9月24日と25日の2日間にわたってROS開発者会議の日本版、「 ROSCon JP 2019 」が開催されました。昨年、初めてのローカルリージョンのROSCon開催となった「ROSCon JP 2018 」の成功を受けて、今年は1日イベントから2日イベントに拡大し、初日にROS2講習会を行い、2日目に会議を行う大きな進化を遂げました。講習会には51名、会議には200名以上の方にご参加いただくことができました。
ROSについて簡単に説明しますと、Robot Operating Systemの略称であり、ロボット開発のためのソフトウェアライブラリやツールの総称です。アメリカのスタンフォード大学人工知能研究所の開発プロジェクトを起源とし、今では全世界で数千人の開発者と10万人以上のユーザがいる一大OSSコミュニティのひとつです。
それでは、本家「ROSCon 2019 」に先立ちまして開催された「ROSCon JP 2019」の内容をご報告していきます。私がこの会議の実行委員もしていた関係で、「 ROSCon JP 2019」の舞台裏に関しても最後に少しお伝えできればと思います。
1日目:ROS2講習会
ROS2概要
ROSCon JP 2019実行委員の一人であるGeoffrey BiggさんによるROS2の概要説明からROS2講習会は始まりました。
GeoffさんによるROS2概要発表
ROS2はROSの短所を克服するためにできたROSの新バージョンです。後方互換性はありませんが、その代わり、通信プロトコルや内部設計に渡って多くの部分が再設計されることにより、ROSで問題となっていたセキュリティやプログラム再利用性、リアルタイム制御性など多くの部分で抜本的な改善が進みました。
Geoffさんの発表では、ROSおよびROS2の歴史と応用例について、たくさんのことを学ぶことができました。
ROS2基礎プログラミング
Geoffさんの発表に続いて、ROS2の基本的なプログラミングを実践する時間が設けられており、ROS2のソフトウェアパッケージ作成やメッセージ通信のプログラミングを壇上で講義しながら、参加者51名がその場で実際にプログラミングを行いました。参加者数人に対してスタッフが1人は付くことができたため、多くの参加者がつまづくことなく、ROS2のプログラミングに慣れていくことができました。
ROS2ナビゲーション実習
午前のGeoffさんのROS2基礎編が終わり、午後からは私が講師となってROSの代表的なアプリケーションの1つであるナビゲーションのROS2版を実際にロボットを動かしながら学んでいきました。今回のロボットはアールティのRaspberry Pi Mouse を用いました。このRaspberry Pi Mouseに廉価な2次元測域センサを取り付け、ROS2ナビゲーション対応のための実装を行っています。
実は、ROS2ナビゲーションがROS公式ロボットであるTurtleBot3 に対応したのが8月中旬のことで、このRaspberry Pi MouseはROS2ナビゲーションに対応した世界で2番目の機体です。
壇上でRaspberry Pi Mouseを動かしながらターミナル画面を共有して実習を進行
地図作成とナビゲーションを試す参加者
実習を通じて、最終的に会場のほぼ全員がRaspberry Pi MouseをROS2の機能で遠隔操作させることができ、半分以上の方が地図作成に成功し、3分の1ほどの方がナビゲーションを行うところまでできました。世界を見渡してもROS2ナビゲーションのユーザはまだ少数であることを考えると、これは非常にすごいことです。
2日目:会議本番
基調講演1:安全なロボットへの8ステップ
会議本番の最初の講演は、Clearpath RoboticsとOTTO MotorsのCTOであるRyan Gariepyさんによる基調講演でした。Ryanさんには、これからロボットを製品化していくにあたって、安全性が非常に重要になってくるというお話をしていただきました。安全認証の詳細なプロセスや、安全レベルのピラミッド構造、協働ロボット・パーソナルロボットのためのこれからの安全基準など、実際にロボット製品を販売しているRyanさんだからこそできる非常に専門性の高い内容の講演でした。
基調講演を行うRyanさん
基調講演2:これからのGazebo
午後最初のセッションは、Open RoboticsエンジニアのLouise Poubelさんによる基調講演で始まりました。LouiseさんはROSの主開発企業であるOpen Roboticsに勤めており、主にロボットシミュレータGazeboを開発しておられます。Gazeboはこれまでモノリシックなアーキテクチャで設計されていましたが、それがモジュールに分解されプラグイン構造で機能の拡張を可能にする柔軟なアーキテクチャに変更された話をしていただきました。このアーキテクチャの変更に伴い、GazeboはIgnitionと名称を変えて呼ばれるようになっていくことが報告されました。
基調講演を行うLouiseさん
ライトニングトーク
基調講演のほか、多くの講演が行われたのですが、そちらはROSCon JP 2019ホームページのプログラム をご参照ください。プログラム委員会が厳粛に選んだ講演であるため、どの講演も非常に質の高い内容でした。10月中旬頃には講演の様子を録画したビデオや各講演者のスライドがオンライン上で共有される予定です。
この場ではそれらの講演以外に催されたライトニングトークの様子をレポートします。ライトニングトークはROSCon, ROSCon JPではおなじみのセッションです。ROSCon JP 2019の当日に発表希望者を募り、一人当たり3分の文字通り電光石火の勢いで発表を行います。中には3分の限られた中でドローンを飛ばす発表者がいたり、最近発売されたDJIのRoboMaster S1をハックしてROS対応させた発表者がいたり、と1時間のセッションに20名以上の方が矢継ぎ早に発表していき、大変に会場が盛り上がりました。
前日にROS対応させたドローンを会場で飛ばす発表者
RoboMaster S1のROS対応ハックを行った発表者
企業スポンサー展示
ROSCon JPは企業スポンサーによる展示ブースが豪華なのも特徴です。昨年の「ROSCon JP 2018」の成功を受けて、今年は昨年以上にスポンサー企業に大変に恵まれた会議となりました。プラチナスポンサーはスポンサー申込当日にすぐ決まり、最終的には24社にスポンサー申し込みをいただき、会場の大きさの問題で数社のキャンセル待ちができるほどでした。
展示ブースでは、愛玩ロボットや人型ロボット、協働ロボット、移動ロボットが所狭しと展示されていました。ネットワーキングや商談に繋がる企業も多く見受けられました。
企業スポンサー展示ブースの様子(その1)
企業スポンサー展示ブースの様子(その2)
ROSCon JP 2019を終えて
ROSCon JP 2019は昨年よりもグレードアップし、2日開催となりました。今現在いただいているアンケート結果を見ても、初日の講習会、2日目の会議本番ともに参加者の満足度の非常に高いイベントになったと確信しております。昨年に得られた改善点を改善しつつ、また新しいことにもチャレンジできた会議となりました。
レセプションでのROSCon JP 2019実行委員と基調講演者
また、多くの企業の方々が積極的にロボットエンジニアの採用活動をしている様子もさまざまな場面で伺えました。これからはROSコミュニティでの活躍が、趣味だけでなく仕事にも直結していく時代となっていくことでしょう。その晴れ舞台のひとつにこのROSCon JPがなれるように、これからも実行委員の一人として尽力していきます。
当日の講演の様子はTwitterのハッシュタグ #ROSConJP2019 で検索すると、今からでもその熱量を感じることができます。来年もおそらくROSCon JPは開催されるでしょう。来年のご参加、心よりお待ちしております。