第2回は取材を元に、今、日本で取り組まれているサイエンスに関する教育、その先にある人の成長、学問としての発展、Webへのつながりについて俯瞰しました。
横浜サイエンスフロンティア高等学校から感じたこと
横浜サイエンスフロンティア高等学校
横浜サイエンスフロンティア高等学校を訪ねて、先生方が「学生自身が考える」ということを理念にしていることを強く感じました。和田氏が別誌のインタビューで答えた言葉を借りると「耳学問だけではダメなのです。耳学問は、他人が整理した情報をただ自分の頭に移す行為でしかない。」そして「実験とは、目の前にある暗黙知に対して、切り出す断面を自分なりに決め、形式知として自分の中に入れる作業」だということです。
たとえば、実験室には確かに最新式の実験装置があります。USBやBluetoothのついたセンサーや力学セット(イージーセンスII)があり、物理・化学・生物の多種多様な応用実験が可能です。しかしながら、こういった機器を使った実験装置を大人が教え込まないこと、が重要だと言うのです。つまり目で見てやってみるという精神が重要ということです。センサーを使い、音速を測ろう、それだけならば手順通りにすれば簡単にできてしまう。そうではなくて、どうやって実験すれば良いかから考えさせるというのです。もちろん機器が高度化した分だけ考察の範囲も広くなりますから、データを取ってパソコンで分析するといったところまで実験の範囲です。
また個人的に、横浜サイエンスフロンティア高等学校の数々の実験機器の中で最も魅力的なもののひとつが巨大な天体観測ドーム(タカハシ製)でした。高度な実験機器や工作機械は取っ付きにくい印象があるものの、大きな天体望遠鏡はロマンティックに見えます。先生方も、今年は天文年で日食もあるし盛り上がるでしょう、と。それにとにかく大きなドームなので天文部の皆がこたつを持ち込んで徹夜で観測をしたりするんでしょうね、と愉しそうに説明してくれたのも印象的でした。
また実験機器ではありませんが、私の年代の人間に驚きなのは学内全体で400台ものパーソナルコンピュータがあることです。プログラミング実習室では複数モニターが用意され、センターモニターを見たまま授業が受けることができます(こういった配慮で授業の効率が数割も違うとの報告もあったりします)。またこういった台数のメンテナンスも個別の機器に対応するのではなく、専門ソフト(富士通社「瞬快」)で一括管理をしています。さらに、マルチメディア教室のLinux/Windowsの機器にはAdobe WebクリエイターやMathmaticaのような数学ソフトもインストールされている他、A0版のマルチプロッターもあり、学会や展示会用のポスターセッションも学内で対応できます。
こういった充実した環境を活用して、東工大のスーパーコンピューティングコンテストにも参加する予定だそうです。
最後にコンピュータ科目についてですが、現在では当然のようにWebブラウザ、メール、Excel、Wordといった実用アプリケーションを始め、OpenPNEやMovableTypeのようなCMSなどの利用も検討しているそうです。
興味深いのは知的財産権やセキュリティについての学習などです。権利のあり方だけでなく、可能ならば特許についても教えたいとのこと。こういったリテラシーは企業に属する前に意識を高く持つことは非常に有意義かと思われます。あと面白いところではMIT OpenStarLogoのようなシミュレーターの学習や自作PC、レゴマインドストームをC言語でコントロールするような授業もあるようです。
願わくば、高校時代に戻ってこういう授業を受けてみたいものです!
サイエンスに片思い・本編
ネットワーク科学というジャンルがあります。数学のグラフ理論や社会学のネットワーク分析、物理学の統計物理学から派生し、情報学のWeb解析などまでを指します。1998年にスモールワールドネットワークに関する論文(Watts-Strogatz)、1999年にスケールフリーネットワークの論文(Barabasi)が発表後、一般書などでもベストセラーになるなどして流行しましたので、皆さんもお聞きになったことがあるかと思います。
この学問の魅力は、科学の対象としての“つながり”がWebの世界に広がるとともに、それらの解析結果が自然現象としてのつながりに相似することがわかってきた点にあります。その上、GoogleのBrinとPageによるPageランクなど現実社会への応用がなされている点も画期的です。つまり、自然現象の一部を加速度的に飛躍させる手段があり、それらを活用して現実の世界を変えて行く道具を手に入れたと言ってもいいでしょう。
Webに関わる仕事をしているとどうしてもモニタの内側の、さらにブラウザの内側の世界だけに気が取られていないでしょうか。それもSEO対策のように人為的につくられたロジックをお互いにいたちごっこで調整するなどはあまり創造的活動とは言えません。先にも述べたようにPageランクはひとつのネットワーク原理に過ぎません。
WWW上の活動が自然現象として発展して行くならば、さらに上位のネットワーク原理があるはずです。そう想像するとWEBの仕事もより壮大なスケールについて考えることができ、興奮してこないでしょうか。
少し具体的に考えてみましょう。意識を拡げて仕事を考えたいと思うのは、ネットワークの原理だけでなく、それらのすべての大元である自然の摂理の美しさについてです。例えば、ゲームソフトで拳闘のソフトをつくろうとすれば否応がなしに肉体の機能や美について意識的にならざるをえないでしょう。またF1のソフトをつくろうとするならば時速400kmという研ぎ澄まされた世界がどんなものなのかを一生懸命想像せざるを得ないに違いありません。それらと同様、Webの世界においても人間の感受性やインタラクションについて大いに意識するべきかと考えるのです。これを一言で言うと“サイエンス”なのです。手短な例で言うと最近Flashなどで物理シミュレーションを多用する作品が増えて来ました。またタッチパネルなどを使った作品もあります。これらは見て触って共に面白いのですが、技術や製品としては新しくても、マウスやキーボードのタイピングよりもノスタルジーを感じるのです。また作者も自分のフィジカルな感覚について思い起こし、周囲をあらためて物理学的な動きとして見直したのではないでしょうか。
物理演算ソフトPhun
ということで、今回は、物理演算ソフト「Phun」を紹介して終わりたいと思います。物理を楽しむというコンセプトを元にPhysics(物理)とFun(楽しむ)を組み合わせた言葉で、スウェーデンのAlgoryx社に勤めるEmil Ernerfeldt氏が、Umea(ウーメオ)大学VRlab(Virtual Reality Laboratory)に在学時に開発した物理演算ソフトです。ゲームのような雰囲気とドローソフトのようなインターフェースですが、重力の働く2次元空間上に配置した円や長方形および手書きの図形(物体)に摩擦係数・反発係数・密度などを設定でき、止め具や軸、ばねを用いて物体同士または空間と固定することもできます。軸は動力を与えてモーターとして動作させることができるうえ、大量の粒子で水を表現することもできます。
いずれメタバースでもこういった機能が実装される日も近いですね!ではまた。