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2021年6月15日Get Vaccinated! ―Linus、反ワクチン主義者に"ややおこ"でmRNAワクチン接種を説く

カーネル開発のルールに従わない開発者に対し、ときには四文字言葉をまじえた容赦ない攻撃(口撃)で罵倒していたかつてのLinus Torvalds。2018年9月の謝罪と休養そしてLinuxコミュニティ内でのCoC(Code of Conduct: 行動規範)の制定により、Linusが開発者メーリングリスト「LKML」を含む公の場で特定の人物や企業を罵倒するシーンはほぼ見かけなくなってきた。だが、3年近くに渡って発言の節度を保ってきたLinusでも、反ワクチン派とみられる開発メンバーの投稿にはどうにも我慢がならなかったようだ。

Re: Maintainers / Kernel Summit 2021 planning kick-off -Linus Torvalds

コトの発端は9月に予定されているThe Linux Foundation主催のカンファレンス「Linux Kernel Maintainers Summit」⁠Linux Plumbers Summit」の調整に関する議論である。現在はすでにいずれもオンラインでの開催が決定しているが、調整役のTheodore Ts'oがスレッドを立ち上げた4月時点では、各国のCOVID-19ワクチン接種が進めば、アイルランド・ダブリンでひさびさのリアル開催(またはオンライとリアルのハイブリッド開催)がLinusを迎えて行われる予定だった。しかし、各国の感染状況を鑑みた結果、5月末には今年もオンラインのみでの実施という判断に至っている。

リアル開催を断念せざるを得なかった最大の理由は、現役世代へのワクチン接種が欧州全体で期待したほど進まなかったことにある。イベントを楽しみにしていたメンバーの中には「もうみんなワクチン接種済みじゃないの?」⁠少なくともドイツではけっこう若い世代も打っていると思うけど」など決定に不満を漏らす者もいたが、たいていのメンバーはまだ1回もワクチンを打っていない開発者が各国で多い現状を受け入れている。

だが、この議論に突然、ITコンサルタントを名乗るEnrico Weigeltが反ワクチン主義らしき主張で割り込んできた。⁠ドイツではまだ一度もワクチンを打てていない若者も多い」というあるメンバーの発言に対し、Weigeltは「このジェネリックな人体実験 ―毒性のスパイクをもつタンパク質を生成/排出し、遺伝子配列がまともではない新たなヒューマノイド種を生み出す(ワクチン接種という)実験に参加しない人々も大勢いる。私と私の家族もそうだ」と噛みつき、"パンデミック"という単語に対しても「パンデミック? 商業的なテレビ放送を見てじゃなく、本当の科学的データを見て言ってるの?」と、パンデミックそのものを否定する発言を行い、最後は米国の感染症対策を指揮するアンソニー・ファウチ博士を貶める「#faucigate」というハッシュタグで結んでいる。

3年近く公共の場での口汚い言葉を封印してきたLinusだが、この反ワクチン主義者の持論が開発者メーリングリストであるLKMLで展開されたことにはさすがに耐えられなかったようだ。ただし3年前のLinusとは異なり、⁠Dammit(クソ野郎⁠⁠」などのスラングはごく最小限に留められており、相手(Weigelt)の主張を全面否定しながらも、人格否定というよりは受けてきた教育や周囲の環境を否定、さらにWeigeltに対してmRNAワクチンの優位性とワクチン接種の重要性をこんこんと説きながら接種を勧めるという、新たな怒りの表現スタイルに変わっている。

以下、Linusのコメントの概要を紹介する。

  • 頼むから、その非常識で技術的に間違っている反ワクチンのコメントは、自分自身の中だけにしまっておいてくれ。
  • お前は自分で何を言っているかわかっていないし、mRNAワクチンがどういうものかもわかっていないし、めちゃくちゃ馬鹿げた嘘を拡散している。なんでそんなことをするのか、教育が悪かったのか、ほら吹きYouTuberに毒されたのかは知らんけど。
  • だがなクソ野郎(dammit⁠⁠、お前がどこでその馬鹿げた情報を得たとしても、そのとんちんかんなたわごとを、僕の目が黒いうちはLinuxカーネルのどのディスカッションリストにおいても議論の対象にすることは認めない。
  • ワクチンは文字通り、何千万もの人々の命を救っている。
  • もし、お前が教育を受けているのなら、わかるように教えてやる。mRNAはどうやったとしても遺伝子配列を変えたりしない。mRNAは通常の細胞生成プロセスで体内に一時的に生じる中間物とまったく同じだ。mRNAワクチンは、ウイルスの特殊化されたシーケンスを注射し、体内の細胞にスパイク状のタンパク質を生成させ、人体にその生成のしくみを学習させるものだ。
  • mRNAワクチンの寿命は短く、注射後、1日か2日で完全に体内から排出される。⁠あなたの身体は外敵となるタンパク質を理解し、戦い方を学びました」という情報を獲得する以外、体内の情報を何も変更しない。もっとも身体は異物との戦い方を学ぶわけだから、体調や気分が悪くなる場合もあるだろう。新たな脅威の扱いを学んでいるのだからそれがふつうの反応だ。
  • さらにmRNAワクチンはほかの伝統的なワクチンよりもずっとモダンでターゲティングにすぐれている。だから(免疫を獲得するために)ウイルスなどほかの遺伝物質を直接体内に注射する必要はない。
  • もしこれ以外の説明をお前が誰かから受けて、mRNAワクチンで遺伝子配列を変えられると信じ込んでいるなら、単にそいつもお前も学がないというだけだ。お前はいますぐ反ワクチン情報を信じるのをやめて、家族と周囲を守る行動を取る必要がある。Get vaccinated. ―ワクチンを打て。
  • お前はドイツに住んでいるようだが、ドイツでもCOVID-19の感染者は減っていて、それはワクチン接種が進んでいるからだ。きっと周囲でもみんなワクチン接種を始めていて、半分は1回接種済み、1/4は2回接種が完了していることだろう。そういう人々が正しい選択をしたおかげでお前とお前の家族は守られているわけだが、もし近所で感染者数が減っているなら、それはお前のような(反ワクチンの)人間が劇的に減っていることのあらわれでもある。
  • だから、COVID-19の感染が周囲で減っているという心あたたまる事実を認めたくないのかもしれない。いまはワクチンを接種した人々がお前のことすら守っている。だがもし次の波 ―より感染力の強い変異種が出たときには、お前とお前の家族は周囲の人々よりも高いリスクにさらされることになる。無知と誤った情報のせいで。
  • ワクチンを打て。反ワクチンのウソに騙されるな。
  • ここまで説明してもそのトチ狂った陰謀論を信じると言うなら、少なくともLinuxカーネルのディスカッションリストではSHUT THE HELL UP ―何も言わずにだまってろ。

なお、現時点ではWeigeltからの返信はなく、本スレッドはLinusのこの投稿で終了している。

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