今月のお天気なんでも通信

第3回台風の中心気圧

7月に入ると、フィリピンの東やマリアナ諸島近海の海面水温が上昇し、台風の発生数が増えてきます(月の発生数は平年で4.1個⁠⁠。これは、海面水温が高くなると、海面から大気への熱と水蒸気の補給が増え、積乱雲が発達し、結果として台風に成長するためです。台風が発達するのは海面水温が26.5℃以上です。

ところで、この海域には島が少ないために、気象観測を行う施設もあまりありません。結果として、台風の中心付近が気圧計のある場所を通ることは非常にまれなので、直接的に中心付近の気圧を観測することは困難ということになります。それではどうやって台風の中心気圧を決定しているのでしょうか。

1987年までは米軍が飛行機観測を行っており、飛行機から落下させた観測機器により台風の中心気圧を求めていました。米軍の観測がなくなってからは、気象衛星から観測した雲の形や高度で中心気圧を求める「ドボラック法」という方法が使われています。

具体的には、台風の目を取り巻く雲の幅が太く長く続いているほど、また、その雲の高度が高いほど(つまり積乱雲が発達しているほど⁠⁠、台風の中心気圧が低いということがわかっており、過去の中心気圧データと雲のパターンとで統計をとり、関係付けたものがドボラック法です。現在、気象庁の気象衛星センターでは、雲頂の温度分布を表示させる装置を用いて、人間が解析し判断しています。

ドボラック法に問題あり!?

ところが、今年の5月に開催された日本気象学会春季大会において、⁠TBSニュースの森」の気象キャスターでおなじみの森田正光さんが、このドボラック法を使用して以来、非常に発達した中心気圧920hPa以下の台風の発生数が減っているということを指摘しました。

本当に920hPa以下の台風の発生数が減っているのか、それともドボラック法に問題があるのかは、真の中心気圧値は誰にもわからないので何ともいえませんが、ドボラック法は統計的手法ですので、統計的に少ない事例、つまり非常に発達した台風については誤差が大きいだろうということは十分に推測できます。

防災的には役に立つ

では、ドボラック法は防災的に役に立たないのかというと、そんなことはありません。たとえば、標準的な台風の中心気圧が900hPaのときの中心付近の最大風速は55m/sに達しますが、930hPaでも50m/sにもなります。要するに台風の中心気圧に誤差があっても、付近の風は猛烈に強く、船舶の航行に危険を及ぼすことに変わりはありません。

また、日本付近にこの強度で台風がやってくることは非常にまれですが、その場合も、警戒を呼びかける警報では台風の中心気圧にかかわらず、実際に吹くと予想される風速と降ると予想される雨量が発表されます。

さらに、陸上では台風が近づかなくても、地形による効果などにより、非常に強い風が吹いたり雨が降ることがあります。防災対策を行ううえでは、あまり「台風の中心主義」をとらず、地元でどのような気象現象が発生しているのかを知ることが重要です。

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