、デル⁠株⁠代表取締役社長 平出智行氏写真1とEMCジャパン⁠株⁠代表取締役社長 大塚俊彦氏写真2による開会の挨拶から始まり、米国Dell EMC サービスおよびIT担当プレジデント ハワード・エライアス氏による講演、そしてゲストスピーカーとしてコニカミノルタ⁠株⁠代表取締役兼CEO 山名昌衛氏、サイボウズ⁠株⁠代表取締役社長 青野慶久氏による講演が行われるという構成だ。

写真1 デル⁠株⁠代表取締役社 長平出智行氏
写真1 デル(株)代表取締役社 長平出智行氏
写真2 EMCジャパン⁠株⁠代表取締役社 長大塚俊彦氏
写真2 EMCジャパン(株)代表取締役社 長大塚俊彦氏

デジタルトランスフォーメーション実現への4つの旅

米国Dell EMC ハワード・エライアス氏写真3による戦略発表は、デジタルトランスフォーメーションの実現(Realize)をするために何が必要なのか、自社の製品群と絡めてプレゼンテーションするものだった。

写真3 米国Dell EMC サービスおよびIT担当プレジデント ハワード・エライアス氏
写真3 米国Dell EMC サービスおよびIT担当プレジデント ハワード・エライアス氏

デジタルトランスフォーメーションの実現とは

デジタルトランスフォーメーションとは劇的な形の変化を意味し、すべての企業・業界でこの変革が起きています。多くの企業はデジタルトランスフォーメーションをするための旅の途中にあります。当社はファミリー企業全体でこれを支援します。

IT導入により常識の破壊が起きています。人間の集中力の平均持続時間は8秒に縮まり、在宅勤務を希望する社員の割合は80%に増加、現在流通しているデータの90%は過去2年間に機械・デバイスが生成したデータです。IoTのデバイスはコストも下がり、流通個数が1兆個を超える日も近いでしょう。すべてのモノがつながる。それは脅威にもつながります。新しい攻撃が毎日百万回も起きています。当社はセキュリティ異常の検知もしています写真4⁠。

写真4 ITによるさまざまな変化(今すぐ、どこでも仕事、データの氾濫、脅威の増加)
写真4 ITによるさまざまな変化(今すぐ、どこでも仕事、データの氾濫、脅威の増加)

数年前にUberやAirBnBのような会社が生まれて、ここまで成長するとは誰もわかりませんでした。今、Internet of Everythingが目の前にあります。この3年で当社は大きな投資をしてきました。エッジからクラウド、そしてコアに対してです。だからこそ当社を作ったのです。これをファミリー企業で実現していく、ビジネスに欠かせないインフラをユーザに提供していく企業になろうというのが目標です。我々ファミリー企業各社のビジネスの専門性を使うことで、皆さんの変革に役立ちたいと考えています。

アプリケーションのデータからビジネスが始まります。ビジネスの価値をデータから使えるようにするのが課題です。インフラはクラウドを土台にしています。そしてクラウドはマルチクラウドの世界になっています。そのすべてでセキュリティが担保されていなくてはなりません。当社はインフラのプロバイダになりたいわけです写真5⁠。

写真5 アプリケーション、ユーザ、クラウドの関係性
写真5 アプリケーション、ユーザ、クラウドの関係性
エッジからコア、クラウドまで

当社は、製品との製品と接続性を実現し、どこでも使える・接続できる方法を提供しています。現在、アプリケーションはまだまだパッケージ製品が多く、SOR(システムオブレコード)を扱ったものをサポートしています。しかし、ユーザはプログラミングを自分でする重要性に気づいています。そこで出てくるのがPivotalです。開発において知見を得て、そこから価値を導き出す、ユーザとより良いやり取りをするためのノウハウがあります。

ここで重要なのがマルチクラウドの世界では、マネージメントと管理をやっていく、世界中にある基幹系のアプリケーションをクラウドに持っていくものです。ですからインフラが重要で、どんどんクラウドにしています。仮想化、コンバージドインフラをクラウドにもっていく、それらの市場でトップシェアになっています。毎年、45億ドルを研究開発に投資し、安全で信頼のおけるインフラを作っています。もちろん、すべての攻撃を防ぐことがきませんので、危機の検知にも力を入れています。

