10月25日、グランドプリンスホテル新高輪で、「 Dell Technologies Forum 2019 - Tokyo」が開催されました。Dell Technologies Forumは、Dell Technologies 主催のDX(デジタルトランスフォーメーション)をテーマとしたイベントです。本記事では、基調講演を含む3つの講演についてレポートします。
基調講演:イノベーションをデザインする
まず、Dell Technologies 会長兼最高経営責任者(CEO)のマイケル・デル氏が登壇し、Dell Technologiesの展望について述べ、今後の情報社会におけるデータの重要性を強調しました。
Dell Technologies 会長兼CEO マイケル・デル氏
IT技術の発展がもたらす社会の変革
同氏によれば、IT技術の急速な発展により、社会は大きなデジタル変革のただ中であるとのことです。たとえば、エッジコンピューティングは現在世界中で利用されていますし、扱う対象のデータ容量も増大しています。2019年現在、( 2007年のデータ総量に値する)86ペタバイト規模のデータが18時間程度で生成されるようになっています。また、5Gネットワークやコンピュータサイエンスに加え、ディープラーニングやニューラルネットワークといったAI研究の発展により、実現できることの範囲が以前より大幅に広がっています。
そこで、テクノロジを利用してユーザーの問題を解決し、適切なデータを提供することが重要になります。そのために、Dell Technologiesは一貫した、シンプルで統合されたプラットフォームを提供しています。同社はこのプラットフォームにより、ユーザーにとって適切なワークロードの選定を可能にし、データの分散を解消してオープンかつシンプルな形で提供することを目指しているそうです。最後に同氏は、データのサイロ化を解消し、ITサービスはもちろん、管理者や購買、そしてサプライチェーンなどユーザーのすべてのビジネス環境をVMware Cloud Foundationで統合管理する「Dell Technologies Cloud」の構想に触れました。
情報社会におけるDell Technologiesの戦略
続いて、Dell EMCインフラストラクチャソリューションズグループ最高技術責任者(CIO)のジョン・ローズ氏が登壇し、情報化社会において重要となるテクノロジと、Dell Technologiesグループの戦略について語りました。
Dell EMC インフラストラクチャソリューションズグループCIO ジョン・ローズ氏
同氏は、今後のキーとなるテクノロジとして人工知能、ハイブリッドクラウド/マルチクラウド、エッジ、ソフトウェアデファインド(コンピュータリソースをソフトウェアで操作すること) 、ワークフォースモダナイゼーション(適切に人材を配置すること)の5つを挙げました。
人工知能については、大量のデータから価値を創出するためのテクノロジとして、コンピュータ性能の飛躍的な向上と、アルゴリズムなどAI研究の発展により、本当の意味でAIを活用できるようになったと同氏は語りました。
ハイブリッドクラウド/マルチクラウドに関しては、膨大な容量のデータを扱うにあたって、単一のインフラによってデータを管理するのではなく、クラウドやXaaS(SaaS、IaaSなどの総称)など、さまざまな種類のインフラを組み合わせることが必要だと語りました。
エッジについては、すべてのデータはデータセンター由来ではないため、利用される場面(エッジ)にITを導入する必要があると言います。
また、ソフトウェアデファインドについては、これを実現するためには、さまざまなアルゴリズムに適応する柔軟なインフラを構築する必要があると語りました。
そしてワークフォースモダナイゼーションについては、ゼタバイト規模のデータを扱う必要がある今、インフラそのものだけではなく、UX(ユーザー体験)も重要だと強調しました。
4つのトランスフォーメーション
これらのテクノロジへの対応にあたって、Dell TechnologiesグループはITトランスフォーメーション、ワークフォーストランスフォーメーション、セキュリティトランスフォーメーション、アプリケーショントランスフォーメーションの4つを推進し、これらを通して、マルチクラウドの世界でデータを活用する「デジタル組織」を作る支援をしていくと同氏は説明しました。
ITトランスフォーメーションについては、現在複雑なトポロジで構成されているエンタープライズ内のインフラを、かつての中央集権化されたITモデルではなく、分散化されたITモデルを構築する流れになっています。そして、同氏は、VMwareを利用した、プライベートクラウド、パブリッククラウド、エッジに渡って一貫した運用モデルで、世界で最も広範なクラウドプロバイダエコシステムである「Dell Technologies Cloud」を推進していくと述べました。
ワークフォーストランスフォーメーションについては、ひとつひとつのPCごとではなく、PC(ユーザー)を全体のエコシステムの一部としてとらえる「Unified Workspace」が構想されています。これにより、デプロイメント、セキュリティ、アプリケーションワークスペース、オペレーションの機能をクラウドサービスとして提供し、すぐに使えるIT環境が実現するそうです。
セキュリティトランスフォーメーションについては、現在のセキュリティ製品が無数に存在している縦割り状態を解消し、ソフトウェア定義型の機能としてセキュリティを組み込み、クラウドのオーケストレーションによって展開していくという構想が説明されました。
アプリケーショントランスフォーメーションについては、同氏は、アプリの多様化に伴い、新しい開発技術を学び、マルチクラウド上で展開できることが要求されると述べました。そのために、IT戦略をマルチクラウドの観点で構築し、マルチクラウドシステムとして一貫した形で展開するようなしくみを作ると語りました。
アプリケーショントランスフォーメーションのイメージ
真のトランスフォーメーションを支えるPivotalのプロセスとプラットフォーム
