先月のこのエッセイでは、災害の発生するような気象状況の時には、直ちに避難することが大事だということをお話ししました。しかし、残念なことに、9月初めに日本を通過した台風14号により、九州を中心に大きな被害が発生してしまいました。特に宮崎県では1300ミリを超える降水量となり、死者13名、家屋全・半壊488棟という大きな被害を出しました。
この台風第14号の時には、鹿児島県で今まで発表されていなかった新たな情報が気象台から発表されました。それは「土砂災害警戒情報」と呼ばれるものです。近年、堤防の決壊による浸水災害の数は、昭和34年の伊勢湾台風をピークにしてずいぶんと少なくなりました。一方、がけ崩れや土石流などの土砂災害の年間の発生件数は、500件~2000件で推移し、あまり変化がありません。これは、都市部などで急傾斜地に住宅を作ることが多くなっていることもありますが、そもそも土砂災害そのものの発生の予想が困難であることも原因の一つです。
土砂災害の発生を予測するためには、降った雨が地面にどれだけ浸み込んでいるかを知る必要があります。これを計算するために、気象庁では「土壌雨量指数」というものを開発し、2.5km格子でこの指数を計算することにしました。この指数を基に発表されたのが「土砂災害警戒情報」です。
土壌雨量指数の意味を理解する
この指数の特徴的なところは、指数の値そのもの(降水量で言えば、50mmとか100mmなどの量)が意味を持つのではなく、その指数が過去の大雨の時の値と比べて大きいか小さいかを比較する点です。値そのものが大きくても、過去の指数の値と比べて小さければ、もっと大きな指数の時に崩れやすいがけは崩れていて、その値では崩れません。逆に、値そのものが小さくても、過去にその値が観測されていなければ、がけ崩れが発生する可能性があるというわけです。
この「土砂災害警戒情報」、実はこの9月1日から発表を開始したばかりで、現在では鹿児島県を対象としてのみ発表されることになっていますが、今後は対象を広げ、平成19年度までには全国で発表されることになっています。また、まだ発表されることになっていない都道府県でも、気象情報の中で「ここ数年で最も土砂災害の危険性が高くなっています」という表現が使われた場合、「土壌雨量指数」が高くなっていることを表しています。
さらに、この台風14号が来る直前の9月4日に東京で大雨が降り、堤防の決壊は無いまでも、神田川や善福寺川があふれて浸水災害が発生しましたが、このような災害を予測する新たな指数についても、気象庁では開発を進めています。いつか、大雨による災害が全てこのような指数によって表されるようになった時、「大雨警報」という情報はなくなるのかもしれません。