そうしたさまざまなサービスがあり、コンサルから導入・保守まで提供できます。価値を上げる時間を最大限に増やしノンストップで提供します写真6⁠。

写真6 エッジからコア、クラウドまでファミリー企業でカバー可能
写真6 エッジからコア、クラウドまでファミリー企業でカバー可能

Dell Finanscial Serviceは従量課金システムを柔軟に提供します。ITを必要なときに使使ってもらうしくみです。つまりすべて必要なものがそろっています写真7⁠。

写真7 ITエコシステム全体をカバーする4つの道のりを示す
写真7 ITエコシステム全体をカバーする4つの道のりを示す
トランスフォーメーションのプロセス

どうやって職場の変革をするかそういう具体的な事例が話題になってきています。

IoTや機械学習を使ってそれを現実化しようとしています。デジタルトランスフォーメーションの4つの道のりです写真8⁠。すべての企業がこの変革の旅の途中にあると思います。デジタルトランスフォーメーションは、データを使い、現実化し、活用する、クラウド化していくことにあります。どこでも接続できることです。4つの道のりがすべて重要です。

写真8 トランスフォーメーションのプロセス(デジタル、IT、ワークフォース、セキュリティ)
写真8 トランスフォーメーションのプロセス(デジタル、IT、ワークフォース、セキュリティ)

具体的な製品の話はこの場でしませんが、すべてのサービスや製品について、IoTから生まれるデータの量というのは、この数年の間にできたものと比べ、桁違いに大きいものです。これまでは石油や石炭が産業を支えてきましたが、データがビジネスをより価値を高めるための燃料になるのです。よりたくさんのデータが産業を生み出す力になります写真9⁠。

写真9 ビジネスのトランスフォーメーション
写真9 ビジネスのトランスフォーメーション

IoTやマシンラーニングを利用したアプリケーションを俊敏にクラウド上に作り上げていく、リアルタイムで分析していきます。今はコンピューティングリソースが分散化される時代になっています。たとえば自律運転型の自動車があるとします。運転中に路上で鹿が飛び出てきます。その時にクラウドにデータを送って分析していると時間が足りません。リアルタイムでエッジ側で分析する力が必要です。いわゆる分散型で、コアになる処理は最終的にこういうデータはクラウドで処理します。ここから学習をしてよりよいアルゴリズムを作り、フィードバックして好循環を生み出します。機械学習などの処理の結果、そこで学んだものをアジャイルにユーザに提供するということです。1日→時間→分→秒でアップデートして提供するのがデジタルトランスフォーメーションです写真10⁠。

写真10 トランスフォーメーションの最新化
写真10 トランスフォーメーションの最新化

そこでデータセンターもモダナイズ(最新化)しなければなりません、最新のテクノロジーとアーキテクチャで構築します。オーケストレーションで稼働し、セルフサービスができるものにします。モダンデータセンターはフラッシュベースです。処理速度が必要だからです。ハイパーコンバージドインフラ(Hyper-Converged Infrastructure)は、数分でサービスが提供できることが求められています。でも先進的なインフラだけではダメです。パブリックラウドのようなユーザが利用できる凡例としてカタログがあり、いつでもどこでも提供できて、オーケーストレーションも可能なAPI駆動型である必要があります。

管理は最適化が重要です。仮想だけなくレガシーもクラウドで動かすコンテナが重要です。これはPivotalが発表しました。コンテナベースのサービスの自動化です。オペレーションのやり方を改革しないと俊敏性が高まりません。マイクロサービスベースで新しいオペレーションを作り上げます写真11⁠。

アプリケーションは、既存のものとクラウドネイティブがあります。仮想マシンでもコンテナでもいいのですが、ポリシーベースでのインフラの提供があります。これが重要です。これら3つすべてをやらねばなりせん。

写真11 アプリケーション、インフラストラクチャー、運用モデルのトランスフォーメーション
写真11 アプリケーション、インフラストラクチャー、運用モデルのトランスフォーメーション
仕事をする場所、仕事の仕方が変化している

