長い間お休みをいただいていた本連載ですが、久しぶりに再開します!
今回は、今更ながらの新春&ご無沙汰スペシャル編です。
内田:2011年、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いしま……と言いつつも、既に1月後半にさしかかっているわけですが(汗)。本年もよろしくお願いします。
編:それよりもっと重大な事実が……なんと、このWeb連載、昨年の4月から更新していません!
内田:ひいいいいい!!
編:ご無沙汰してしまってすみません!本連載、終わったわけではないのですよ~。
さて今回は、今更ながらの新春&ご無沙汰スペシャル編ということで、内田さんの歩んできた道についてお聞きしたいと思います。
内田:えっ。
そうはいっても、フツーですよ。本当にフツーな人生です。
編:いや、これまで取材を通じて色々な理系女性を見てきましたが、内田さんからも何か特有のものを感じるんですよね。
内田:いえいえ、照れます、そんな……はっ! 実は単に「他のかたのインタビューネタを大事にとっておいて、場つなぎとしてとりあえず内田を使っておこう作戦」ではないですか? ね、そうですよね?
編:ま、まああまり細かいことは気になさらず。ではいきますよ!
内田:……むう。
きっかけはガンダム…ではなく大元はTM Network
編:まず、内田さんが理系に目覚めたきっかけは何ですか?
内田:(いつも質問者の立場だから変な気分……)そうですねえ、色んなところでも言っているのですが、ガンダムにはまったことが大きいです。ネタですか? と言われますが、このガンダムっていうのはホントなんですよね。もともと科学自体は好きだったのですが、ガンダムが決定的でした。
編:そのときのこと、覚えています?
内田:中学のころ、『逆襲のシャア』という映画がありまして。もともとTM Networkのファンで、彼らがその映画の主題歌を提供しているから、という理由で行きました。
編:なになに、TM Networkのファンだったと。
内田:……私、なんだか余計な過去の恥部までさらしてませんか?
まあ、とにかく、そこがガンダムとの初めての出会いだったんですが、その映画をきっかけに、いわゆるファーストガンダムのテレビ放映や映画をさかのぼって見るようになったんです。
編:なるほど。不純(?)な動機で見てみたら、物凄くその世界にハマッたんですね。
内田:はい、素直にガンダムの世界観に感動してしまって。「宇宙に人が住めるなんてすごい!」「それを可能にするスペースコロニーって素晴らしい!」と。そこで、スペースコロニーを実現させたいと夢を膨らませて。あんなに大きいものを作るには、やっぱり国の機関に入らないといけないかな、すると官僚か。官僚になるには東大か……と、中学生の安易な発想のままで東大理科1類に入学したんです。
編:スペースコロニーってなんですか? コロニーと言いますと、私はこんなのしか浮かばないんですが…
内田:え、ガンダムご存知ないんですか、一応ガンダムは一般教養ですから抑えておかないと……はぁ。
編:(!)
内田:それにしても、コロニーと聞いてそちらを思いつくのは編さんの出身が生物系だからでしょうか。確かに、広義の意味は同じです。
スペースコロニーは宇宙空間に巨大な人口の居住地を作るというSFのアイディアで、提唱者はジェラルド・オニール博士らです。デザインとしては、シリンダー型・ベルナール球・小型惑星型などありまして……(以下略)
編:あーあーあーありがとうございます、だいたいわかりました。
で、そういったことの研究に一番近かったという理由で、工学部応用化学科に進学したと。飽きっぽい私からしてみたら、入学当時の志望動機をそこまで持ち続けていることがすごいなと。途中で他の分野に惹かれたりしなかったんですか?
