はじめまして、合同会社長目の小川英幸です。今回はPyCon China 北京への参加の顛末をお届けします。私が同イベントに参加するきっかけは、当サイトの鈴木たかのりさんの「海外のPythonカンファレンスにトークやポスターを応募しまくって、採択されたら行く」というレポートでした。毎回興味深く読んでいたのですが「どうせなら真似してみるか」という気持ちが芽生えたので、トークを応募してみたところ採用されました。
中国のイベントに参加するいうことは中国語がかなりできると思われるかもしれませんが、中国語を習い始めて1年経った程度なので、全然できません。当初は、語学力の向上を図ってから来年参加することも検討したのですが、「 先送りしたことは行われない。人間、勢いが重要」ということで今年参加しました。トークの応募及び、実際に行うトークは英語です。
「PyCon China 2019 Beijing」会場エントランス
PyCon China 北京を選んだ理由
参加するPyConの開催地に中国を選んだのは、中国の最近の発展に興味があったからです。中国の機械学習などの技術を取り込むスピードはとてつもなく速く、IT分野の躍進が目覚ましい状況です。今年に入り『アントフィナンシャル』という本を読んだのですが、その中では中国がコピー文化から独自にサービスを作り始めたことも感じられました。
以上から、それらを支えるエンジニアが参加する会に行けば、いろいろと学ぶことが多いと考えました。また、中国から来られたエンジニアの方と話す機会があったのですが、中国の中でも北京に優れたエンジニアが多いということを聞きました。PyCon Chinaは上海、北京、杭州、深圳、成都、南ニンの6ヵ所で行われているのですが、上記のような理由から北京を選びました。
会場付近のビル
PyCon China 北京
PyConはプログラミング言語Pythonに関する国際カンファレンスです。アメリカや日本をはじめ世界中で開催されています。
PyCon Chinaは2011年から行われています。2019年は私が参加した北京以外にも全6ヵ所でPyCon Chinaが開催されました。上海の規模が最も大きく2日間のイベントだったようです。私が参加した北京のPyConは1日のイベントで、参加者は200人くらいだったそうです。
会場となった北京「360大厦」
参加費はスピーカーは無料、早割チケットは3,000円、通常チケットは4,500円でした。イベントは北京の360大厦という会社のオフィスの1室で行われました。
オープニングトークの模様
注目セッション
当日は40分のトークが8本、LTが4本ありました。セッションは私を除きすべて中国語で行われました。その中から筆者が注目したセッションを3本紹介します。
Python在金融领域的商业应用及创新(Python金融分野におけるビジネスアプリケーションとイノベーション)
王宇韬 :华能信托华小智智能平台发起人(Huaneng Trust Huaxiaozhi Intelligent Platformスポンサー)
発表資料:Python在金融领域的应用与创新
金融セクターでは多くのデータを取り扱います。当セッションではPythonを用いて、多くのデータから企業が必要なデータを抽出して、メールで企業に提供する事例が紹介されていました。
王氏のセッションの模様
内容は非常に具体的で、すべての過程のコードを見せながら行われました。まずはrequestsを用いて百度新聞をスクレイピングし、次に正規表現で取得したデータのクリーニング及び、データ作成を行い、表題と内容でその記事が必要なものか判断します。この記事の判断はこの事例では、単語が含まれるかどうかでした。そして、それが必要な情報であれば、企業の担当者にメールで送信します。
そのあとはIP制限があるサイトではIP変えようとか、Seleniumを使ったりみたいな話が行われていました。今後の話として、この辺りに機械学習を入れるとか、ビッグデータ+機械学習でリスク管理のような話がありました。
ちなみにこのレポートではこのセッションの“ 面白さ” は1ミリも伝えていませんが、会場ではかなりの頻度で笑いが起こっていました。王さんのトーク力凄かったです。
Python的智能问答之路(PythonでQAボットを作る)
张晓庆 :来也网络科技算法研发工程师(Lai Yeネットワークテクノロジー アルゴリズム R&Dエンジニア)
発表資料:Python的智能问答之路
機械学習、深層学習を用いてチャットボットを作成する一連の流れを紹介するセッションでした。Pythonの豊富なライブラリを活用しながら、Pythonでつらいところは補助的にほかの言語を活用するというものでした。
話題について網羅的に触れながら、用いているライブラリやそのほかどのようにモデルを作成しているのかも、詳細にも触れられていました。個人的に最近取り組み始めた分野なので、非常に参考になりました。
テキストの分析に関しては、このセッションの前にも「文本的结构化信息提取(テキストからの構造情報抽出:発表資料 ) 」というものがあり、日本も中国も自然言語処理周りが注目されている流れは同じだなと感じました。
Python与高中技术课程教学 以声音制造为例(中高校教育でのPythonとテックのカリキュラム音声作成の事例)
罗丹 :北京大学附属中学技术中心与艺术中心任课教师(北京大学附属中学校 テクノロジーセンター/アートセンター教師)
発表資料:Python and Tech-Curriculum in High School Education
学校教育でどのようにPythonが用いられているかの事例を話すLTがありました。この学校のITテクノロジー課では、それほど決まったカリキュラムがなく、先生がカリキュラムを作成することができるそうです。そのため、生徒が視野を広げキャリアプランを作成でき、かつ同年齢で学ぶ知識を入れ、生徒の研究能力も引き上げられるものを、先生が作られるそうです。