Pivotalジャパン( 株) プラットフォームアーキテクトの柳原伸弥氏が登壇し、クライアントのDX実現を支援する取り組みについて、プロセスとプラットフォームという2つの視点から紹介しました。同氏はDXのためには、プラットフォーム、ツール、メソドロジーに加え、企業内カルチャーの整備も重要だと考えているそうです。
Pivotalジャパン プラットフォームアーキテクト 柳原伸弥氏
Pivotal Labsによるプロセス改善によるDX支援
Pivotal Labsとは、クライアントチームにフルタイムで出向してもらい、一緒にチームを組み、数ヵ月かけて実際の案件に取り組みながらアジャイル手法を学んでもらうためのオフィス拠点です。その目的は、ソフトウェアの開発ではなく、クライアント企業におけるエンジニア、デザイナー、プロダクトマネジメントの3点のバランスドチームの成立にあるそうです。その実現のために、Pivotal Labsで取り入れられている具体的な活動としては、次のようなものがあります。
スタンドアップ・ミーティング
毎朝短期間チームで実施する短期間のコミュニケーション活動です。オフィス全体でコミュニケーションを取るオフィススタンドアップと、チーム単位でコミュニケーションを取るチーム・スタンドアップの2種類の活動が実施されています。コミュニケーションを促進することと、自己を組織化することが目的です。
ペアリング
効率と品質向上のためのペア作業です。実作業を担当する「ドライバー」と指導役の「ナビゲーター」に分かれ、ペアプログラミング、ペアデザイン、ペアによるストーリーの作成、ペアによるプラットフォームの構築・運用などさまざまなペア作業を行い、フィードバックするという流れで、役割を交代しながら作業をします。ペア作業による「気づき」と「学び」を得ることができます。
レトロスペクティブ
付箋などを使いながら、ブレインストーミング的に各自の意見を出し合ってアクションプランを決定する試みです。チームの課題点の洗い出しと、個々のアクションプランの認識が狙いです。
レトロスペクティブ
こういった活動を通して、意識的な面でクライアントのプロセス改善に努めているそうです。
プラットフォーム整備によるDX支援
また、同社はさまざまなフレームワークやOSSの提供によって、開発効率性の向上化と自動化の支援を行っています。
たとえば、同社の提供する「Pivotal Platform」は、CaaS、PaaS、FaaSのレイヤをまたがって一貫しているプラットフォームAPIであり、これらの中から用途に応じて適切な抽象度を選択できます。ほかにも、Pivotal Application Service、VMware Tanzuなどさまざまなサービスを通してクライアントのプラットフォーム改善を支援していることが説明されました。
こういったプロセスとプラットフォームの2つの視点からの取り組みを通して、「 Enable clients to deliver value fast, forever」というスローガンのもと、同社はクライアントのDX促進を支援していくそうです。
Enable clients to deliver value fast, forever
どこまで出来る? DRサイトとしてのパブリッククラウド活用を検証してみた!
ノックス( 株) 技術本部プリセールス部部長清家晋氏が登壇し、DR(災害復旧)サイトとしてのパブリッククラウドサービスの検証について、実際の計測結果などを交えながら説明しました。
ノックス 技術本部プリセールス部部長 清家晋氏
データを守る
現在、国内でデータ「量」が急増しており、2016年の1.2ペタバイトから、2018年では約6倍の8.8ペタバイトにまでなっています。また、データの「価値」も増大しており、国内外を問わず多くの企業がデータに対する投資に取り組んでいます。このような状況で、何らかの災害によるデータロス発生時の損失も増大しています。さらに、データロスによる平均損失額もさることながら、計画外のシステムのダウンタイムによる平均損失額も非常に大きな損失となっているようです。そこで、データの保護策として、同氏はDell Technologiesのソリューション「Dell EMC Cloud Data Protection」を紹介しました。
データロスの恐怖
Dell EMC Cloud Data Protectionの検証
Dell EMC Cloud Data Protectionは、アーカイブ、バックアップ、DRに対応しているデータ保護ソリューションです。特徴としては、VMwareで構成されたオンプレミスシステムを災害発生時に自動的にAWSへ変換、データ圧縮機能でバックアップデータ容量の削減、オンプレミスバックアップシステムとの機能統合、の3つがあります。
今回、Cloud DRの検証は①デプロイの容易さ、②設定の容易さ、③FailOver/FailBackの3点の評価項目に基づいて行われました。
検証に利用する製品
①について、OVA(Open Virtual Appliance)によって容易なデプロイが実現できます。
②について、Cloud DRの保護設定はAvamarインターフェースで作成され、バックアップジョブのオプションとして設定できます。運用管理については、Webインターフェース上で状態の確認、FailBack/FailOverの処理、DRプランの準備ができます。
③については、Web UI上で感覚的に操作するだけでリストアできます。なお、東京リージョンにおけるFailOver時のデータ変換速度は約5.6MB/sで、Rapid Recoveryという機能を使用すればさらにデータ復旧速度を上げられるとのことです。
FailOver時間の検証結果
最後に、同氏は「Cloud DRはクラウド活用を加速する新たなソリューションである」としつつも、「 クラウドは万能ではないため、活用にあたっては十分な検討が必要だ」と締めくくりました。
さいごに
Dell TechnologiesのDX事業の展望と、ユーザー企業のDXへの取り組みが体感できるイベントでした。