stonking(Ubuntu 26.10)の開発; Feature Freezeとその周辺
stonkingはFeature Freezeの時期 に入り、品質向上のための時間が開始されました。
とはいえこれまでの流れから予想されたとおり、OpenSSL 4系への対応が継続して進められ ている状況で、まだまだ「安定した」姿とは言いにくい状態です。7月末に出てくるはずだったSnapshotは、どうもこのまま忘れられることになりそうです。
これ以外にもGolang 1.27への移行に伴う各種対応 やLLVM 22のデフォルト化 、26.04からアップグレードするとデスクトップのアイコンが消失する 問題など、FFe (Feature Freeze exception)を伴う作業が大量に残っており、Ubuntuのいつもの姿、つまり「Feature Freezeされていても『例外的』な対応が行われることで(小さいとはいえ)仕様が変動していく」という光景が展開されています。この流れは多くの場合UI Freezeまで続くため、9月10日頃 まではアグレッシブな変化が続くことになるでしょう。
26.04.1の準備
stonkingの開発と並行して、26.04 LTSの最初のポイントリリース、26.04.1の準備 が進められています。SRU Freeze と8月24日週のリリースが宣言されており、resolute(26.04)のリリースポケットは一時的にフリーズ状態となっています。
現状ではパッケージ的には致命的な問題は見つかっておらず、すべてが無事に進めば26.04.1が間もなくリリースされることになるでしょう。ただし、リリースのためのインフラストラクチャー側はいろいろな問題が起きているため、スリップする可能性もゼロではありません。
Arduino VENTUNO Q
3月にプレスリリースで予告されていた 、Arduino VENTUNO Qの予約の開始がアナウンス されています(Arduinoからのリリースに関する記事はこちら ) 。価格は299USDです。
UbuntuとZephyr RTOSがプリインストールされています。Canonicalによるプレスリリースでは、組み込みボードでよく発生する「BSP(Board Support Package)を適用したLinuxカーネルを適切に設定し、各種ドライバーを準備し……」といった作業なく動作することがアピールされています。
このボードはQualcomm Dragonwing IQ-8275(Linux用)とSTMicroelectronics STM32H5(RTOS用)の2種類のプロセッサーと16GBメモリ、64GB上限のeMMCストレージを搭載しており、「 IQ-8275側で普通にUbuntuが動く」環境です。ここでArduino AppLabを動かすことで各種プログラムを設定し、リアルタイム制御のたぐいはSTM32H5側で動作するZephyr RTOS上で行うことができます。OS間はRPCで連携します。
プロダクト的にはこの構成について『デュアルブレイン』( dual-brain)と表現しており、IQ-8275側を「AIブレイン」 、STM32H5側を「アクションブレイン」と位置付け、異なる性質のプロセッサーが組み合わさることで柔軟性と1ミリ秒以下のリアルタイム応答性を両立させていることがアピールされて います。またROS 2もサポートしており、ロボティクス用途にも利用できます。
「AIブレイン」側のIQ-8275は組み込み向けとしては非常にパワフルな8コアCPU・40 TOPSのNPUを持っており、Qwen 4やGemma 4をローカルで動作させることができる、とされています。LLM以外にもVLM(Visual Language Model)やマルチカメラ経由のコンピュータービジョン、スピーチ処理などが可能です。LLM・VLMモデル等はHugging Face、Qualcomm AI Hub、Edge Impulseなどからダウンロードできます。
ボード上には3つのMIPI CSIインターフェースによって複数台のカメラを接続することもでき、さらに必要に応じてNVMe経由でストレージを、またArduino UNOシールドやRaspbperry Pi向けのハット、Arduino Modulino用のQwiicコネクター経由でI/Oを追加することもできます。
また、Works with Arduino プログラム[1] により、他のSOM(System on Module)でも同じアプリケーションが動作することが期待できます。プロトタイプ的なものをこのボードで作成し、量産時にはよりフィールドに適した別のボードへ切り替える、といった柔軟な計画ができることを意味します。