今、仕事はどこでもできます。新しい世代の社員は、プライベートと仕事の境界があいまいで、そこを行き来しながら仕事をしています。これはオフィスの中も外も同じです。3分の2の人たちが会社以外の場所で仕事をしています。こうしたことが実現できない技術力が低い会社では、若い社員が辞めてしまうことがあります。機械学習の企業では人材確保の戦争が起きています写真12⁠。

写真12 仕事をする場所、仕事の仕方の変化
写真12 仕事をする場所、仕事の仕方の変化

生産性だけでなく、コラボレーションもできなければなりません。当社も変わらねばなりません。エンドユーザデバイスのコストを下げればいいと考えていましたが、それよりも、よりよくデバイスを管理するほうがコストを下げることができます。そうすると、チームメンバーのエンドユーザ体験が良くなり生産性が高くなります。どのように生産性を上げて、ライフサイクル全体でコストを下げる方法を考えねばなりません。

エンドポイントのセキュリティ保護

最後ですが、セキュリティが重要です。今、インターネットはますます攻撃にさらされています。これまで多くの予算が攻撃の防止に使われていました。それでも犯罪者はシステムに侵入してきます。悪いことは起きます。フィッシング詐欺も起こります。これら侵害行為に気が付かないことも少なくありません。つまり異常な活動を検知するのが重要なのです。認証も大事です。複数の認証を提供するリスクベースでのサービスの提供です。セキュリティを再考する時代になっています。

セキュリティオペレーションは検知していくことが大事です。まずはエンドポイント侵入を止めます。ほとんどの攻撃は企業の中で起きているのです。そこでネットワークではVMware NSXの出番になります。これは先進の仮想化ネットワークを実現します。実はマイクロセグメンテーション機能が一番使われています。何かセキュリティ的な問題が発生したら、そこを隔離するために使います。1,000分の1秒で新しいネットワークを作り隔離します。トランザクションを確保も可能です。これならば攻撃を無効化できます写真13⁠。

写真13 エンドポイントのセキュリティ保護
写真13 エンドポイントのセキュリティ保護

そしてRSAもあります。身代金を要求するマルウェアに対しては、しっかりした安全なバックアップが必要になります。どのデータが一番重要か明らかにしてスナップショットをとって、攻撃させません。バックアップが終わったらネットワークを切り離します。検知と押さえ込む力が重要です。

サービスとしてセキュリティを提供しているので、当社は何百何千~三億以上のセキュリティイベントを監視しています。そのため、どんなことがセキュリティインシデントなのかすぐに判断できます。

写真14 セキュリティ保護の選択肢
写真14 セキュリティ保護の選択肢
成功する企業は何をしているのか?

当社が実現したいことは、皆さんユーザそれぞれの旅を支援していくことです。研究開発の投資もしていますし、165ヵ国で事業展開しています。

非常に大きなメリットがデジタル変革で得られます。3倍の速度で得られます。新しい開発のやり方にを行えば、コストも低く、クラウドネイティブのアプリも作れるようになります。APIを活用したインフラを使うことで、33%の節約ができるようになります。より早く成長することでマージンも上がっていきます。大きなメリットがあります写真15⁠。

写真15 成功する企業は何をしているのか?
写真15 成功する企業は何をしているのか?

これは何年も前から無料でやっていることですが、ITトラスフォーメーションワークショップを行っています写真16⁠。世界中の顧客・ユーザと会い、トランスフォーメーションを始めています。当社は、ビジネスの変革と進化を支援します。

写真16 ITトランスフォーメーションワークショップの概要
写真16 ITトランスフォーメーションワークショップの概要

ゲスト基調講演

「デジタルトランスフォーメーションによる新価値の創造」

コニカミノルタ⁠株⁠代表執行役社長兼CEO 山名昌衛氏写真17

写真17 コニカミノルタ⁠株⁠代表執行役社長兼CEO 山名昌衛氏
写真17 コニカミノルタ(株)代表執行役社長兼CEO 山名昌衛氏

2003年にグローバル市場に向けて経営統合を行い、2006年8月に約3,000億円の売り上げがあったカメラ事業から撤退、B2B事業へ業態を変えて「コニカミノルタホールディングス株式会社」になるも、事業が分散していることについての疑問が生まれ、⁠勝てる会社」とすべく統合化へ舵を切り、2016年に傘下7社をまとめ「コニカミノルタ株式会社」に経営体制を再編した。ホールディング体制では顧客との距離が遠すぎるというのが、その理由である。