内田:確かに入学までその妄想を維持していたのはアホですね……でも、その学科を選択した時点でもそうですが、その後は将来何をやりたいかどうかわからず迷走することになって。科学行政として宇宙開発の仕事に関わりたいというのも選択肢としてありました。
編:でもそこで化学を選んだわけですよね。
内田:はい。化学を選んだのは、高校の時に化学にはまったから、そして工学部にしたのは、世の中と接しているほうが楽しいかな、と考えたというその程度の理由です。
編:ところで妹さんはバリバリの文系だとお聞きしたことがあるのですが、そっち方面への憧れとかは。
内田:彼女は社会人になってからニューヨークにも留学して美容の勉強をして、今も美容の業界の人なので、私とはまったく違う道ですね。彼女のやっていることも素直に楽しそうだな、いいなーと思います。
研究は面白かったけど、モラトリアム進学
編:そしてそのまま博士まで進学したということですね。修士までの進学は一般的になりつつありますが、博士進学は、よっぽど研究に面白みを見出した人じゃないとなかなかできないと思います。そのあたり、どうだったんでしょう?
内田:実は、自分が「理系?」という自信はずーっとなかったんですよね。もともとガンダムが動機で理系に来たくらいですし(笑)。周りの優秀な人たちを見ていると、理系センスはないことは痛いほどわかるし、一方で文系の友人を見ていてもかなうわけがない、と悩んでしまう。自分がどこに進んだらいいのかわからない、という状態のダメなモラトリアム進学だったと思います。
編:とはいえ、研究には魅力を感じていたと。
内田:ええ。研究って、ほとんどがうまくいかない試行錯誤の連続だけど、その中でほんの少しだけご褒美がある。そんなところにはまりましたね。
編:研究室生活はどんな感じでした?
内田:微量分析をやっていたので、いろんなことが実験結果のノイズになっちゃう。建物に人気が少ない休日・夜中を狙って実験していましたね。
編:となると、結構自由なことができますよね。ムフフ。
内田:クリーンルームを使っていたので、クリーンルームでクリーンスーツのまま仮眠をとったり、と。実験するのにもかかわらず、マニキュアしたままで、研究室にあったアセトンでマニキュアを落としたり……とか。これ、怒られそうな話ですね(笑)。
編:ではフィクションということで。しかしクリーンスーツのままで、って……。
家庭に入って、科学への見方が変わった
編:その後、博士課程を中退されるわけですね。
内田:はい。自分が理系なのか? 文系なのか? というのはずっと迷っていたのですが、やはり無理だと感じて。途中で併行して弁理士を目指して受験勉強をしていたこともありました。
編:おお、弁理士を目指していた時期もあったんですね。
内田:弁理士は技術のことを法律の文章で表現する、ということで文系と理系の間にある仕事でひょっとしたら私にもできるかも? と考えたんです。でも、これも諸々の家族の事情で諦めました。
編:研究生活から急に家庭生活に入ると、全く世界が違いませんか?
内田:違いますねえ。何もしなければ「引きこもり上等!」の世界ですし。あと、「科学が好き」と言いつつも、今まで教科書や実験室を通してしか科学に親しんでいなかったわけですが。でも、家庭という環境にどっぷり浸かることで「料理や掃除の中にも科学はあるじゃないか」と、ようやく気づきました。それは自分の中での科学に対する感覚が変わった大きなきっかけですね。
編:具体的にはどういうことでしょう?
内田:それまで、お勉強ばかりしていたせいか、自分にとっては一連の家事がきつかったんですね。でも、そこに科学の要素を見いだすと、楽しく感じる。このように自分にとって苦手な家事と科学を組み合わせたネタ、意外と面白いんじゃないかということで作ったのが『カソウケン(家庭科学総合研究所)』です。
編:じゃあ、あれは単純に趣味の延長だったのですね。それにしてはかなりきれいな作りになっていますが。参考文献なんかもしっかり記載されていますし。
内田:ありがとうございます、そこは凝り性なので、いったん始めるとなると「既存のサイトとかぶらないように」と徹底リサーチしたり、デザインの入門書を参考にしたり、と。まさに趣味の延長なのに何をそこまで、という感じですが。
編:まさにそこでも“ハマッた”わけですね。
そして、糸井重里さんが主宰しているサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』にメールしてみたら、連載を一緒にすることになり、さらに本(『カソウケン(家庭科学総合研究所)へようこそ』)も出ることになったと。ものすごくトントン拍子じゃないですか!
