1983年に学校会計システムの開発・販売を行うベンダーとしての活動を開始したグレープシティ(当時、文化オリエント) 。その5年後の1988年には、自社向けに作成した開発ツールの外販に踏み切ることになる。ここに同社の開発ツールビジネスがスタートした。以来、30年。グレープシティは、各種開発支援ツールの提供を通じて、顧客のソフトウェア開発現場における生産性や品質の向上を強力にバックアップしてきた。去る2018年7月10日、東京・八芳園において、グレープシティ開発支援ツール30周年記念フォーラム「Toolsの杜(ツールのもり) 」が開催された。ここでは、グレープシティがユーザーやパートナーとともに歩んできた道程を振り返り、今後に向けたビジョンを示したオープニングセッションの模様をお伝えしたい。
会場の様子
4事業部がそれぞれの活動を通じ各様の価値を顧客に提供
イベントの幕を切って落とすオープニングセッションの壇上にまず登場したのは、グレープシティ代表取締役社長の馬場直行氏だ。同氏からは、グレープシティの事業概要を中心とする紹介がなされた。
グレープシティ株式会社 代表取締役社長 馬場 直行氏
同社の創業は1980年5月。創立当初から「杜の都」宮城県仙台市に本社を置く。当初からグローバル志向の強かった同社では、すでに1988年頃から海外展開に乗り出しており、拠点を中国 陝西省の西安市に開設し、現地での開発をスタートさせている。「 その後も、徐々に国内外に拠点を増やしてきており、今日では関東と関西を含めて国内に3拠点を構える一方、海外にも中国をはじめ米国やインドなど、各国に12拠点を展開しています」と馬場氏は紹介する。現在、その社員数は計約1,000名で、その内訳は国内約200名、海外約800名となっている。
このような体制のもと、グレープシティでは4つの事業部でビジネスを展開している。その1つめは、ツール事業部。各種開発支援ツールの提供を通じて、数多くの顧客のソフトウェア開発現場における生産性や品質の向上を強力にバックアップしている。
2つめはレーザー(LeySer)事業部で、幼稚園から大学に至る全国の私立学校に対し、業務用アプリケーションを開発・販売している。会計処理や給与計算、資産管理、生徒管理、学費管理など、学校運営を支援する幅広い製品をラインアップしており、現在、そのユーザーは約3000校を数える。「 また、グレープシティでは、2018年の1月に、全国の保育園に向けて業務用アプリケーションを開発・販売するサーヴを買収。その事業領域を保育園市場にも拡大しています」と馬場氏は語る。
また3つめは、映像プロダクツの制作・販売を手掛けるワインスタジオス(WINEstudios)事業部である。グレープシティ本社敷地内に設置されたWINEstudiosを拠点に、企画・プランニングからクリエイティブディレクション、撮影、編集、CGアニメーション、最後のMA処理(音声処理)までに対応するオールインワン型のサービスを展開している。
そして4つめは、グレープシード(GrapeSEED)事業部。同部では、3歳~12歳の子供を対象にした、英語教育カリキュラムの提供を行っている。「 その特徴は、母語を習得したのと同様のかたちで英語を覚えていけるというユニークな手法を採用していること。現在、19カ国で約70,000人の生徒が我々の提供するカリキュラムを通じて、日々、英語を楽しく学んでいます」と馬場氏は説明する。
常に“縁の下の力持ち”として開発者を支えるという姿勢を貫く
これら4つの事業部の中でも、売上やユーザー数、社員数のすべてにおいて、この30年の間に最も大きな成長を遂げたのが、まさに同社の“ 顔” とも言える存在であるツール事業部だ。「 その間、技術は大きく進歩し、また新しいプラットフォームが次々に誕生。そうした中で、開発手法自体も多様な変遷を遂げてきました。そのような変化の波を1つ1つ乗り越えながら、ここまで来れたのも、ひとえに皆様の温かいご支援と、多くの激励があったからにほかなりません」と馬場氏は、イベントに参集したユーザーやパートナーに対し改めて謝意を表した。
ツール事業部をめぐる動きとしては、数年前から新たにエンタープライズソリューション(Enterprise Solutions)事業が立ち上げられている。「 この事業は、昨今、大きな広がりを見せている、コーディングレスによる開発をサポートするサードベンダー製プラットフォームに対応したツール、サービスの提供に主眼を置いたものとなっています」と馬場氏は紹介する。