本講演では、顧客にとってサービスを提供する企業への戦略変更において、同社の強み写真18をベースに課題的型デジタルカンパニーへ写真19への転換をいかに行ってきたか紹介した。

写真18 コニカミノルタの強み(コア技術、200万社におよぶ顧客、オープンイノベーション)
写真18 コニカミノルタの強み(コア技術、200万社におよぶ顧客、オープンイノベーション)
写真19 課題的型デジタルカンパニーへ
写真19 課題的型デジタルカンパニーへ

その代表例として、Workplace Hubを取り上げた。これは1メートル四方程度の大きさの機材がサーバとなるもの。同社の200万ユーザを誇る複写機ビジネスの強みを生かしたものである写真20⁠。

写真20 Workplace Hub
写真20 Workplace Hub

Workplace HubはIoTデバイスからの情報を、このマシンをエッジとして統合できる。接続されたカメラから動画情報を取り込み、会議室の使用状況を確認したり、工場の現場レイアウトでの人間の動きの分析をしたりできる。そしてエッジからクラウドにつながりディープラーニングを応用した意思決定支援を行う。これが生産性の向上に大きくつながるという。建設工事現場での使用例写真21や製造現場での使用例がそれにあたる。

写真21 建設現場での利用
写真21 建設現場での利用

その他、プレシジョン・メディシン(個別化医療)では、得意とする分子イメージング技術を使用し、創薬支援を行う事例も紹介。IoTの時代で顧客メリットが何であるのか、価値をどう突き詰めていくのかが問題であり、製造業の強みを生かしアジャイルに対応するスピード感が大事であると示した。そしてまだまだデジタルトランスフォーメーションを実施する要素がたくさんあると結論した。

「働き方改革の未来~100人100通りの働き方」

サイボウズ⁠株⁠代表取締役社長 青野慶久氏写真22

写真22 サイボウズ⁠株⁠代表取締役社長 青野慶久氏
写真22 サイボウズ(株)代表取締役社長 青野慶久氏

総務省、厚生労働省、経済産業省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーを務める青野氏。自社での働き方改革をいかに行ったのか、その経験を語った。同社はもともとは高い離職率に悩むいわゆるブラック企業だったという。社長就任直後に離職率は28%になり、聞き取り調査を行ったところ、退職理由が社員よりそれぞれ違うことに気がつく写真23⁠。そこで人事の方針を「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」と変更した写真24⁠。これにより離職率は大きく改善し、売り上高も上昇した。

写真23 離職率の上昇
写真23 離職率の上昇
写真24 働き方の多様化へのチャレンジ
写真24 働き方の多様化へのチャレンジ

これらの体制を整えていくにあたり、給与制度の改定も行った。これは社員を市場価値から決めるというもの。そのほか、オフィスの再設計による環境改善、個人用PCのスペック向上など、さまざまな施策をしてきたが、最も大事なことは2つの風土改善であったという写真25⁠。

写真25 2つの風土
写真25 2つの風土

青野氏は、会社の中で絶対に嘘をつかないことが大事で、実は日本の企業が不得意なところである指摘した。また、新しい制度が利用されるようになるには、率先垂範であるとして、自ら育児休業や保育園へ子供を迎えに行くための16時退社を実行、社内の雰囲気を変えた。そしてさらなる風土の変更として社員のワークスタイルも個人戦よりもチーム戦にしたことも挙げた。従来は個人でスキル・人脈・場所を独り占めすることが多かったが、そうではなくチームで働く体制にした。その結果、以前より大きな価値を生みだせるようになったという。これがサイボウズ社における働き方改革の重要なエンジンであるようだ。

最後に、働き方改革が世間では経営者にとって残業削減としか理解されないことに対し、情報発信をしつづける重要性を示した。

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