内田:いや、トントン拍子というのは結果があってこそですし、今の私のしょぼい状況では……うーん。とはいえ、いろんな出会いに恵まれてラッキーだった、とはつくづく感謝しています。
編:まず『ほぼ日』にメールを送ってみるという行動力がすごいです。
内田:あれは、夜中につれづれでネットサーフィンしていたときに「ほぼ日と一緒に何かしたい人はメール下さい」というページを見つけて、メールしてみたんですね。そしたら1時間くらいでお返事があり「このWebサイト、ほんとにお一人で作ってるんですか?」「何書きますか?」「じゃ、再来週から連載ということで」というびっくりの展開で。あ、これは確かにトントン拍子、ですね。
編:この「きっかけ」を聞いたとき、驚いたんですよ私。てっきり、もともとサイエンスコミュニケーションに近いお仕事をされていたとか、マスメディアとつながりのある方だと思っていたので。
内田:いえいえ、研究一色の生活を経て、家庭でしこしことサイト制作に励む生活を送っていました。
編:意外ですねえ。
サイエンスコミュニケーターとしての活動
編:そうして、サイエンスコミュニケーターの内田さんの誕生!というわけですね。
内田:そう言われると気恥ずかしいですが……単に、それも勝手に名乗っているようなものですし、資格があるわけでもないし。
編:今は(2011年1月現在)どういった活動をされていますか?
内田:基本的にはサイエンスライターとしての活動が中心ですね。書籍の執筆、新聞や雑誌・Webでの連載や寄稿とか。あとは講演に呼んでいただいて話したり、実験教室の講師になったり。それとテレビとかラジオも。
編:色々とされていますね。最近では「サイエンス大喜利」なんかも企画されていましたね。ブログを拝見すると、そのご活躍ぶりがわかります。
内田:科学を伝えることに関わる仕事であれば、媒体を問わずあれこれやらせていただいている状態です。あと、サイエンスコミュニケーションの研究をするために、2009年から大学院の博士課程に在籍しています。
編:学生でもあるんですね。ご多忙かと思いますが、久しぶりの学生生活はいかがですか?
内田:いま、改めて学生として勉強・研究できるのは楽しくて仕方ないですね。新しい世界が広がるというか。ただ、サイエンスコミュニケーションの実践屋でありつつ、研究も併行して、なのでいつも頭の中が混乱しています。
編:華やかなマスメディアの世界でご活躍されながら、影できちんと研究を続けられている。さらに家庭も持っていて……内田さんの“わらじ”の数の多さに驚きます、ホントに。
「まるっきり想定外」な人生
編:さて、色々とご活躍されている内田さんですが、自分が将来こうなることって予測できていましたか?
内田:まるっきり想定外ですねえ。文系と理系の間で何かしたいな、とはぼんやり考えていましたが、具体的には何をしたらいいかまったくわかっていませんでしたし。あれあれ? と流されているうちにたどり着いたような。
編:この先どうなるか予測できますか?
内田:いえ、これからも読めないです。ある漫画で(注:『モテキ』です)「自分の思ってもいない方向に進む人生が好きなの」という台詞がありましたが、私はそんな境地にはなれません(笑)。
編:好きかどうかは別として、想定外な方向に進んだとしても、内田さんならその状況を楽しんでしまえるような気がします。
編:なんだ、こうしてお話を聞いてみると、なかなか面白い経験をされているじゃないですか。お聞きしてよかったです。よかったよかった。
内田:…それは、場つなぎ成功の安堵感でしょうか。
編:…えっと、次回からは通常更新です(きっと)!引き続きよろしくお願いします!