2019年9月にFree Software Foundation(FSF)のボードメンバーの座を事実上、追放された格好で辞任したリチャード・ストールマン(Richard Stallman)が、この3月にボードメンバーにひっそりと復帰していた。FSFのボードメンバー(Board of directors)紹介ページにはたしかに最下部に「Richard M. Stallman」の名前が掲載されている。
いくつかの海外メディアの報道によれば、ストールマンは3月20日~21日(米国時間)に行われたFSFのカンファレンス「LibrePlanet」に登壇し、21日のセッションにおいて「私は再びFSFのボードに復帰した」とアナウンスしたという。「It's FOSS News」の記事によれば、ストールマンは復帰宣言に続けて「私の復帰に対して喜ぶ人もいれば、失望する人もいるだろう。だが2回めの辞任をするつもりはない」と明言しており、いわば18ヵ月ぶりの"完全復帰"とみていいだろう。
ストールマンの復帰宣言に対し、当然のことながらオープンソース系の企業や団体は強く反発している。とくに強硬な姿勢を示しているのがRed Hatで、同社は3月25日(米国時間)付でコーポレートステートメントを発表、ストールマンのFSFボードメンバー復帰について「非常に愕然とした」とコメントしており、Red HatがFSFに提供している資金をすべてサスペンドし、FSFがホストするイベントへの協力も行わないとしている。また、Red HatのコントリビュータもRed Hatの対応に全面的に賛同しており、(コントリビュータたちは)FSFが主催または後援するイベントには(ストールマンがFSFに在籍する限り)参加しない意向であることも示されている。
- Red Hat statement about Richard Stallman's return to the Free Software Foundation board -Red Hat Blog
2019年、我々はFSFに対し、ストールマンの辞任がもたらしたチャンスを活かすように要求した。より多様性のある、インクルーシブなボードメンバーシップへと変わるチャンスだと。もっともFSFはごくごく限られた歩みしか取らなかったが。それでも彼がいなくなったことでゆっくりと傷口が癒えていくだろうと望んできたのに、リチャード・ストールマンがまた戻ってくればその傷口が再び開くことになる。フリーソフトウェアコミュニティからのより広い信頼を勝ち得るためにも、FSFは根本的に、そして永続的にガバナンスを変化させるべきだと我々は信じている
(Red Hat)
なお、FSFは同日、ガバナンスの変更やボードメンバーの指名のあり方などを変更していくための準備段階として「Preliminary board statement on FSF governance」を発表、透明性の高いプロセスを踏んでいく方針を掲げているが、Red Hatは「我々がそれを信じる理由はどこにもない」と一蹴、ストールマンの離任以外は受け入れるつもりがないとしている。
長年のスポンサーだったRed Hatが資金提供を凍結することはFSFにとっては大きな痛手であることは疑いないが、ストールマンもまた「2度めの辞任はない」と強硬な態度を崩していない。もっともRed Hat以外にもストールマンの"追放"を求める声は大きくなっており、Mozilla、SUSE、GNOME Foundationといった有力なオープンソース企業/団体も同様の意向のようだ。
- An open letter to remove Richard M. Stallman from all leadership positions | rms-open-letter.github.io
こうした反ストールマンの動きに対してFSFはスルーし続けるのか、それとも2019年と同様に、かの創設者を再度の辞任に追い込むのか、今後の動向に注目したい。