はじめに
今回は、Apache Hadoop上で動作する並列データ処理系Apache Tezについて解説します。
MapReduceの制約
本連載第13回で述べたように、Hadoop MapReduceは、MapとReduceからなる単純なインタフェースを有し、多くのデータ処理を記述できる汎用的な並列データ処理系(フレームワーク)である反面、その単純さによりいくつかの性能的な課題が存在すると考えられます。
たとえば、複雑なジョブをMapReduceで実行する場合、MapとReduceからなるMapReduceジョブを複数段連ねて実行する必要があります(図1)。当該ケースにおいては、MapReduceジョブの間において、分散ファイルシステムを介したデータの入出力が行われてしまい、当該入出力は、性能の観点においてはオーバーヘッドであるため、ジョブの実行時間を長くする原因の1つとなりえます。
また、複数のMapReduceジョブの間においては、前段のMapReduceジョブが完了するまで後段のMapReduceジョブを開始することができません。このアーキテクチャでは、当然、パイプライン並列性(第5回)を活用するようなデータ処理方式をとることはできません。
加えて、MapReduceは一種の整列(ソート)処理フレームワークであることから(第7回)、必ずしも整列が必要でない処理においても整列処理をしてしまう可能性があり、当該ケースにより性能が低下する場合があります。
さらに、処理するデータ量が小さい場合においては、MapReduceジョブの起動と終了のオーバーヘッドは無視できないものとなります。
近年、MapReduceはHiveやPigを始めとするMapReduce上で動作するSQL処理系やDSLから用いられることが多く、当該ケースにおいて生成されるジョブは多くの場合複数のMapReduceジョブから構成されるため、上述のMapReduceの制約は、性能的に大きな問題となる可能性があります。
Apache Tezの概要と仕組み
Hadoop MapReduceの制約を取り払うべく、Hortonworks、Yahoo! Inc.、Twitterのエンジニアが中心となりApache Tez[1]と称される汎用的な並列データ処理系の開発が始まりました。
Apache Tezにおいては、ジョブを非循環有向グラフ(Directed Acyclic Graph、以下DAG)なるグラフ構造により表現するため(図2)、ジョブをMapReduceジョブの木構造で構成するMapReduce(図1)よりもジョブを直感的に記述することが可能です[1]。
Tezのジョブにおいては、グラフの頂点が処理の内容を表わし、グラフの枝が頂点間のデータの流れを表します。頂点においては、基本的には任意の処理を記述することができます。また、枝においては、頂点間のデータの移動を柔軟に記述することができます。たとえば、データをどの頂点からどの頂点に転送するかに関する設定や、頂点間の中間データをどのように永続化させるかに関する設定を記述することができます。
Tezのこのような特徴により、たとえば、複数のMapReduceジョブで構成されていたジョブを、1つのTezのジョブとして表すことができます(図2)。当然、複数のMapReduceジョブから構成されるジョブと比較して、(ジョブの記述方法によるものの)分散ファイルシステムへの入出力回数は削減され、パイプライン並列性を活用できるなど、MapReduceの制約に起因する多くの性能的な課題を改善することができます。
既存のMapReduceジョブを高速化すべく、Tezを用いたMapReduceランタイムの開発も進められています。当該実装には、たとえば以下に挙げているような、Hadoop MapReduceでは後方互換性のために加えられなかったさまざまな改良が加えられています。
- CPUキャッシュを高効率に活用する外部ソート
- Reducer数の動的再構成
- 起動時のオーバーヘッドの削減
おわりに
今回は、Hadoop MapReduceが有する技術的課題を概説し、当該課題を解決する1つのデータ処理系として、Apache Tezと、Tezが高速に動作する仕組みについて概要を説明しました。次回からは、Clouderaの矢野さんが、並列データ処理系であるImpalaについて解説していきます。
- 参考文献
- [1]Apache Tez: Accelerating Hadoop Query Processing
- [2]Michael Isard, Yuan Yu, Andrew Birrell, Dennis Fetterly,Dryad: Distributed Data-parallel Programs from Sequential Building Blocks, EuroSys 2007,