その一例として紹介されたのが、Pythonを用いて音声信号を学ぶカリキュラムです。音声信号の知識とモデルを深く理解して、生徒自身が電子楽器を作成するというのが主題となっていたようです。まずは物理と数学の知識を学んだあと、データ処理とPythonで音声を扱うこと学び、そのあとコンピュータと電子楽器を連携させ、楽器を開発します。
罗氏のセッション
自分の昔を思い返すと、ひたすら数学の問題を解いて何の意味があるのかと思ったものです。しかし、このように多くの知識を結びつけるハブとしてのプログラミングの使い方は面白く、また簡単に利用できるPythonならではの特色も生かされいて素晴らしいと感じました。日本のプログラミング教育もこういう風になると良いですね。何か協力できることを探せたらと思います。
ちなみに中国の学校制度では、日本の高校にあたる学校が高級中学、中学が初級中学となるようです(※1) 。この事例は学習する内容から日本の高校で行う内容に思えます。北京大学は2020年の世界の大学ランキング(※2) で24位で、中国では清華大学の23位に次ぐ大学で、これが行われているのはその付属学校です。ちなみに日本の大学トップは東京大学で36位でした。
筆者のトーク
Interactive Data Visualization With Dash
小川英幸
PyCon JPでも可視化フレームワークDashを利用した発表を行ったのですが、北京でもDashでプレゼンテーションツールを作成しました。日本では日本のオープンデータを用いましたが、中国のデータを探そうとしましたが時間もなく、外部データは最近中国が一番になった日本の海外からの旅行者のデータを用いました。内容は、データ分析ではデータを可視化して観察する部分が重要で、それをインタラクティブにさまざまなツールを用いてインタラクティブに行うと、これまで以上に発見がある上、データ分析の知識があまりない人への説得にも使えるというものでした。
筆者のセッションの模様
会場では質問を2つに限定されていました。1つは答えられませんでした。プレゼンの最後にWeChatのアカウントを載せておいたら、それに案外質問が来て驚きました。他のプレゼンターは皆さんQRコードでWeChatのアカウントを大きくプレゼンの最後に掲載されていました。日本の勉強会でも発表の最後にLINEのアカウントを載せて反応があるか試してみたいですね。
ちなみに、PyCon Chinaは中国語でないと発表できないらしいとの噂も聞きましたが、英語でも全然大丈夫だとのことでした。
イベント全体の印象
みんな話すのが非常にうまいというのが第一の印象です。すらすらと速いテンポで話が進んでいきました。あと、自分のセッションの前に「カメラで撮ってるからできるだけ動かないでね」とスタッフの人からいわれました。皆さん言われていたと思うのですが、大体の人が演台の真ん中まで出てきて話していました。みんな話すのがうまいので「学校でプレゼンの授業とかあるのですか?」と聞いたところ、「 たぶんみんな自分で練習しているのでしょう」という回答をいただきました。
参加者の様子
内容は、ここでは実践的なものしか紹介しませんでしたが、ASTや型チェック、それにFPGAまで、話題は多岐にわたりました。これをすべて理解できる人がいるのか?という感じですが、自分の知らないことが聞けるというのは1レーンのイベントの良いところで、いろいろな話題が聞けて面白かったです。
FPGAのセッション
イベントの参加者は20~30歳の人がメインで、若々しい印象を受けました。PyCon JPに比べて女性の参加者の比率が高く、発表者も11人中3人と多い印象を受けました。中国は女性のプログラマが多いのかと思い質問してみたところ、企業のプログラマの女性の割合は10人中1人くらいではないかとのことで、日本と比べて比率が高いということはなさそうでした。
スピーカーの集合写真
まとめ
以上のような感じで、海外カンファレンス初参加と初トークをこなしました。中国語がほぼ分からない状態で行ったのですが、スタッフの皆様に手伝っていただけたこと、あとたまたまスタッフで参加された郭さんが日本語が話せる人で、大変助かりました。スタッフの皆さん、郭さんのおかげで無事プレゼンも終えることができました。Pycon China 北京のみなさんありがとうございました!
参加者の中には日本語が話せる人やアニメを見て、話せないけど何を言っているかは分かるという方が何人かおられました。また、中国の街中では英語はほぼ通じませんが、イベントに来ている人だと半分くらいは私より流ちょうに英語を操られている感じでした。
注目セッションでとりあげた王さんが金融データの分析の本を出しておられて、現地でも販売していたのですが、QRコードのペイメントしか支払いはできないとのことでどうしようかなと思っていると、スタッフの方が「プレゼントするよ!北京へようこそ!」とプレゼントしてくださりました。ありがとうございました。王さんとは関係者の打ち上げで、少し話してWeChatを交換して、金融データ分析のグループにも入れてもらいました。
王さんの著作
あと、中国の新しい技術を取り込むスピードの速さに関して話す機会があったのですが、日本の場合は古い技術も世話しながら新しい技術を入れないといけないけど、中国の場合、古い技術がないので新しい技術を使うしかないという話を聞きました。この辺興味深いところです。
来年の開催の話を聞いたところ、中国のどこか1ヵ所で集まって開催することも検討されているとのことでした。来年はもっと中国語力を上げて参加できたらなと思います。中国絡みのお仕事も募集中です。