例えば、Excelの方眼紙レイアウトで行っている業務を、そのままWebアプリとして構築できる「Forguncy」や、サイボウズのビジネスアプリ作成プラットフォーム「kintone」のプラグイン群「krew」 、クラウド型のSFA/CRMの定番プラットフォームとも言える「Salesforce」に対し、Excelライクなインターフェイスやバーコード機能を提供する製品などがエンタープライズソリューション事業のラインナップだ。各製品はこれまでツール事業で培ってきた得意分野の技術が基盤になっている。
「今後も当社では、技術の進化、開発形態の変容にただ追随していくのではなく、グローバルネットワークの強みを生かし、イノベーションや新しいアイディア、ユニークな発想を取り入れながら、新技術の創出にも積極的にかかわって参ります。ただし、そうした中でも、“ 縁の下の力持ち” として開発者の皆様を支えていくという当社の姿勢が変わることは決してありません」と馬場氏は力強く語る。
自社のパッケージソフト開発用 開発支援ツールの外販化に踏み切る
馬場氏よりバトンを受け、代わって登壇したグレープシティ会長 ダニエル・ファンガー氏からは、ツール事業部の歴史を中心としたグレープシティの歩みについての紹介が行われた。
グレープシティ株式会社 会長 ダニエル・ファンガー氏
グレープシティの源流は、戦後間もなく来日し、宣教師として活動していたファンガー氏の父親を含む宣教師仲間10名が設立した宮城明泉学園にある。同学園は、聖書の教えに基づく教育と、ネイティブの英語教諭による英語教育を特徴とする幼稚園で、ファンガー氏自身も同学園の英語教諭として社会人としてのキャリアをスタートさせている。
「今から36年前(1982年)のことですが、学園がパソコンを導入したのを機に、職員が利用する学校会計のソフトを開発することになりました。とはいえ、当時は会計の知識もなければ、プログラミングもまったく知らない状態。ほぼ独学で開発を進めて、ソフトを完成させたわけですが、そのシステムを見た公認会計士が高く評価し、その商品化を勧めてくれたのです」とファンガー氏は振り返る。
そこで同学園の関連会社であったグレープシティ(当時、文化オリエント)で学校会計システムのパッケージ化推進を決断。以後、学校会計システムの開発を行い、全国の私立学校に供給していくことになる。その流れが現在のレーザー事業部へと継承されていることは言うまでもない。
「そのような取り組みの中で、自社のパッケージソフト開発のための支援ツールをアセンブラ言語で開発しました。それは現在の『InputMan』の前身となる入力処理、あるいはソート処理などを行うツールでしたが、それをぜひ対外的にも販売してみようということになり、当社にとって初の開発支援ツール製品であるMS-DOS対応BASIC『開発ツール・ライブラリシリーズ』をリリースしたのです」とファンガー氏は語る。ここに同社の開発ツールビジネスが黎明を迎えることになる。1988年、つまり今から30年前のことだ。
開発者から資料請求のFAXが殺到 その後のビジネスの成功を直感
その5年後の1993年には、学校会計システムを、当時、PCのOSとして台頭してきていたWindowsに移植することになった。このとき、開発環境には開発の容易さを評価してVisual Basicを採用。これに対し同社では、Visual Basic上で利用できる開発ツールの調査を進め、最終的に米国のベンダーが提供する製品を探し当てた。
「もちろん、この製品は英語版であり、我々の開発ニーズを満たすには日本語対応などを行う必要がありました。そこで当社での販売を前提として、開発元と交渉を行い、ローカライズを実施。私を含めた3人が、1年半ほどかけて7製品をラインナップして『PowerToolsシリーズ』として発売する運びとなりました」とファンガー氏は、その後、グレープシティのツール事業において屋台骨を支えることになる、Windows対応、Visual Basic対応の開発支援ツールが生み出された経緯を紹介する。