開発者体験としては「普通に動くUbuntuにSTMicroのリアルタイムプロセッサーが付いている」「 しかもそれがフィールドでそのまま動作する」という形になるので、「 ひそかにUbuntuが動いているロボットやIoTデバイス」が増えていくことになるでしょう。
その他のニュース
注目すべきセキュリティー的な視点: インスタントなハーデニングのためのCIS Benchmarks Level 1
各種AIエージェント、なかでもコーディングエージェントは非常に強力なツールです。一方で、利用者にとって予測できない振る舞いを示すことも珍しくありません。
たとえば「~~を実現するシェルスクリプトを書いて」というあいまいな指示を行うと、「 たしかに見た目は.shで終わっており、shebangも/bin/shを指定するのでシェルスクリプトではあるが、実行時に内部ではPythonを呼び出し、/tmpに動的にPythonのコードを出力してそれを実行することで目的を達成するなにか」が作り出されたり、あるいはジムの予約を調整しようとしたら他人の予定を削除したり と、想像力の及びにくいアクションが取られることがあります。
あるいはAIによって大量の脆弱性が発見される現状においては、サーバーホストを適切に防御する、つまりハーデニングを行うことが欠かせません。一方でハーデニングは簡単な話ではなく、攻撃のきっかけになる場所を減らすと言われても、そこから具体的な設定を導くことには相応の専門性と熟練が必要です。
こうした場合、業界標準に準拠する、というのが典型的な対策です。サーバー等のハーデニングにはいくつかの標準規格があるものの、事実上の標準となるのはCISのCIS Benchmarks とDISAのDISA-STIGでしょう。CIS(Center for Internet Security)はアメリカの各種政府機関(NSAやNISTやDISA)や学術機関・企業などが共同で運用する団体で、CIS Benchmarksは一般的なセキュリティ要件を提供しています。DISA(Defense Information Systems Agency)はその名のとおり、アメリカの軍事文脈のシステム局で、DISA-STIGはNIST SP800-53に準拠する「連邦政府機関が遵守するべきセキュリティ基準」です。
UbuntuではUbuntu Proを使うことで、CIS Benchmarks準拠やDISA-STIG準拠の環境を作ることができます。Ubuntu Proの一環として提供される「usg」( Ubuntu Security Guide)コマンドを利用することで、簡単に「規格準拠した環境」に変換することができます(それなりに時間がかかることと、既存の動作になんらかの影響が起きうるため、バックアップを取ってから実施することをお勧めします。また、LTS向けのみであること、かつ、26.04 LTSにはまだ対応していないことに注意してください) 。
sudo pro enable usg
sudo usg audit cis_level1_server
sudo usg fix cis_level1_server
CIS BenchmarksはLevelが分かれており、Level 1は「まあ普通(副作用が少ない対策のみ) 」 、Level 2は「厳格なセキュリティ(使い勝手は二の次) 」という扱いで、Level 1をセットすることで『手軽なハーデニング』を実現できます。これにより、たとえば/tmpにはnodev,nosuid,noexec(デバイスファイルの作成禁止・suidビットの付与禁止・実行属性の付与禁止)がセットされ、「 /tmpに動的にPythonのコードを出力してそれを実行することで目的を達成する」といった、本末転倒的なアクションを抑止できます。
この種の規格準拠系の機能は、企業でしか出番がないかのように考えられがちですが、個人の範囲でも役立てることができます。AIエージェントを実行する基盤としてUbuntuを用いる場合(特にUbuntu Proを5台まで無料で利用できる個人利用の場合) 、覚えておくと良いでしょう。さらにUbuntu Proを有効にすることで、universeに属するパッケージのセキュリティアップデートも提供される、というメリットも発生します。
……ただしCIS Benchmarks Level1といっても、ポリシーなどはおそらく「通常の用途には強固で不便すぎる」という可能性もあるため、「 ハーデニングが必要な環境」で試験的に実施する、という方針で進めることをお勧めします。