リリースされたPowerToolsシリーズは、その直後から大きな反響をもって業界に迎えられることになる。きっかけは、マイクロソフトの協力を得て、Visual Basicの発表イベントの開催を案内するDMにPowerToolsシリーズの英語版製品を紹介するチラシを封入してもらったことだった。「 DMがお客様に届いた頃から2~3日の間、当社に対して資料請求のファックスが昼夜を問わず入り続けるといった状況で、『 これは凄いことになりそうだ』と直感しました」とファンガー氏は言う。
こうして世に送り出されたPowerToolsシリーズは、当然のことながら、ファンガー氏にとって、とりわけ印象深い製品となった。それぞれのツールについても、様々な記憶に残るエピソードがあるという。
例えば、表計算・グリッドコンポーネントとしてベストセラーとなった「SPREAD」 。このツールでは、コーディングレスでの開発を支援する「デザイナ」が同梱されていることが、その人気を支える重要なポイントとなっていた。日本語版の第1世代は、開発元の提供するデザイナを日本で改良して使い勝手を大幅にアップ。好評を博したわけだが、次のバージョンでは、米国の開発元がデザイナを付けないという方針を決定。それを耳にしたグレープシティでは、自社の開発者2名を日本から開発元に送り込んで、現地で開発に参画させて、デザイナの同梱継続をバックアップしたこともあったという。
「思い起こせば、学校会計システムを開発・発売した時も、開発ツールのビジネスに参入した時も含め、本当に我々はまったくの素人集団でした。そんな我々がここまでの成長できたというのも、第一にはお客様にご支持いただき、育ててきていただいたからだと思います」とファンガー氏は語る。
今後もグレープシティでは、その社是として掲げる「気概(Grit & Courage) 」 「 誠実(Integrity) 」 「 勤勉(Diligence) 」 「 顧客中心(Customer First) 」そして「謙虚さ(Humility) 」を全社員の胸に刻み、顧客の抱える課題を解消し、そのニーズに応える製品・サービスの提供に邁進していくことになる。
顧客の声に真摯に耳を傾け 製品の開発を進めていく
この日のオープニングセッションを締めくくったのは、グレープシティのツール事業部で事業部長を務める小野耕宏氏である。同氏からは、ツール事業部における取り組みの現状と今後の展望にいての紹介が行われた。
グレープシティ株式会社 ツール事業部 事業部長 小野 耕宏氏
現在までにツール事業部の累計販売数は60万を超え、登録ユーザー数も累計で8万以上を数える。「 そうした中でツール事業部では、スタッフ全員が『開発者がより多くのことを達成できることを支援する』という思いを共有するために『Empower Developers』というビジョンを2017年以来、掲げています」と小野氏は語る。
そうしたビジョンに基づくかたちでツール事業部では、「 高付加価値」「 高品質」な製品・サービスの提供を一貫して目指している。なかでも、なお一層の力を入れて取り組んでいるのが「顧客の声から学ぶこと」である。
例えば、グレープシティのサイトにおいて製品のクラウド環境への対応状況を告知しているページのPV数が急速に増加しているという状況を捉え、開発者のクラウド技術への関心が高まっていると考えたツール事業部では、顧客に対してアンケートを実施した。その結果、開発者が特にIaaSに大きな関心を寄せており、そのほとんどがAmazon EC2、Azure Virtual Machine、Google Compute Engineを利用中、ないしは利用予定であると回答していることに着目。今後リリースする製品の最新バージョンから、これら3つの環境への対応を順次進めていくことを決定した。「 今後も、このようなかたちで、お客様の声(VOC:Voice Of Customer)に真摯に耳を傾けながら、製品開発を進めていきたいと考えています」と小野氏は語る。
「A Good Tree Bears Good Fruit. ―良い樹は、良い実を結ぶ」が、グレープシティの企業理念だ。今回のイベント「Toolsの杜(ツールのもり) 」は、さながら豊かな実を結ぶ杜の木々のように、ユーザーとともに成長し、次代へ向けてさらなる実りを結び合える関係づくりを目指す同社の思いを、参加者へと伝えるものとなった。